米司法省、警官の非致死性レーザーガン携帯を本格検討(テクノバーン)
米司法省、警官の非致死性レーザーガン携帯を本格検討(テクノバーン)
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/01/active_denial_s.html
【BBC News】が報じたところによるとアメリカ軍は1月24日アメリカ国内のジョー
ジアのMoody空軍基地において、対人用非致死性掃射型兵器「Active Denial System
」を公開した。アンテナでミリ波のエネルギービームを掃射し、周囲の敵性人物
を制圧するのだという(【参照:エルエル】)。
「Active Denial System」は敵性対象の生命を奪うものではなく、あくまでも「
制圧・無力化」するもの。パラボラアンテナのような掃射装置から目標に対して
不可視のミリ波によるエネルギービームが掃射され、最長で500メートル先の対象
を「制圧」する。アンテナには自動目標追尾装置が搭載され、対象物に適切な照
準セットと掃射を行うことができる。「制圧」鎮圧用装備としては現在ゴム弾が
一般的だが、この射程はせいぜい50メートル前後。それと比べれば約10倍もの有
効射程距離を持つことになる。
Active Denial System概念図
Active Denial System概念図
また制圧効果だが、ビームを浴びた対象は衣服をすり抜け、表皮のみを50度程度
にまで加熱するという。ただし継続性・浸透性はないため、「軍側の説明による
と」けがを負うことはないとのこと(But it penetrates the skin only to a tiny
depth - enough to cause discomfort but no lasting harm, according to the
military. )
。ただ、元記事ではロイター通信の記者が実際に放射されたビームに当たってみ
た感想が書かれていたが、それによれば「オーブンにあてられたようで、爆裂的
に痛く、とてもではないがたえられない(A Reuters journalist who volunteered
to be shot with the beam described the sensation as similar to a blast from
a very hot oven - too painful to bear without diving for cover. )
」と語っており、実際にはもんぞりうつ程の苦痛があるものと思われる。
このような制圧系兵器は、例えばイラクやアフガニスタンなど「抵抗意志が強い
が敵として打ち倒してはいけない対象を打ち負かす必要がある」場所でゴム弾よ
りもはるかに有効だ、と軍関係者は述べている。これらの装備は2010年には実際
に配備使用される予定とのこと。
Active Denial Systemイメージこの「Active Denial
System」はアメリカの【Raytheon
】で開発されており、【制圧系装備を開発するプロジェクト(non-lethal weapons
project)
のサイト】でさまざまな装備と共に詳細が報告されている。それによると(【紹介
パンフレット、PDF】)、このエネルギービームによる制圧兵器は1993年には対人
実験が開始され、1997年には固定型の装置が完成。2002年には軍用としてのスタ
イルが出来上がり、現在に至っているという。また、「相手の生命を奪わず、か
つ相手の対抗意識をなくすようなタイプの兵器はこれまで存在しなかった。銃で
は相手の命まで奪うし、ゴム弾もあまり効果がないし射程が短い。Active Denial
System
なら、それらのギャップを埋めて有効な装備として活用されうるだろう」と述べ
ている。
【解説ページ】には動画もいくつか公開されているが、その動画や各種報道、関
連資料を見る限り、電子レンジに用いられているマイクロ波(マイクロウェーブ)
の一種で、波長 1ミリから1センチ程度の電波を集約したものを用いていると思わ
れる。これは通信衛星用の電波やレーダーなどにも使用されているもの。
上記ページにはロイター通信記者が実際に「浴びた」動画もアップロードされて
いるが、何もないところでいきなり「のぉぉぉぉ」と騒ぎ飛び跳ね、掃射地点か
ら逃げる様子を見ると、まさに「未来指向の兵器」に見える。また、軍関係者や
レポートが語っているように、「鎮圧型の装備」としてはきわめて有効なものと
して重宝されることだろう。
ただこのタイプの装備には大量の電力を消耗してしまうという欠点がある。電力
使用の効率化とエネルギーパックの小型化などが引き続き課題として求められよ
う。また、リリースなどによればあくまでもエネルギービームを「集約して」掃
射するのであり、不特定多数を同時に制圧できそうにもないあたり、改良の余地
があるものと思われる。
さらにマイクロ波の対人的影響はいまだに研究途上の段階。掃射を受けた人たち
の中長期的な影響を考えると、課題は多いのかもしれない。
CDS残高2600兆円、10月末の公表開始後初の増加(日本経済新聞)
CDS残高2600兆円、10月末の公表開始後初の増加(日本経済新聞)
企業の信用リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の
残高がじわり増加に転じている。19日時点での想定元本(総取引額)の合計は29
兆1298億ドル(約2600兆円)で10月末に毎週の残高の公表を開始して以来、初め
て増加に転じた。景気悪化の波が世界的に広がる中、資源価格の急落や信用収縮
の影響を受けやすい銘柄などを対象とした取引が再び活発になっている。
米国でCDSの登録・決済を手がけるDTCC(デポジトリー・トラスト・ア
ンド・クリアリング・コーポレーション)が公表した。金融機関などが相対で実
施している比較的新しい取引について、全取引の9割以上を網羅している。
金融機関がリスク回避姿勢を強めたため10月末時点で33兆6000億ドルあった想
定元本は、12日までに27兆9000億ドルへ減少していた。(26日 23:01)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20081226AT2M2402226122008.html
2009年には多くの銀行が姿を消す.....
2009年には多くの銀行が姿を消す.....
http://www.prisonplanet.com/analyst-one-third-of-banks-could-collapse-in-2009.html
田中宇(サカイ)氏のウエブサイトによって、
田中宇(サカイ)氏のウエブサイトによって、
|
平成二十年(二〇〇八年)十二月二十五日(木) |
室蘭にも雇用寒波、自動車関連正社員解雇の動きも(室蘭民報)
室蘭にも雇用寒波、自動車関連正社員解雇の動きも(室蘭民報)
http://www.muromin.mnw.jp/murominn-web/back/2008/12/25/20081225m_03.html
景気低迷に伴う企業の受注減や事業縮小に伴い、室蘭地方でも雇用環境が悪化
している。自動車関連産業を中心に、正社員を解雇する動きも出始めた。公共職
業安定所では年明け以降、採用に協力できる企業を集めた緊急の面接会を開催す
るなど、雇用の維持に向けた取り組みに力を入れる。
室蘭公共職業安定所が24日発表した11月の有効求人倍率は前年同月比0・
28ポイント減の0・60倍。7月以降5カ月連続で前年同月を下回った。全道
平均0・43倍と比べ高水準にあるが、求人は同1割程度減少する一方で、新規
求職者は9月から3カ月連続で増加する傾向にある。
同職安によると、求人は、新規求人が771人。前年同月比30・9%減、前
月比25・7%減で、ほぼすべての業種で減少した。求職者は915人で前年同
月比4・0%、35人増加。在職者が就職活動する傾向が続いている。
事業所の都合で退職した人のうち雇用保険の被保険者数は87人で、前年同月
比47人増えた。自動車関連の器具製造1社で5人、自動車部品製造を手掛ける
サービス業1社で17人、小売業1社で5人など、まとまった正社員を解雇する
動きが目立っている。
来春の高校卒業予定者の求職・就職状況は、企業から内定などを獲得した生徒
の割合を示す就職決定率は、対前年比3・3ポイント減の70・9%。未就職者
数は前年同月比14人多い142人で、10・9%増えている。
全体の求人数は949人で対前年比5・6%減った。うち管内求人は565人
、11・2%と2ケタ減。これに対し就職希望者は488人、同1・6%減少し
た。
雇用状況の悪化を受けて同職安では来年2月以降、採用に余力のある企業に協
力を仰ぎ、一般、学卒それぞれを対象にした緊急の採用面接会を計画している。
さらに中小企業の休業手当の8割を負担する雇用調整助成金の活用を企業に促す
など対策を講じる。記者会見で新居茂樹所長は「12月に入り情勢はさらに悪化
している。中小企業への助成、面接会などで雇用環境を守りたい」と話した。
(野村英史)
世界的な政治覚醒を扇るアメリカ
世界的な政治覚醒を扇るアメリカ
民主党の外交戦略家の重鎮で、オバマ新大統領の外交顧問をしてきたズビグニュー・ブレジンスキーが、12月16日に興味深い論文を発表した。「世界的な政治覚醒」(The global political awakening)という題名で、米国が指導力を失う中、環境・社会・経済などの分野で起きる世界的な問題に対する論争が活発化し、世界的な政治覚醒が起きると予測している。
ブレジンスキーは、次のように書いている。「歴史上初めて、人類のほとんど全員が、政治的に活発になり、政治的に覚醒し、政治的に相互連携する」「世界的な政治活動によって、これまで植民地支配や帝国的支配によって抑制されてきた、文化的な尊厳や経済成長の機会を求める動きが、世界的に勃興するだろう」「これまで500年間、世界の中心は大西洋諸国(欧米)だったが、中国と日本の新たな台頭によって、その状態は終わる。その次にはインドやロシアも勃興するかもしれない」(関連記事 )
ブレジンスキーは、以前から「世界的な政治覚醒」という言葉を、予測として発し続けてきた。彼が2003年に出した「孤独な帝国アメリカ」(原題:The Choice)という本にも、同じ分析が出ている(同書の日本語訳の解説は私が書いた)。今回も、以前と同じ予測の繰り返しだ。
しかし今回、彼の言葉に特に重みがあるのは、彼がオバマの顧問であるということに加えて、来年にかけて世界では、米国の覇権衰退や欧米中心体制の崩壊、イスラム世界や中南米などでの反米的な政治運動の盛り上がり、米国や世界各地での暴動などが予測され、世界的な政治覚醒が起こりそうな感じが現実的に強まっているためだ。
すでにギリシャでは反政府暴動が起こり、その動きはフランスやイタリア、スペイン、デンマーク、スウェーデンなど、欧州各国に拡大した。欧州では金融危機による年金制度の破綻も始まりそうで、西欧諸国の自慢だった高福祉の社会保障体制は崩壊に瀕している。欧州の政治不安や暴動は、今後も拡大していきそうだ。(関連記事 )
ブレジンスキーの今回の論文を読んで私が感じたのは「オバマ政権はブッシュ政権と同様、隠れ多極主義を採るのではないか」ということだ。以前の記事「覇権の起源・ロシアと英米」 に書いたように、100年前にニューヨークの資本家たちは、ロシア革命や中国革命を支援し、世界各地の植民地の人々を政治的に覚醒させ、世界各地のナショナリズムを勃興させて新たな国民国家を無数に作り、世界中に産業革命を拡散させて、世界的な経済成長を誘発しようとしたふしがある。この歴史観は私の仮説にすぎなかったのだが、ブレジンスキーの論文「世界的な政治覚醒」では、私の仮説とだいたい同じ筋のものが、客観的な予測を装った現実の戦略として描かれている。
多極化の目的は、ブレジンスキーも書いているように「植民地支配や帝国的支配によって抑制されてきた、文化的な尊厳や経済成長の機会を求める動きが、世界的に勃興する」ことだ。経済的には、これまで宗主国や欧米によって経済成長を抑制され、産業革命前の状態に置かれてきた発展途上国が、政治的覚醒によってナショナリズムに基づいた産業革命や高度経済成長を実現できる。ゴールドマンサックスが予測していた「2020年に世界の中産階級が20億人に急増する」という、国際資本家にとっての夢の実現である。(関連記事 )
また多極化は、国際政治的には、軍産英複合体が、英米イスラエル中心の世界体制を維持するため、諜報力を駆使して世界中を不安定にして、各地で戦争を誘発してきたこの50年間の悪弊を止め、世界を安定させる。多くの日本人は、英米ではなく、中露やイスラム主義こそ世界を不安定にすると思っているが、これは冷戦型のプロパガンダを軽信した結果の、非現実的な概念である。国際情勢を詳細に見ていくと、世界を不安定化する戦略を展開しているのは、多くの場合、英米イスラエルであるとわかる。英米イスラエルの挑発がなければ、反米イスラム主義は勃興しなかった。
▼MGI論文との類似性
ブレジンスキー論文が表向き掲げているのは、多極主義ではなく、その反対側にある米欧中心主義(国際協調主義)である。「今後も米国は、国際システムの根幹に位置せねばならない。この役目は、米国以外の国では代替できない。米国が世界を主導しなければ、世界は立ち直らない。混乱するだけだ」といった、従来からのブレジンスキーの、傲慢ともいえる選民思想的な「世界を主導できるのは米国だけだ」という主張が、この論文にも出てくる。
同じ姿勢は、前回の記事で紹介したMGI報告書にも出てくる。ブレジンスキー自身はMGI報告書の作成者には名を連ねていないが、報告書作成を主導したマデレーン・オルブライトはブレジンスキーの弟子である。(関連記事 )
しかしその一方でブレジンスキー論文は、多極化を容認している点でも、MGI論文と一致している。「G8は時代遅れ。G16や、地政学的に重要な経済大国(つまりBRIC)による協調が重要だ。米、欧州(英独仏)、中国、日本、ロシア、インドといった主要国の指導者が、非公式な対話を通じて協調を深める必要がある」「今の唯一の超大国である米国の大統領と、次の世界大国となりそうな中国の指導者が、世界を導く責任感を共有することが大事だ」とブレジンスキーは書いている。
この論文は、英国のチャタムハウス(王立国際問題研究所)での講演をもとにしているので、欧州が「英独仏」の3カ国で表されているが、ブレジンスキーは1997年のフォーリンアフェアーズに書いた論文では、欧州統合の推進を支持するとともに、欧州統合の中心は独仏であると書いている。(関連記事 )
▼バルカン、中東、中央アジアの覚醒が重要
FT紙のコラムニストであるフィリップ・スティーブンスも、彼は「政治的な覚醒が国際社会の形勢を作り替える」(A political awakening that recasts the global landscape) と題する記事で「インターネットや衛星放送に触発され、国家の枠組みを超えた、欧米以外の地域の人々の覚醒が起きている」「今の世界が混乱して見えるのは、われわれの価値観が以前のものだからだ」と書いている。彼は、民主党のブレジンスキーと双璧をなす米共和党の戦略家であるブレント・スコウクロフトの言葉を借りて「これまで国家としては弱い地域だったバルカン、中東、中央アジアなどの人々が覚醒することで、これらの地域が強くなり始めている」と書いている。スコウクロフトは、MGI報告書の作成に参加している。
ここで語られていることは「多極化」と比類して語られることが多い「無極化」の現象である。しかし、無極化を語る分析は多くの場合、中国やロシア、イスラム世界などの台頭という多極化の要素が包含されている。中南米の反米勢力やイスラム世界の人々の結束強化は、無極化でもあるし多極化でもある。従来の欧米中心体制ではない世界秩序ができうるという点で、多極化と無極化は、同じ方向の動きである。そして米国では、民主党のブレジンスキーも共和党のスコウクロフトも、この動きをポジティブにとらえている。これは、超党派のオバマ政権の姿勢になるだろう。
オバマ政権が「隠れ多極主義」であるとしたら、今後も米国は表向き単独覇権的な姿勢を採り、世界の反米感情を扇動し、ロシアやイスラム世界や中南米諸国を挑発しつつ、世界の政治経済体制を多極化へと誘導するだろう。
ブレジンスキーの戦略はオバマ政権の戦略になる可能性が高いので、今回の論文の中身を詳しく見ていくと、イランとは無条件で交渉を開始すべきで、アフガニスタンのタリバン内部の穏健派とも交渉した方が良いと書いている。パレスチナ問題は最重要課題であり、非武装のパレスチナ人国家を創設し、イスラエルとの国境はNATO軍に警備させる。イスラエルはエルサレム分割を認める代わりに、エルサレム近郊のいくつかの入植地はイスラエル側に残す。パレスチナ難民に帰還権を放棄させることを双方が納得し、帰還できない難民に補償を与えるのが良いとしている。
これは、イスラエルが縮小を容認するなら国家としての生存権を保障してやるということだ。しかし現実には、中東全域でイスラム主義が台頭する中、欧州諸国が自国兵をNATO軍としてイスラエル警備に赴かせ、むざむざ悪者になるとは考えにくい。イスラエルは和平を了承する分だけ譲歩を迫られ、最期はイスラム主義勢力との戦争で潰される可能性が残る。
▼中国と日本の台頭が米英支配を崩す??
今回のブレジンスキー論文で気になるもう一つの点は「中国と日本の台頭(傑出)によって、大西洋諸国(欧米)の500年間の世界支配は終わる」と書かれていることだ。米英に代わって日中が世界を支配する時代が間もなく来ると言わんばかりである。
実際の日本がとっている姿勢は、ブレジンスキーの予測とは正反対だ。日本政府は、1日でも長く対米従属を維持したいと考えている。たとえ今後米国の覇権が崩壊しても、日本政府は今のところ、世界の多極化には貢献したくないようだ。政治鎖国的な傾向をとりつつ米国が復活するのを待つ方が良いというのが、今の日本の姿勢である。米国の財政破綻が近いというのに、日本政府は09年度予算で「米軍再編協力費」の名目で米軍にあげるお金を3倍に増やした。外務省は「これで米国に貢献できる」と喜んでいる。米国の傀儡国の傾向をむしろ強めるのが、今の日本国の方針である。
ブレジンスキーは1970年代から「日本は国際政治に関与する気がないので、永久に米国の属国であり続けるしかない」と言って日本を侮蔑してきたが、日本政府は侮蔑されても喜々として対米従属を堅持している。今回のブレジンスキーの「中国と日本は」というくだりは「中国」だけが本質的な主語で「日本」は、ブレジンスキーの中国偏愛を読者に悟られないようにするための当て馬にすぎないのかもしれない。
今回の日中に関する指摘を詳しく説明したものを、ブレジンスキーはすでに1997年のフォーリンアフェアーズ論文「ユーラシア地政学」 で書いている。この論文は、ユーラシア大陸を「地政学的な巨大なチェス盤」にたとえ、米国がどうやってユーラシア大陸を支配するかを書いたことで有名になった。だが、世間で取り沙汰された好戦的なイメージとは裏腹に、論文が掲げた目標は「NATOにロシア、中国、日本を入れて全ユーラシア安保体制を作る」という、世界安定化であり、その目標達成のために米国は中国との協調が必要だという話になり、1998年にクリントン大統領が、日本に立ち寄らずに中国を訪問して「中国重視・日本軽視」を見せつける「ジャパン・パッシング」につながった。
この論文は11年前のものだが、この11年間で世界は、共和党ブッシュ政権下でいったん過激に好戦的になったのが大破綻し、今またブレジンスキーに頼る民主党政権になろうとしており、再びこの論文が有効になる事態に戻ろうとしている。その意味で、ブレジンスキーの97年の論文は、08年の今回の論文につながっている。「全ユーラシア安保」は「NATO」+「上海協力機構」+「北朝鮮6カ国協議が発展したもの」として実現していく道筋ができつつある。(関連記事 )
▼ブレジンスキーの隠れ多極主義
97年の論文は「隠れ多極主義」の典型だ。ユーラシア大陸を支配するものが世界を支配するのだから、米国はユーラシアを支配せねばならないと、まず英米中心主義、冷戦型の戦略構造を掲げる。ここだけを読むと、ブレジンスキーは「軍産英複合体の犬」である。しかし、その先はユニークな展開となる。
米国がユーラシアを支配する方法としてブレジンスキーは、従来の「米国は、ユーラシアの西と東に位置する英国・日本と強く連携し、英日を橋頭堡として、大陸内部を封じ込める」という冷戦型の戦略ではなく、橋頭堡をもう一歩大陸内部に進めて「米国は、独仏を中心に統合しつつあるEUと、経済発展によってアジアの地域覇権国(regionally dominant power)になりつつある中国という、ユーラシア東西の大勢力と強く連携し、ユーラシアの安定化を図る」という戦略を打ち出している。
これは、既存の冷戦型の米英中心主義の換骨奪胎である。独仏中心のEUが強くなると、欧州における英国の影響力が低下し、米国とEUが直結すると、英国は辺境の島国に戻ってしまう。同様に、米国と中国が直結すると、日本も辺境の島国に戻る。英日は反ロシア的だが、ロシアとその影響圏に隣接するEUや中国は、親ロシア的だ。米国が英日ではなくEUと中国を重視するほど、米国の対ロシア戦略も協調的にならざるを得ず、米国の世界戦略は多極型になる。
ブレジンスキーは表向き、「私はポーランド生まれだから」という理由で反ロシア的で、80年代にアフガニスタン・パキスタンのイスラム主義武装勢力をけしかけ、アフガン占領中のソ連軍とゲリラ戦争させ、ソ連を撤退に追い込んで潰してしまった。しかし、そもそも冷戦とは「ソ連が永久に米英欧日の敵として健在であること」が前提であり、ソ連を潰しては冷戦も続かなくなる。英日にとっては「巨悪」のソ連こそ、米国を自国好みに踊らせられる、金の卵を生むニワトリだった。
ソ連を潰して冷戦終結を誘発したブレジンスキーは、反ソ連のふりをした反英国・多極主義・対日侮蔑主義者である。ブレジンスキーの「私はポーランド生まれだからソ連嫌いだ」という言葉は、パパブッシュがサッチャーに言ったとされる「私はドイツ系だから東西ドイツの統合を支持する」という言葉と同様、地政学的なまやかし、あるいはジョークである。
ブレジンスキーが扇動したアフガンのイスラム主義武装勢力は、ソ連崩壊後、反米的なオサマ・ビンラディンらの動きにつながって、米国を逆襲してきたが、この反米イスラム主義の勃興こそ、ブレジンスキーのもう一つの論点である「世界的な政治覚醒」の象徴である。
米国が傲慢で抑圧的に振る舞うほど、イスラム世界や中南米などの人々が反米感情を募らせ、世界が反米主義で結束し、バラバラだった中東や中南米に新たな政治的な「極」が生まれ、BRICなどとも相互に連携し、多極的・非米的な世界体制を作る。これは、米英中心の既存の覇権体制を壊し、世界を安定的な多極型へと転換しうる。
ブレジンスキーは以前から「米国しか世界を主導できない。他の国々ではダメだ」と傲慢なことを言ってきたが、これは世界の反米主義を扇動するために挑発しているのだとも思える。ブレジンスキーは日本に対しても「永久に対米従属しかできないダメな国」と侮蔑しているが、これも日本人の「鬼畜米英」以来の反米感情を扇動しているのかもしれない。
実際には、戦後の日本人はものわかりが良すぎて「そうです。日本人はダメです。米国しか世界を主導できません」と、ブレジンスキーの侮蔑を飲み込んでしまい、扇動は効果をあげていない。ブレジンスキーからすると、武士道を捨てて自閉する日本人より、アルカイダやチェゲバラ的な中南米左翼や金正日のような冒険主義の反米主義者の方が立派だということになる。
ブレジンスキーは表向き、ブッシュやチェイニーを嫌悪する発言をしているが、実際には、ブッシュやチェイニーは、世界中の反米感情を扇動し、ブレジンスキーの戦略を実行してくれた。ブレジンスキーは「米国による正義の武力行使」を容認する「ネオリベラル」の源流にいるが、その共和党版がブッシュ政権を席巻したネオコンである。スコウクロフトやキッシンジャーといった共和党現実主義者も含め、全体的に言っていることには大差がなく、皆で強い米国を過剰に演じることで世界を反米方向に政治覚醒させ、多極化している。
▼日本に再要求されそうな「米中日三角外交」
ブレジンスキーは97年の地政学論文で、日本は米国の同盟国であり続けるのが良いと書いたが、その一方で、日米同盟は反中国同盟であってはならない、日本を中国敵視の不沈空母にしてはならないとも表明している。同時に、米国のユーラシア戦略の中では日本より中国の方が重要なコマであり、米中日の安定した三角関係を築くことが重要で、日本は中国が民主化するまでのつなぎ役として意味があるとも書いている。
実際のところ米国の上層部は、中国が共産党独裁体制のままで北京五輪の開催を許しており、中国を民主化させる努力をほとんどしていない。ブレジンスキーはカーターの大統領補佐官だったが、カーターは初めて訪中したニクソンの後を受け、米中国交を正常化した。カーターの親中国政策の裏にいたブレジンスキーは、ニクソン・キッシンジャーと同様、中国を大国化へと誘導する先鞭をつけた。
97年の論文で「米中日の三角関係」が望ましいと書かれたことは、日本の政界にも影響を与え、小沢一郎や加藤紘一が日本の国家戦略として「米中と等距離の正三角形外交」を打ち出すことにつながった。01年の911後、ブッシュの米国は単独覇権主義を掲げたが、日本側はこれが実は隠れ多極主義であると裏読みせず、真に受けたため「米中等距離外交」の構想は姿を消し、日本は反中国の対米従属一本槍に走り、加藤紘一の実家は右翼に放火された。
しかし今、ブッシュの単独覇権主義は全崩壊し、オバマ新政権はブレジンスキー流に、表向きは「強い米国の復活」を掲げるが、MGI報告書などでは多極化を容認する姿勢を強めている。おそらくオバマ政権は、日本に対し、97年論文にあるような、日中の接近による米中日三角戦略の再生を隠然と求めてくるだろう。
米国の促しに応え、日本が中国との関係を強化し、ロシアとの関係も改善して、多極型の新世界秩序に即した国家姿勢に転換していくなら、それがブレジンスキーの言う「中国と日本の台頭によって、大西洋諸国の世界支配が終わる」ことになる。逆に、もし日本が、中国との関係強化を拒否し、従来の対米従属のみに固執した場合、オバマの米国は日本を軽視する傾向を強め、米中2国のみで太平洋を協同支配する態勢を強めるだろう。
▼無意味になる対米従属
今の日本では、対米従属は古来不変の国是であるかのように感じられる。しかし現実には、日本の対米従属戦略の根幹にある要件は「米英が世界最強であり、米英に逆らうものは原爆を落とされ、破滅する」という、第二次大戦から得た政治教訓と「世界最大の市場であり、技術力や金融財政技能の源泉である米国と親密である限り、日本経済も安泰だ」という戦後の経済戦略である。そして、これらの政治的・経済的な要件は今後、米国の覇権衰退とともに失われていく公算が大きい。
今の日本経済は、ドルと米国市場ばかりを見ている。経済人はドル高円安を歓迎し、米国の消費市場を最重視している。ニューヨーク株式市場が下がれば、翌朝の東京株式も下がる。しかし今後、ドルが崩壊して決済通貨・備蓄通貨として使いものにならなくなり、米国の不況が悪化して米国が消費大国でなくなったら、日本経済にとってのドルや米国の価値は大幅に下がる。ドルと米市場が崩壊したら、その後の日本は、ドルではなく円を使って貿易決済した方が良い状態になる。日本製品を輸出する最重要市場は、米国ではなく中国になる。日本人が最重視すべき為替相場は、円ドルではなく円人民元になる。日本は、円を含む多極型の通貨体制を認めざるを得なくなり、中国にも人民元を切り上げて多極型通貨体制に入るよう求める必要が出てくる。
政治的にも、米国覇権の衰退は、日本の国是を根幹から揺るがす。米国の不況の深化は、暴動や反政府活動など、米国内政治の混乱に結びつきそうだが、その状態が長引くほど、日本は米国に頼れなくなる。在日米軍の空洞化も強まる。
その一方で、日本国内の政治も、09年以降、混乱や政界再編が激化すると予測される。今は自民党と民主党という二大政党は、いずれも対米従属を基本方針としているが、米国の崩壊と同期して起きそうな今後の日本の政界再編によって、対米従属ではなく米中等距離の外交戦略を掲げる大型政党が日本に登場し、政権をとるかもしれない。小沢一郎が民主党で米中との正三角形の外交戦略を復活し、政権党になるかもしれない。
日本の官界では、外務省は最期まで対米従属を貫きたがるだろうが、財務省はドルが崩壊したら「円の国際化」をやりたがるだろう。すでに官界では、昇格した防衛省が中国との関係緊密化を模索し、対米従属一本槍の外務省との間で摩擦を生じさせている。(関連記事 )
▼日本人が覚醒しうる好機
今後予測されるこのような政治転換の中、日本人は、どこかの時点で「そもそも日本の対米従属は、米国が圧倒的に強い覇権国だったから採用していた戦略だ。米国が弱くなり、経済的にも軍事的にも日本が対米従属する利点がなくなった以上、日本は対米従属をやめた方がいいのではないか」という思いにとらわれるだろう。このような思いが日本人の中に広がっていくと、国民の間で「ならば日本はどうすべきか。世界の中でどう振る舞いたいか」という考察が始まる。
これは、ブレジンスキーがいうところの「政治的な覚醒」となる。日本人は、戦後60年間、自分たちを拘束してきた対米従属の呪縛から解放される機会を得る。対米従属の呪縛は、戦後の日本が再び対外野心的な戦略をとらないようにするための「瓶のふた」だったが、すでにこの「ふた」は破れかけ、裂け目から青空がのぞいている。日本人にとっての「アメリカ以後」が迫っている。
日本は、米英との戦争に大敗北したから、戦後は対米従属した。戦前の日本は、国際的な野心の強い国だった。日本人は勝手に「自分たちは戦後、全く変わったんだ」と思い込んでいるが、もしかするとそれは、過去を簡単に忘れる民族的特技を持つ日本人の幻想でしかなく、ブレジンスキーは日本人自身より良く日本人のことを知っていて「米国の覇権が崩壊したら、中国と日本が台頭して世界支配に乗り出す」と書いたとも考えられる。(関連記事 )
日本は、対米従属をやめた後は、対中従属するという未来像もあり得るが、日本人のほとんどは、中国に従属するなど真っ平だろう。日本人は、敗戦しなければ対米従属すら望んでいなかったはずだ。中国に従属するぐらいなら、中国に負けないように必死で頑張った方が良い、と多くの日本人が考えるはずだ。
従来の日本は、対米従属することで冷戦型の中国包囲網の一翼を担っていることになるという、お気楽な対中戦略をとっていた。米国覇権衰退後の日本には、そんな贅沢なお気楽さは存在しない。独自の力で、中国の台頭に対応せねばならない。
しかし、悲壮感にさいなまれる必要はない。中国は日本と同様、経済的な繁栄を維持することで、国を安定させており、この先20年ぐらいは、この状態は変わりそうもない。中国が日本と戦争したら、中国の経済繁栄は失われ、不安定になる。中国は日本と戦争してもメリットがない。日中は対立関係を続けるかもしれず、小競り合いぐらいはあるかもしれないが、全面戦争にはなりにくい。日中とも安定重視である以上、折り合いをつけて安定的な日中関係を模索する可能性の方が大きい。
そして、米国の覇権が衰退している中で、いったん日中で話がつけば、次は日中協同でアジアや世界の安定化を模索しようという話になるかもしれない。「欧米の支配は終わり、日中が世界を支配する」という、今はまだ奇異に感じられるブレジンスキーの予測は、意外に先々の現実に即したものかもしれない。
2009年から日本でも大不況が深刻化し、当分は失業したり減給したりして、日本人の生活も大変になるだろうが、この不況は日本人を対米従属から解き放ち、政治的覚醒につながりうる。日本にとって敗戦以来の大転換となりうる、政治的な好機がやってくる。
田中宇の国際ニュース解説・メインページへ
オバマの多極型世界政府案
オバマの多極型世界政府案
来年1月20日に就任する米国の民主党オバマ新政権の世界戦略の原型となりそうなものが、今年9月に出されていた。民主党系のシンクタンク「ブルッキングス研究所」が中心に進めた研究事業「世界的不安定管理」(もしくは「世界規模の不安定さを管理する」、Managing Global Insecurity、MGI)の報告書「転換後の世界における国際協調新時代の行動計画・2009-10年とそれ以降」(A Plan for Action - A New Era of International Cooperation for a Changed World: 2009, 2010, and Beyond) である。
この報告書のまとめ役は、民主党クリントン政権の国務長官だったオルブライトだが、共和党政権の元高官であるアーミテージやスコウクロフトもメンバーに含まれており、超党派の形式を取っている。後述するFT紙の記事 によると、報告書の中身を練った中心人物の一人は、クリントン大統領の首席補佐官だったジョン・ポデスタ(John Podesta)で、彼はオバマ陣営の政権移譲チームを率いる人物だ。
この報告書は国連を重視しているが、オバマ次期大統領は、オルブライトの弟子の一人で、報告書をまとめたブルッキングス研究所の出身であるスーザン・ライスを国連大使に指名している。彼女は以前から、国際紛争を解決するために国連を強化すべきだと主張している。オルブライト自身、クリントン政権で国連大使から国務長官に昇格した。(関連記事その1 、その2 )
スーザン・ライスはクリントン政権で国務省にいたが、今回の大統領選挙ではクリントン陣営を離脱してオバマを支持し、オバマの外交顧問となった。そのため、国務長官になるヒラリー・クリントンはスーザン・ライスを嫌っており、国務長官と国連大使という米政府の世界戦略を体現する2人が敵対するという見方がある。しかし実際のところ、ヒラリーの姿勢は、夫の政権出身で今回はMGI報告書を作ったポデスタやオルブライトに近い。ヒラリーとスーザン・ライスは本質的に対立せず、むしろ報告書の戦略に収斂するだろう。(関連記事その1 、その2 )
▼内政不干渉の原則は「古くさい」
この報告書は「今後50年間の世界を安定繁栄させるための戦略」とされるが、その特徴の一つは「内政干渉」を容認する点だ。国家主権より上位に「世界政府」(婉曲表現では「グローバル・ガバナンス」)のようなものを組織するためである。その根拠は以下のようなものだ。
現在の世界が抱える問題の多くは国際的であり、国際テロや核兵器技術の拡散、環境問題、金融破綻など、一つの国の国内問題が放置されると、他の国々に悪影響を与える。第二次大戦の終戦時に定めた現在の世界体制では、国家主権を重視するあまり、ある国が他国の内政に干渉するのを禁じたが、内政不干渉の原則を神聖視すると、国際問題の解決が難しくなる。内政不干渉の原則は、もはや古くさい。世界各国は国内問題だけに責任を持てば良い時代は終わった。世界各国は、国際問題にも責任を持たねばならない。この新しい概念を「責任国家主権」(世界に責任を持つ国家主権。responsible sovereignty)と呼ぶ。他国に迷惑をかける国は「責任国家主権」の義務を果たしておらず、他国から内政干渉されても文句を言えない、というのが報告書の主張である。
「悪い国の内政には干渉して良いんだ」という考え方は、ブッシュ政権の「単独覇権主義」と同じである。その前の「国際協調主義」だったクリントン政権でも、オルブライトが国務長官になったときに「ならず者国家」(アフガニスタンやイラク、北朝鮮など)の概念として出ており、MGI報告書は、クリントン型に戻っただけとも言える。しかし、クリントン時代は「米英中心体制」が基調だったのに対し、今回は「多極体制」が基調となっている点が違っている。
MGI報告書では、米英中心のG8は時代遅れ(outdated)だと規定し、G8に代わるものとして、G8に中国、インド、ブラジルのBRIC諸国や、南アフリカなどを加えたG16の新設を提案している。この提案は、すでに11月15日に開かれたG20金融サミットとして実現している。
ここ数年、BRICや南アなどは、非米同盟的な色彩を強めているので、G8をG16に転換することは、多極化の推進である。来年のG8サミット開催国はイタリアだが、イタリアの現政権は「ロシアをEUに入れるべきだ」「ドルの覇権は終わった。次の国際通貨体制を早く検討すべきだ」などと主張しており、サミットではG8をG16(もしくはG20とか、世銀のゼーリックが提唱するG13)に拡大する話が出るかもしれない。
▼多極型世界政府に反対する英国
報告書は「国際協調体制を再活性化できるのは、世界の中で、米国だけである」として、米国が世界を主導する体制に戻ることを主張している。だが今後、米国が率いる世界は、以前のような英国が黒幕的に存在し、米英の下に日欧など他の先進国が並び、その下にBRICなど新興諸国や発展途上国が並ぶという英米中心体制ではない。今後の米国は、欧日より対米従属傾向が低い新興諸国や途上国が台頭する多極的な世界を率いることになる。
報告書は、題名が「転換後の世界における国際協調新時代の行動計画」となっているが「転換後の世界」とは、多極型に転換した後の世界のことである。この転換は、ブッシュ政権が金融危機を悪化させ、イラクやアフガンの占領を失敗させて、米国の覇権が崩壊し始めた結果として起きている。
米国の覇権体制には、当初の1940年代から英国がとりつき、70年代からは(おそらく英国の代理勢力として)イスラエルもとりついて、事実上、英イスラエルが米国の世界戦略を牛耳る「米英中心体制」だった。冷戦終結によって、この体制が振り切られるかに見えたが、英イスラエルは依然強く、クリントン政権は国際協調主義が掲げたものの、反ロシア的なコソボ紛争など英国好みの紛争が誘発され、中東も常に不安定だった。協調主義とは名ばかりで、実質的には米英覇権体制だった。
だがその後、ブッシュ政権が英イスラエルに好都合なはずのテロ戦争(第2冷戦)やイラク侵攻を、過激に無茶苦茶にやって失敗させたおかげで、今や英国もイスラエルも弱体化している。今回オバマ政権になるとともに、MGI報告書によって再び国際協調主義が掲げられたが、その本質は、クリントン時代とは全く異なっている。英イスラエルは影を潜め、米国が協調する相手は、中国やロシア、中南米諸国、イスラム諸国など、米国が傀儡化できない勢力となっている。ブッシュ政権がやったことは結果的に「英イスラエル外し」であった。
報告書は世界各国に国際社会への貢献を強いるとともに、国連に、国際紛争を軍事的に解決するための5万人程度の軍隊(予備軍)を創設することを提案している。国連を強化して「世界政府」的な色彩を強めようとしている観がある。しかし、世界政府案の中身は、クリントンやブッシュの時代とは大きく異なる。以前の世界政府案は、NATOが世界軍になり、G7が世界政府になるという米英中心型だった。だが今回の世界政府案は、NATOがアフガニスタンで壊滅に向かい、G7がG16またはG20に変身し、国連が反米の左翼とイスラム主義に乗っ取られる中で出てきている。今後、世界政府を思わせる動きが拡大するとしたら、それはBRICが台頭して米国と肩を並べる多極型となる。
MGI報告書は「世界を主導するのは米国しかいない」とぶち上げるが、米国は今後、金融と軍事占領の崩壊拡大で弱体化が進むと予測される。それと合わせて考えると、米国の指導力は限定的となり、ロシアや中国の助けが不可欠となる。常設の国連軍が創設された場合、そこでは米軍がロシア軍や中国人民解放軍と協調せざるを得なくなる。欧州では、NATOがすたれ、今後形成されるであろうEU統合軍が重要になる。英国は「欧州の辺境」に戻る。
英国のFT紙は12月9日、MGI報告書について、世界政府計画のにおいが感じられると指摘する記事「世界政府が提案される時が来た」(And now for a world government) を出した。記事は「EU統合を世界に広げると世界政府となるが、EUは、国家主権の放棄に反対する各国の民意を無視し、統合推進が国民投票で否決されても、可決するまで再投票させるインチキぶりだ。世界政府とは、民主主義を踏みにじる独裁的なものだ」という主旨で、オバマが推進しそうな多極型の国連強化による「隠れ世界政府主義」を批判している。多極化によって振り落とされる英国の国益を代弁するかのような記事だ。
▼各地域の多国間組織を強化する
MGI報告書はまた、国連安保理の常任理事国が持っている拒否権システムを自己改革すべきだと主張する一方で、安保理の議席拡大は良いことだが、それを09年にやるのは時期尚早だと言っている。なぜ時期尚早なのか、報告書には書いていないが、今後、時期があとになるほど、世界経済の構造転換によってインドやブラジル、アラブ諸国などが台頭する半面、欧州や日本の相対的地位は下落する。ドイツや日本ではなく、インドやブラジル、サウジアラビアなどを常任理事国にしたいという多極化の意志があるなら「09年は時期尚早」と言うのは当然だ。
報告書は、これまで安保理や米英中心体制で解決が試みられることが多かった世界各地の地域紛争を、その地域の多国間組織によって解決する方向に転換することも提唱している。これも、多極化の方向である。中南米では反米的な多国間組織が立ち上がるだろう(エクアドルを皮切りに反欧米的な債務不履行宣言が広がるかも)。北朝鮮核問題では、オバマ政権は中国中心の6者協議を重視するだろう。クリントンは北朝鮮と直接交渉したが、オバマがその体制に戻ることはなさそうだ。(関連記事 )
オバマは同様に、日米同盟よりも、日中韓が協調し、その協調体制と米国が連携する形を好む可能性が大きい。折しも先日、初めての日中韓のサミットが福岡で開かれた。今後、米国が関与せず地域内の諸国のみで問題解決を図るという、日中韓サミット型の地域組織が重要になりそうだ。実は、日本を日米同盟偏重から離脱させて地域諸国との関係強化にいざなう米国の動きは、ブッシュ政権からのことだ。ブッシュ政権は、日本がオーストラリアやインドと安全保障上の関係を強化することを望み、対米従属一本槍から乳離れさせようとした。(関連記事 )
報告書は、パレスチナ問題に関しては、ブッシュ政権が作った、米国・EU・ロシア・国連の4者(カルテット)が主導する「アナポリスサミット体制」を継承し、以前の米英主導には戻らない。ブッシュ政権は先日、国連安保理で、ロシアと連携して、カルテット主導の中東和平のやり直しを提案したが、これはまさにMGI報告書が提案したとおりの動きである。ブッシュ政権は、オバマ政権がやりそうなことの先鞭をつけている。米国の世界戦略は、超党派体制で、米英中心体制から多極体制への軟着陸を目指している。(関連記事 )
中東和平に関して、米英はイスラエルの側に立ち、アラブをだます傾向が強いが、ロシアや国連や中国はもっと中立的である。中東和平は多極体制になるほど、イスラエルに不利になる。MGI報告書は、最終的にはイスラエルとイスラム諸国が協調できる中東地域の多国間安保体制の枠組みを作るのが目標だと書いているが、それができるまでには、入植地撤去、エルサレム分割、難民帰還など、イスラエルは多くの譲歩を迫られる。
オバマは、就任したらイスラム世界に対して「協調しよう」と呼びかける構想を持っている。しかし、これはおそらく逆効果になる。米国のイラク侵攻後、イスラム世界は反米反イスラエルの世論を強め、イスラエル周辺でもハマスなどのイスラム主義勢力が強くなったが、イスラエルはこれらの台頭に対抗してパレスチナ人に対する抑圧を強めざるを得なくなっている。オバマがイスラム世界に「協調しよう」と呼びかけたら、イスラム側からの返事は「協調したいなら、まずイスラエルにパレスチナ抑圧を解除させろ」となる。ロシアや、反米左翼とイスラム主義者に乗っ取る国連も「そうだそうだ」と言うだろう。(関連記事 )
米政府は来年以降、財政難やドル不安にも襲われるだろうから、そんな中でのオバマの対イスラム協調路線は、米国の外交力の弱体化を象徴するものにしかならない。米国の後ろ盾を失い、イスラエルは弱くなる一方だ。リクード右派は「消滅させられる前に、最後の先制攻撃をすべきだ」という「サムソン・オプション」の主張を強めるだろう。イラン・イスラエル戦争の可能性がしつこく残る。
▼地球温暖化重視は茶番劇?
MGI報告書は、IMFについては、今後の主たる役目を、世界的な貿易不均衡を解消するために世界各国の為替政策を調査監督するサーベイランス機能とすることを提案している。IMFの「サーベイランス機能」と聞いて思い出すのは、世界の貿易不均衡を通貨体制の調整によって解消する目的で、06年4月にIMFに作られた、米国・EU・中国・サウジアラビア・日本で構成する、多国間協調のサーベイランス組織である。この組織は、中国やサウジアラビアや日本に通貨の切り上げや国際化を進めさせようとしたが、各国とも対米従属の希望が強くてやる気がなく、機能しなかった。(関連記事 )
あれから3年近く経ち、この間、米金融危機によってドルの潜在危機が強まっている。ヘッジファンド規制などの国際投機規制が実施されれば、中国やアラブ諸国が通貨を国際化したがらなかった元凶の理由も解消される。オバマ政権下でドル危機が顕在化すれば、国際通貨体制の転換の準備を行うIMFのサーベイランス機能が、再び重視されることになる。いずれ、国際通貨体制は多極化していくだろう。
MGI報告書は「地球温暖化問題」についても、強い対策を提唱している。国連の気候変動枠組み条約会議の成功と、排出ガス規制の条約化を目指すとしている。しかし現実をみると、これは実現しそうもない。12月13日にポーランドで行われた国連の温暖化対策会議では、会議参加者ら世界の650人の科学者が、国連や欧米日が「事実」と決めつけている温暖化人為説について「事実と断定するのは間違っている」と主張する報告書を連名で出した。(関連記事 )
またこの会議では、発展途上国の代表たちが「先進国が主張する、温室効果ガスの排出に国際的に課税する策は、途上国の貧困層をますます貧しくする愚策だ」と劇的に反対した。今後、G7がG16になったりして、BRICや途上国の政治力が強くなるほど、排出ガス課税の実施は難しくなる。世界不況の悪化も「温暖化対策」を棚上げさせる効果をもたらす。(関連記事 )
そもそも、実際には確証の少ない仮説の一つにすぎない「二酸化炭素など人類の排出ガスのせいで地球が温暖化している」という説を「事実」として確定し、排出ガス課税を世界的な義務にしようという策略は、BRICや途上国の経済成長をピンハネしようとする、英国主導の日欧先進国による政治戦略だ。この件はマスコミ報道も、事実のふりをしたプロパガンダが強い。「温暖化対策」が実施されなくても、実際に環境面で人類が困ることはない。オバマは、温暖化対策を重視すると何度も表明しているが、これはひょっとして実現できないことを承知で、英国筋などを煙に巻くための戦法なのではないかとも思う。(関連記事 )
▼反露強硬路線を進むほど行き詰まる
MGI報告書は、実際のオバマ政権の高官が採りそうな方針と、食い違っている部分がある。たとえば国防長官になるゲイツは、ミサイル防衛計画(ミサイル迎撃ミサイル)を東欧に配備する件と、グルジアやウクライナのNATO加盟を推進しそうで、これは米露関係の好転と、多極化への軟着陸を阻害する。国務長官になるクリントンも、対ロシア強硬派になると予測されている。(関連記事 )
またゲイツは、米軍が核兵器の開発を再開することを提唱したが、MGI報告書は米露が率先して核兵器の削減を行い、世界の核拡散防止につなげることを提唱している。(関連記事 )
しかしこれらの点は、米国が単独覇権主義を過激にやりすぎて覇権を衰退させ、その結果、世界が多極化していることを考えると、矛盾とは言えなくなる。米国が単独覇権的な核兵器再開発やロシア敵視を続けるほど、米国は世界からの反発を強く受けるようになり、覇権の衰退が進み、最終的な多極化につながるからである。その意味では、穏健的なオバマではなく、過激派のマケインが大統領になっていたとしても、最後には多極化を容認せざるを得なくなる点で、同じ結果になっていたとも考えられる。
最近、米政府の国家情報委員会(NIC)がまとめた未来予測「グローバルトレンド2025」 では、冒頭から「多極型の世界システムが出現する」と宣言し、2025年の世界は中国などのBRIC諸国が台頭すると、明確に多極化を予測している。実際の今の中国は、それほど強い国ではないので、この予測自体が「多極主義者が書いたシナリオ」とも受け取れるが、今までに書かれた多極化のシナリオは大体そのとおりになっており、一蹴するのは間違いだ。オバマ政権の最重要課題が「世界多極化への対応」になるのは、ほぼ確かなことである。
田中宇の国際ニュース解説・メインページへ
ナイキのCMにひっかけてブッシュ靴投げパロディCMが登場。大爆笑!
ナイキのCMにひっかけてブッシュ靴投げパロディCMが登場。大爆笑!
アメリカのNBC放送が製作したらしい。
http://www.youtube.com/watch?v=y6FZvRESH_A&eurl=http://www.wearechange.org/&feature=player_embedded
<object width="425" height="344"><param name="movie"
value="http://www.youtube.com/v/y6FZvRESH_A&color1=0xb1b1b1&color2=0xcfcfcf&hl=en&feature=player_embedded&fs=1
"></param><param
name="allowFullScreen" value="true"></param><embed
src="http://www.youtube.com/v/y6FZvRESH_A&color1=0xb1b1b1&color2=0xcfcfcf&hl=en&feature=player_embedded&fs=1
"
type="application/x-shockwave-flash" allowfullscreen="true" width="425"
height="344"></embed></object>
「ブッシュ靴」に注文殺到、37万足!。ブッシュ靴投げ会社は大繁盛。臨時従
「ブッシュ靴」に注文殺到、37万足!。ブッシュ靴投げ会社は大繁盛。臨時従
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp1-20081223-443057.html
「ブッシュ靴」に注文殺到、37万足!
イラク人記者が首都バグダッドでブッシュ米大統領に投げ付けた靴のメーカーに
注文が殺到し、トルコ西部イスタンブールにある同社は注文に対応するため従業
員100人を臨時で雇うことになった。フランス公共ラジオが22日伝えた。
靴メーカーの担当者によると、「事件」が起きてから22日までに計37万足
の注文が舞い込んだ。これまで、投げ付けられた靴のモデルは年間1万5000
足しか売れていなかったという。同モデルは「ブッシュ・シューズ」と改名され
た。
注文は当初イラクからが大半だったが、その後、ほかの中東諸国をはじめ、世
界各国から集まるようになった。米国からも1万9000足の注文があった。
中東のアラブ諸国では、同記者の靴投げを「英雄的な行為」と支持する声が広
がっている。(共同)
[2008年12月23日10時11分]
ソーシャルブックマーク
キッシンジャー氏が米朝接触の仲介拒否 機密文書(産経)
2008.12.24 15:52
http://sankei.jp.msn.com/world/america/081224/amr0812241556013-n1.htm
米ロックフェラー財閥のデービッド・ロックフェラー氏がチェース・マンハッ
タン(現在の米銀大手JPモルガン・チェース)会長だった1975年4月、米
国と北朝鮮の接触を仲介する意向を当時のキッシンジャー国務長官に打診したが
、時期尚早と断られていたことが23日、機密指定を解かれた米公文書で明らか
になった。
米シンクタンク「国家安全保障公文書館」が米情報自由法を通じて入手、公開
した75年4月19日の両氏の電話記録によると、ロックフェラー氏は北朝鮮の
「大使」と面会したとキッシンジャー長官に告げた。
ロックフェラー氏はその上で「北朝鮮側は米国の支援を受け入れ、あなたが推
すどんな人物とも会う用意が十分にできている」と申し出たが、長官は「率直に
言うが、今は弱みを見せるときではない」と述べ、接触の仲介を断った。(共同
)