ロルカ「ジプシーの修道女」("La monja gitana") | スペイン語をめぐる諸々

スペイン語をめぐる諸々

スペイン語が少し分かれば見たり聞いたり読んだりできることを漫然と集めてみます。

 「ジプシーの修道女」は、ロルカを代表する詩集『ジプシー歌集』のなかの一篇。様々な草花の香りが印象的な、嗅覚的な詩であるように感じられる。

 

 自由を奪われた状況の中で、若い女性が自由を夢見るというのが、この詩のテーマだと思えるが、それはロルカの最後の戯曲『ベルナルダ・アルバの家』の主題と通ずるものがありそうだ。ついでに言えば、この「ジプシーの修道女」いう詩は、「沈黙 (Silencio)」という単語で始まるが、『ベルナルダ・アルバの家』は、最後に「黙りなさい!(¡Silencio!)」という叫びが三度繰り返されて幕を閉じる。たぶんロルカにとって最も根源的な不自由とは、沈黙を強いられること、言葉を奪われることだったのだろう。

 

 

Silencio de cal y mirto. 
Malvas en las hierbas finas. 

石灰と銀梅花の沈黙。

上品な香草に混じり咲く銭葵。

La monja borda alhelíes 
sobre una tela pajiza. 

修道女が藁色の布に

グラジオラスを刺繍している。

Vuelan en la araña gris, 
siete pájaros del prisma. 

灰色のシャンデリアに

七羽のプリズムの鳥が飛びまわる。

La iglesia gruñe a lo lejos 
como un oso panza arriba. 

教会が遠くで唸っている

まるで仰向けに横たわる熊のように。

¡Qué bien borda! ¡Con qué gracia! 
Sobre la tela pajiza, 
ella quisiera bordar 
flores de su fantasía. 

何と素敵な刺繍! 何と優美な出来だろう!

藁色の布の上に

彼女はできれば縫い付けたい

自身が思い描く花々を。

¡Qué girasol! ¡Qué magnolia 
de lentejuelas y cintas! 
¡Qué azafranes y qué lunas, 
en el mantel de la misa! 

スパンコールとリボンでできた

何という向日葵、何という木蓮!

ミサの祭壇布を飾る

何というサフラン、何という夜顔の花!

Cinco toronjas se endulzan 
en la cercana cocina. 
Las cinco llagas de Cristo 
cortadas en Almería. 

グレープフルーツが五つ

近くの厨房で熟れている。

アルメリアで受けた

キリストの五つの傷。

Por los ojos de la monja 
galopan dos caballistas. 

修道女の目の前を

馬に乗った二人がギャロップで行く。

Un rumor último y sordo 
le despega la camisa, 
y al mirar nubes y montes 
en las yertas lejanías, 
se quiebra su corazón 
de azúcar y yerbaluisa. 

最後のそして耳を塞いだ噂が

彼女からシャツを剥ぎ取り、

そして凍えた遠方から

雲と山並みとを眺めると、

砂糖とレモンバーベナでできた

彼女の心は張り裂けてしまう。

¡Oh!, qué llanura empinada 
con veinte soles arriba. 
¡Qué ríos puestos de pie 
vislumbra su fantasía! 

おお! 二十個の太陽が昇る

何という険しい荒れ野。

彼女の空想におぼろげに見え

足を浸す、何という川!

Pero sigue con sus flores, 
mientras que de pie, en la brisa, 
la luz juega el ajedrez 
alto de la celosía.

けれども彼女は花を縫い続け、

その間佇んで、そよ風の中、

光がチェスに興じている

男子禁制の格子窓。