京極為兼 めぐりゆかば【前編】 | わたる風よりにほふマルボロ

わたる風よりにほふマルボロ

美しい和歌に触れていただきたく。

*:..。o○ ○o。..:*

梶間和歌プロフィール小説

 

歌集『生殖の海』


歌をやり取りする

facebookグループ

 

オンライン講座「歌塾」

*:..。o○ ○o。..:*

new現代短歌新聞2021年4月号

作品掲載new

 

newnote企画

「源氏で紡ぐ和歌便り」

2021年4月分掲載new

*:..。o○ ○o。..:*



やよひのつごもりの夜よみ侍(はべ)りける

めぐりゆかば春にはまたも逢ふとてもけふのこよひは後(のち)にしもあらじ

京極為兼
玉葉和歌集春下292

 


 
 
【現代語訳】

これきり我が命が絶えたり

世界が時を止めたり

するならばともかく、そうではなく
時も命も巡ってゆくならば、
巡り来る春には

またも遇うことができようが、
だからといって

今日という日の今宵、

春を惜しむこの心、

春を惜しむこの時とは

この先二度と、決して

巡り遇うこともないだろう。

(訳:梶間和歌)

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

花にあかぬ嘆きはいつもせしかどもけふのこよひににる時はなし
在原業平 新古今和歌集春下105

 

やよひのつごもりの夜:

 三月の晦日(みそか)、最終日の夜。

 「つごもり」は、文脈によっては

 月の下旬、月末を表すことも。

 旧暦では四月以降が夏なので、

 「やよひのつごもり」は春最終日、

 その「夜」なので

 いよいよ夏を迎える直前である

 ことを示す。

 

めぐりゆかば:季節が巡り

 春が再び巡ってくることと
 自分が生きながらえてゆくこと

 との両義。

 「めぐりゆけば」ではなく

 「めぐりゆかば」なので、

 「巡りゆくので」「巡りゆくと」ではなく

 「巡りゆくならば」と

 順接の仮定条件を表す。
 

逢ふとても:遇うといっても

 

後にしもあらじ:

 この先にもないだろう





京極派らしい観念の歌ですね。

 

 

春には、また弥生尽日には

生きているかぎり

いずれ再会するだろうが、

 

「けふのこよひは後にしもあらじ」

というこれもまた事実。

 

 

季節がつつがなく運行すること、

昨年と同じ今年が

数々の年中行事とともに

つつがなく過ぎること、

これらをよしとする、

 

というのが貴族の常識です。

 

それを考えると、

 

「しかし、今日と同じ日も春も

 二度と来ないのだ」という

この歌の発想は

現代的なそれに近い

とも感じられます。

 

 

年中行事といえば、

 

平安京の治安の悪化などが

原因で中断されていた

相撲節会(すまいのせちえ)

保元の乱後の保元三年

後白河院近臣、信西(藤原/高階通憲)

が復活させた、

 

という事がありましたね。

 

 

治安の悪化に保元の乱

ということで、

年中行事の復活などより

朝廷として優先してすべき事が

ほかにあるのでは、

 

と現代的価値観では

突っ込みたくなりますが、

 

これも

「昨日と同じ今日を、

 去年と同じ今年を」

という価値観を考えると

よくわかります。

 

年中行事の進行のつつがなさが

その時の政治のつつがなさと

直結して考えられていたのです。

 

年中行事というものは、多く

治安の悪化や財政難などで

中断されるのですから、

 

それらが“今年も”できる

ということは

(実際はともかく)表面的には

良い政治がおこなわれている

と判断できる、ということ。

 

 

まあ、

そうして再開された相撲節会は

すぐあとの平治の乱で

再び中絶するのですけれどね。

 

貴族の価値観を知るのに好い例

として挙げてみました。

 

 

 

さて、観念の歌の話ですが。

 

同じ為兼には

この葉なきむなしき枝に年くれてまためぐむべき春ぞちかづく
玉葉和歌集冬1022(1023)

の詠もあります。

 

「めぐりゆかば」と同種の

観念の歌ですね。

 

 

京極派は

「写生をした和歌グループだ」

だの

「写生の歌と観念の歌を詠んだ

 和歌グループだ」

だの言われますが、違います。

 

彼らは写生をしたわけではない。

「季節の歌では写生をし、

 恋歌などでは観念の歌を詠んだ」

わけでもない。

 

「めぐりゆかば」「この葉なき」

をはじめ、

観念性の強い季節の歌も

あるのですし。

 

 

京極派の核にあるのは

「心の絶対尊重」

という考え方です。

 

これは、

 

……

……

……

 

 

明日が立夏ということで

今日で春の歌の紹介を

終えるつもりでいたのですが、

 

春歌最後の記事が

1記事に収まらない

 

という

実に梶間らしい事態になりました。

 

 

立夏の明日も

この記事の続きをご紹介します。

ご容赦ください。

 

 

めぐりゆかば春にはまたも逢ふとてもけふのこよひは後にしもあらじ

 

 

*:..。o○ ○o。..:*

 

いまの水準、いま以上の水準で

和歌活動を続けるためのご寄付を

募っています。

 

ご無理のない範囲で、どうぞ

よろしくお願いいたします。

*:..。o○ ○o。..:*

 

 

 

和歌・短歌みくじとして遊べる

LINE公式アカウント

友だち追加

 

梶間和歌の作品の掲載された

「現代短歌新聞」2021年4月号

 

梶間和歌の評論の掲載された

『短歌往来』2020年4月号

 

「現代短歌社賞」応募作8首抄

掲載された『現代短歌』

2020年1月号