個人が土地や建物を売却した場合、不動産所得や事業所得等とは区分され、譲渡所得として確定申告が必要になります。
譲渡所得の計算には【収入金額】【取得費】【譲渡費用】の各判断は欠かせないところ、それぞれの詳細は割愛することにしまして、今回は、5%の概算取得費の考え方について確認しようと思います。
【租税特別措置法31条の4(長期譲渡所得の概算取得費控除)のうち1項のみ抜粋】
第31条の4 個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第38条第2項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額
【租税特別措置法通達31の4-1(昭和28年以後に取得した資産についての適用)】
31の4-1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。
まず、租税特別措置法31条の4で、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等としつつ、租税特別措置法通達31の4-1で、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等についても同様で差し支えないとの構成から、取得時期に関係なく5%の概算取得費を適用できることが分かります。そして、実際のところ、5%の概算取得費は【原則的な】取得費の考え方であり、5%に相当する金額を超えることが証明された場合の実際の取得費が【特例的な】考え方という位置づけとなります。
国税庁のタックスアンサー【取得費が分からないとき】で、概算取得費の適用にあたり『実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も同様です』との記述があることから、税金を計算する際の覚え方としては【収入金額の5%と実際の取得費を比べて何れか大きい金額】を取得費とすることで問題はありません。更に、所得税基本通達38-16では、土地建物等以外の資産についても土地建物等と同様の適用を認めていることから、結果的に、土地建物等に限らずそれ以外の資産についても【比べて何れか大きい金額】を取得費とする当てはめができます。
では、当初5%の概算取得費(例えば、売却代金1,200万円×5%=60万円)で申告していた土地の譲渡所得について、その後、購入当時の領収書を発見して実際の取得費(例えば、100万円)が分かった場合はどうしましょう。
前述の取り扱いを当てはめる限り、実際の取得費が100万円であったことを証明できれば、取得費が増加することで譲渡所得は40万円減少するため、税金が納めすぎであったとして、税金の還付手続きが可能となります。所謂、更正の請求です。
この点、5%の適用について概算取得費の【特例】という表現が見受けられるため、当初申告で特例を選択した後に原則に戻ることはできないのではないかと思ってしまいますが、そもそも、5%の概算取得費は特例ではないですし、更正の請求を実現するには【如何に証明するか】が求められます。
私が譲渡所得の相談を受ける際は、必ず『昔の書類を見つけて下さい』とお伝えしています。すると、相談者はその書類を見たことがないのではないかと予想されるところ、大体が『ないなあ』とか『何十年も昔ですからねえ』とか『親が買ったものですし』などの即答がかえってきて・・・。
購入当時の領収書や契約書などピンポイントな書類があればベストですが、如何に証明するかを考えた場合には、一つの書類でなくてもいいですし、複数の書類や経緯の聴き取りを踏まえて実際の取得費を証明することができることもあります。
金庫の中だけとは限りません。書類のタイトルに拘らず、埃のかぶった段ボール、ちょっとかび臭い鞄、日記帳や通帳へのメモ書き、商売をやっていたならそれらの書類に紛れていることもあります。
参考になるかならないか、関係があるかないかの判断を独自にされてしまう方や、かしこまった形式の書類に限ると思い込んでいる方がいますが、この点は『探してみます』のような真剣な反応があることを常に期待している私としては、勿体ないなあと感じています。
さて、昔の書類を探してみて下さいという助言は、世間では【専門家の提案】とは認識されないかもしれません。また、市街地価格指数の適用とか、自分の場合は権利証のコピーを添付したけど税務署から指摘はなかったなど、ネットでは【認められた事例】が見受けられますが、この点も、先入観から無理にご自身に当てはめようとせず、あくまでもケースバイケースと捉え、お手許にある書類と向き合うことが第一と考えます。
[迅速な対応]のもと、安易に5%の概算取得費の適用を提案しないためにも、
実際の取得費が[5%を超えていないことの確認]を省略しないことを心掛けます。
当初、安易に5%の概算取得費を適用してしまった方は、今からでも遅くはありません
<参考>所得税法38条、租税特別措置法31条の4、租税特別措置法通達31の4-1、所得税基本通達38-16、国税通則法第23条