地山をCTで透視する:ミュオグラフィ
素粒子物理学の方面から,宇宙線を使ってピラミッドや火山の中を透視する研究が数多く発表されています。私は先日東京電力廃炉資料館を訪問し,この方法を知りました。
ミュオンは宇宙を構成する12個の素粒子の一つです。これら12個の素粒子は,強い相互作用をする素粒子としない素粒子でそれぞれ,6つのクオークと6つのレプトンに分類されます。レプトンは更に電磁作用をしない粒子と,する粒子でニュートリノとそれ以外に分けられます。ニュートリノは透過力が極めて強い素粒子で,火山やピラミッドで止められることは殆どありません。残り3つのレプトン(電子),ミュオン,タウオンの内,電子は我々の周りの物質を構成する重要な粒子です。ミュオンは電子の200倍以上も重く,これが透過力を持つ理由です。タウオンはミュオンより更に15倍重いが,許される存在時間がミュオンよりはるかに短く,調査には使えません。
ミュオンは色々な方向から飛んできます。1㎡の広さに毎秒約100個のミュオンが降り注いでいます。物質に照射すると中で少しづつエネルギーを失い,つには止まります。入射してから止まるまでの距離を透過距離といいます。入射方向は,それを受信の観測装置(例えば乾板)で受け止め,乾板を何枚か使うことによって方向が決まります。方向が分かると,その方向にある異なる密度を通過し,通り抜け(透過し)たミュオンの一つ一つの数が観測装置に記録されます。勿論物質中で止まるものもあります。到来方向毎に透過ミュオンをプロットすれば定量的なミュオグラフィ透視像を得られます。均質な密度の物質の場合のミュオン透過像は(モンテカルロ法という)シミュレーションで予想されます。
ミュオンの火山への照射と観測機械,透過映像(大林組)
それを全体から差し引くことで,物質中の異なる物体形が抽出されます。実測された透過ミュオンの方がシミュレーション値より高ければ,予想より通り抜け易かったとなります。
ミュオンによって分かるのは,密度を通過した数で観測されます。だから数から密度への換算が必要になります。火山の場合には地形によって物質の厚さの補正がシミュレーションで必要になります。
図はどういう方面に使われているのかを示したものです。日本の場合,火山の地下構造や噴火予知,廃炉の中のデブリ調査,イタリアでは地下に埋もれている古代都市の発見,エトナ火山の構造,エジプトではピラミッドの未発見玄室,カナダではスズ鉱山の鉱脈探査,日本のトンネルの断層,山体崩壊と津波発生予測,地下水探査等々。
ミュオグラフィの使われ方(田中宏幸,物理探査,Vol45,No.1-2)
ミユオンによる調査は,火山や廃炉など危険な場所,地下資源探査等,立ち入りが困難な場所でもCTのような透過画像が得られます。現在の研究でも,問題の対象によって色々な観測装置が研究者によって開発され,今後の発展が期待される興味深い分野です。
より詳しくは,ネットで多くの文献が公開されています。そちらをご覧ください。
おわり