演奏のゴールとスタート | INClaireの音楽な日々

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内藤郁子INClaireが、音楽について日々思うことや生活の中の音楽の話を書きます
音楽のたくさんのジャンルで、壁を作らず線引きだけして、
どれも体験して、魅力の違いを比べるのがおもしろい
音楽って一曲ずつそれぞれの魅力だと思います


Chère Musique



音楽の演奏には、完成は無い。

ということを、演奏家、指導者ならみんな分かっています。

とある舞台が、その時の自分にとって最高の演奏だったとして、そこを新たなスタートラインとして更に先へと変化してゆく、というのが音楽家にとっての演奏というものです。

永遠に終わりは来ません。
誰にも「この作品の完成形はこの演奏です」「これ以上の演奏はありません」とは言えないのが、音楽の演奏です。





でも!
それを踏まえた上で、、、
生徒さんには、舞台など人前で演奏する時には、ひとつの段階としてのゴールを設定してあげる方が良いと、私は思います。


発表会やその他の‘人前で演奏する’機会に向けての練習では、

闇雲に遠くのレベルを目指したり、
逆に、ただ間違えないで最後まで行けたらOKとしたり、
「勘違いしたカッコよさ」を求めて、作品に合わないことなのにがんばって出来るようになったり、
自分の個性を見失って人真似の表現を、わざわざがんばって完成させたり、

ということが起こりがち。


これらを防ぐためには、そして本当にその生徒さんが「やって良かった」「楽しかった」と最後に言えるようにするには、
その作品の本当に良い演奏とはどういう形なのかをよく分かっている先生が、
その人の今の段階と個性を踏まえて、その時のその人に向いている練習方法と目指すべきゴールを、しっかり設定してあげる。


その設定は、当然生徒さん一人一人違います。
本番まで二人三脚。


そして本番が終わった時には、そこがまた新しい世界へのスタートラインなのだということも、キチンと伝えるとよいと思います。






具体的に言うと、例えば今年のヴォアクレールの演奏会では、、、

ソロの曲選びが難航していますが、アンサンブル形はほとんど決まりつつあります。
その中の二台ピアノと二重唱の二組のペア。


二台ピアノの二人は、前回もその前も、
「とりあえず二人で合わせて弾けた!」
という感じで本番でした。
二人ともとても上手な上級者なので、これではもったいない。

今回の舞台で弾く曲は、ハープや弦楽器が主役の作品を作曲者自身が二台ピアノに編曲した作品なので、ゴールは
「二人それぞれのパートの音が対等に対話する」
とします。
主役と支え役が場面によってくっきり入れ替わる編曲なので、まずはこの「対等な対話」が出来れば、楽しく聴けます。


二重唱の二人は、前回の舞台では、
「二人で歌えて楽しいね!」というところまでは行けました。

今回の曲はラテン語の宗教曲ですし、日本語の歌のように聴く人の心にうったえる歌詞の表現を目指す、というのは現実的ではない。
なので今回のゴールは、
「倍音が生まれるほど正確な音程のハーモニー」。
ここを目指せば、なぜこの二人が二重唱をするのかの答えを、見つけられると思います。


どちらの組も、このゴールに辿り着くには、自分の個性をすべて発揮して、そしてそれを超えて、相手の音をしっかり深く聴く、ということが出来るようになる必要があります。







「とりあえず今回のゴールは○○」としますが、、、、
その同じ作品を何度も人前で演奏する機会があるのは、プロの音楽家。

演奏家の演奏では、以前と同じ作品がプログラムにあったとしても、聴衆はむしろ喜びます。
前回からどう変化するかを楽しみにしたり、「また今回もあの魅力的な個性を聴くことができる」と思ったりします。


ですが生徒さんの場合は、発表会の舞台で以前の発表会と同じ曲を演奏するということはほとんどありません。
それは当たり前ですね。
せっかく習っているのですもの、ご家族やお友だちには、毎回何か少しでも段階の上がった作品を、またはその時のその人ならではの選曲を聴いて欲しいものです。

それでも、たとえもう一度やることはないとわかっている作品でも、「今回のゴールは。。。」と言います。
舞台での演奏までの道を作ってあげるのです。



Musique, Elle a des ailes.