タクさん「こないだの春一番が吹いた日、亀山はデカいのがたくさんあがったみたいなんですよ」
―ほほう、それは興味深いですね。たしかに、春一番が吹き荒れる日は釣れると聞いたことがあります。ウチの嫁さんも似たようなことを言ってましたよ。
タクさん「で、ですね、20日はまた気温が上がって雨なんだそうです。その日と似たような状況なんですよ」
―なるほど、二匹目のドジョウならぬバスですか。たしかに、狙い目の日かもしれませんね。
タクさん「ご一緒します?」
―あー…、すいません、今金欠でお金が無いので…。
タクさん「ふっふっふ、実はボート屋さんのスタンプがいっぱいになりまして。ボート代が無料なんですよー」
―なぬ、いや、でもそんなタクさんが一生懸命通ってコツコツ溜めたスタンプなのに突然尻馬に乗るようなマネなんてハイ宜しくお願いいたします。
…せめて車は出させてください、ということで、釣り友達のタクさんからありがたくもお誘いをいただいて決定した久しぶりの亀山ダム釣行だったのでした。
例によってポイントから何から全てタクさんにお任せ、しかも今回はボート代すら必要ないというお気楽極楽上げ膳据え膳釣行です。
―ちなみに、どんな感じで釣れたんでしょうね。
タクさん「テキサスで一つのボート屋から50アップが3本出たそうですよ」
―テキサス、てことはシャローカバーでしょうか。冬の釣りではないですね。
タクさん「暖かい雨でベイトが動いて、デカバスがつられたようです」
―じゃあ、結構強気でいっても大丈夫かもしれませんね。
タクさん「ですね、ビッグベイトとか。フロッグなんかも面白いかもしれません」
―フロッグ!この時期トップで釣れたら快感でしょうねー。
タクさん「とにかく巻いて撃って、ごりごりにいきましょう!」
―おー!
さぁ、盛り上がってまいりました。
そういうことなら準備も簡単です。
タックルボックスにはビッグベイトにスイムベイトにジャークベイトにテキサスに…、
要するに、ハイシーズンと同じ準備で構わないということなのでしょうから、慣れない季節の慣れない釣り方に悩む必要もありません。
…いや、そうだ、一番重要な準備があった。
それは…。
前日の金曜日は定時で退社することだ!
…もう、つくづく歳をとったと実感するのが土曜日の釣行。
30をちょっと過ぎたくらいの頃なら、仕事終わりに不眠のまま朝マズメから夕マズメまでやり通すなんてこともザラだったのですが、
齢35を超えた頃から、そんな無理が少しずつきかなくなっていって、気力はあるものの体力が続かず、やがて気力も削られて完敗、なんてパターンが増えてきた僕です。
ありがたくもお誘いいただいた釣行なのに、バックシートでコックリコックリなんて失礼なマネをするわけにはいきません。
さぁ、となれば前日の金曜日は社外に打ち合わせに行ってそのまま直帰するに限ります。
前日の金曜日、お客様と調整をして、ではのちほど伺います!と電話を置いたところ、
何やら営業がニヤニヤとした表情で背を丸め、両手を擦り合わせるような仕草をしながら近づいてきました。
有史以来、こんな表情の人間に持ってこられる話などろくなものではないということは決まりきっています。
―今忙しいので用事があるならメール入れといてください!
…撃退します。
おや、今度は部長が近づいてきました。
何やら難しい顔をして、腕組みをしながら近づいてきます。
これはもう悪い予感しかしませんので、約束の時間には少し早いですが、早々に会社を出ることにします。
カバンを小脇に抱え、何やら話しかけたがっていたふうな部長に「社外に行ってきます!」と告げると、
「お、おう…」という部長。
よかった、この反応は何かやましい思いがあったに違いない、
胸をなでおろしながら、こうしてトラブルを未然に防ぐことに成功した僕は、予定通り社外での打ち合わせを済ませて定時に直帰し、
明日は釣りだわいと嫁さんに告げると、早々に床についたのでした。
翌20日の早朝、4時半。
既にタクさんと合流を済ませ、車は高速道路を南下しています。
前日から今朝にかけて、充分な睡眠を取れた僕はいつにも増して饒舌です。
ハンドルを握り、視線は道路の先を見据えながら、口はしきりにペチャクチャとタクさんに話しかけ続けます。
―予報だと15度から17度くらいまで気温が上がるそうですね。
タクさん「みたいですねー。午後から雨が降るみたいなんですが風が南風に変わって気温が上がるようです」
…気温が15度あれば、冬の雨風とはいえそれほど苦痛にはならないだろう。
果たして、雨が降りだしたらどのような攻め方をしていくのが正解なのだろうか。
なにしろ冬のダム釣行自体が今日で二度目という僕です。
冬から春にかけて移ろっていくこの季節、雨というのは水中にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
ちらりと車載の温度計を確認すると、外の気温は4度しかないようです。
これが午後に入ると10度以上上がるというのですから、きっと午前と午後で最適な攻め方というのは変わってくるのでしょう。
「最近ビジ夫さんお気に入りの、ジャークベイトなんかちょうどいいかもしれませんよ」
…タクさんが僕の胸の内を見透かしたようなことを言ってきます。
今日持って来たタックルは4本。
一本を大きめのミノー用にして、もう一本、ベイトを意識した小さめのミノーを付けてみようか。
んで、一番強いタックルは撃ち用にテキサスにして…、
ペチャクチャとしゃべり続け、思案を続けながら、車はやがて出船一時間前ぴったりにボート屋へ到着しました。
タクさん「きっと混んでますよ」
―そうですね、こないだの春一番に釣れたことを知っている人なら、今日のこのチャンスを逃すはずが…、
あれ?
タクさん「あれ?思ったより少ない」
―ですね、上の駐車場はガラガラ、下も2,3台って感じですね。こんなもんですか?
タクさん「いや、もうちょっと混むはずと思ったんですが…」
…んん??
…一瞬、ネガティブなことを考えそうになりますが、いや、でもどちらかと言えばこれは良いことです。
何しろライバルが少なければ少ないほどプレッシャーも低くなりますし、撃ちたいポイントが撃てる可能性も高くなるわけですから。
…午後に雨が降ってくる時間を狙って人が増えるのかな?
なんてことを考えながら、さっそく準備にとりかかります。
エレキとバッテリーを降ろし、タックルボックスをカートに積んで、
タクさんがレンタルボートに色々とセッティングをしている間に、僕は持参した4つのタックルに4つのルアーを結びます。
10gのテキサス、11cmと7cmのミノー、そしてスイムベイト。
ひとまず、しばらくはこれらでやり通してみよう。
タクさんのセッティングが終わると時間はちょうど6時半。
出船です。
ボートはするすると、桟橋を離れて進みだしました。
「晴れてますよね」
不意にタクさんに話しかけられ、空を見上げてみるとすっかり夜は明けて綺麗な青空が広がっています。
―たしかに、これ本当に雨降るんでしょうかね。風もそんなに強くないし…。
…今日は南風が吹き荒れると同時に降るであろう暖かい雨があっての強気のプランですから、ここまで綺麗な青空では少し心配になってきます。
気温も、まだ上がる気配はなさそう。
「雨が降る前と後で、入ってみたいポイントがあるんですよ」
―いや、もう、僕にはまったく何のアイディアもありませんから。お任せします。
相変わらず無責任なことを平気で言う僕ですが、タクさんは特に気にした風もなく一直線にボートを進めていきます。
そして連れてこられたのは、どうやらワンド。
「ここは強風になったときに風が避けられて水質がどうのでうんちゃらかんちゃらなんです」
―ほうほう、なるほどね。そういうことなら、僕はジャークベイトを試してみることにしますよ。
「いいですね!」
…連れてこられたのがワンドだろうが岬だろうがシャローだろうがディープだろうが、まずはジャークベイトを試すつもりでいた僕だったのでしたが、そんなことは今言う必要の無いことです。
結んできた二つのミノーのうち、まずは大きめの方、11cmのミノーをキャストします。
ジャークを入れ、普段よりも気持ち長めにポーズを入れながら、ラインの動きを凝視します。
基本的にジャーク後のポーズ中、ラインにはテンションがかかっていませんから、アタリをきちんと取るためには手に伝わる感触だけではなく、目で直接アタリを判断することも必要だと考えていますが、
このミノーはあまり潜らないタイプのものなので、ボートの上からでもルアーそのものが目視できてやりやすい。
ジャークを入れると、木々が影を落とす水面にキラッキラッとボディが反射して、これならルアーの位置を見失うこともなさそうです。
岸際に投げ、1回ジャークして3秒ポーズ、
それを2,3回繰り返して回収、
そんなことを続けながら反応を待ちますが、何の手応えもありません。
ふと水中を見ると、うっすらと底の様子が見て取れます。
おそらく、水深は1mも無いでしょう。
魚探の水温計は9度を指しています。
―この気温、水温でこの水深はちょっとキツイのかもしれない。
…そんなことを考えつつも、しかしタクさんが考えに考えた最初のポイントということなのですから、それはきっと、しっかりと根拠があることなのでしょう。
タクさんを信じてジャークを続けます。
キャストして、ジャークしてポーズ。
何十回目でしょうか、それを何度も繰り返して、反応無しと見て早巻きで回収しようとしたところ、
ルアー後方から急に黒い影が飛びかかってきます。
―あ、バス!?
…と思った時には既にルアーは早巻きでボートの真横まで寄せ切ってしまっています。
バスはクルッとUターンすると、シェードの奥に戻っていってしまいました。
―…あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!
「どうしました、ビジ夫さん!」
―いや、今、バスが、回収中にすっ飛んできたんですけど早巻きだったから!
…興奮と悔しさのあまり、わかるようなわからないような説明になってしまいましたがタクさんには通じたようです。
「なるほど、でもそれって冬のバスの喰い方じゃないですよね」
―ですね、ほんと、ハイシーズンと変わらない動きでしたよ。ピューってきましたから。
「…ということはやっぱり、今日はある程度強気でいっても大丈夫かもしれないですね」
―そう、たしかに、僕もそう思います。なので、しばらくはこのままミノーで通そうと思います。
「いずれにしてもバスが見られただけ、ここに入った収穫がありましたよ」
―いやほんとうですわ。ぶっちゃけ、2月に見えバスとか見たこと無かったですから、僕。
…なんてやり取りをしつつ、しかしただ一点、わからなかったのは、あのバスはジャークに反応したのか、それとも後半の巻きの部分に反応したんだろうか。
ジャーク&ポーズで興味津々に近づいてきたバスが、不意の早巻きにスイッチが入った、ということだろうか。
…そこからは一回のキャストあたりでジャーク&ポーズの比率を変えたり、ジャークさせずにいきなり巻いたりと自分なりに色々工夫してみますが、反応はありません。
「有望そうですから、後でまた来ましょう」
というタクさんの言葉にうなずいて、いったんここを離れることとしました。
次に入ったポイントは川筋らしい細道。
両岸までの距離はおそらく2,30mほどでしょうか。
新川、花見川をホームにしていると、慣れ親しんだ川幅です。
水を見ると、先ほどよりもキレイ。
「ここは雨が降ると最初に水が澄むところなんですよー」
―ほほー。なるほど。
雨が降る前と降った後の両方を確認したい、と言っていたのはそういうことですか。
…しかし、浅い。先ほどのところより明らかに浅い。
水がキレイで浅い分、プレッシャーという意味ではそれなりに高そうなポイントという気がします。
―これ、満水ですか?
ふと気になって聞いてみますが、
「限りなく満水に近いと思います」
…満水でこの浅さなのか。
てことは減水が進む真夏には入れないようなポイントってことなのかしら。
夏にこそ良さそうなポイントという感じなのだけれども…。
こういった、様々なポイントの季節ごとの変化を頭に入れていくというのも、バス釣りの楽しみの一つなのでしょう。
たびたび嫁さんから「もう認知症でも始まったのか」とイヤミを言われる僕の老化した脳みそでは、今日の全てを記憶しておくことはおそらく難しいのですが、
いつかまた来た時のため、覚えておける限りは覚えておこう。
そう考えながら、このポイントも後にします。
―さて、じゃあ次はどうしましょうか。
「うーん、途中途中でカバーを撃ちながら…」
…タクさんもプランを立てかねているようです。
見上げると相変わらず天は高く、いったいいつになれば暖かい雨とやらが降るのかと、多少不安になります。
「いっそ、早めに休憩取って雨が降ってから再開します?」
―ああ、なるほど、それでもいいかもしれませんね。
なんだかんだ11時ですし。
…じゃあそうしますかー、と頷き合ってボート屋へ舵を切り、少し早めの昼食をとることとしたのでした。
一時帰着し、ボート屋さんで昼食を取りながら、店主と何やら会話をしているタクさん。
どうやらここ最近の状況を確認しているようですが…。
店主「この間の強風の時はすごかったよね」
タクさん「釣れたみたいですね」
なんて声が聞こえてきます。
そうか、やっぱり春一番の時は店主から見ても明らかに普段とは違ったんだ。
逆に言うと、そこから今日まではイマイチだったという風に聞こえなくもないけれど…。
…南風が吹いて、暖かい雨さえ降れば…。
下がりつつあったテンションが持ち直します。
念のためトイレを済ませ、再びの湖上へ。
先ほどのポイントに向かい始めてすぐ、
…ポッ、
…ポツッポツ
―雨だ。
なんというタイミング。
まるで天が僕とタクさんの出船を見計らっていたかのようです。
―雨だ、タクさん!ほんとに降りましたね!
「お、ほんとだ、雨だ!」
―雨だ雨だ!
雨…なんですが…、
…ブルッ!!
…おおう、思わず寒気が。
いやはや、待ちわびた雨がいよいよ降りだしてくれたこと自体は歓迎なんだけれども、
気温が15度から17度にまで上がるという話はどこにいったのか。
体感気温は出船時とほとんど変わっていないように思えるんだけど。
「これまだ北風ですよ。南風に変わらないと気温は上がらないと思います」
―ええー…。
「今、予報確認すると風向きが変わるのが夕方近くからっぽいんですが…」
―えぇっ!?
マジですか…。今日の帰着って16時じゃなかったでしたっけ。それまでに変わってくれますかね…。
「…どうでしょうね…、帰着してから気温が上がったりして…」
―いやタクさん、ちょっとそれは冗談にならないですね。
しかし、悲観しようが嘆こうが天気ばっかりはどうすることもできません。
「南風よ吹け!」と叫んだ瞬間にあたりには暗雲がたちこめ、
地響きにも似た唸りとともに天から一筋の竜巻が大地を直撃し、
周辺のありとあらゆる物質を巻き込み破壊しながら北へ通り過ぎた後には草一本も残ってはいない、
などというのは妄想の世界だけの話なのですから、今さしあたって僕とタクさんができることと言えば、
レインウェアのフードを目深にかぶって、襟元から水が進入することのないようにジッパーを一番上まで締めることくらいです。
その間にも雨はだんだんと強さを増し、いつしか本降りに変わっていきました。
―…寒いっす。
「寒いっすね…」
真っ白な息を吐き出しながら、言わでものことをお互いに確認しつつ、それでもルアーを投げ続けていきます。
タクさんは何やらビッグベイトを投げ出したようです。
この寒さで、どうやら反対方面に突き抜けたか。
僕は午前中から変わらずひたすらミノーを投げ続けていましたが、朝一番の食い損ね以降はまともな反応がない。
―この雨でカバーに付いていたりしないだろうか。
安直な考えかもしれませんが、タックルを持ち替えて10gテキサスを試してみます。
ピッチングで目についたカバーを撃っていきますが…、
―利き腕が寒い。
妙に右腕だけ凍えている、とウェアを確認してみると、右手首の袖口を締めるのを忘れていました。
…しまった、雨水が肘辺りまで入り込んでしまったのか。
自分自身にちょっとイラつきながら今更袖口を締めますが、いったん入り込んでしまった雨水がウェアの中で蒸発することはありません。
雨水はぐっしょりと、インナーすら貫通し、少しずつ右腕の体温を奪っていきます。
グローブは真冬の氷点下釣行でも僕の体温を保ち続けた実績があるものを使っていますが、しかし真冬にここまでの雨は初めての経験です。
グローブと皮膚の僅かな隙間から少しずつ水が侵食して、指先はとっくに感覚が無くなっています。
しかし、繰り返しですが、この冷たい雨に対してちっぽけな人間二人にできることはありません。
ただひたすら、風向きが変わり気温が上昇することを心待ちにしながら、カバーを、ストラクチャを撃ち続けます。
そのうちに、時間は午後2時を過ぎました。
―タクさん、ちょびっと気温が上がってきました?
「水温は0.5度くらい上がってるみたいですけど…」
…どうやら、雨は水温よりは高いらしい。
しかし10度やそこらの雨では状況が大きく好転するとは思えない。
帰着まであと2時間をきったこの状況で、ここから何が変わるだろうか…。
「…諦めて、今日はもうオシマイにしますか?」
―へっ?
思ってもみなかったタクさんからの提案。
タクさんも、ここから帰着までに何かが変わるとは思ってないんだろう。
お互い、家庭持ちのサラリーマン。
ここで無理をして体調を崩して、家庭や会社に迷惑をかける可能性があることを考えると、ここは素直に本能の赴くまま、誘惑に乗るのが大人なんだろう。
わかりましたよ、タクさん。ここは大人になって諦めましょう。
…僕はいかにも重たそうに口を開くと…、
―いえ?僕はまだ大丈夫ですけど?
…あれ?
今僕なんつった?
大丈夫とか見栄はらなかった?今?
寒さで頭がおかしくなったのか?なんで見栄はった?今?
タクさんが後で釣り仲間達に「ビジ夫さんはストイックですわー」とか言って回ってくれるのを期待しちゃったのか?今?
いや違うんです。タクさん、今のはちょっと本心とは逆のこと言っちゃいました。
言わば魔が差しました。なんだか知りませんが僕の中のカッコつけたがりのカッコつけ夫が急に出てきちゃいました。
そんな僕のことをわかってくれてますよね?長い付き合いなんですから、察して、空気読んでくれますよね?
ねぇ?タクさん?
「…じゃあ今日は帰着時間までがんばっちゃいますか!」
…ぁぁぁああああやっぱりそうなっちゃいますよね…
僕は取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。
既に吹っ切れた爽やかな表情のタクさんを見ると、もうこれは既に「うそぴょん」とか言える空気ではないのではないか。
何故、撤収を提案したタクさんが爽やかな笑顔で、拒否した僕がこの世の終わりのような顔をしているのか。
―きっと、帰着時間ギリギリくらいに熱い時間帯がきますよ!
地獄からの使者のような表情のまま、口からは思ってもいないセリフが出てきます。
何故こうもスラスラと偽りの言葉を吐くことができるのか。僕は虚言癖か。
フードを目深にかぶっていたためか、あるいは雨が偏光サングラスを曇らせていたためか、
僕のそんな表情にタクさんが気がつくことのないまま、こうして冬の大雨釣行は続行が決まったのでした。
こうなったらもう、帰着までにとにかく風向きが変わり、気温が急上昇するという前提でやっていくしかありません。
タクさんは「バズベイト持って来るべきだった」とか言ってます。
雨と濁りという状況を考えての発言というのが半分、もう半分はおそらくヤケクソでしょう。
僕はジャークベイト、スピナーベイト、テキサスのローテーションでやっていくことにします。
「流れ込み、狙いましょう。ここからボート屋までの流れ込みを全部まわっていけば、ちょうど帰着時間くらいだと思います」
―なるほど、流れ込みはいいかもしれませんね。
雨も強くなってきて、今までは流れ込んでいなかったところが新しいポイントになっている部分もあるでしょう。
流れ込み周辺をザックリとジャークベイトとスピナーベイトで探って、直下のカバーをテキサスで撃つ。
これだけに徹して、あとは無心で機械のようにやり続けることにしましょう。
というか寒すぎて色々なことを考える頭の余裕がない。
凍えた右手に時折息を吐きかけながら、黙々と流れ込みを攻め続けます。
タクさんも浅場、深場と色々なレンジを試しているようですが…。
「…やっぱダメかー」
…ですねぇ。
南風も吹かず、気温も上がらないまま、無情にも時刻は16時。
―…ハァ、こんだけがんばったんですけどね…。
「今日はがんばりましたねー」
慰め合いながらボート屋方面に向うと、次々と他のボートにすれ違います。
皆、一様にライブウェルを積んでいますがホースが繋がれているものはありません。
―やっぱり、みんな大物狙いで勇んで来たのに、空振ったんですかね。
…僕らと一緒です。
帰着して片付けをしている間にもますます雨足は強くなってきて、吐く息は相変わらず白いまま。
ビシャビシャになったレインウェアをトランクに放り込んで気温を確認すると…、
一桁やないか。
誰だ、15度とか17度まで上がるとか言ってたやつは!
―これだから天気予報は信じられないんですよ、なんて話をしながら、暖房マックスで家路に向かう二人だったのでした。
…帰宅して嫁さんに愚痴ります。
―今日、暖かくなるって予報で言ってたのにさ、結局ずっと寒いままで最悪だったわ。
嫁「は?朝のニュースの天気予報で最高気温9度ってなってたよ」
―え、うそ、だって何日か前の予報だと…、
嫁「変わったんでしょ、よくあることじゃん。お父さんこの寒い中アホだね、って子どもと話してたよ」
…だったらニュース見た時点でメールでもLINEでも入れればよかったんちゃうんか!!!
というのは、筋違いの非難というべきものであり要するに単なる逆ギレです。
こうして2月に初バスのチャンスを逃してしまった僕だったのですが、さて、3月はどのくらい釣りに行けるかな。
毎年、段々と遅くなってきている初バスですが、今年は3月中を目標に、ちょっとがんばってやってみようかなと思います。