高田崇史さんの小余綾俊輔シリーズ『源平の怨霊』を読みました。
高田先生の手にかかると伝説の人物が全部「怨霊」になってしまうんじゃないかと思うくらい(笑)またや、タイトルは「怨霊」です。
でも、この本の内容に関しては歴史上に人物が「怨霊」だというよりも、なぜ「怨霊」になっていないのか?の論証にになっているようです。
何故、平清盛は源頼朝を処刑しなかったのか?
その疑問から端を発し、源平合戦が歴史の上でどんな流れとなっていたのか、源平合戦の真の姿とはどんなものなのか、を解明する歴史ミステリーになっています。
2019年に単行本、2022年に文庫本が出ています。
私は単行本で読みました。
1160年、平治の乱の後、源頼朝は平清盛によって助命される。後に大納言・時忠が、「此一門にあらざらむ人は、皆人非人なるべし」とまで言い放ち、知行国三十余国、荘園五百ヵ所、田園その数を知らずと言われるまでに栄華を誇った平家一門の命運は、この瞬間に窮まった。
後に平氏を滅ぼすことになる頼朝を清盛はなぜ救ったのか?
平氏を滅亡に追い込んだ天才武将・源義経は数々の戦果を挙げたにもかかわらず、兄の不興を買って非業の死を遂げる。その義経が怨霊として祀られていないのはなぜなのか?
二つの謎が解けるとき、源氏と平氏の真の姿が現れる。
平清盛、源頼朝、源義経……平家物語や、大河ドラマの知識しかなく、同じような名前がずらりと並ぶので正直、ついていけるか心配でした。
でも、<プロローグ>の清盛と池禅尼との会話シーンが謎めいていて、はやく真相を知りたいと強く思わせてもらいました。
たくさんの人物、長い歴史の流れを理解しないと先に進めないため、ずいぶんと回り道をしなくてはいけなくて、自然とページ数も増えてしまったのでしょうか。
結構なボリュームの本になっています。
大学を退職することになっている民俗学教室助教授の小余綾(こゆるぎ)俊輔は、「源義経は何故、怨霊になっていないのか」「平清盛は何故、源頼朝を殺さなかったのか」が引っかかっています。
疑問をもったまま、研究室を去って後悔しないか?と自ら問いかける俊輔。
一方、大学の歴史学研究室の助教・堀越誠也は神戸市の鵯越にいました。一の谷の合戦に思いを馳せますが、実際にその地に立ってみて、「本当に、義経の逆落としは行われたのか?」疑問を持ちます。
編集者の加藤橙子は、赤間神宮に居ました。
壇ノ浦古戦場などをまわり、義経の戦法に卑怯に思え嫌悪感を募らせています。判官贔屓といわれる義経人気は彼の不幸な最後に同情したから…という他に何か理由があるのでは?
橙子は俊輔に聞いてみようと思います。
そんな三人が集まり、謎を解明すべく、例によって飲み食いしながら(笑)話をしていきます。
愛知県野間、鎌倉…と退職のための事務処理で動けない俊輔の代わりに、誠也と橙子が現地へ向かうことに。
歴史って面白いですね。
本で読んでいるだけじゃ、わからないことだらけ。
実際にその地に行ってみて初めて感じ取れるものもあるのだと思います。
北条政子が建てた頼家の菩提を弔うために建てた経堂の粗末さなど、実際に見てみないとわからないことも。
安徳天皇が女性だったのではという説は耳にしたことがあったのですが、なるほど、それならば二位尼にしてみれば、何としても敵に渡すわけにはいかなかったでしょう。
一方、鎌倉では、頼朝を利用していたのは誰なのか、義経を死に追いやった張本人は誰なのか。
<エピローグ>は、<プロローグ>と繋がっています。重なっている部分もあるのですが、本文を読んだ後だと<エピローグ>の清盛と池禅尼の会話が、生々しく会話の奥の景色までも見えてくるようで、面白かったです。
歴史の影に女あり…?
池禅尼も北条政子も、一流の政治家なのかもしれません。
とても読み応えのある内容。
NHKの大河ドラマ「平清盛」「鎌倉殿の13人」などで、断片かつ片方からしか描かれていなかった全体像がつながって、大きな図面が出来上がるような感覚でした。
(ちゃんと理解できているかどうかはわかりませんが…)
歴史ミステリーかつ、歴史を題材にしたエンターテイメント小説と言っていいんじゃないでしょうか。
ところで、小余綾俊輔は大学を退職してその後、どうなっていくのでしょうか。
変わり者の先生だし、歴史学の先生と犬猿の仲だし、やたらお酒に強そうだし、とても興味深いキャラクターなので、これからも活躍して欲しいな、と思っています。
小余綾シリーズ既読本