スロットカーには操舵可能なステアリング装置はない。
R/Cカーはサーボでハンドル切って実車みたいな動きをするが、スロットカーはその名の如く各レーンのスロットをトレースするガイドシューで走行ラインが規制されている。
(60年代当時、COXや山田模型など、アッカーマン装置もいくつか存在したが操安性は良くない)
COXはガイドと一体構造のプラ製。オプションとして問題なく取付でき、
スピードUPには約立たないがちゃんとステアを切ってマトモに走る。
COXより古い(64年頃?)宮沢模型のシャーシはコイルスプリングによるサス付、
唯、ガイド取付には補助ステー自作や加工要するので万人向けキットと言えない出来。
..60sならではの夢や理想とメーカーの建前と現実の苦悩が感じられる。
スリップアングルもガイドシュー支点と両後輪の3点で決まるから実車の常識や理論は(小さいフロントに巨大なリヤタイヤの70年代F1的ではあるが)マンマ通じることはない。
スケールスピードも 1/24サイズの場合900Km/h以上(当然32クラス換算はもっと速くなるだろう)となり、コーナーリングの遠心力に耐えるのは即ち、もっぱら後輪の仕事。
今回はリヤタイヤについて過去を振り返りながら考えたい。
<スポンジタイヤ>
黎明期のタイヤはソリッドゴム製、模型メーカーはダンロップ等に発注されていた。
比較的評判が良かったのはニチモ(日本模型)製ゴムタイヤ。
一時、ソフトコンパウンドに変えたらグリップはむしろ低下、マニア達は初期バージョンを求めることになった。
また、後発のクライマックスが最初に出したキットカーは、他社製品に比べ倍以上の肉厚ジュラルミンに大きな軽め穴をあけた高剛性のフレームにJISクリアのボールベアリング採用、価格も舶来モノに負けない高級志向だった。
だが、パッケージに入っていたタイヤはテストで走りやすいとされたミディアム(オプションでソフトとハードも用意していると説明書きにあったが)コンパウンドのタイヤ。
当時のウッドコースと柔目のゴムは相性が良くなかったのかも知れないが、そんな頃、エポックメイキングなスポンジタイヤが登場!
初期に最も好まれたのは、低密度で軽く頼りない印象だった64年創業の入沢商店製。
だが表面の浅いリブパターンが消えかかる頃のコーナーリングは最高。
荒川は町屋(創業は入船町)で戦前からの玩具メーカー、緑商会は早くから高性能のパイプシャーシを出し(自分も叔父の1/24愛車アルファロメオを走らせていた)人気があった。
その緑商会が、わざわざ他社製スポンジタイヤを自社のパッケージキットに入れたのだから、社長自身がマニアだったか器の大きい方だったのか、いずれにしてもスポンジタイヤのパフォーマンスに感銘を受けたに違いない。
↑ パッケージの説明に”ISSスポンジタイヤ入”とあるようにイリサワ製が採用されていた
そんな事もあって、65年ベストセラーとなったタミヤ製ロータス30/フォードGTスパイダーのダイキャスト製インラインシャーシも自社製スポンジタイヤが採用され、また同年後半から爆発的に流行ったA型シャーシのキットカーにも引き継がれた。
<タイヤにオイル !?>
大手メーカー、タミヤやハセガワ等は、イリサワタイヤよりしっかり固めのスポンジタイヤだったが、メンテナンスでトレッド表面の粘着性が増し極めてコントローラブルな操安性を提供してくれた。
そのメンテナンスとはオイルをしみ込ませる事だった。
乾いたタイヤではスリップしてしまうので、タイヤ表面を活性化させようと当時は思い思いにいろんな工夫がトライされた。
(突然思い出したが、同じ学校のフジイ君が使っていた)薄めた洗剤やシンナー(ラッカー系でなく乾きの遅いエナメル用?)等も使われたが、ポピュラーだったのは鉱物油。
スポンジタイヤにオイルをしみ込ませるのはスロットカーの常識となって、乾いた状態ではマトモに走らない、とさえ言えるのは今でも同じ。
”実車の常識は通じない”と記したが、先日レストアした長谷川製作所のフェラーリも新しいタイヤなのに、フリー走行で全然タイムが出せなかった。
理由は(コースを汚してしまう)グリップオイルが禁止だったからに他ならないが、シリコン種目終了後、油を得たスポンジタイヤは、正に水を得た魚。
<シリコンタイヤ>
60年代後半、AYK(青柳金属工業)から ”シリコンタイヤ”が発売された。
↑ モデルスピードライフ誌67年3月号の広告
リゲンやCOX等に端を発したシリコンタイヤをAYKでも製造開始
米国での流行を機に、国内発売でもシリコンタイヤは期待された。
(ニチモ等の家庭用)プラコースでは丁度良いグリップで、下手なスポンジより速く走れたので友人にシリコンタイヤ売ってる店に連れてってくれと頼まれた事もあった。
(六本木の藤川模型店は、店主が子供に親身なオヤジさんだったが、ずっとオヤジさんは勘違いし ”ナイロンタイヤ”と呼んでいた..懐かしい思い出だ)
↑ 当時モノだが、未だそこそこグリップするシリコンタイヤ
下段左2セットがAYK製、右2セットは米国AJS製の表と裏側
いずれもホイルにゴムを焼嵌めて作られてるので振れがない。
元々スポンジタイヤはメンテが面倒なだけでなく消費期限が短かく、一度乾くとグリップが落ちるし、数日間 車体を(ひっくり返さないで)机等に置いておくとタイヤ接地部がツブれて元に戻らなくなる。
一方、しっかりした硬質のシリコンタイヤは、はるかに丈夫。
その辺に置いといても変形なんてしないし、何のお手入れしないでもガサガサ肌になることもない。
”品質保持期限”が長く、メンテナンスフリーと言っても良いくらいだろう。
普通のゴムの塊タイヤをミルクに喩えて言えば、よくある低コスト屋根型紙パックのチルド品HTST(高温短時間殺菌)と言ったところ。
スポンジタイヤは、軽やかで風味もコクもあって美味しいが、要冷蔵で数日間しかもたない低温殺菌牛乳。
そして シリコンタイヤは、味わいは負けても常温で長期間保存でき変質劣化しにくいLL(₌ロングライフ)牛乳みたいなもの。
実際、60s当時のスポンジタイヤはサンデーレースで2~3回持てばいい方で、乾燥が良くないならそれを防ごうと、子供の浅知恵でサランラップでタイヤを巻いといたら変質して使い物にならなくなってしまった。
そんな、速いけど手間のかかるスポンジタイヤ、ある時マニアの口コミでビニール袋に入れとくと良いと知り、多少はもたせる事が出来るようになった。
だが、70年代スポンジタイヤの寿命は より短命に。
というのもタイヤカラーが、グレー、ブルー、グリーン、レッド、オレンジ、イエローと変わるごとにソフトコンパウンドとなり(70年代中頃、柔すぎで劣化しやすいイエローから多少の耐久性あるオレンジに戻った)、1レースで車高が変わってしまうほど摩耗もひどかったからだ。
一方、60年代後半レースにも使う方もおられた国産シリコンタイヤだが、過激なスポンジタイヤが席巻した70年代には消えてしまった。
絶対的なグリップではスポンジに敵わない事と、そのスポンジタイヤに使われるオイルが営業サーキットの路面にびっしり付着しているから、ワンメイクレースのようにシリコン限定にでもしないと性能発揮できないのだ。
詳細は ”サイドワインダーⅡ”の記述をご参照されたい ...
現代のスポンジタイヤ ”ブラックマジック”は耐摩耗性も 70年代ほどひどくはない、
が、バンプロジェクトが廃業された今、スポンジタイヤは輸入品に頼る(某社で造る噂もある)しかない。
限界性能だけが楽しみではないビンテージスロットには、もっとシリコンタイヤが見直されてもいいとはずだ。
”ガレージハウスくげぬま”の鳥居さんもそんな思いでシリコンタイヤの輸入を始められたのだろうし、性能追及一辺倒でないプライベートサーキットなどでは、シリコンタイヤ指定のケースも多い。
(後方、山田模型のT型フォードのツヤあるタイヤは鵠沼のシリコン製)
手前は当時モノ、COX製のゴムタイヤ。多少劣化あるが未だグリップする。
シリコンに比べゴムタイヤの劣化は顕著だが、保管状態が良ければ何とか走れる。
25年前も一時ゴムタイヤがマーケットに復活、当時の銘柄はダウンアンダー(だったかな?)、そこそこグリップするので、ビンテージスロットに具合良かった。
当時のオーストラリア出張時、スロットカーを扱うおもちゃ屋さんを見つけた。
それも日本のミドリ製パイプシャーシやビンテージパーツも発見.. 古い骨董品が残っているだけでなく、それに対応する消耗品材もあったりするから、欧米出張の度に街の玩具屋を巡るのは楽しかった
<悲劇のライバル>
”サイドワインダーⅡ”でも触れたが、スポンジ即ち発砲ゴムは乾燥し易く、(実車では考えられない事でも)オイルを塗り込んで油分が馴染むことで柔軟性を保ち粘着性を発揮する。
一方、シリコンゴム(及びウレタン系)はオイル不用、と云うより油分を嫌う。
従って、適正なコースコンディションも正反対、両者は矛盾した相容れない存在とも云える位だが、それはスポンジタイヤから染み出たオイルを拾ってシリコンタイヤが滑るだけではない。
長時間シリコン軍団がコースを走っていると、殆ど摩耗しないシリコンタイヤは、消しゴムでコース清掃したかのような、ある意味、攻撃性を発揮する。
以前、神戸ミントホビーJN氏も指摘されていた事だが、混走するとスポンジタイヤの方もラップタイムが下がってしまうのだ。
<シリコンタイヤのメンテナンス>
もし、タイヤ表面に油膜やカスがついてしまったら、 タイヤをクリーンUPするとグリップが復活する。
何よりシリコンタイヤはキレイ好き、ドライなコンディションが必要なのだ。
<バイクタイヤのメンテナンス>
バイクにしろ四輪にしろ、スロットカーのスポンジタイヤみたいにオイルを塗るヤツは先ずいないだろう。
また新品タイヤは表面に保護ワックスみたいな剥離剤が残っているから注意やナラシが必要なこともご同慶の至り。
特に車体をバンクさせて曲がるバイクにとってタイヤサイドの油分は危険、友人のKWMT君はタイヤ交換直後にハイサイドを喰らってひどい目にあったと宣う。
だが、自分も交換後、最低100キロは気を付けるべきトコロをその半分の距離ながら未だ朝露残る高速のインターでスピンさせてしまった。
プロテクタージャケットを着ていたのに初の骨折を経験してしまったから笑えない。
だから、ワインディングを走る前にはタイヤサイドにペーパーをかけるオマジナイをするようになった。(ひと皮剥けばグリップが良くなるのはスロットカーでも同じ)
トゥルーイング/サンディングせず安易に、例えばパーツクリーナーやシンナー等の溶剤は?とも思うが、タイヤメーカーは溶剤系を使わないようアナウンスしている。
だが、以前はタイヤ接地面用のスプレーが販売されていた。
<Mr.Gripman>
ミスタ― グリップマン、昔からのバイク乗りなら耳にしたこと位はあるだろう。
現在既に生産販売終了となっているが、約十数年前CAGIVAに乗っていた頃、何度か使っていた。
話は少し逸れるがCAGIVAはラプトール、
某タイヤメーカーのテストライダー和歌山氏に”狙った通りに旋廻させることができ、設置感も的確に伝わって..”と言わしめ、
”ワインディングをここまで速く走るマシンがあるのかと思ってしまうほど/元GPライダー八代氏”、
”これは文句なくワインディングの勝利者/高橋矩彦” etc.
率直に言えば、ゆっくりは走れない(かなりギクシャクする..ハンパなスタートするとウィリー直後にエンストした事もあった)キャラクターだった。
デチューンしたはずの当時最速ツインTLR/Sベースゆえかと思うが、シャーシ廻りのコーチワークは最高だった。
ロマーノアルベジアーノ氏設計のフレームは(私のような素人でも理解できる)高速高荷重になる程 車体を路面に圧しつけるようなグリップ感を与えるスタビリティがあった。
(個人的感想だが、今まで国産車で感じた事のないシナリ?まるでフレームが拡がって下の路面をつかんでいるような感覚)
今、乗っているVXよりはるかにワイドなリヤタイヤも、ワインディング等ある程度のペース以上なら良いのだが、街中を良識ある走り方をすると、どうしてもワイドなタイヤのサイドに表面を剥き残しがちだ。
スロットカーのスポンジタイヤはしっとりオイリーな方か良いが、実車ではキレイな方が安心感があるのは言うまでもなく、グリップマンでゴシゴシするとクリーンUPされ感じ良かったから使っていたのだ。
Mr.Gripmanの主原料はシリカとアルコール。
昔、タイヤメーカーCMで”シリカ(ケイ素)”含有量を増やしレイングリップを上げたとか、また撥水性を高くして雪道でも喰いつくようにしたとか聞いた事があった。
一方でまた、(時々サーキットランを楽しむ向きの)スポーツタイヤにシリカよりカーボンブラックを増やしドライグリップを上げました、とかの謳い文句もあった。
こうしたアピールの矛盾は?.. これが絶対と言うコンパウンドは、様々な路面と気象条件の中を走る実車には、多分ありえないのだろう。
インプレ記事に、”大きな効果が分からなくてもお守り代わりにしてもいい” などとあったが、販売されなくなった背景には某タイヤメーカーテストライダーの方の指摘も一因かと推察される。
記事によるとドライのテストでは、計測数値で制動距離が数十センチ、タイヤ1本分程度の短縮がみられたが、ウェットテストでは逆に距離が伸びる事と撥水性がハイドロプレーンのリスクをあげてしまうおそれ(タイヤメーカーからのオフィシャルなアナウンスではない)が指摘されていた。
また制動距離が短縮されたドライの数値は路面温度(∵後からのテストは高温になる)の影響とするコメントもあった。
タイヤメーカー自身が宣伝文句にしていたシリカながら、自社で様々なコンパウンドをトライしキャラと安全性を両立させている立場ゆえ、アフターマーケット品で、そのコンパウンドが改質変質されたら責任の所在問題もあり、たとえハイドロプレーニングが頻繁に起きる事で無くてもイイ顔できる訳がないであろうと理解できる。
Ref. ハイドロプレーニングとは? ミシュラン
現在、別のメーカーからDr.Gripなる商品がタイヤ接地面のトリートメントとして販売されている。(こちらは水性のようだが、”転がり抵抗を減らす”とされる効果から想像するとハイドロプレーニングの懸念があるのかも知れない)
<シリコンタイヤにグリップマン>
スロットカーは実車と違う。
スポンジタイヤではオイルを塗った方が劇的に速く走らせられるし、屋内サーキットにレインコンディションなどあろうはずもない。
Mr.Gripman はアルコールベースゆえ、乾燥を嫌うスポンジタイヤには別にしてシリコンタイヤには良いんじゃない?と、先日使ってみた。
何せ、シリコンタイヤはタイヤ表面が(時雨女のように)キレイでないとグリップしないのに、たいてい一般の営業サーキットは普通に走っただけで汚れがついてしまうコースコンディション。
勿論、アルコール類(揮発性の高いZIPPOやカイロ用ベンジンも)や低粘度の油性液体を使ってウェスで拭き取ればキレイになるし、実際走っても好感触だが少々乾燥させないといけない。
が、こちらはシリカとアルコールのおかげかトレッド表面は直ぐにキレイになるし云うことない。私以外の仲間もケアしたが皆な好印象だった。
唯、先述の通り既に入手できない製品ゆえ、リピート対応できないのは残念だが、シリコンタイヤメンテナンスのヒントとは云える。
研磨剤で揉んでからアルコールでクリーンUP、あるいはその逆とか..。
いずれにしても、シリコンタイヤにオイル塗布はグリップを低下させるだけ、またメンテフリーと云っても汚くしていてはダメなのだ。
― スロットカーは独自の理論を要求している―(古い引用だが佐藤康郎氏/チームリバーサイドの言)
次回6月8日、RMPBで予定のスロットカーレース、”REDLINE7000 ”、
指定タイヤはシリコンタイヤ。
ご協力頂きましたガレージハウス鳥居様、コスモステクノ江本様、またシリコンタイヤでレースをオーガナイズ頂いたワイルドカーズUS様、
皆様への感謝を忘れずに楽しませて頂きます。








