上質の重奏曲を聴く〜オットートリオ | INClaireの音楽な日々

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内藤郁子INClaireが、音楽について日々思うことや生活の中の音楽の話を書きます
音楽のたくさんのジャンルで、壁を作らず線引きだけして、
どれも体験して、魅力の違いを比べるのがおもしろい
音楽って一曲ずつそれぞれの魅力だと思います

Chère Musique



GWの5月3日にベヒシュタイン・セントラム東京ザールにて、とても上質なピアノ三重奏のコンサートを聴いてきました。

OttoTrio(オットートリオ)ピアノ三重奏コンサート

Violin:榊原エマ
Cello:山﨑まりや
Piano:新井千晶

J.ハイドン作曲
ピアノ三重奏曲第5番ト短調Hob.XV1

E.グリーク作曲
アンダンテ·コン·モートハ短調EG116

F. メンデルスゾーン B.作曲
ピアノ三重奏曲第1番二短調0p.49





私はピアニストの新井千晶さんと知り合いで、ご案内をいただいて生徒さん数名と伺ったのですが、新井さんに対する私の信頼度が並々ならぬものだったので絶対に良い演奏を聴かせていただけると確信していましたが、これほどとは。。。
生意気な言い方かもしれませんが、いろいろな意味で本当にとてもとても上質で、それはお三方とも全員が音楽家、演奏家としてのレベルがかなり高い方々だったからです。
まだたぶん皆さん20代後半の年代だと思いますが、それでこのレベル。
有名な演奏家の演奏会ばかり聴きに行っている方にとっては当たり前なのかもしれませんが、私はいろいろな方の演奏を聴いているので、時々このような出会いがあるととても嬉しいです。




どこがそんなに私を感動させたかというと、全員がかなりハイレベルなのに「アンサンブルとはこういうもの」と言いたくなるくらい、アンサンブルの理想型だったところです。

お若い音楽家でその人自身が優れていると、本当のアンサンブルをするのには経験を積む必要がある、ということがよくあります。

私に言わせると、本当の良いアンサンブルとは「個性と自信をしっかり持っている人同士が、自分の音楽を思い切り奏でながら、共演者の音楽と綺麗なマーブル模様になる」です。
良くないのは、相手の色に合わせて自分を変え過ぎる、また逆に相手を自分の色にしてしまう、音楽力のバランスが取れないアンサンブル。
赤と青が綺麗なマーブル模様になるけれど、全体が紫になってしまったりはしない。
優しさと愛と相手の音楽を尊敬して尊重する気持ちがあり、且つ自分の音楽にも揺るぎない自信があれば、境界部分だけすこ〜し紫で、でも全体は綺麗な赤と青のマーブル。
これがアンサンブルの理想だと思っています。

これをできるのは、長い年月経験を積んだ老練な音楽家か、若くして出来るのは本物の才能だと思います。
オットートリオは、このようなアンサンブルでした。
アンサンブルというものに対する考え方がハイレベルなだけでなく、お人柄も絶対にあると思います。




専門的に言うと、アゴーギクが良く練られていてとても自然に感じられる。
そのため音楽全体の流れが、聴き手を無理やりではなく波に乗るようにして様々な変化へと運びます。
頭を使わずに呼吸するように当たり前に、次々と展開してゆくように感じさせる。

そしてもうひとつ感動したのは、音楽の場面が進むたびに、空間の手触りと色彩が瞬時に変わったことでした。
これはとても難しいこと。
何度も聴いている曲なのに、そのたびに良い意味でゾクッとしたり涙腺が危なかったりしました。


選曲もとても良かった。
重奏の基本中の基本であるハイドン。
基本ですが、古楽なので演奏法に特別な知識と技術を必要とします。
時々、ロマン派や近代と同じような奏法のハイドンを聴くことがあり残念ですが、オットートリオはその点も完璧でした。
そしてグリークの、濃さと迫力が大好きな作品。
別人のように変化していました。
休憩を挟んで、ピアノトリオの曲といえばこれ!という感じの、メンデルスゾーン。
一楽章終わるごとに拍手をしたくなるくらいで、これまで聴いたどの演奏よりも魅力的でした。

このトリオは、ぜひレコーディングして音源を販売してほしいです。






3月におこなったモーツァルト講座で、少しだけ重奏、重唱について触れました。
その講座を受講した生徒さん(の中の友人でもある人たち)と四人で聴きに行きました。
とても小さな会場でしたので人数制限があり、生徒さん全員に声をかけられなかったことが、聴き終えてみてさらに残念でした。

いらした生徒さんは、おそらく重奏を生で聞いたのはみんな初めてだったのではないでしょうか。
初めてがこんなに上質のもので、本当によかったです。
気に入ったようなのでこれからも聴く機会があるかもしれませんが、重奏はアンサンブルの中でも特にレベルが様々ですからね。

ピアノだけでなくヴァイオリンやチェロを習っている人は、絶対に重奏を楽しむべきだし、そのような機会を作ってくれる先生だといいなと思います。
私はとにかくアンサンブル好きなので、普段個人レッスンを受けている生徒さんたちを集めてアンサンブルしていただく機会を、頻繁に作っています。





新井千晶さんは、私の師匠の合唱団で伴奏をつとめてくださっているピアニスト。

私のグループはア・カペラなのでピアニストはいないのですが、門下生全員で演奏するイベントや、他のグループのお手伝いに行く時などに、何度も新井さんのピアノで歌ってきました。
いくつかの時代の作品での伴奏を聴いてきましたが、どんな曲でも、その作品の土台となるもの、「この作曲家なら、この時代の曲なら、こう弾かねば」という要素が完璧。
特に、師匠の門下が歌い続けているモーツァルトの「古楽はこう弾く」が、理想的なです。
そして技術と知識の基礎の安定感が人並みはずれてレベルが高い、と私には思えます。

児童合唱団での伴奏も、とても丁寧で且つ子ども達を「その気にさせる」ピアノです。
その児童合唱団のイベントで私がダルクローズ・リトミックのコーナーを受け持った時にも、ピアノを弾くだけでなく楽しそうに一緒に参加してくださったりということもありました。
これはお人柄が分かりますね。


この3月末に本番があったモーツァルトの大規模な演奏会では、直前のリハーサルですべての演目でのオーケストラ代理のピアノをひとりで担当され、完璧に弾き切った時には、あまりにもすごかったので、私はYouTubeで語りエッセイに書いてしまいました。

YouTubeのヴォアクレールチャンネルでのポッドキャスト“音楽のひとしずく”で3月31日に配信した『合唱で思うこと』


その中の一部分の内容をショートエッセイ として“note”で3月30日に投稿した『オーケストラ代理のピアノ』





このところハイクオリティな生演奏を聴く機会に恵まれています。
今年はそういう年なのかな。

特にこのオットートリオは、これからも応援していきたいと思っています。




Musique, Elle a des ailes.