うんこが「R」の形になった。

RはRESPECTのR。
RはROMANCEのR。
RはREVOLUTIONのR。

すなわち、仕事の上では周囲の尊敬を集めるような偉大な業績を打ち立て、プライベートではかわいい彼女がついにできてそれはもうすさまじいほどいちゃいちゃできるようになるという、革命的な人生の転換を暗示しているに違いない。

ついに来てしまうのか、俺の時代が。
持論だが、男は彼女がいる状態のほうが本業のパフォーマンスが高くなるものと思う。

もはや異性の獲得にエネルギーを割く必要がないので本業に専念できるし、彼女という存在が齎す幸福感がポジティブな思考を惹起し、あらゆる活動へのモチベーションを向上させるに相違ないからだ。

逆に言えば、彼女がいない男というのは仕事と彼女さがしの二正面作戦を余儀なくされ、それによる疲弊に苛まれながら戦っていかねばならぬのである。

その意味で、男は彼女がいる状態においてはじめて己の能力を遺憾無く発揮し得ると言うことができるだろう。

とすると、彼女がいない僕はこれまで長らく本来の実力に対して何割引きかの状態だったということになる。

つまり僕は彼女がいないという呪縛によって手枷足枷をつけられた状態で戦ってきたわけだ。

なんというストイックさ。

それは言わば亀仙流の修業のようなものである。

亀の甲羅を背負って牛乳配達やら畑仕事やらを行うあの修業によって、悟空とクリリンは大した期間やってないのに凄まじいジャンプ力を手に入れていた。

それを考えると、物凄い長いあいだ修業生活を送ってきた僕の実力が一体どれほどのものになってしまったのか、想像するだに恐ろしいものである。

しかも、彼女がいないにもかかわらず彼女いる人にひけをとらないこのパフォーマンス。

あーもうこわい。
自分の能力がこわい。



…。



はい、以上です。
いいえ、別にむなしくないです。


会社の個室トイレに入ったら、ドアに「くそしたら流せ!!」というなぐり書きがあった。

複数の企業がテナントに入っているビルの12階。
故にトイレも複数企業の共有なわけだが、しかし一人前の大人しかいないはずのこのビルで落書きを目にしたのは初めてだ。

僕は便座に腰掛けてうんこと格闘しながら、このなぐり書きの主の姿に思いを馳せた。


義憤とモラルの狭間で、彼は懊悩したに違いない。

ドアを開けた途端、彼の視界に飛び込んできた惨状。

看過しがたい不正義が、そこにはあった。

だが、これを正すために自分が落書きというインモラルを犯すのか?
それでいいのか。

自らが罪を犯すことでしか正すことのできない不正義。
そのジレンマに、彼の心は揺れた。

しかしながら、勇敢にも彼は決断した。
たとえ自らが罪人になろうとも、より大きな不正を正そう、と。

敢然、彼はペンを執った。

犯人に向けて、偽りのない己の真情を綴らねばならないと、そう考えたのだ。

「くそしたら流せ」

そう、言いたいことはそれだけだ。

うんこしたら流す。
現代人として、至極当たり前のことである。

筆を進めるうちに、彼の胸には次第に怒りが込み上がってきた。

何故、こんなことのために、自分が落書きという罪を犯さねばならないのか。

水洗のレバーを引く。
たったそれだけのことが、何故犯人にはできなかったのか。

そしてたったそれだけのために、いったい何人の罪もない人々が悪臭に苦しみ、もがき、涙したのか。

自然と、ペンを持つ手には力がこもった。

怒り、悲しみ、やる瀬なさ、悔しさ、虚しさ、情けなさ…

彼はその苦しい胸の内を、一心不乱にドアに向けて書き綴った-。


うんことの格闘を終えた僕の心は晴れやかである。

勝利の味を噛み締めながら、もう一度、ドアの落書きを見つめてみる。

「くそしたら流せ!!」

なんと清々しい言葉だろう。

そう、これは落書きなんかじゃない。
高潔なる魂の叫びだ。

僕は彼に心からの敬意を込めて、水洗のレバーをそっと引いた。
駅を歩いていたら、突然後方から「ふざけんなオンドリャコリャアー」というとてつもない咆哮が聞こえた。

振り返ると、如何にも貧弱そうなメガネの兄さんが、スキンヘッドでムチムチの化け物のような人間に壁際に追い詰められていた。

その化け物はとても同じ横浜に住む生物とは思えないくらいムチムチでツルツルでコワモテであり、人間というよりは肉弾戦車という感じであった。

可哀相なのはそんな戦車にカラまれてしまった貧弱メガネ兄さんである。もうあからさまに怯えている。「あわあわ」という言葉はどちらかというと擬態語だと思っていたが、この兄さんはもう普通に「あわあわ」と発声していた。

どうしたものかと思ったが、あんなお肉戦車相手に僕なんぞが何をしようと結果は目に見えているから、僕はとりあえず駅員さんに言いつけることにした。

あれほどのミートタンクとなれば基本的には誰が挑んでもやられるわけで、それ故こんなときに頼るべきは腕力ではなく権力である。

駅員は企業に、企業は社会に、社会は国家に繋がっているから、戦車がどんなに強くてもその力が不当に行使されるかぎり、最終的には国家権力という巨大な力の前に為す術なくプチッと捻り潰されるのである。

そんなこんなで通報(結局僕が言い付ける前に他の人が通報してた)を受けて現場に向かった駅員さんはこれまた明らかに貧弱そうな人だったが、その姿はどこか頼もしい。

なぜなら、その細い背に負うものが公の秩序である限りにおいて彼の背後には確かに国家が存在し、故にその時、彼は最強であったからだ。

結局、僕はことの顛末を見届けることなく家路についてしまったから、あのお肉が国家権力との凄絶な闘争の末についに敗れたのか、駅員さんの権威の前に意外にあっさり屈服したのか、あるいはアワアワメガネ兄さんの思い掛けぬ反撃にあって非業の死を遂げたのかは定かではない。

しかしいずれにせよ、アワアワメガネ兄さんが助かったのは間違いなかろう。よかったよかった。

さて、諸君。
これでわかったと思うが、いざ戦いに臨むことになったら、兎にも角にも勝つことが重要である。

そもそも戦いは、極力避けなければならない。

避けられる戦いは必ず避けるべく、我らは手を尽くさねばならない。

そのうえで、それでもどうしてもやらねばならぬ時には、勝利のために徹底的にやりきることが肝要なのだ。

やるならば飽くまで勝つ。

勝利のために最も合理的な手段を採用して勝つ。

巨大な肉の塊に肉体で勝負を挑むのは勇気ではない。

それは勝負を捨てる行為である。

蛮勇は勇気に非ず。

勇気とは、強大な敵を前にして、それでも必ず勝利するという不退転の決意を胸に方途を模索し、その実行において一足たりとも退かぬ、そんな不撓不屈の精神を指す言葉である。

よくよく吟味すべし。

まあ僕はただ駅員さんにチクりに行っただけなのでそもそも戦ってないのだが。
称賛に値するほどしぶというんこが出た。

僕は彼らから、何かとてつもなく強い決意を感じたのである。

彼らは生きようとしていたのではあるまいか。
必死に、生きようとしていたのではあるまいか。





うん子「…うん君、あたし、もうダメ。今までありがとう。あなたのこと、大好きだった。」

うんこ「なに馬鹿なこと言ってるんだ!頑張れ!絶対に生きるんだ!」

うん子「もういい、もういいの。短い間だったけど、あたし…、あたし、あなたと出会えて幸せだった。」

うんこ「約束したじゃないか!ずっと一緒だって。だから、絶対諦めるな!」

うん子「手を放して!あなたまで落ちちゃう!」

うんこ「絶対放さないぞ!まだ君を僕の故郷にも連れていってない!約束してた花火も、見に行ってない!絶対に君をはなすもんか!!」

うん子「ありがとう。やっぱりうん君、優しいんだね。」

うんこ「いま引き上げるから、がんばれ、うん子。」

うん子「でも、もう、手が…もたない…」

…ズッ

うんこ「!!、うん子、手を、もっとちゃんと握るんだ!ほら!!」

うん子「…うん君、明日からも、ちゃんと朝ごはん食べてね。あんまり夜更かししないでね。歯も磨いてね。身体に気をつけてね。」

うんこ「こんなときに、こんなときに何言ってるんだ!ほら、手を!!はやく!!」

うん子「泣かないで。あたし、あなたに会えて、ほんとに幸せだったよ。ほんとだよ。ありがとう、うん君、ありがとう―。」

ズルッ



うんこ「うん子ーーーーーーーーーー!!!」



―ポチャン。





的な。

実際あまりのしぶとさに身の危険すら感じたもん。
このまま仕事に戻れないんじゃないかと思ったもん。

まあつまりはそれほど、彼らの愛の力は偉大だったということだ。

それにしても、その後うん君はどうなったのだろう。

やっぱり彼も、あの全てを飲み込む最後の門から奈落へと落ちていってしまったのだろうか。

まあもし落ちてなかったとしたら腸内に宿便がいるということなので僕の健康上はあまりよろしくない。

健康上はよろしくないが、しかし、うん君にはうん子の分まで強く生きてもらいたいと思うのである。

どんなにこれからの人生が辛くても、どんなに世界が色を失っても、それこそが、最期までうん子が願っていたことに違いないのだから―。


※この物語はフィクションであり、実在の個人・団体などとは一切関係がありません。あとヘミングウェイの名著とも何の関係もありません。
目の前に立っていた妊婦と思われる女性にとりあえず席を譲ったわけだが、この人はほんとに妊婦なのだろうか。

ただ太ってるだけだったら逆に失礼である。

いや、でも腹だけこんな太る人いないよね?大丈夫だよね?

「ありがとうございます」と言って席についた妊婦が心なしか不機嫌そうに見えるのが若干気になるが、きっとツワリか何かだろう。

うん、ツワリだ。
そうに違いない。
「森林太郎」を「モリリン太郎」って書くとなんか異常にかわいくなる。

これだけかわいければエリスも許してくれると思う。
弓道部の練習試合が思いの外はやく終わったので、いま喫茶店で仕事の段取りを考えるという実にデキリーマンらしいことをしているのだが、斜め前にむちゃんこ可愛い娘が座ってるため気になって集中できない。可愛すぎる。君は可愛すぎる。好きだ。大好きだ。
トイレの天井を見上げながら、思った。

仕事と、うんこと、恋愛と、一体どれほどの違いがあるというのだろう。

悩める君よ。

ただうんこをするためだけにさえ、人は生きていてよいのだ。

そのうんこが小さな生き物を育み、大地を豊かにし、誰かの生命を輝かせるのだから。

礼賛すべきは生そのものであって、生きる意味だとかそういう類のものではない。

頭が痛いです。

台風がもたらした低気圧のせいかもしれません。

あるいは永年彼女がいないことによる心労が高じたのかもしれません。

少し考え仕事をせねばならないのですが、それもままならないくらい頭が痛いのです。

こんなとき可愛い彼女がいたら、「大丈夫?無理しないでね」とか可愛いメールくれたりするんだろうな。

あるいは、「心配だから、今から行くね」とか可愛い電話くれたりするんだろうな。

そしたら僕は「え、別に来ないでいいよ」とかちょっと突き放してみたりうんぬんかんぬん

あー頭いてえ。

台風とか早く温帯低気圧に成り下がればいいのに。

何もできねえなまぬる野郎に成り下がって、みんなからの嘲笑の的になればいいのに。