先日、ビクセンから小さな企画商品を
発表しました。
ヴィンテージスタイル本革ハードケース付き双眼鏡
ULTIMA Z8×42 限定発売
わかりにくい商品名ですが
要するに、昔ながらの「飯ごう型本革ケース」を
作りました!ということです。
双眼鏡はかつて高級品でした。
今では数千円から買えるようになりましたが、
かつては誰でもが買えるものではありませんでした。
ビクセンの創業期の頃、双眼鏡の値段と
平均的な1か月分のお給料は同じだったと
聞いています。
なので、双眼鏡は大事に扱われるものでした。
そこで、よく使われたのが
飯ごう型ケースです。
こういう形です。
かつては一般的だったこのケースですが、
今ではほとんど作られることはありません。
理由はいくつかあります。
値段が高い、少し重い、がさばる、
などです。ソフトケースが主流となってからは
商品化されることはほとんどなくなったのでは
ないでしょうか。
ビクセンでも、このケースを最後に作ったのが
いつだったのかわかりません。
ですがこのケース、いいんです。
個人的に古い双眼鏡をいくつか所有していますが
この飯ごう型ケースに入っていると
革の傷み具合とともに時代を感じさせ
双眼鏡を持つ喜びを思い起こさせてくれます。
実はこのケース、今では作れるメーカーがほとんどありません。
特にこのふたの部分を縫製する機械が
少なくなってきました。
今だと接着剤でくっつけてしまうほうが早いのかも
しれませんが、このケースは直角に縫い合わせています。
また革には、牛本革の銀(表側)を使っているのですが
その厚みは、計算されつくしていて、
特に革同士が重なり合う部分だけを極薄に
して、全体の凸凹感がないようになっています。
この、革を薄くする技術は
数少ない職人さんの手作業です。
ケースの内側は羅紗張りになっていますが
両側に台がついています。
双眼鏡をこのように入れるのですが、
接眼レンズが当たらないように
台をつけています。
ハードケースは双眼鏡ごとにサイズの合ったものを
誂えていきます。
ちなみにケースのストラップも本革です。
牛の背中の革を使っています。
お腹の革では切れてしまうので、
背中の伸びの少ない革を使うのです。
このストラップは贅沢だと思います。
ストラップはこのように付けます。
長さの調整も可。
このケースは私とケース屋さんとの
こだわりの中で生まれました。
私は伝統的な飯ごう型本革ケースの
新品を見たことがありませんでした。
一度きっちりと作りこんだものを
見たかったのです。
ケース屋さんも、最近の主流の合皮ではなく
本革でしっかりとしたものを
職人さんのいるうちに
作っておきたかったとのことでした。
ビクセンとしては、もう二度と作ることは
できないかもしれません。
少なくともこのサイズのケースは
二度と作りません。
なぜなら、このケースのために
復活させた「ULTIMA Z8×42」は
かつてのベストセラーですが
今では廃盤商品です。
このケースと双眼鏡の両方を
再度製作することは不可能だと思います。
少し郷愁の意味を込めて
古いロゴを使いました。
このロゴを使うことも
これで最後かもしれません。
50台しか作れませんでした。
最初の1台は会社で保管用としました。
次の一台は、社員が購入していきました。
もしかしたら自己満足の商品かもしれません。
ですが、ビクセンは天体望遠鏡を作るより
20年も前から双眼鏡を取り扱っていたのです。
双眼鏡はビクセンの原点です。
このことを自分で実感するためにも
この商品を作りました。
残り台数はあまり多くありませんが、
この気持ちを共有していただける
ユーザー様がいてくれたら
とても嬉しいです。