式子内親王 桜色の | わたる風よりにほふマルボロ

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正治二年後鳥羽院にたてまつりける百首の歌の中に

 

桜色の衣にも又わかるゝに春をのこせるやどの藤波


式子内親王

風雅和歌集夏294

 




【現代語訳】

 

桜がさねの衣にも、

桜に象徴される春そのものにも

夏の訪れとともに

また今年も別れたのに、

春の風情を残したままの

庭の藤波といったら。

(訳:梶間和歌)

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

桜色に染めし衣をぬぎかへて山郭公けふよりぞまつ

和泉式部 後拾遺和歌集夏165

 

桜色:かさねの色目で、春に着る。

 

わかるゝに:

 別れるのに、別れるけれども。

 連体形に付く「に」は

 多く逆接の確定条件を表す。

 文脈によっては

 順接の確定条件「……ので」や

 単純接続「……ところ」なども表す。

 

春をのこせる:春を残している、

 春の風情を残している。

 

やど:ここでは庭の意

 

藤波:藤の花房が風に揺れるさまを

 波に見立てた表現で、

 転じて藤の花や藤そのものも指す。

 藤は、古くは初夏の花として詠まれ、

 次第に晩夏の花として

 詠まれるようになり、

 この歌のように

 「初夏に唯一春を残している」

 と詠んだものはこの時代には少ない。

 

 

 

正治二年(1200年)後鳥羽院主催

「正治初度百首」、

式子内親王の提出した百首歌中

「夏」部の一首目です。

 

 

『式子内親王集』には

結句「やどの藤かな」として

残っています。

 

「正治初度百首」のほうの記録でも

結句「藤かな」のようなので、

元はこちらだったのでしょうね。

 

それが、『風雅和歌集』撰集時に

「藤波」と変えられた、もしくは

『風雅集』の編まれるまでの

百数十年のあいだに結句が変わって

言い伝えられ書き伝えられたか。

 

たぶん、前者だと思いますが。

結句「藤かな」として

『式子内親王集』も「正治初度百首」も

伝わっているので。

 

 

私は

『風雅和歌集』入集の形のほうが

うんと好きです。

 

ほんの一語ですよ。

「藤波」とするか「藤かな」とするか。

 

ですが、風情は雲泥の差です。

 

 

 

「かな」というのは

使い方の非常に難しい言葉。

 

素人は安易に使ってしまいますし、

新古今時代より昔の、

例えば和泉式部のころなど

頻繁に使われています。

 

 

あのころは、

自分の感情を疑うということを

時代が個人に要求しませんでした。

 

戦乱もない

おおらかな時代ですからね。

 

そういう時代に頻繁に使われた

感情を前面に出す表現の

ひとつである「かな」は、

 

歌を容易にウェットに偏らせてしまう

感情表現の語なのです。

 

 

用語選択のセンスのいまいちな

現代短歌でさえ、

 

「“かな”のせいで

 感情が前面に出すぎ」

 

など、感情表現の統制の

取れていない表現への

厳しい評を聞きますよ。

 

悪い事は言いません。

「かな」の使いどころは考えましょう。

 

 

私の歌集を読んでみてください。

「かな」をほとんど使っていません。

 

第2章、第4章、第8章では

そこそこ「かな」を使いましたが、

 

第2章と第4章の作中主体は

片方が『源氏物語』藤壺、

つまり平安時代中期と想定される

時代の人物、

 

片方が和泉式部、

つまり平安時代中期の人物。

 

第8章の作中主体は

建礼門院右京大夫、

新古今時代を生きながら

新古今時代の歌とは正反対の

感情ダダ漏れの歌を詠んだ人物。

 

 

「かな」を使う時代の人物と

「かな」を使う癖のある人物が

作中主体である

 

という条件があって初めて

そこそこ「かな」を使う、

 

という使い方です、私の場合。

(それでも少ないですよ)

 

 

日記に思いついた短歌を書いて

「うふふ」と笑って満足できる方は

ともかく。

 

良い歌を詠みたいという向上心が

あるのだとしたら、

 

「かな」に限らず、

感情表現の語の使用には

細心の注意を払いましょう。

 

 

桜色の衣にも又わかるゝに春をのこせるやどの藤波

 

 

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