六月大歌舞伎 6/2 昼の部(歌舞伎座) | 晴れ、ときどき観劇。

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ブロマンス 男と男の ラブロマンス

 

 

(嘘短歌を詠むな)(ブラザーとロマンスです念のため)

 

 

 

観ました~。
正直演目的には、ものすごく惹かれたわけではないのですが、妹背山女庭訓の女官たちが小川家勢ぞろいと聞いては……ねえ………。
コテコテの古典が苦手な宇田川ですが、雄々しい女官を目当てに参上し、結果的に良かったです。
 
一、上州土産百両首

これが思いがけず面白かったんですけど、どうしようもない男たちが互いに互いを想い合って身を滅ぼしていく話でして。
1人目は正太郎、アニキ肌で腕のいい板前なんだけどふとしたことから道を外れ、ろくでもない仲間とつるんでスリでその日暮らしをしている。
もう1人は牙次郎、のろまでばかで親もなくどうしようもなく、流れ流れて悪い仲間たちに使いっ走りをさせられている。
あるとき再会した二人は互の懐から財布を抜き取り、別れた後で気付いて嘆き、互いに更生と10年後の再会を誓う。
正太郎は上州に流れついて料理屋の板場を預かり、懸命に働いて200両を貯めていた。その金を牙次郎に渡し、牙次郎の暮らしを生涯にわたって支えることができたなら、上州に戻って料理屋の一人娘を娶ってそこで生涯を終えよう……という算段は、かつての仲間三次の登場によってもろくも崩れ去る。
200両をゆすり取ったうえ今後も寄生すると宣言する三次を手にかけ、正太郎は再会の約束を果たすため江戸と向かう。
一方牙次郎は江戸で岡っ引きの手下となり、兄貴分たちに馬鹿にされながらも必死に生きていた。再会に際して持ち寄れる土産話とてなく、降ってわいた賞金首を自らの手で捕まえたいと不動尊に祈る始末。二人は約束の夜に再会するが、牙次郎の手で捕縛されたい正太郎の気持ちとは裏腹、牙次郎の兄貴分たちが正太郎を捉える。
正太郎は憤るが、牙次郎は親分に頭を下げて正太郎の縄を解かせる。自ら出頭し、裁きを受けてくれ、と。すぐに後を追いかけるから三途の川も俺の手を引いて渡ってくれよ、と。
奉行所への、そして死への道を寄り添って歩くふたりの背中を、月が照らしていた……(急にバッドエンド短編BL小説みたいに終わるな)
 
・なんだよその終わり方~~~~!!!!???!!?!今日泣く予定じゃなかったんですけど!!!???!?
・アニキ肌で、牙次郎を可愛がってきた正太郎。世間をひねて浮き世を嘲笑って生きる正太郎。牙次郎のために心を入れ替えて真人間として生きる正太郎。でも、結局は過去が足を引っ張って、短絡的な道を選んでしまう。追われるなかで200両も取り上げられ、せめても約束を果たすため、自分の首にかかった100両を牙次郎に届けるため、追われに追われながらも一路江戸を目指す正太郎。正太郎―――ッ!!!獅童さんの気風のよさ、悪さと良さのバランス、覚悟を決めたときの肚の座り方、そして怒りと、諦めと、最後に残った愛と……もう全部良かった…超良かった…
・そして牙次郎、にこにこへにゃへにゃしていて流されるままに悪事に手を染めたけど、そんな自分がほとほと嫌になって、憧れの兄貴が後ろ暗い生き方をしていることに憤って、真人間になると決意するけど兄貴と離れるのはつらくて。そんな彼が10年間馬鹿にされながらも下っ端に甘んじて、甘んじているけれど約束の日には兄貴に喜んでもらいたくて、その日に兄貴に喜んでもらえるなら自分の命を懸けたってよくて、お不動さまに願掛けをしている。その成就の日に再会した兄貴が賞金首だと分かったときの絶望と、道行きも共にと決めてからの子どもみたいに嬉しそうな笑顔。菊之助さんって天才役者だな…
・しょたがじ二人の愛にぼろぼろ泣かされましたし、この役者おふたりでの「あらしのよるに」、無理かもしれない、心が。取ろう、パスポートを。(パスポートを…)(そう、わたくしついに松竹歌舞伎会に入ってしまいました)

・もう一人の天才といえば、三次@隼人さんですよ。めちゃくちゃ良かったんだが…!悪い!!とにかく悪い!!!いいところが一つしかない!顔!!とスタイル!!!(ふたつもあった!!!!)これがもう私が舞台に上がって殺してやろうかと思うくらいの悪人で、憎たらしくて、憎たらしいんだけどかっこいいんだ~~38歳まで三次に出会わずに生きてきた私は運が良いよ。出会ってたら身ぐるみ剥がされて内蔵売ってたからね。まあ腎臓が一つくらいなくても三次さんとの日々を過ごせたほうが幸せだったかもしれないけど………(すってんてんになるまで貢ぐタイプ)正太郎の話をつまらなそうに聞いている三次、私のお席からちょうど横顔を見上げる角度で見えたんですが、研ぎ澄まされた横顔のラインにぷかりとふかした煙管の煙がかかって、なんかのエフェクトみたいだった。私が絵師だったらあの場面を錦絵にして荒稼ぎするのになあ。
 
・なおこんな席

 


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二、義経千本桜 所作事 時鳥花有里
 

追われて逃げる義経主従…が、道中で傀儡師一行と出会い、慰みに芸を披露してくれるのだが……彼らは実は瀧田明神の使いで、川連法眼館に向かうよう主従に告げるのであった……しかし本当に判官びいきというか、敗走し討ち死にすると分かっている歴史上の人物に「神仏のご加護があったのだ」「神々は公を愛され生かそうとしておられたのだ」と描くのは、行きすぎると虚しくならないもんかね。行きすぎてて虚しいと思っているだけです、私が。


んで。若武者染五郎さんが、まーーーー美貌の若武者。どっちかっていうと染五郎さんの方が義経公のイメー…なんでもありません。
そして白拍子三人のうち、左近さん!!!これが大変に麗しくて、踊りが上手いし表情のちょっと硬質な感じが「神の使い」という説得力も持たせて、たいへん好きでした。…松緑さんのご子息で…???あら〜
 
 
三、妹背山女庭訓


なんで本作が好きになれないかって言うと、求女さんのことを一かけらも理解できないし好きになれないからなんですね。
だってさ、仇の妹と恋仲になっていて、ずいぶん長いこと潜伏して帰ってきて恋人が喜んだら「君と結婚したいのはやまやまだけど、君は僕の仇の妹…。君がお兄さんを裏切り出し抜くことができないと結婚は難しいんだ。でもね、万が一君がしくじって死んだとしても、僕は君に二世を誓うよ!」というクソみたいな交換条件を持ち出してくるところと、潜伏しているあいだにそこら辺の純朴で一途な娘をたぶらかして相手が結婚すると思い込み思い詰めて追いかけてくるというのに自分は久しぶりに会う恋人とお楽しみで暇つぶしの女をすっかり忘れているところなんですよね。お三輪は自分が彼の役に立つなら…来世で彼と結ばれるなら…と死んでいくけど、二世を!誓ってっから!その男!橘姫と!!!キー!!!!(手ぬぐいの角を咥えギリギリと引っ張りながら)
でもね、お三輪ちゃんもお三輪ちゃんで、素性を隠した男に身を委ねる安易さもさることながら、豪華な御殿を見ても「あたしの男を取りくさって…、踏み込んでやって、求女さんの手を取って、高笑いしながら一緒に出てってやるんだから」とか言って………強がりだったとしても性格が悪い。し、本当に女から男を奪う女は「私なんて……橘さんみたいに美人じゃないし、お金も持ってないし、求女さんは橘さんと一緒にいるほうがいいってわかってるけど、でも求女さんぜんぜん幸せそうじゃなかった……」みたいなタイプだし。別に経験ないし。(いや、だから奪えない女お三輪としては正解なんかもしれないけど)でも、だったら、女官にやいやい言われてしょぼしょぼフルフルしてるのか分からないのよ。酌の段取りがんばって覚えればいいじゃない。馬子の歌だって振り付きで腹から声出して歌ってやればいいじゃない。嫌なら去ればいいじゃない。なんなのよ!!!
どうですか皆さん、これが38歳にもなって心を引き裂かれるような激しい恋に身を焦がしたことのない女の地団駄です
さて、そういうわけで……橘姫以外の誰にも特に同情をしないで見ておりますものですから、女官のイビリも普通に面白く見てしまうわけです。大きいし…声低いし…迫力満点だし…楽しそうだし…生き生きしてるし……ウフフ……そんな私でさえ、終盤にはお三輪に哀れを誘われるというか、怯え心折られながらも健気に堪えていた彼女が我慢の糸がふつんと切れて髪を振り乱し表情を取り繕うのも忘れて屋敷に上がり込む、そして「嫉妬に狂った女の血」というアイテムのためだけに刺され、殺される。かわいそうだよ!!まさしく様式美の積み重ねでありながら、その様式美によって練り上げられた激情が爆発する過程を見て、すごいなあと思いました。うーむ。これが古典か~
ところでこの幕、途中で口上があったのですが、率いられた仁左衛門さまが豆腐買おむらというおばさま役で笑、口上に入った途端に「…苦しゅうございます」と帯をなおしなおししていて可愛らしさのあまり気絶しそうになりました。梅枝くんもおむらの娘役、可愛かったです!


次は夜の部。