預金移動調査のきっかけは | 税金と会計のコラム[cf.]

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新潟市の税理士わたなべ税務会計事務所

平成24年5月15日公表裁決の【判断】の一部抜粋です。
【~中略~家族の主たる収入を支える世帯主等が病気などによって長期入院を強いられる状況に置かれた場合、生活を共にする配偶者等の家族が入院費や生活費等の支払に備えるため、世帯主等が貯蓄していた預貯金や保険契約などを解約し、手元に現金を確保しておくことは一般的に見られる行動であり~中略~本件配偶者は、本件被相続人の入院費や生活費等の支払のため、本件被相続人の了解の下、本件養老保険を解約し、本件被相続人の通常貯金口座に入金した1,000万円をその支払に充てるとともに、残額である本件金員を急な支払に備えて~中略~本件配偶者名義の通常貯金口座に入金したものと認められることから、本件金員は、本件配偶者が本件相続開始日において本件被相続人から預かっていたものであり、本件被相続人の相続財産であると認めるのが相当である】

 

請求人(相続人)は【本件金員は、本件相続開始日に存在しない財産であるから、請求人が相続により取得する本件被相続人の財産には含まれない】と主張しましたが、結果、相続財産と判断されました。所謂【名義預金】についてですが、この裁決で名義預金とされた金額(本件金員)は、11,623,072円です。
名義預金の構成に至った経緯が[意図的であるかないか]にかかわらず、
そして、被相続人の世代では[当たり前のように見られる資金移動であったとしても]名義預金との判断を免れる理由にはなりません。
この点、相続税の申告にあたっては【相続開始日現在】という考え方は外せないところ、名義預金を探るには、被相続人名義の残高証明書を取得しただけでは足りません。被相続人とその家族名義の預金の動きを見るしかないのです。

 

過去の預金の動きを検証する作業を預金移動調査といいますが、東京国税局のHPで公表されている【税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔相続税〕(令和元年5月以降用)】でも【預貯金や現金などの増減について、相続開始前5年間程度の期間における入出金の使途等を確認していますか】というチェック項目があるくらい、預金移動調査の必要性を発信しています。
なお、書面添付制度についての詳細は割愛しますが、かなりザックリ言えば【税務調査対策】と認識されているようです。

 

そもそも相続人が、被相続人の財産を把握しているとは限りません。特に、別居しているような場合は、相続が発生して財産がどれくらいあったのか初めて知って、こんなにあったのかと改めて驚いて・・・。ネットで色々調べてみたら、相続税もかかるみたいで・・・。兎に角、様々な手続きを片づけなければならないことは分かったけど、結局のところ税金のことはよく分からなくて・・・と相談されれば、タンス預金とか生活費余剰金という単語を使って名義預金について説明し、預金移動調査を提案するのですが、意外と【うちはそういうのはないなあ】とか【そんなことまでやらなきゃならないんですか】という返答があったり、余り興味がない様子。よく分からないと言うのであれば、預金移動調査を望まないと言い切れる筈はないと感じ、ここまでくると【提案】ではなく【説得】に近いのかもしれません。
 

また、前述の書面添付制度に関連させるならば『別途、税理士報酬は発生しますが、預金移動調査をご依頼頂くと、税務調査の可能性が軽減する書面添付制度を活用できます』のような誘い文句もあるようですが、さて、預金移動調査は税務調査対策でやるものだったろうか。遺産分割の対象とされる名義預金の検証もせずに相続税の申告書が完成する筈はないだろうに、相続財産を把握するために欠かせない作業と思っていたのに・・・。
この点も、きっかけはどうであれ、その必要性が浸透するのであれば結果オーライと思うことにして、一層の事、誰か【相続税の申告において預金移動調査は必須です】と決めてくれると助かります。名義預金に限らず、贈与の検証にも繋がることだし

 

<参考>平成24年5月15日公表裁決、税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔相続税〕(令和元年5月以降用)(東京国税局HP:税に関する情報)