高田崇史さんの『神の時空(とき)』シリーズ第3弾となる『貴船の沢鬼』を読みました。
舞台は京都。
貴船・宇治と上賀茂・下鴨など京都の中でも比較的認知度の高い<川に関係する場所>が舞台になっています。
シリーズ1作目、2作目から作品内の時間は1日ほどしか経っていないようですが、超人的スケジュールで主人公である辻曲家の面々は密度の濃い時間を過ごしているな、という感じです。
とうとう「秀真伝(ホツマツタヱ)」まで出てきました。
瀬織津姫(玉依姫)とは何者なのか?「橋姫」との関係は?
古代史ミステリーに、現代の殺人事件が絡んできます。
「縁結び」の神様にして、男を呪う「丑の刻参り」でも有名な、京都・貴船神社。
次女・摩季(まき)を蘇らすため、清らかな霊水を求めて貴船に向かった辻曲姉妹たちは、ここで、般若のような顔をした犯人による連続殺人事件に遭遇する。
事件の真相は? そして、貴船に祀られた姫の悲しみを晴らすことはできるのか?
とにかく(前にも書いた気がするのですが)情報量が多いなと(笑)。
物語の一つの軸として、清和源氏の血を受け継ぎ巫女の血筋でもある辻曲家(つじまがりけ)の兄妹姉妹が、次女・摩季を蘇らせようとして、そのために必要な貴船の清らかな水を求めて京都へ。
そして、その京都では、殺人事件が起きており、もう一つの軸として、その犯人を追う刑事たちの活躍が絡んできます。
と、いつもの(笑)、高田先生ワールドなわけです(安定)。
以下、少し内容に触れていますので、未読の方はご注意ください
まず…。
連続殺人事件について。
<宇治><下鴨神社><貴船>で殺人事件が起こります。
一見、バラバラで複雑に見える事件ですが、登場人物に引っかかるところが…。
犯人が多重人格者なのか、憑依されていたのか、そのあたりはモヤっとしたまま。
それに加えて、登場人物の関係性がややこしく、結局のところ死者を生き返らせたわけではないので、傀儡使いの六道佐助は何の仕事をしたのだろうかと。
殺人事件の動機も、ちょっと後付けっぽいし、事件自体は物語を面白くするためのデバイスという位置づけなのかも。
古代史に関しては、博学の幽霊・火地晋の独壇場です。
事件そのものより、貴船に祀られている神・高龗神と、宇治の橋姫の関係のほうが俄然興味が湧きました。
鞍馬の神と貴船の神は、もともと一対の神で、貴船川で引き離されている……とか。
八咫烏(賀茂氏)の辿った顛末。
玉依姫の悲しみ。
平安貴族の言挙げ。
火地さんの考察には唸らされます。
穢れを祓ってくれる有難い神様、とは、穢れを背負わされ端に追いやられた神様なのかもしれず、そんな神々を祀る神社にお参りする際には、ただ自分の願い、欲望を言うのではなくて、何故、そのご利益を与えてくれるのか、その訳を理解することも大切なことですね。
ミステリでもあり、民俗学的古代史考察もあり。
奥底には人間のサガや悲しみのようなものが澱のように揺らめいていて、切ない気持ちなりました。
シリーズに登場するキャラクターたちが、とても個性的でイメージしやすく、これも前に書いたかもしれませんが、アニメシリーズにしたらピッタリはまる気がします。
とても読みやすく、読むたびに発見のあるのも高田先生の作品の魅力だなと感じています。
さて、摩季を蘇らせるためのタイムリミットまであと5日かぁ。
どうなるんでしょう。
3作目にして、巳雨ちゃんの愛猫・グリ(グリザベラ)の過去に何かありそうな匂わせもアリ、展開が楽しみです。