ギネスが飲みたくて仕方ないね
カスケード・ショーからの119.5秒後の味はどんなもんなんだろう
そこいらに売ってなかったのでキリンクラシックラガーを買って
カシューナッツとアーモンドと共に飲んだ
欲しいバイクを眺めながら
一人の夜はそれ程悪くはない
それが僕の日常だからね
なかなかガールフレンドが出来たことに順応出来ずにいた僕は
そんな事なかった事にしてしまい、またグラスを傾けた
チョコレートだって悪くはない
冬には少しの甘さも必要さ
薄っすら記憶の片隅の方で鳴るアラームを止めて僕は8時半に目が覚めた
寝起き早々、台所で煙草をふかし
やっと朝が訪れてた事を認識した
僕の家にも社会と同様に喫煙者への風当たりは強くなり
換気扇のある台所でしか煙草を吸えなくなってしまった
肩身が狭くなったヘビースモーカーの僕とキングスモーカーの親父は
仲良くここ台所でモーニング・スモーキングを敢行する
火が無くて直接つまみを回して火を点ける
その瞬間「マリア・ブラウンの結婚」のラストシーンを思い出した
僕は最後マリアは何かを悟り自殺したのだと思う
それは僕の土曜日の朝にはどうでも良いことだが
コーヒーを入れ、いつもの様に飛び切り甘いシュガートーストをかじる
バイトは17時からだったので僕の家がお世話になっているバイクショップにバイクを見に行こうと思った訳だ
そんな趣味をするぐらいでなければ僕は起きたりしない
そして今日はゴルフのオファーは舞い込んでいないからね
カーステレオには良いCDが入ってなかったので
僕はThe Rakesの〝Little Superstitions〟を口ずさみながら運転した
〝If u felt how i felt then we'd stay together〟
そうだね
どうして解散してしまったんだろう
The cazalsだってOasisだってそうさ
もう彼らの新譜を聴けないなんて僕はとても悲しい
西高屋駅から少し走った所にモトハウスヒロはある
小学校の時から兄貴のチャリも僕のチャリも
兄貴の原付も僕のRZ50も全部此処で買った
昔はチャリも扱っていたが今はバイク一本になってるらしい
「久しぶり」 ホンダのつなぎを着たヒロさんが言った
「お久しぶりです」
「免許は取れたんか?」
「はい、お陰さまで。早速バイクを買おうと思いまして」
「何のバイクが欲しいの?」
「カワサキの250TRがいいかなと思って…」
「おおTRか!それなら外に一台あるよ」
話が早いとはこの事だ
外にあったのは正しく僕が前々から乗りたかった250TRで
タンクのカラーはネイビーだった
僕はタンクカラーはカワサキと言えばライムグリーンなのでそれかホワイトがいいかなと思っていたが
ネイビーもレトロでとてもこのバイクにマッチしていると思った
マフラーが社外のでノーマルでいいと言ったら
ちょっとふかしてみるよと言ってヒロさんがふかした音は悪くなかった
むしろ心地よく響き何処かワクワクさせるようなサウンドだった
「これは自分で乗ろうと思って最近仕入れたんだ」
そう言うだけあってこだわりも感じられ
レトロなバイクを揃えるモトハウスヒロらしいテイストが滲み出ていた
僕はこのバイクに一目惚れした
「これなら込みこみで25万にしてあげるよ」
「本当ですか?!安くないですか?」
「他で仕入れたらもっとするだろうね。マフラー、ライトも社外のだし、おそらく25万じゃ収まらないだろうね。
特別にまけとくよ」
「ありがとうございます。僕は正直25万までしか出せなかったのでとても嬉しいです」
「まぁ一旦、話は持ち帰ってお金の事もあるだろうからお父さんと相談して決めるといいよ。
さっき言った必要な書類を持ってきてくれれば、来週土曜日には納車出来るよ」
「ちょっと親と相談してまた来たいと思います。おそらくその方向で話は進むと思いますので
よろしくお願いします」
僕は近い将来に僕の愛車にあるであろう〝彼女〟をあらゆる角度から写真に収め、礼を言って帰った
時刻はまだ11時で、昼は簡単にサンドイッチとコーヒーで済ませた
楽しみだけでは充実しないだろうと思い
僕は勉強をしに中央図書館へと車を走らせた
この道だってこれからは大好きなバイクで走るのかと思うと気分は良かった
1時間半きっかりで切り上げて煙草を吸って
コンビニでコーヒーを3本買って行きつけの古着屋レッドクラウドへ行った
通称猛虎さん(本名は知らない)とは高3からの付き合いで
ここは古着屋と言うよりかは、服をオーダーでつくってる
イメージを伝え、生地を選び、サイズを測ってもらえばスペシャルな一着が出来上がる
僕もここでよく服をつくってもらい、それをとても気に入って着ている
とても大事に着る
仕上がりに文句なんてつけようがないくらいに素晴らしい服をつくってくれるからである
特にカシミアで作ってもらった3ボタンのジャケットは最高の仕上がりだ
僕が足繁く此処に通う理由は猛虎さんとの会話が楽しいからでもある
「タクヤー!!!!」
猛虎さんが叫び、奥からミシンの音と共にお姉さんがベストスマイルで出てきた
「こんにちは。食後にはコーヒーで一服ですよね」と言い
僕はさっき買ったコーヒーを二人に差し入れだと言って手渡した
みんなでコーヒーを飲みながら今日は4年越しの念願のバイクの免許を取った話
バイクを見に行って250TRがカッコ良かった話をした
猛虎さんはバイクの話になると楽しそうに食い付いてきて
僕等はどこをどうカスタムしたら格好良いか、フェンダーはやっぱり変えようか いやこれでいいだろ?
そんな話を時間を忘れるぐらいずっと話した
ここは本当に笑いが絶えない
猛虎さん、お姉さんの人柄の良さ
それが僕がレッドクラウドを好きな本当の理由だと思う
「今度はバイクで来ますからまたバイクの話をしましょうね」
僕はそう言って楽しい時間の余韻を感じながらレッドクラウドを後にした
僕のバイトまでの土曜日はこうして過ぎていく
この街での一人での過ごし方を僕は知っている
そこに誰かがいたら嬉しいと思った事もあるが
僕は一人の時間に慣れ過ぎてしまった訳である
帰りの車の中でふとガールフレンドの事を思い出した
彼女は何をしているのだろう?
検討もつかなかった
連絡しようとも思わなかった
僕は馬鹿な考え方だが付き合うことで何かが変わり、少しでも楽しく、幸せだと感じるものだと思っていた
しかし僕は孤独と寄り添って歩む事に何も感じなくなり
それが僕の日々で何一つ不思議なく溶け込んでしまっていたのである
誰かと付き合うという事はそれはそれで考える事もあるのだと思った
僕は人と関わった事もないような事を考えたが
僕は僕を通り過ぎたいつも誰かが隣にいた日々を
すっかりこの1年間で忘れてしまったようである
僕は彼女を好きなのだろうか?
そして彼女は僕を好きなのだろうか?
僕の何処に惹かれたのだろうか?
僕には到底、解りっこない
答えてよガールフレンド
眠りにつく前に
一言だけでもいい
僕の〝存在理由〟を教えてくれよ