委託販売の仕訳から見直しましょう | 税金と会計のコラム[cf.]

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新潟市の税理士わたなべ税務会計事務所

委託販売の取引仕訳を入力する際、総額処理と純額処理のどちらで計上していますか・・・。
例えば、108,000円(税抜価格100,000円+消費税8,000円)の商品を委託販売するにあたり、委託販売手数料を11%とする契約をした場合であれば、委託者には商品代金から経費である委託販売手数料を差し引いた96,120円が入金されます。そして、取引仕訳の勘定科目としては、売上高:108,000円と、委託販売手数料:11,880円(108,000円×11%)が登場します。
委託販売における委託者の取引仕訳を考えた場合、次の特例とされる処理には気をつけなければならない点があります。
取引年月日を何時として売上を入力するかという[収入計上時期の判断]と、
純額処理で売上を入力するかという[消費税の計算の特例の思い込み]です。

 

1つ目の収入計上時期については、本来、引き渡し日という大原則があるため、委託販売においても受託者が販売した日を取引年月日として入力することになりますが、法人税基本通達2-1-3【委託販売に係る収益の帰属の時期】により、一定の要件のもと、売上計算書の到達した日に売上があったものとして処理することができる取り扱いがあります。
到達日基準と表現され、原則に対する特例のような位置づけですが、例えば、月単位で作成された売上計算書が到達するのが翌月の月初だとすると、収入計上時期は、実際に受託者が販売した日ではなく、その翌月の月初とすることができるため、ある意味、取引年月日が一月遅くズレることになります。
また、消費税についても同様の取り扱いがあり、受託者が販売した日を資産の譲渡の日とする原則に対し、消費税法基本通達9-1-3【委託販売による資産の譲渡の時期】により、一定の要件のもと、売上計算書の到達した日に資産の譲渡があったものとすることが可能です。
結果、大原則とこれらの通達の当てはめを比べた場合、入力する売上の取引年月日に違いがでてきます。

 

2つ目は消費税の計算の特例ですが、純額処理を選択すると【取引仕訳の入力が簡単】という点です。
取引仕訳の大原則は【総額処理】となりますが、前述の例で消費税を計算すると、売上高:108,000円に対する消費税8,000円(108,000円×8/108)から、委託販売手数料:11,880円に対する消費税880円(11,880円×8/108)を控除して7,120円となります。
この特例として、消費税法基本通達10-1-12【委託販売等に係る手数料】のうち(1)があり、委託者は商品代金から経費である販売手数料を差し引いた後の手取り入金額:96,120円を売上高とすることができる【純額処理】を認めています。取引仕訳で登場する勘定科目は売上高のみであるため、消費税の計算も7,120円(96,120円×8/108)とシンプルです。
結果的に、消費税の計算が一緒であれば、シンプルな純額処理を選択しそうですし、1つ目の到達日基準と合わせれば、取引仕訳の入力も簡単に感じてしまいますが、間もなくスタートする軽減税率制度が絡むと【入力が簡単な方】とも言ってられません。

 

ここで、しっかりと線引きをしたいのは、軽減税率の対象は飲食料品の譲渡ですから、飲食料品の委託販売を考えた場合に軽減税率の8%が適用されるのは飲食料品を販売することによる売上高であり、飲食料品を委託販売したことによる手数料部分は10%の標準税率が適用されるという点です。
委託販売の取扱商品が飲食料品だからといって、取引の全体に軽減税率の8%が適用されるわけではなく、委託者の経費である委託販売手数料と受託者の販売手数料収入の双方は10%であることから、今後は、前述の純額処理を選択することはできなくなります。
この点、仮に、令和1年10月1日以降の販売手数料率を据え置いた場合、見た目では販売手数料も8%で計算されていると錯覚してしまうことも考えられ、前述の例で純額処理を選択していた場合、これまでと変わらない手取り入金額であれば、このうち消費税は7,120円(96,120円×8/108)であると計算しても違和感に気づきません。
実際は、売上高のうち消費税:8,000円(108,000円×8/108)から、委託販売手数料のうち消費税:1,080円(11,880円×10/110)を控除して6,920円と計算しなければならないところ、委託販売手数料のうち消費税は880円(11,880円×8/108)のままであるとの思い込みには気をつけなければなりません。

 

会計ソフトは簿記の経験がなくても扱いやすい仕様になっているため、最近では自計化をされている会社が多いようです。簿記の経験と未経験を問わず、経理の面からみれば、入力業務はできるだけ簡単がいいと考えるのは自然ですが、消費税の計算間違いは納税のミスに直結するため、入力業務が簡素化できるからといって特例とされる処理で入力を続けてきたのであれば注意が必要です。特に、軽減税率制度がスタートしても、収入計上時期の到達日基準と飲食料品以外の委託販売であれば純額処理をこれまで通り継続できるため、ご自身に関係があることに気付かないとすると残念でなりません。
何れにしても、委託販売の仕訳問題は法人に限らず個人でも当てはめが可能なため、特例とか入力が簡単だからと選択するのではなく、そもそも、売上計算書が到達した日と委託した商品が販売された日は全く関係がないことと、別途、在庫の管理もそのように加減する必要があることを考えれば、到達日基準ではなく売上計算書の締日(理想は月末締め)で、かつ、総額処理という原則的な入力の方が、何だかんだ言っても手堅いように思います。私が、入力指導をするのであれば、原則をお伝えしますし・・・。

 

8%とか10%とか様々な狙いがあったとしても、とても分かり易いとは言えない消費税の軽減税率制度ですが、この改正を機に、間接的にも【何らかの気づき】があったのでれば、結果、悪いことばかりではないのかなあとも感じます。きっかけは大事ですから、経理の色々を見直すのも良いかもしれません

 

<参考>消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編/令和元年7月改訂:国税庁消費税軽減税率制度対応室)問45、法人税基本通達2-1-3、消費税法基本通達9-1-3、10-1-12(1)、所得税基本通達36-8