生年月日 昭和11年生れ

犬種 シェパード

性別 牝

地域 東京府

飼主 金井謹之助・金井重子氏

 

新国劇の金井謹之助が飼っていたシェパード・フロリアの仔です。

 

 

 

犬

金井重子氏とアンナ(昭和11年)

 

この十七年間に飼つた種類はブルテリア、日本テリア、スムースフオツクステリア、ダツクスフント、スコツチテリア、グレートデン、そして今はシエパード……。
中で何が好きだつたかと申せば、デンの様な雄々しい犬種で、だから、今のシエパードなんか、本當に気が合つて、それにシエパードの味は却々他の犬に求められないものがあり、今は斷然シエパード・フアンの一人になり切つてをります。

何しろ、大きな犬がデクンと肢を投げ出して横たはつてゐる所なんか、とても線が太くて、その線から來る迫力が、たまらなく私の心を掴んでしまひます。大きな犬を愛撫する時の氣持は全く別ですわ。
今ゐるアンナは九ヶ月でフロリアの仔です。フロリアのお里は岩崎さんで、アンナのお父うさんは中島さんのアルツ・フオン・ブラジエンベルヒ。
お母あさんのフロリアは、つひこの間、中村吉藏さんのお宅へ貰はれて参りましたが、いざ別れるとなると、涙が止度なく流れて、前の晩は殆ど泣き明し、翌日は翌日で、大森驛で、列車を前に涙がポロポロ……。
驛員が「交配にやるんぢやないんですね。手放すのですか。それはお悲しいでせう……」に、又新らしい涙が……。
主人は云ふのです。
「何しろこれは芝居の涙ぢやない。本當の涙だから大變だ」つて。
何だか知りませんが、只だ泣けてしまつたのです。フロリアと別れた翌日、たまり兼ねて逢ひに行きたくなり、「早すぎるよ。犬のためによくない」と主人から叱られてしまひました。

金井重子「愛犬種の肩をもつ(昭和11年)」より

因みに、フロリアが貰われていった「中村吉蔵」とは、デベソ犬の飼主です。