今、新宿で雪が降り始めた。

寒い冬日は 都心でも雪が降ることがある。

 

下町に住んでいた、ある年の2月。

勿論、最初から降っていればバイクで遠出しないが、

週末は彼女をピリオンシートに乗せていた。

暖かければ北の方、寒ければ、千葉や横浜まで足を

延ばしていた。

 

そして、いつも帰りは実家のガレージにバイクを置き、

六本木か赤坂駅に彼女を見送った。

今日もヘルメットと革ジャン脱いで家を出ようとしたら

母から彼女の土産にとワインを手に入れた。

東洋英和の鳥居坂は急すぎるし、ひとつ先の芋洗坂は

狭いのに人通りが多い。人混み嫌いな私は、十番から

城南中脇の公園を通って麻布署のウラの方に抜けて

いくのが好きだった。

六本木トンネルの脇、手前の階段を上れば公園があり、

過ぎれば大通りに出れる。

 

トンネル自体は途中まで、青山に開通していないので

クルマは片側一方通行だけ。

そのトンネル入口の上に”ハリウッド化粧品” 遠慮なく

大きな看板が掛かけられている。

公園まで人通りも少ないが、通りに出れば日産ビル**

1階に文具屋ラピスラズリ、地下はチョッとした商店街

あって重宝していた。

その地下では階段の昇り降りをしなければならないが、

地下鉄の駅にもつながっている。

週末の大通りはきっと賑わってるだろう。

街の灯りが彼女の肩越しに見えてきた。

 

* 現、六本木中学校

** 14Fにキャッスルプラハがあったビル、日産の手を離れ

     最近ヒルズのノースタワーとなったが 本体同じ建物?

 

寒い、と思ってたら白いのが舞いはじめた..

公園も ひと気なく寒々している。

 

君のコートの肩についた雪、

手を触れたら綿のように軽く落ちた。

空が心配で、ひとつだけ持ってきた傘をひらいて

肩を抱え公園の階段を上った。

 

砂場ではないが踊り場のような中間、

君は白い息を吐きながら、

”そのワイン、ここで一緒に飲みたい”

 

グラスは勿論、コルク栓開けるオープナーもない、

躊躇したが封を切った。

でも、ポケットナイフと指先の力では開かない。

ひらめいたのは ー

コルクが欠けてちまって引っぱり出せないんなら、

カサの先でビンの中に押し込んじまえ。

やった!上手くいった。

 

粉雪舞う中、さして酔わないけど 暖かくなった。

 

あれから何十年経っただろう。

街も変わり、この腕に抱えた君の肩も消えた。

 

 

 

My Funny Valentine’s Day  (ameblo.jp)