Vocal.Review「未来予想図Ⅱ」(The Coversより)

 

第一声が聴こえた時、意外だった。

それはあまりにも彼の歌声が優しい音色から始まったからだ。


 

 

「卒業してから もう3度目の春…」

 

スーッと高音部から始まる混じりけのない響きの歌声は、一本の線を描くように目の前の空間に弧を描いていく。

弧を描いた歌声は、決して空間を落ちない。どんなに音程が下がっても、彼の鼻腔内に留まって、綺麗な響きを鳴らしていく。

 

青空に白い飛行機雲が一本の白い線と共に自由自在に描かれていく。

彼の歌声を聴きながら、そんな光景が目に浮かんだ。

それぐらい、彼の歌声は何の迷いもなく、澄みきったものだった。

 

 

今回の曲で一番感じたのは、彼の日本語に対する丁寧さだ。

メロディーラインの音程にも、言葉一つ一つの発音にも彼が隅々まで神経を行き届かせて歌っている様子が見て取れる。

 

ゆっくりとしたテンポに載せられたメロディーは、言葉を聴衆が時間をかけて追うことの出来る余裕を与えている。

即ち、歌われた言葉の意味を聴衆が十分に頭の中でイメージする時間が与えられたメロディー展開だ。

その楽曲に対して、彼はいつもにも増して日本語の発音を丁寧に行なっている。

それは、綺麗に発声ポジションを揃えられた冒頭からのメロディーの歌声に現されている。

とつとつと語りかけるように始まる冒頭は、横に流れていく優しいリズムの刻みを見せる。その反面で、後半のクライマックスからのサビの部分では、彼の音楽は縦に決然とリズムを刻んでいく。

 

 

この曲には彼の持ち味の一つであるブレス音が混ざったウィスパーボイス(囁き声)はほとんど存在しない。

どの音節もすべてのブレス音を声に転換させ、綺麗な響きが存在する歌声で統一されている。

その歌声は、私に彼の綺麗な響きを久しぶりに思い起こさせた。

 

濃厚でミルクのような中音域。

ビロードのような濃い波を思い起こさせる響き。

 

ジェジュンという歌手の一つの持ち味である中音域の響きは、日本活動が再開されてからの最近の楽曲にはほとんど登場しない。

ソロアルバムを含むどの楽曲も彼の歌声はハイトーンが中心で、このビロードのような濃厚で綺麗な響きの中音域は使われていない。

今のところ、歌手ジェジュンは、ハイトーンボイスの歌手であることを全面に出している。

しかし、もともと彼の歌声はハイバリトンだ。高音域よりも中音域は非常に魅力的だ。

 

 

彼が歌うと、言葉に色が与えられる。

それは、濃厚な色だったり、淡い色だったり…

色を与えられることで、言葉は、一つ一つが立ち上がっていく。

 

 

久しぶりに聴く綺麗な響きの歌声だった。