NGTをめぐる不正投票システムの解明を通して、山口真帆氏襲撃事件の社会的意味を明らかにする | 平山朝治のブログ

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以下は、控訴理由書とともに東京高等裁判所に提出した原告陳述書(11)をコピペしたものです(頁数はword文書のものです)

タイトル

NGTをめぐる不正投票システムの解明を通して、山口真帆氏襲撃事件の社会的意味を明らかにする

 

1、はじめに:原判決に対する根本的な違和感

原判決は、本件論説(甲3著者原稿版、甲4紙印刷版、甲100紀要掲載版)が山口真帆氏襲撃事件(本陳述書付録の10頁の用語解説1参照。以下、山口氏襲撃事件という)の加害者である笠井宏明氏と北川丈氏の実名と顔写真を掲載していることについて、「本件論説の目的を考慮しても、上記実名の記載や上記顔写真掲載についての必要性を認め難い」などを根拠にして「本件論説については、個人情報の不当な取扱いがあり」と判断し、被告大学が自身のリポジトリ(10頁の用語解説2参照)から削除したことを適法としました。

これは、かつて最高裁が示した「ある者の前科等にかかわる事実は、他面、それが刑事事件ないし刑事裁判という社会一般の関心あるいは批判の対象となるべき事項にかかわるものであるから、事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合には、事件の当事者についても、その実名を明らかにすることが許されないとはいえない」(平成6年2月8日「逆転」事件最高裁判決)場合があるという規則を、本件に当てはめる際の判断を誤まったものです。

まず、山口氏襲撃事件はありふれた痴話喧嘩ではなく、それを生んだ背景事実を探って行くとそこにはこの事件の生みの親ともいうべき、かつて芸能界きってのイノベーターとも評された企業であるAKS(10〜11頁の用語解説3参照)の当時の経営政策(具体的には不正投票システム、11頁の用語解説4参照)に辿り着きます。

私は本件論説の中で、山口氏襲撃事件を通じてこれを生み出した企業の経営政策のあり方を問おうとしました。しかし、原判決では、私が本件論説を通じて訴えたかったこの核心部分を全く理解して貰えませんでした。原判決は、山口氏襲撃事件を、まるで、ただの痴話喧嘩の類としか捉えていないのではないかと思いました。だから、こんな痴話喧嘩の類のことで、実名を明らかにすることは許されないとも簡単に判断されてしまったのだと思います。

そこでまず、山口氏襲撃事件の社会的意義についてはっきりさせたいと思います。

 

2、山口氏襲撃事件はただの痴話喧嘩かそれとも社会的な意味を持つ事件か

山口氏襲撃事件の発生について、加害者はどのような動機・理由でこの事件を実行したのか、そのような加害者の行動を引き起こす要因となったAKSの経営政策の問題点は何であったのかを解明して、不正投票システムが加害者の行動を動機づけていたことを示し、それをふまえて山口氏襲撃事件とその後の展開やそれらの社会的意義について検討したもの、それが本件論説です。

 

では、どうして「この事件は、AKSが、自らが運営するアイドルグループNGT48(以下、NGTとします)について不正投票に手を染めたことによって、起こるべくして起きた事件だ」と言えるのでしょうか?それは、事件と不正投票との関連性はこの事件の加害者の経歴を探っていく中で明らかになります。以下、これを具体的に示します。

 

山口氏襲撃事件の発生において、加害者に動機・理由与えた大きな要因としては、2017年以降のリクアワ(楽曲版総選挙)(11頁の用語解説6参照)や選抜総選挙(11頁の用語解説7参照)における不自然で作為的な順位や票数から、NGTに有利な投票結果をもたらすシステマティックな不正が存在することを挙げることができます。誰がどのような意図をもっていかなるやり方で不正を行ったかについて断片的で対立する複数の説明が提起されてきましたが、その点に関する私の検討結果を要約すれば、以下のようになります。

大量の票がNGTの話題作りのために楽曲やメンバーに分配されており、KSはイベントを管理する立場を不正に利用してNGTの躍進を捏ち上げました。2018年12月8日に山口氏を襲った実行犯笠井氏が、2017年初のリクアワ結果発表の際、NGTの楽曲に無限投票ができたとツイートして騒ぎになり、2017年5月末の選抜総選挙速報後もNGTメンバー(11頁の用語解説8参照)への無限投票疑惑が広まりました。山口氏襲撃事件の実行犯のひとりである笠井氏が持ち出した無限投票疑惑はAKSによる不正投票の実態を覆い隠したことなどから、笠井氏を含む厄介ファン(11〜12頁の用語解説9を参照)の集団(軍団と略称します)とAKSとの間にはNGTをめぐる不正投票システムについて共犯関係があるのではないかと疑われます。

軍団(12頁の用語解説10を参照)の成員が不正票の一部を行使できたかどうかにかかわらず、彼らは不正票を行使する主体と称して大量投票を餌にNGTメンバーに接近するようになり、彼らとの繋がりを容易に受け入れたメンバーがいることや、荻野由佳氏(12頁の用語解説11参照)と山口氏は軍団成員との繋がりを拒否したため襲われたということも、総選挙におけるNGTメンバーの票の変動や、軍団とメンバーの関係の変化から推測することができます(詳しくは、本件論説(2)の【ⅳ】2018年選抜総選挙を巡る軍団とNGTメンバーの動き(甲100紀要掲載版114〜140頁)を参照)。

また、『NGT48問題第三者委員会調査報告書』は、「握手会の場において、ごく一部のファンから、私的領域において他のメンバーがファンと接触していること、この接触が握手券の売上や、総選挙における投票数につながっていることなどを暗に伝えられ、自らと私的領域において接触を持てば、同様に有利な立場になり得ることをほのめかされるメンバーもいた。/しかしながら、本件事件以前に、これらの行為に対して出禁の措置がとられた事例は、本委員会が検討した資料においては確認できなかった。」(20〜21頁)としており、AKSは握手券の売り上げや総選挙の得票の見返りとして私的領域での接触を求めるというNGTファンの一部に見られる行動を黙認していたことがわかります[1]。

 

加害者が不正投票問題という弱味を握ってAKSと結託する中で、彼らがどんどん増長し、NGTメンバーの意に反して私的接触を無理やり求めるようになって、山口氏襲撃事件が起こりました。そのことは、2019年3月21日、襲撃事件に関するAKSの記者会見の前日、山口氏が登録しているファンに限定して配信されるモバイルメール(通称モバメ)で次のように書いたことからも読み取れます(実際に配信されたのは会見のあとでした)。

 

どうすればよかったんだろう。

どうしたらこんな目に遭わないで済んだのかな

2年前繋がろうと言われて断らなきゃよかったんでしょうか

他の人と一緒に繋がればこんな目に遭わないで済んだのかな[2]

(甲100紀要掲載版108頁に引用)

 

この文面から、2017年に山口氏は軍団成員から繋がろうと誘われ、他の人は繋がったが自分は断ったため襲撃されるに至ったという認識を、山口氏は持っていたことがわかります。

 

3、山口襲撃事件の客観的な意味の解明について、本件論説は何をしたのか

「2、山口氏襲撃事件はただの痴話喧嘩かそれとも社会的な意味を持つ事件か」で明らかにした山口氏襲撃事件の客観的解明において、本件論説は以下のような作業を行いました。

この事件の加害者の経歴を探っていき、加害者のNGTについて不正投票問題への関わりを追求する中で、次のことが明らかになりました。「不正投票をめぐり加害者とAKSとの間で結託する関係が築かれ、その中で増長した加害者によって、いつか、山口氏などNGTメンバーへの襲撃事件が発生することは必然的なことであった」ということです。

本件論説は、山口氏襲撃事件と不正投票との関連性の解明を目指したものです。このことを、本件論説の「はじめに」の末尾で、「このような不正投票システムの解明に基づいて、山口真帆事件とその後の展開について検討する」(甲3著者原稿版2頁、甲4紙印刷版73頁、甲100紀要掲載版75頁)と記しました。

 

その解明において最も重要だったのが、不正投票のやり方について虚偽の告発をし、山口氏を暴行した笠井氏でした。無限投票告発者と襲撃事件の暴行実行犯とが同一人物であるということをはじめとして、笠井氏を含む軍団成員の一部はリクアワや選抜総選挙の不正投票と山口氏襲撃事件のいずれにも深くかかわっているということは、本件論説がとりあげる問題の公共性の明確化やその目的である公益性実現のために欠くことのできない事実です。そして、山口氏襲撃事件はAKSという社会的責任を負うべき企業が不正投票システムを伴うリクアワや選抜総選挙を行っていたという重大な社会的意義をもつ事件と不可分に結びついた社会的事件なのです。

笠井氏や北川氏以外にも山口氏襲撃事件にかかわりが深い軍団成員が載っている、図8の画像については、甲3著者原稿版の37頁では実名に黒塗りを施しましたが、甲4紙印刷版の128頁や甲100紀要掲載版の130頁では思い直して実名の黒塗りをやめました。これは、彼は逮捕されなかったものの襲撃事件への関与度が高く[3]、同じ画像で笠井氏だけ実名を残すのは不公平だと判断したからです。この3人以外の軍団のメンバーは、実名が広く知られている人でもあだ名にとどめました(出典を明示しなければならない、引用参照文献のタイトルにある実名表記は除きます)。

 

このように、不正投票疑惑およびそれと深く結びついた山口氏襲撃事件という社会的に重要な事件について、公益目的とプライバシー保護とを慎重に比較衡量して総合的に判断しながら、本件論説は執筆されており、それをプライバシー侵害とすることはできません。

 

原判決は「経済学に関する学術誌である経済学論集が目的とする経済学研究の発展への寄与(本件投稿規定1項)に鑑みると、不正投票システムの解明に基づいて本件暴行事件とその後の展開について検討するとの本件論説の目的(甲4)を考慮しても、上記実名の記載や上記顔写真掲載についての必要性を認め難い」(34頁)としていますが、人々の行動を動機づける社会的枠組みである制度やシステムのあり方に応じて人々の動機や行動がどのような結果を生み出すか、ということを明らかにするのは、経済学の重要な課題の一つなので、経済学研究の発展への寄与を課題とした論文です。本件論説が示したように、NGT不正投票システムが厄介ファンによるNGTメンバーとの私的領域での繋がりを求めた行動を生み出し、襲撃事件の温床になるということは、完全競争市場が一定の条件のもとでパレート最適を生み出す[4]ということと、同類の経済学の成果なのです。このように、人々の厚生(幸福や不幸)の原因を解明する経済学研究において、とくに重要な登場人物については、その動機や行動を明らかにし、社会的な責任を明確にするために顔写真や実名を論文に掲載することは許されます。

 

4、山口氏襲撃事件を矮小化する社会的偏見

山口氏襲撃事件をそれだけで取り出して、単なる芸能スキャンダルとみてその社会的重要性を軽視し、そのような話題を取り上げるのは週刊誌のゴシップ記事レベルのもので、学術論文としては認め難いというような偏見が、原判決には見え隠れしているのではないでしょうか?そのような偏見は、日本社会に深く浸透しており、社会的地位が高い人ほど偏見も強い傾向があるという問題があるようです。

このことを典型的に示し、真摯な反省を促すきっかけとなった事件として、山口氏襲撃事件を評価することもできます。まず、襲撃事件を山口氏が自らカミングアウトして告発したことを劇場公演で山口氏自身が謝罪したと報道されると、被害者を謝罪させるとは何事かという非難がまずSNSで巻き起こりました(甲100、188〜191頁)。さらに、AKSが『第三者調査委員会報告書』をふまえて記者会見を開いた際、山口氏はリアルタイムで批判や告発のツイートをしましたが、そのひとつにおいて、

 

山口真帆@maho_yamaguchi3/22 14:13

記者会見に出席している3人は、
事件が起きてから、保護者説明会、スポンサー、メディア、県と市に、
私や警察に事実関係を確認もせずに、
私の思い込みのように虚偽の説明をしていました。

(甲100、222頁)

 

と告発しました。新潟県の開示文書によれば、AKSは平成31年1月22日(火)に県広報広聴課に来課して「山口本人がマンションで犯人に声をかけられ、驚いて大きな声を出した。頭を捕まれてどうのこうのではなかった」と警察の捜査や『NGT48問題第三者委員会調査報告書』で認められている暴行の事実を否定する虚偽説明を行っていたことが明らかになって、山口氏のこの告発は正しかったことが証明され、このこともSNSで拡散周知されました(甲100、222〜3頁)。

 

それにもかかわらず、被告会社との民事訴訟で笠井氏ら被告側は「頭を捕まれてどうのこうのではなかった」という被告会社に同調するという法廷戦略を採用して、事件に注目している第三者の弁護士が以下のようにコメントするような和解が帰結しました。

 

和解内容についての説明を聞くと、一連の騒動の原因は、あたかも「つながり」のあったファンとのドアの引っ張りあいという事実に山口氏が過剰反応したことにあるとでも言いたいような印象を受けます。私の感覚では、本人不在のところで、このような合意を形成し、それを外部に吹聴することに違和感を持つ人は、少なくないのではないかと思います[5]。

 

「本人不在のところで、このような合意を形成し、それを外部に吹聴すること」は、この和解に至る裁判が第三者である山口氏を貶め、暴行といわれているものの実態は笠井氏と山口氏のちょっとした痴話喧嘩にすぎないと言いくるめようとする被告会社の宣伝に笠井氏と北川氏が加勢したということを意味しています。

そのような裁判で、事件の社会的重要性を否定してちょっとした芸能ゴシップに矮小化しようという被告会社の方針に両氏が同調しているという事情を裁判官が認識していたなら、被告の笠井氏と北川氏が顔写真と実名を非公開にしたいと求めてもそれを認めず、社会的重要性に鑑みて公開するという判断を下し、山口氏の名誉に配慮した審理を進めることができたのではないでしょうか?

というのは、11〜12頁の用語解説9で紹介したように、厄介ファンのなかには「『悪いことをしてでも目立ちたい、認知されたい』という歪んだ願望が行動原理になっている者も少なくない」「悪質な者だと演者にセクハラや暴言を浴びせたり、他の客に怪我をさせるものもおり、もはや犯罪の域に達する者さえいる」ので、彼らが実名や顔写真を裁判書類において公開したならば、彼らがそのような、悪目立ちを好み犯罪も辞さない悪質な厄介ファンだということの証拠の一つになってしまい、痴話喧嘩だと言い逃れできなくなりかねないからです。実際、彼らは山口氏襲撃事件が明るみになった直後からAKSとの裁判の最中や直後に至るまでの間、一貫して自分たちの実名や顔写真がインターネットなどで拡散するのを容認したばかりか、自らカミングアウトすらしていました(甲77原告陳述書(5)、2)。したがって、彼らの意思としては裁判書類においても実名や顔写真を公開したかったに違いありません。しかし、おそらく彼らの代理人弁護士が、裁判官や裁判書類を見た人に彼らが悪質な厄介ファンであると見抜かれることを危惧し、せめて裁判書類ではそのような悪目立ちは控えるよう説得したものと思われます。

彼らの顔写真にモザイクをかけ実名を伏せるという裁判官の決定は、それによって山口氏襲撃事件とされるものは単なる痴話喧嘩だという原告被告双方の誤った主張を支持・補強・オーソライズすることになってしまいました。

若いアイドルやアイドル志願者に対する性加害事件の社会的重要性を否定し、興味本位の週刊誌ネタに貶め、まともなマスコミはそんなものには見向きもしないとするような風潮が、日本の芸能界やマスコミのエリートたちの間に蔓延し、ジャニーズの創業者にして元社長であるジャニー喜多川氏が長期にわたって膨大な数の被害者を生み出してきたという大事件が放置されてきたと、BBCが報道し[6]、広く知られるに至りました。

『週刊文春』が報じたジャニー氏の性加害が事実であると高裁が認定し、2004年に最高裁が上告を棄却して確定しても、大手マスコミの大多数はそのことを報道せず、報道したところも深入りしませんでした。そうなった理由として、人気アイドルを多数かかえる金蔓であるジャニーズのさまざまな圧力やジャニーズに対する忖度と並んで、自社のニュース報道の対象となるような話題にふさわしくない芸能ネタにすぎないという評価があったと指摘されています。2023年10月7日のTBS『報道特集』で、当時の社会部デスクは、ジャニーズに対する忖度はなかったが、「率直に振り返って、20年前はいまと社会の意識が大きく違っていて、本来はその状況に異論を唱えるべきだった社会部も男性の性被害に対する意識が低く、また週刊誌の芸能ネタと位置づけてしまったことが反省点だと考えている[7]」と語っています。

日本のアイドルに対する性加害という犯罪を、重要な社会問題としてとらえることを避け、週刊誌ネタとして軽視することなく、アイドルの人権を重視すべきことは、より広く、立場の弱い人たちの性被害に正当な光を当てるという、今日の日本社会にとって重要な課題ともつながり、山口氏襲撃事件はジャニーズ性加害事件とならんでそのことを社会に訴えかける重大事件でもあります。

 

5、まとめ

不正投票システムとの不可分な結びつきと、性加害に対する社会の偏見の克服という二つの社会的に重要な意義を、山口氏襲撃事件は持っています。このことを明らかにしたものが本件論説です。

 

6、山口氏襲撃事件の加害者自身の態度、振る舞い

実名・顔写真の掲載が許されるか否かは「総合判断」によることになり、その第一の要素として、以上で「山口襲撃事件の社会的な意味」を明らかにしました。さらに、第二の要素として、実名・顔写真を掲載した山口氏襲撃事件の加害者自身の態度、振る舞いを挙げることができますので、最後にこれについて立ち入って見ておきます。

この点、山口襲撃事件では本人たちが事件直後から実名・顔写真がネットで公開されるのを容認したばかりかカミングアウトし、プライバシーを放棄していたことを、私はすでに甲77原告陳述書(5)9~13頁で述べました、実名と顔写真が裁判書類で非公開とされていた被告会社との民事訴訟の最中やその直後においてすら、彼らの実際の行動はプライバシーを放棄して目立つことを求めるものだったことは非常に重要なので、それについて記した部分を引用しておきます。

 

裁判の最中[8]である2019年11月に笠井氏は友人のShowroomアカウントで事件について語り、そのなかで、友人は笠井氏と北川氏の実名を挙げて笠井氏に質問し、笠井氏は実名を挙げられても咎めず、容認していました(「NGT暴行事件 被告甲のSHOWROOM配信内容(笠井宏明被告の主な主張 3-4日深夜配信)」『北のりゆき☭鉄砲先輩のブログと小説』2019年11月04日(月) 20時46分26秒、https://ameblo.jp/yuugeki-internet/entry-12542323785.html )。

 さらに、北川氏はその裁判で和解が成立した2020年4月8日の直後に公開されたYouTubeの動画で「……きたがわじょうことじょえアットです。視聴者のみなさんは……あなたたちは結局僕には勝てません」と語っていました(「【NGT48暴行事件】AKSが和解した山口真帆を襲った犯人「北川丈」の本性②」『Crocodile ANGELS チャンネル』2020.4.11公開、https://youtu.be/3VeRTpeuqUc、0:16〜0:40)。ここで、北川氏はの個人情報拡散を黙認するにとどまらず、笠井氏と同様、自らカミングアウトしました。

(甲77、12〜13頁、下から2行目の「の」は誤入力です)

 

原告準備書面(6)第3では「本論説の表現が暴行事件の加害者に対するプライバシーを侵害しないこと及び名誉毀損にも該当しないことは甲77原告陳述書(5)9~13頁で詳述した通りである。」と、甲77の上記引用部分にも言及しながら主張しました。原判決はこの主張を無視し、被告会社と暴行被疑者2名の民事裁判において彼らの顔写真や実名が伏せられていたことを重視しました。しかし、彼らの顔写真や実名を公開しないという、その裁判における裁判官の決定は、彼らと被告会社が山口氏の名誉を傷つけることに加担したという問題があったことは、本陳述書「4、山口氏襲撃事件を矮小化する社会的偏見」で論じた通りです。

 

なお、念のために付言しますが、原告は第一審においてすでに本件論説がプライバシー侵害にあたらないことを主張済みです(原告準備書面(6)第3、原告準備書面(7)3の1〜5、被告大学準備書面(8)第2に対する反論は準備書面(10)第4、1(18頁))。

 

また、ひょっとして、私の振る舞いについて、かつて、調査委員会からプライバシー侵害に関する質問があった際には、私は回答を拒否しておきながら、今、この陳述書でプライバシー侵害に関する主張を論ずるのは首尾一貫しないきらいがあると思う人がいるかもしれないので、ひと言、付言します。

調査委員会からの質問への回答を拒否した実情は以下の通りです。調査委員会からの質問書への回答拒否の理由について「その質問内容は、被告会社と私との間で対立している、名誉毀損か学問の自由かという点とは全く関係ないものばかりでした。」(甲1原告陳述書16頁)と述べたように、甲15本件通知書がとりあげた名誉毀損①〜④以外のことを調査するのはクレーム対応の逸脱濫用(原告準備書面(5)第3の2、8〜9頁)だからです。

具体的には、調査報告書が回答を得られなかったため、調査において確認できていないとしたもの7点(乙4、2〜3頁)のうち、④は、AKBグループ(11頁の用語解説5参照)の選抜総選挙への私の出費やアイドル(メンバー)との個人的な関係の有無など、私自身のプライバシーにかかわるものですし、甲15通知書と無関係な利益相反の有無を問題にしようとしているのではないかと疑われます。⑤〜⑦は、「本件論説に記載されていないもの」であり、記載しなかったことによって研究倫理違反など名誉毀損以外の瑕疵を認定しようと目論んでいる(たとえば、記載しなかった典拠を挙げれば剽窃を認定する)のではないかと疑う余地があります。これらにより、調査委員会からの質問の多くは明らかにクレーム対応の逸脱濫用であると判断しました。

プライバシー侵害にはあたらないとする理由説明は附属図書館とのメールのやりとり(甲124原告陳述書(10)別紙1、別紙2)で挙げたものに付け加えることはなく、それらは調査委員会も入手したうえで質問してきましたので、それに不用意に回答すると、どんな難癖をつけて本件論説登録削除の理由とするか予想もつかないと警戒しました。

なお、原判決は、「原告は、同月12日、沼田委員長に対し、『ことの本質は、稲垣副学長が学問の自由や表現の自由という憲法で保障された私の権利を、学内の権力構造を利用して侵害している(リポジトリ公開が差し止められ、学問の自由のうち研究発表の自由と教育の自由が侵害されているなど)ということだと私は理解しておりますので、回答するのは間違っていると判断いたします。』などと述べて回答を拒否した(認定事実(4))。原告は、上記実名表記や顔写真掲載を含め本件論説の内容に問題があったことを一切認めない意向を明らかにしたものといえる。」(34〜5頁)とし、顔写真掲載がプライバシー侵害ではないとする理由を調査委員会に伝えることを怠ったと理解しているようですが、以上の実情を私が述べる機会を設けないまま、そのように断定することも、プライバシー侵害か否かを巡って第一審が審理の不備を伴う不当な判決を下したことを示しています。

 

付録 用語解説

1、山口真帆氏襲撃事件とは何か。

2018年12月8日、株式会社AKSが運営するアイドルグループNGT48(「NGT」と略称されることが多い)のメンバーである山口真帆氏が、新潟市内においてNGTのファンである男性2名から暴行を受けたとして新潟県警察に対し被害届を提出した。これを受け、同月9日、被疑者である男性2名が新潟県警察に逮捕された(なお、被疑者2名は、同月28日にいずれも不起訴処分となっている。)(株式会社AKS第三者委員会『調査報告書』、一部表現を改めて引用)

 

2、被告大学のリポジトリとは何か。

被告大学が運営する学術コンテンツデータベースのことであり、つくばリポジトリと称する。「研究機関の研究・教育成果(学術論文・学位論文・研究報告書・教材など)を永続的に蓄積、保存し、インターネットを通じて誰でも無料にアクセスできるように公開する」データベースで、被告大学に所属する「学内の研究者であれば誰でもコンテンツ(原告注:上記の「研究・教育成果」)を登録することができます」(甲6)。(訴状2頁、一部表現を改めて引用)

 

3、AKSとは何か。

東京都千代田区に本社を置く芸能プロダクションで、もともと2006年、女性アイドルグループAKB48のマネジメント業務を行うために設立された。2019年、同社所属のアイドルの暴行事件をめぐる騒動が広がり、同年7月、代表取締役自らが「グループの運営・管理において、ガバナンスが欠如していたことを深く反省し、運営・管理体制の改善に着手」する旨を公式ページで表明し(甲9日刊スポーツ記事参照)、2020年4月、社名を株式会社AKSから株式会社Vernalossomに変更した。業務内容は芸能プロダクションの経営ほか、音楽・映像ソフトの企画・制作・製造・販売、音楽出版、映画の企画・制作、アイドルグッズの販売などであるが、上記社名変更と同時にAKB48など国内アイドルグループの運営から撤退した。(訴状4頁)

 

4、不正投票システムとは何か。

公開されている投票ルールに従って正規の投票権利が行使されたときに生ずるはずの投票結果とは異なる結果を系統的に生み出すよう、投票を管理する立場の者が意図的に仕組んだシステムである。

 

5、AKBグループとは何か。

AKB48、NGT48など、秋元康氏がプロデュースし、アルファベット大文字3字+48の名称を持つアイドルグループの総称である。

 

6、リクアワ(楽曲版総選挙)とは何か。

AKBグループ(11頁の用語解説5を参照)において、楽曲の人気投票とその結果を発表するイベントで、結果発表は毎年1月に行われた。

 

7、選抜総選挙とは何か。

AKBグループ(11頁の用語解説5を参照)に所属するメンバーの人気投票であり、上位16名が総選挙後に発売されるシングルの選抜メンバーとなった。

 

8、NGTメンバーとは何か。

株式会社AKSが運営するアイドルグループNGT48のメンバーであり、山口氏もその一人だった。

 

9、厄介ファンとは何か。

単に「厄介」とも呼ばれ、アイドルのライブ会場や握手会などでマナーが著しく悪い者を指す。

アイドルファンの間から発生した用語で、やがて声優ファンにも広まりつつある。

単に「マナーを知らない」のではなく、「悪いことをしてでも目立ちたい、認知されたい」という歪んだ願望が行動原理になっている者も少なくない。

静かに聞くべき場所でわざと騒がしいヲタ芸[9]をしたり、ルール違反の形状をしたサイリウムを持ち込んだり、ステージの上の演者より目立とうとしたりする。

悪質な者だと演者にセクハラや暴言を浴びせたり、他の客に怪我をさせるものもおり、もはや犯罪の域に達する者さえいる。

(「厄介」『ピクシブ百科事典』 https://dic.pixiv.net/a/厄介 、一部表現を改めて引用)

 

10、軍団とは何か。

本件論説において、山口氏襲撃事件を起こした者たちが所属する厄介ファンの集団を、通称に従って軍団と呼んだ。

 

11、荻野由佳とは何者か。

NGTのメンバーであり、2007年と2008年における選抜総選挙で、途中経過の速報において実際の人気に見合わない圧倒的多数の票を獲得して1位となった。それらの速報において他のNGTメンバーにも実際の人気に見合わないような多数の得票と高い順位を獲得した者が複数いたため、その背後に不正投票システムがあるのではないかという疑惑を多くのファンが抱くに至った。山口氏も2018年選抜総選挙速報において実際の人気に見合わない得票と順位を得ていた。荻野氏も山口氏も、厄介ファンに襲撃された(荻野氏については甲100、115〜9頁)が、それは、得票や順位の見返りとして繋がるよう誘われた際、拒んだためだろうと、山口氏は考えていたと思われる(本陳述書4頁に山口氏のモバメを引用)。

 


[1] 株式会社AKS第三者調査委員会『調査報告書』(2019年3月18日https://ngt48.jp/news/detail/100003226、このURLのページ冒頭には『NGT48問題第三者委員会調査報告書』とあるので本文中ではこれに従う)。

[2] 「NGT48山口真帆『2年前繋がろうと言われて』『生きてるのがつらい』と悲痛」『WEZZY』2019.03.26、https://wezz-y.com/archives/64588

[3] 株式会社AKS第三者調査委員会『調査報告書』において、笠井氏は甲、北川氏は乙、彼は丙と表記され、「山口氏は自ら経験した事実ではないが、後日、捜査機関などから聞いた事実として、①「Aが、降車後に、丙から、『まほほん(山口氏の愛称:原告による注記)、あの車両に乗ってる?』と声をかけられ、『乗ってるよ。』と答え、丙は、さらに『Eも乗ってる?』と聞き、Aは『乗ってないよ。』と答え、その後、丙は、Aから聞いた内容などを被疑者らに伝えた」という事実……を述べている。」(4頁、AとEはNGTメンバー、被疑者らは笠井氏と北川氏)としています。つまり、丙は、山口氏はメンバーを送迎するバスからふだんは一緒に降りて同じマンションに帰宅するEを、事件当日は伴わず、まもなくそのバスを降車して一人で帰宅する、ということを笠井氏、北川氏に伝えたのであり、山口氏が一人で帰宅するときに襲撃計画を実行するという計画があって丙も共犯ではないかと疑われます。

[4] 厚生経済学の第一基本定理と呼ばれ、ミクロ経済学のどの教科書にも載っていますが、出典は、K.J.Arrow,"An Extension of the Basic Theorems of Classical Welfare Economics," Proceedings of the Second Berkeley Symposium, Berkeley: University of California Press, 1951, G. Debreu, "The Coefficient of Resource Utilization," Econometrica, Vol.19, Issue 3, 1951, G. Debreu, "Valuation Equilibrium and Pareto Optimum", Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 40, No.7, 1954です。

[5] 「和解内容の評価(NGT裁判)」『弁護士 師子角允彬のブログ』2020-04-08、https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2020/04/08/205019

[6] 『BBCドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」【日本語字幕つき】』2023/06/17、https://youtu.be/zaTV5D3kvqE?si=BzkVoZGOyFOpSoMq(2023年3月18日放送)。

[7] 水島宏明「『個室で下着を脱がされ…』NHK局内でもジャニー喜多川氏の性加害疑惑 問われる“性加害にテレビ局はどう関わったか” #2」『文春オンライン』2023/10/30、https://bunshun.jp/articles/-/66522?page=3 より引用。

[8] 第一回口頭弁論は2019年7月10日(「被告の男性ファン、棄却求める NGT暴行の損賠訴訟」『朝日新聞デジタル』2019年7月10日 19時43分、https://digital.asahi.com/articles/ASM7B51Q7M7BUOHB00F.html )、 和解は2020年4月8日 (「NGT48民事裁判が和解 真実解明 早期再開は… 新潟」『産経新聞ウェブサイト』2020/4/14 06:00、https://www.sankei.com/article/20200414-UGUDEUND3BKIBD6B5S6Q2JTMDA/ )でした(左記の注は、甲77にはなく、今回私がつけました)。

 

[9] 「アイドルや、アニメ、声優のライブイベントなどで行われる応援の方法で、頭上で手拍子をしながらその場で回転する“マワリ”や、斜め上を指差し腕を引く“ロマンス”などがある。ステージを見ずに自己陶酔的にオタ芸に専念するファンも多く、熱心な応援なのか? 陶酔なのか? の狭間で議論が分かれている。」(榊原ゆいがファンに「オタ芸は禁止」『ORICON NEWS』2008-05-21 17:00、https://www.oricon.co.jp/news/54773/full/ )