実数列
① a1,a2,a3,……
がコーシー列ならば、必ずある数に収束することを見てきました。
では①が有理数列であるとき、その極限値は有理数であると言えるかというと、必ずしもそうとは限りません。
たとえば√2を小数表示で近似していく数列
② 1, 1.4, 1.41, 1.414, 1.4142, ……
は有理数列であり、しかもコーシー列ですが、極限値は無理数√2になります。
有理数世界の住人にとっては極限値が異世界に行って見えなくなってしまいます。
つまり、どの数世界で考えるかによって、コーシー列が収束するか否かが変わってきてしまいます。
コーシー列が収束するような数の世界(あるいはより一般に「空間」)は完備であると言われます。
言い換えると、
「収束値がわからないときは、代わりにずーっと先の数を使って収束性を定義しても大丈夫だろう」
という希望的観測が成り立つ場合が「完備」です。
完備とは、哲学で言えばイデアが見えることです。
コーシー列は何かを追い求めている求道の旅人のようなものです。
その追い求める理想が必ずこの世にあるならば完備ですが、どうやらそうとは限りません。
そこで哲学者はイデア界を想定しました。
そうした想いが実現する世界が完備空間です。
無理数は有理数に比べて泥くさいイメージがありますが、ある意味では無理数こそがイデア的な存在であるとも言えます。
この世界では無理なことが、イデア界では実現する。それが実数、さらには完備空間の世界であると言えます。
ということで、次からは空間の話である、線形代数について考えていこうと思います。 (つづく)