の続き
SAMURAI - 侍
喫茶店に向かうと、極道な二人がまた入口前に立っているのが見えた。
お店から30mは離れているのに、コチラに気づいた二人の男は腰を90度に曲げて礼をしている。
横を通り過ぎるOL達が男達の頭を下げる方を見て「誰かくるの?」と横目で確認しながら歩き去っていく。
「浅井の兄貴。お疲れ様です。中へどうぞ。」
何か、凄く。気持ちの良い自分がいるのも確かだ。
「お。」と返事をして中へ入った。
気分は極道映画の主役な感じだった。
店内には前の様にまた7〜8人の極道の男達だけが居た。そしてなぜか全員黒服で、起立をしている。
「すみません。浅井の兄貴。またお呼びだてをしてしまい。」と声を発したのは真ん中の男。
加藤ではなかった。以前私を迎えに来た185cmのピットブルの様な男だ。
「どうぞ。お座り下さい。」
この状況、大体の察しがついた。
加藤に何ががあっだのだろう。
でもなぜ自分が呼ばれたのか?は分からなかった。
「お察しの通り、加藤はいません。」
目の前にマスターがコーヒーをサラッと出して去って行った。
「その様だね。何かあったの?」
「カシラである兄貴は、組を守る為に亡くなりました。」
「亡くなった?」
「はい。多分私ら皆が今回、本当は死んでいた事でしょう。私らも極道に生きたからにはそれが本望だと伝えました。しかし兄貴は皆が死なない終わり方を選んだんです。」
何も言わずにただ聞いていた。
「それは、兄貴の意志を継ぐ者を絶やさない、『侍』な極道の生き様をする者が、これから生き、その精神をこの世界に残す為に。私ら極道は筋を通します。そんな仁義を重んじる者が、これからのこの世界では伝えないといかんと。兄貴は考えたんです。」
多分どこの世界にも本音と立前が存在する。本音を分かっていても、立前で仕事をする仕事ばかりだ。自分達の気持ちに嘘をつき、本音をかき殺して、長いモノに巻かれて、妥協妥協で生きる。
それに犠牲を払い、大事な物を失い、魂を売り、ハリボテな世界に更にハリボテを重ねて強度を増させる。
ドンドン立前の壁は強くなり、それが『普通』になり、誰も逆らえない、異常な世界を築き上げていくのだ。
それが加藤は嫌だったのだろう。
立前で仲間を一緒に死なすより、本音の意志を継いで生きて欲しい。それが彼が命を削ってした決断だと感じた。
「なるほど。加藤さんは『侍』だね。」
「はい。兄貴は真の『侍』だったと思います。」
黒服に身を包んだ彼らは、肩を震わせながら立ち、鼻をすすっていた。
どの世界にも『侍』はいる。
だけど『侍』として生きている奴は本当に少ないと、この時自分達の世界を含め考えていた。
「そしてウチのカシラが、浅井の兄貴に《俺が居なくなったらコレを渡して欲しい》との事で、今回お呼びだてをさせて頂きました。」
目の前にハンカチが置かれ、一枚一枚包みが開かれて何やらアクセサリーの様な物が真ん中にポツンと現れた。
「カシラの意志で浅井の兄貴に、コチラを持っておいて欲しいと。」
「いやいや形見を持つのは俺じゃないでしょう?アナタ達の方が加藤さんと親しかった訳だし。」
「これは遺言なんです。浅井の兄貴に必ず渡してくれとの。」
加藤はあの日、命拾いをした。
多分本当にあの『雨夜の日』にあそこで助けられていなければ、彼はこの家族の様な仲間の男達と二度と話す事はなかっただろう。
それは自分の『侍』の信念を、面と向かって彼らに伝えられなかった事になる。
だから残された時間が与えられ、仲間の彼らと沢山の想いを共有出来るキッカケを作った俺に、律儀な彼は自分が死んだ後に、感謝の意を告げたかったのだろう。
「分かった。加藤さんの想いも分かった。だが俺はアナタ達と住む世界が違う。価値観も色々違う。俺は目の前で【複数人 対 一人】で殴られてるのを見て、黙っていられなかっただけだ。殴り合いの理由も俺は知らん。どちらが先に手を出したかも知らんし、カタギかヤクザかも俺には関係ない。一対一の喧嘩なら手助けはしなかった。そしてあれが人数が逆なら逆を助けていただろう。それだけの事。それがたまたま加藤さんだったって事。」
「はい。分かってます。ありがとうございます」
「だから前も言った様に。俺はカタギだ。アナタらとは住む世界も価値観も違うで。絶対に俺の所にはもう来るなよ。それだけだわ。」
ピットブルの様な男は席を立ち、男達全員が以前加藤が礼をした時の様に、最敬礼で礼をした。
人生で二度目があるとは。
ヤクザに最敬礼をされるサラリーマン。
と思いながら喫茶店を後にした。
歩きながら考えた。
「誰か」だから俺は助けた訳じゃない。
そしてある日の光景が蘇る。
小学生の頃。複数の年上に殴る蹴るをされていた時だった。いつも自分を虐めていた幼馴染の近所のお兄ちゃんが、どっからともなく来て
「イジメてんじゃねぇ〜よ!テメ〜ら!」と助けてくれた事があった。
いつもは悪ふざけでこの俺を泣かしてくるお兄ちゃんだったのに。その時は仲間を守るヒーローとなり助けてくれたのだ。時代劇の主役のお侍の様だった。
それからもそのお兄ちゃんは相変わらず俺を叩いたり、虐めたりして来たが。なぜか虐められた気はせず、笑ってやり返せる様になった。何か仲間みたいな心が繋がっていた気がする。
だから同じ状況を見ると理由なく、恩返し的な動きをしてしまうのかもしれない。
誰かとかは関係なく、負けている方を助けてしまうのだと。
それは日本人として、複数の人間が弱い者を倒していると居ても立っても居られない!助けなければという『侍』の様な本能なのかもしれない。
その後、彼らが職場に現れる事は二度となかった。
《20年後》
パンパンに小銭が入った革の小銭入れが、ポルシェのダッシュボードにいつも入っていた。
ジュースを買う時や洗車場でジェット噴射をする時、賽銭を入れる時などその小銭入れはよく活躍していた。
「これ見て〜!知っとる?」
ニヤニヤ変な笑みを見せながら小銭をかき分けて探している。そしてあるアクセサリーみたいな物を摘んで、バ〜ンと息子の僕に見せてきた。
「知らない。何?」
「これはよ〜ヤクザの形見なんだわ!」
「ヤクザ?」
「ヤクザにスカウトされたんだわ。でもあの時俺がヤクザになっとったら、あんたは生まれとらんし、もう死んどったかもしれんわな。」
そして『雨夜のヤクザ』の話が始まるのだ。
因みに、人生でこの話は20回は聞いている(笑)
完
※このお話は父の本当か?嘘か?分からない話を、私なりにアレンジして創作したフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

