この時期に多い【保険のハガキ】にまつわる話です。医療費控除に匹敵するくらい、皆さんもよく知っていて【ハガキがいくつあっても10万円を超えたらもういらないよ】とか【家族のハガキも使えるんだよ】とか、色々な会話が聞こえてくるのですが、今回は、年末調整における生命保険料控除について、ひょっとしたら勘違いしているかもしれない点を3つ確認したいと思います。
例えば、生命保険料控除のうち旧制度の一般用を使って、妻が年末調整で生命保険料控除を受ける場合をイメージしてみて下さい。控除額の上限5万円を目指そうとすると、年間支払保険料または掛金(=保険料等)が10万円以上なければならないのですが、妻名義のハガキ1枚分では10万円に満たないときに、少し言い方は乱暴ですが【家族の分もかき集めて提出している】ということはないでしょうか・・・。
以下、契約例は【契約者:夫、被保険者:夫、死亡保険金受取人:妻、年間支払保険料等:12万円】で、夫は同様の契約が複数件あるものとします。
さて、確認したい点の1つ目は【親族の要件】です。
まず、生命保険料控除のうえで親族が要件となるのは、保険金や共済金その他の給付金(=保険金等)の【受取人】の全てが、保険料等の負担者本人またはその配偶者その他の親族であることです。ここに【生計一の親族】であるとか【契約者が親族】であるという要件はありません。あくまでも、確認すべき親族は【受取人】であって、この点で、前述の【家族のハガキも使えるんだよ】という意味を考えると、
控除を受けようとする者(=妻)と[契約者(=夫)が家族]だから使えるのではなく、
控除を受けようとする者と[受取人が家族(=妻本人)]だから使えることになります。
なお、保険のハガキには受取人が誰であるかの記載がされているとは限りませんし、また、当初契約後に受取人に変更がある場合も考えられますので、勤務先に提出する時点での受取人を確認するように注意して下さい。
そもそも、大前提として【生命保険料控除を受けることができる者(=本人)】とは、保険料等を【負担した者】をいいます。必ずしも、保険の【契約者(=ハガキの名義人)】が控除を受けられる訳ではなく、年末調整の場面であれば、誰が勤務先にハガキを提出して控除を受けようとする者であるかという点になります。なお、ここでハッキリさせておかなければならないのは、2つ目の確認となる【支払った事実】ですが、
控除を受けようとする本人が[支払った保険料等に限り]控除の対象となるのであり、
決して、家族なんだから本人が[支払ったことにしよう]という解釈は、認められません。
例えば、妻が保険料等を支払っていたのであれば、ハガキの名義人は夫であっても、妻は控除を受けることができますが、当然、夫が支払っていたにもかかわらず【既に1枚のハガキで夫の控除的には10万円を超えている】ことを理由に、残ったハガキを妻の控除分として使用することはできません。
では、前述のとおり保険料等の負担者と受取人の親族関係も問題なく当てはめて、妻が生命保険料控除の適用を受けたとして、将来、夫が死亡した際に取得する死亡保険金には、どのような税金がかかるでしょうか。これが、3つ目に確認をしたい点であり、1番の論点となりますが、結果としては、実際に保険料等を負担した妻の一時所得として課税されます。
このとき【契約者の死亡による保険金の取得だから相続税の対象になると思っていた】という認識であったのであれば間違いとなりますし、また、参考までに、前述の契約例で受取人が子であるときに、妻が保険料等を支払っていた(=生命保険料控除の適用を受けていた)のであれば、子が取得する死亡保険金は贈与税として課税されてしまいます。
一般的には、相続税の課税対象とされたうえで、生命保険金等の非課税規定(=500万円×法定相続人の数)の範囲内で無税に向かうという考え方が大半で分かり易いでしょう。
この点、保険料等の負担者が誰であるかに応じて、取得した保険金等の課税関係が異なることを理解されているのであれば問題ないのですが、そうでない場合にも【家族のハガキも使えるんだよ】と、目の前の生命保険料控除による満足を受けてしまっては、将来の課税関係で大きな勘違いをしてしまいます。
確かに、生命保険料控除を受ける時点と、死亡保険金を受け取る時点のズレという特徴から、取得した保険金等を【契約者が負担者であった】ものとして、相続税の課税対象と主張してしまうことも可能かもしれませんが、やはり、生命保険料控除の際に採用した【妻が支払った事実】は【夫が支払っていない事実】となり、将来受け取る保険金等の課税関係の裏付けにもなることを忘れないで下さい。
なるほど、親族が絡む課税の場面では、勘違いや目の前の節税効果を意識しすぎたがために、将来【~したことに】とか【~しなかったことに】というような、後付けの課税を主張することのないようにしたいものです。
<参考>所得税法第76条、第34条、相続税法第3条、5条、国税庁HP質疑応答事例(妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除)