筑波大学ソーシャルメディア利用ガイドライン改正は言論弾圧の強化(赤字部分加筆) | 平山朝治のブログ

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筑波大学ソーシャルメディア利用ガイドラインが2023年2月16日に改正され、3月1日から実施されました(→こちら)。

 

改正および実施の周知は、人文社会系においてはすでに実施されたあとの3月6日であり、情報基盤課の説明には「ソーシャルメディア(SNS)の利用にあたって、モラルに起因したトラブルが発生していることを受け、意識の向上を図り安全かつ適切にSNSを利用できるように一部改正したものです。」とありましたが、大学がガイドラインと言いながら罰則を定めたルールでモラルの問題を取り扱うことは自由な民主主義国家の健全な社会常識からみて非常に危険であり、表現の自由や学問の自由に抵触する恐れが非常に高いと私は思いました。

 

周知された情報ではどこがどう変わったのかわからないため、旧ガイドライン(→こちら)と改正点を問い合わせました。

 

改正されたのは

・第1項

・第4項第(7)号

・第6項第(2)号(新規)

とのことでした。それらについて、削除された部分に取り消し線、新たに付け加えられた部分に下線をつけて引用します。

 

1 この決定は、国立大学法人筑波大学(以下「本学」という。)の教職員(名誉教授を含む。)及び学生(児童及び生徒を含む。)(以下「本学の構成員」という。)が、社会の一員であるとの認識のもと、健全な社会常識から逸脱した言動をとることがないよう留意するとともに、本学の構成員であることの自覚と責任を持ち、ソーシャルメディアの適正な利用に資するため、必要な事項を定めることを目的とする。

 

4 ソーシャルメディアの利用に当たっては、次に掲げる事項を遵守しなければならない。

 (7) 情報の発信の心得 (ア〜エ、カ、キは省略)

オ 私的に情報の発信を行う場合であっても、常に本学の構成員であるという自覚と責任を認識するし、社会の一員として良識ある行動をとること。

 

6 前各項に規定するもののほか、ソーシャルメディアを利用するに当たっては、次に掲げる事項について確認すること。

(1) ソーシャルメディアの不適切な利用により、本学の名誉若しくは信用を傷つけた場合又は法令、本学の法人規則等に抵触したときは、処分等の対象となること。

(2) 前号の処分の対象となった場合は、本学の求めにより、発信した情報を修正又は削除すること。

(3) 本学の構成員がソーシャルメディアを私的に利用したことにより、第三者が被った損害及び逸失利益について、本学は補償しないこと。 

 

自由で民主的な社会の一員としての健全な社会常識や良識のなかには、大学の罰則つきルールがモラルの問題を扱うべきではないということが含まれるというのが私の理解ですが、まさにそれに反することを健全な社会常識や良識として定めたものが、新しいガイドラインです。

 

すでに

で論じたように、このガイドラインが制定されてから、SNS利用に関する情報統制が厳しくなり、教員は戦々恐々としているとも報道され、

は、「ツイッターやフェイスブックなどのSNSを対象にしたガイドラインだが、教員らは『発言自体も危ない』と疑心暗鬼になっていた。ツイッターに鍵を付けたり、アカウントを削除した教員もいる。大学側の管理強化で、確実に教職員が萎縮しているという。」と報道しています(有料記事部分ですが引用なので合法と思います)。

 

その後、筑波大学の教員2名が、「筑波大学ソーシャルメディア利用ガイドライン」が学長選における対立候補弾圧や名誉教授選考に利用されたのではないかという例を挙げて、このガイドラインによる表現の自由侵害を抑止するため、加入した労働組合を通して団交を要求したところ、学長名で拒否されました。これは不当労働行為に当たり、労働組合法違反とのことです(筑波大学の学長選考を考える会ホームページ)。

 

表現の自由侵害を伴う学長選への介入、名誉教授選考(被害を蒙った方は、学長選で学内教職員の圧倒的多数の支持を受けた候補だった方です)、不当労働行為と、大学の違憲・違法・不法な言論統制を巡るトラブルが私の論文のリポジトリ削除事件の他にも表沙汰になってきました。

 

これらに関して詳しく論った団交要求書全文も公表されています。そのなかに学長選対立候補に対する弾圧の詳しい説明があります。

 

今回の改正は、このような批判を受け入れて改正したものではなく、それどころか情報統制の理由として「モラル」を持ち出してきたのですから、何が「健全な社会常識」や「良識」であるのかを判断するのは、個々の教職員の自由に委ねられるわけではなく、大学執行部や学長の意向に従って判断されることになってしまう危険が非常に大きいと思われます。

 

私の裁判に関して言えば、論文をリポジトリから削除した理由として、名誉毀損やプライバシー侵害が認められない場合に備えて、削除を正当化する学内規則を整えるために改正したのではないかとも疑われます。今後もしそのような内容の準備書面が大学によって提出されれば、それは訴求処罰の禁止という近代法の大原則(日本では憲法39条)に悖ることになります。

 

さらに不可解なのは、6の(2)で、本学の処分の対象となったものは、本学の求めによって発信した情報の修正や削除がされるとしていることです。大学が名誉毀損などを理由にプロバイダに修正や削除を求めることはありえますが、強制することはできません。いわゆるプロバイダ責任制限法第3条第1項によって、「情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」または「情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」を除いて、求めに応じなくても免責されるからです。したがって、6の(2)は、大学の決定はプロバイダ責任制限法よりも上位にあり、プロバイダに強制可能であるという、誤ったことを主張していることになります。

 

 

 

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