このところ少し思うところがあって、これこれこういった感じの動画は世の中に無いものかなと探し求めたところ、
どうやらこんな近しい動画があるらしい、ということになって、
しかもそれは誰それが持っている可能性が高いのではなかろうか、なんてことになり、
その方に尋ねてみたところあっさりと「持ってますよ」という段に至るや否や、
快く貸し出してくれたそれをありがたく観てみましたという次第だったのでした。
…よくよく考えてみると、自分からこうやってバス釣り動画を探し求めてみたというのは初めてのことかもしれない。
たまたまYouTubeで目についた動画を観たりとか、
あるいは友人が「これ面白いから」なんて言って貸してくれたりしたものを観たことはあるけれども、
自分から能動的に特定の動画を探し求めて観たなんてことは僕史上初の出来事かもしれない。
なにしろ、メディアの発信するバス釣り情報というものについては極力避けるように生きてきた僕でした。
それは映画を観に行く時には事前情報は見ないようにするとか、
ゲームを買ったら最初は攻略本を見ずにクリアするとか、
僕的にはそういったこととまったく同じことだと思っているわけなのですが、
「気になる映画は、あらすじを見ないようにして映画館に行くんだよねー」だと、
「それわかるわー」
という反応がほとんどなのに、
「バス釣り雑誌は買わないし動画もあまり観ないようにしてるんだよねー」だと、
えっ、という顔をされたりすることに、普段から僕は少々心外な気持ちがあったわけなのでした。
…ええと、なんの話をしていたのでしたっけ。
そう、それでその動画の話ですが、僕が探し求めていたのはジャーキングの動画でした。
昨年から真面目に使い始めたジャークベイトですが、
僕はバス釣りを始めて最初に巻きの釣りを覚え、次に撃ちの釣りを覚え、
そして最近になってようやく覚えつつあるのがこのジャーキングの釣りです。
昨年は自分でもかなり意識して使うようにしていたということもあるでしょうが、ワームを含めても昨年一番バスを釣ったルアーのジャンルはジャークベイトだったと思います。
…ところが、どうも、自分でやっているジャーキングというものと、ジャーキングをやりこんでいる人のジャーキングは違うらしい。
自分はジャーキングが得意ですよ、という人と話をしてもそう思うし、実際に他人のジャーキングを見てみてもそう思う。
…とはいえ、具体的に何が違うんだろう?
ジャーキングは、ただ巻くだけ、あるいは撃つだけ、という釣りとは違って-、
…もっとも、巻きにしても撃ちにしても人それぞれ意識するテクニックというものがあるのでしょうが…、
ロッドワークに大きな比重を置く釣り方ですから、自分と他人との違いが、ある意味で見た目にわかりやすい釣りではないかと思っています。
だったら、ひとつ本当のジャーキングというものがどういうものかと、これが本物のジャーキングだぞと謳っている動画でも観て勉強してみるかと、そんな気持ちになったわけなのでした。
…これはいわば復習です。
一回クリアしたゲームでも、攻略本片手にもう一度プレイしてみることで、知らなかった要素や新たな面白さに気がつくこともある。
そんな思惑通り、ジャーキングの動画を観た僕は素直に感心しました。
―なるほど、やはりあのときのあのアプローチは正しかったのか、だから釣れたのか。
あるいは、
―そうか、これではダメなんだ、だからあのときにあのやりかたでは釣れなかったのか。
…などなど。
そもそもが、ジャークベイトといえばサスペンド、というイメージがあったのが正直なところですが、通常、ジャーキングを語る場合はフローティングが前提となっているらしい。
その事実だけでも、僕としては意外さを感じずにはいられません。
…さて、動画を観て気付きがあったというなら、次は実践です。
僕は得たことを試す機会を、虎視眈々と狙っていたというわけだったのでした。
6月11日。
この日は一緒に浮きましょうと、僕は友人である勅使河原さんと約束をしていました。
このところめっきり釣行できる日数が減ってきたと嘆いている勅使河原さんですが、年に一回は一緒に浮く、というのが近年の恒例になりつつあります。
約束の日が近づき、僕は当日の段取りを確認しようと、勅使河原さんに連絡を入れたのでした。
―どこ行きましょうかね。昨年みたいに野池ですか?
勅使河原「ほにゃららダムなんてどう?」
…ほにゃららダム?
聞いたことないな、そんなダム…。
―聞いたことないですけど、新たなユートピアですか?
…いや、その前に念のためお聞きしますけど、釣り禁とかではないですよね?
勅使河原「正々堂々と釣りができる場所だけど」
…へー、僕も5年以上釣りをやってきて、千葉の釣りができるダムなら大概知ってるものだと思っていたけれど、まだまだ知らないところもあるんだなぁ。
未知のダム、非常に興味をそそられます。
―では、そこがいいです。そこにしましょう。
勅使河原「夜が明けてすぐ始めるなら4時集合かな」
―わかりました、では4時に現地で。
…こうして、6月11日はとある未知のダム釣行となったのでした。
…当日。
連絡を取り合っていた時点での週間予報では雨模様だった当日は、直前の予報では晴れに変わって気温も30度まで上がるとのこと。
こりゃ今日は日焼けしそうだわい、なんてことを考えながら勅使河原さんに指示された駐車場に向うと、朝4時にも関わらず既に車が3台も停まっています。
ワイワイと賑やかに準備をしている先行者の方々を見ると、全員フローターのようです。
…ほほう、これは新たなフローターダムの発見ということになるのか。
―あ、勅使河原さん、おはようございます。
勅使河原「お久しぶり。エントリーポイントはそこからみたい。楽に入れそうじゃないかな?」
―あれ?その言いっぷり、勅使河原さんもここで浮いたことはないのですか。
勅使河原「来たことはあるけど、浮くのは初めてだね」
…なんと。
初場所ということで、ポイントだとか、実績のある方法だとかを聞こうと思っていた僕はさっそくアテが外れます。
…まぁ、せっかくの初場所、何も知らず手探りで楽しむという方が、むしろ面白いものかもしれない。
勅使河原「水はどクリアみたいだね」
―あ、ほんとだ、すごい透明度ですね。
勅使河原「2mくらいなら底まで見えちゃうね」
―いつもこうなんですか?
勅使河原「うーん、よくわからないけど、割りと普段からクリアなダムっぽいねぇ」
…クリアな水質。
ジャークベイトはクリアな状況でも有効なルアーとも聞きます。
なんと、動画で学んだテクをいつ披露してくれようかとウズウズしていた僕にはおあつらえ向きの状況ではないか。
辛抱たまらず、フローターの用意もそこそこにロッドを手に取り、まずはエントリーポイント付近をオカッパリで試してみることにします。
ルアーはもちろん、フローティングミノー。
スミスウィックの、「ログ」です。

アメリカではキング・オブ・ジャークベイトと呼ばれ、
自身のサポート企業とは無関係に、タックルボックスにログを入れていないバスプロはいないと言われています。
適当に沖に投げ、ジャークで寄せてみます。
…ジャッ、ジャジャジャッ、ジャジャジャッ、ジャジャジャッ…
すると、どこからか小バスの群れがワラワラと沸いてきて、みんなで仲良くミノーをチェイスしてきます。
そして水がクリアな分、相当遠くからでもその様子が視認できます。
…おお、思っていたより魚影が濃い場所じゃないか、これは期待ができそうだ。
―勅使河原さん、ミノーに反応いいですよ!
さて、それがわかればオカッパリで遊んでいる場合ではありません。
さっさとエントリーして、思う存分ミノーで釣り上げることとしましょう。
勅使河原さんの準備も終わったことを確認して、エントリー。
水位は…、
初めてきたダムですから確かなことは言えませんが、岩盤に刻まれた水面の痕から想像するに、満水を少しだけ下回っている、という状況でしょうか。
水面に覆いかぶさる木々の枝と水面の間にはちょっとした隙間ができていて、ところどころはハードルアーを放り込むこともできそうです。
フローターならではの低い姿勢からそういった隙間にルアーを投げつつ、初場所を移動していきます。
…ジャッ、ジャジャジャッ、ジャジャジャ、ジャジャジャ…
良いポイントに放り込めた場合には、相変わらずバスの群れがワラワラとチェイスしてきます。
…ところが、サイズは20cmからせいぜい30cmというところで、しかも喰いにきているというよりはちょっとした好奇心からルアーを追いかけているように思えます。
―…ルアーの選択が合ってないんだろうか。
張り出した岬と、水中に沈んだ立ち木が絡んだ良さそうなポイント。
もう少し低いレンジを試してみたくなった僕は、ルアーをサスペンドのメガバス「ワンテン」に変更して投げてみます。
…ジャッ!ジャジャッ!!
水中の立ち木の間を通すように引いてきますが、チェイスは無い。
…あれ、ここにはいないのか、良さそうだと思ったんだけどな、と思いかけた瞬間、
―…うお、デケェ!!
思わず声をあげてしまいましたが、ピックアップ寸前のルアーを目掛けて、水底から40アップ50アップがこれでもかと浮き上がってきます。
驚いた僕でしたが、ひとまず落ち着いて、回収しかけていたルアーの動きを止めてみます。
…ゆっくりと近づいてくるデカバス達。
…喰え、喰え!
バスは、もうほとんど鼻先が触れるのではと思うほど近づいてルアーを凝視しています。
…どうすんだ、このまま放置でいいのか、動かしたほうがいいのか…。
…そう、思うが早いか、
…プイッ!
反転したバス達は隊列を整えるようにしてもとの水底に戻っていってしまいました。
―くあーーーー!!
…いやー、無念。しかし今のはびっくりした。久しぶりに手汗をかいた。
エントリーしてからここまで、岸際に向けて投げながらやってきたけれど、チェイスは全部小さいバスだけ。
そうか、小さいのが岸際に浮いていて、大きいのは沖側で沈んでいるってことなのか…?
そこからはその想像を検証するために、岸からちょっと距離を離して長めにアプローチをとります。
ワンテンを岸際に投げ、ジャークさせながら引いてくると…、
…いるいるいる!
やっぱりだ、沖目の方からデカいのが浮かんでくる!
…でも、やっぱり見切られてしまうのか。
ルアーを止めても動かし続けても、バスは寸前まで近づいてきては見切ってしまう。
…なんとなく、バスの居場所と引くべきレンジは分かったような気がするんだけど、もう一個、何かが足りないのか、違うのか…。
しかし、それにしてもここの透明度はすごい。
クリアな水質だからこそ、水深1m以上の深さで起きていることまで確認できますが、普通のフィールドならデカバスが浮いてきていたことなど全く気がつかなかったでしょう。
そんなことをしばし考えていると、勅使河原さんが近づいてきました。
―あ、勅使河原さん、どうですか?
勅使河原「釣れないねー、チェイスはあるんだけどね」
―やっぱりですか、まったく一緒ですよ。試した中ではワンテンが一番反応良い気がするんですけど、見切られますね。
勅使河原「クリアだし、プレッシャー高いのかね」
―うーん、ダムの広さの割には釣り人密度は高くないと思いますけどね…。
…花見川上流の混雑ぷりを思い出しながら、そんなことを答えますが、もしも今日が普段よりもクリアな日だとしたら、そのせいでバスが神経質になっているということは充分に考えられます。
―まぁ、時間はあるし、色々と試してみよう。
ひとまずバスの付き場所はなんとなく分かった。
付き場所がわかったなら、順番として、まずは食わせをためしてみよう。
…より食い気がありそうな浮いている小バスを釣ってみようと、虫系ルアーを取り出します。
オーバーハングの最奥にキャスト。
いい具合に枝の上を通して、チョウチン状態を作れました。
…これは我ながらいい位置に通せた。上を意識したバスがいれば喰ってくるに違いない!
チョイチョイチョイ、チョイチョイチョイ…、
お、さっそく一匹の小バスが寄ってきた。
喰うか?喰っちゃうのか?
…プイッ!
…ぬう。
あ、また別のバスがきた。
…お、今度はもう少し大きいじゃないか。
ほら、美味しそうだろう?どう考えても水面に落ちたカナブンだろう?
いっちゃえって、パクっと。ほら、我慢することないんだって!
…プイッ!
…ぬうう。
ある程度、距離を離しているにも関わらず、水面のルアーをめぐるバスの攻防がまるわかりです。
ということは、逆にバスの側からも違和感を感じやすい状況ということなんでしょうか。
…今ので喰わせられないんじゃ、ちょっと僕にはまともに喰わせる自信がない。
だとしたら可能性があるのはむしろリアクションか。
…クランクを超早巻き!
…スピーナ―ベイトを表層巻き!
…ぬうう。
チェイスすら無くなってしまった。
途方に暮れます。
何か他に良さそうなルアーは無かったかとカバンを探ろうとすると…、
…ん?
ふとフローターの脇を見やると、40そこそこのバスがピタリと寄り添っています。
どうもこのバス、右目を怪我しているようで瞳が白くなってしまっていますが、何があったんでしょう。
―隻眼のバスか、伊達政宗的な…。
…で、それはともかく何をやっているんだ、コイツは。
釣れない僕を馬鹿にしているのか?
…。
いっちゃっていいすか?
自分コイツいっちゃっていいすか?
…そばに虫ルアーを投げてみます。
…ガン無視。
ぐっ。
何がしたいのかわからない政宗はもう放っておいて、ここからどうすべきでしょう。
今のところ、一番反応が良かったのはサスペンドミノーか。
それもちょっと深めに潜らせたとき…、
勅使河原「どう?」
―あ、勅使河原さん。
いやもう全然だめです。喰わせもだめだし巻きもだめだし。
勅使河原「雨がふってくれたほうがよかったかもしれないね」
―ああ、たしかに。雨のほうが釣れそうな感じしますよね、ここ。
雨で多少濁った時に、どのくらい反応が変わるのか、興味ありますね。
勅使河原「この調子だと、夕方までやり続けるのはきついね。昼くらいを目処に終わろうか」
―…あー、そうですね…。
…たしかに、ただでさえ睡眠不足とこの暑さの中、一日やり通すのは辛いかもしれない。
昨日は仕事が忙しく、仕事終わりにまったく眠らないままの不眠釣行だったことを思い出します。
あたりを見回すと、早々に撤収している人もいるようです。
やはり、普段より渋いということなのかなぁ…。
ただ、なまじバスがたくさん見えるだけにさっさと諦めてしまうのはもったいない気もするけれど…。
…とある、シャローになっているワンド。
本来の水深はどの程度かはわかりませんが、底を丈の長いウィードがびっしりと覆っていて、ウィードの上っ面から水面までは1mも無いでしょう。
―ワンテンだとウィードに引っかかるか。
…再びログをセットします。
あまり連続でジャークさせると潜りすぎて根掛かりするかもしれない。
気持ちポーズを長めに、水面とウィードの真ん中くらいをキープするよう意識して…、
ジャジャッ!…、…、ジャジャッ!…、…、
…?
ウィードの間から…、
…バスがすっ飛んできた!?
…パクッ!!!
喰った!!ダッシャ!!!!
…スポーン!
…キャアアアアアアアアアアアアア!!!!!
イヤアアアアアアアアアアア!!!!
…素っ頓狂な声をあげてフローターに突っ伏します。
今日、ここまでやってきて初めての明確なバイト。
それをすっぽ抜けさせてしまった。
…呆然。
いや、呆然としている場合じゃない。
ウィードの中に潜んでいるバスがいることは分かった。
リアクションで飛び出してくる可能性があることも分かった。
同じ攻め方を継続すれば、似たようなバスが釣れてくるはず!
…ガバッと身を起こし、どうにか気を持ち直して、再びワンドにキャスト。
…しかし反応なし。
…ガクッ
再びフローターに突っ伏します。
…やはり、さっきのは千載一遇のチャンスだったのか。
そのチャンスを、フッキングミスで逃してしまった。
…いや、さっきのは明らかにリアクション的な出方。
そもそもルアーをきちんと捉えられていなかったのかもしれない。
…色んな思いがぐるぐると交錯して、しばしその場に佇みます。
勅使河原「…釣れたよー」
…へ!?
―あ、勅使河原さんいつの間に?
釣れたって、ルアーなんですか??
勅使河原「阿修羅だよ」
―阿修羅…、やっぱりサスペンドミノーですか。
勅使河原「投げて放置してたら取り合いみたいになってね、その中でも小さい奴が喰ってきちゃったよ」
―取り合い…。
普段なら見切っちゃうようなバスでも、ちょっとしたキッカケでスイッチが入ることもあるってことか。
勅使河原「ポーズ長めが鍵なのかもしれないね」
―たしかに、僕もさっき一度バイトがあったんですけど、ポーズは長めだったんですよ。
今までやってきたジャークのポーズは感覚では0.5秒くらい、せいぜい長くても1秒。
ところが、さっきのバイトの時は2秒ほど止めていた気がする。
ポーズを2秒から3秒くらいを意識するようにして、やってみようか。
チェイスが多かった岬に移動し、再びワンテンを手に取ります。
岸際にキャストして、ポーズ長めに、長めに…、
…あ、バスが?
…パクッ
!!!
…ダラッシャ!!!!!
…乗った!?
…乗った!!
やっときた!!
―きました!きましたよ勅使河原さん!!
…くお、でも、竿がちょっとばたつく。
これまともに針がかりしてないな。
…あ、やっぱり、口の外にフック一本か。
これはネットじゃないと危ない、ネットネット…、
バシャアッ!!!!!
…。
…ヒエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!
勅使河原「…。」
…あとちょっと、もう10cmでネットインだったのに。
ネットを探すのにもたついたのが悪かったのか。
勅使河原「…今、喰ってくるとこ見えたねー」
―あ、勅使河原さんのところからも見えましたか。
勅使河原「やっぱり、ロングポーズだよ」
―そういうことなんですかねぇ…。ハァァァ。しかし今のは獲りたかったですよ…。
…大きくため息をついて、先ほどとは反対方向にキャスト。
ポーズは2秒、ポーズは2秒、と心の中で唱えつつ…、
…ゴッ!!
!?
―えっ、うそっ乗ってる!?
…乗ってる!連チャン(バラしてるけど)だ!!
つーかポーズ時間変えるだけで、こんなに反応かわるもの!?
…いや、今はそんなことはどうでもいい。
天が重ねて与えてくれた、おそらく最後のチャンス!今度こそモノにしなければ!
慎重に慎重に、…今だ!
クワッ!!
ネット・イーーーーーーーーーーーーーー
バシャア!!
…。
…ウヒーーーーーーーーーーーーーー!!!!
ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ!!!
エヘラエヘラゲラゲラ
勅使河原「…。」
…ああ、やめて、勅使河原さんその視線。
ふざけてんの?とでも言いたげな視線はやめて。
わざとやってんじゃないの?と言わんばかりのその視線はやめてください。
いや、ちょっと言い訳させてくださいよ。
今のも、ちょっと掛かりが悪くてリアフック一本が下顎のとこの…、
…ハァァ…。
勅使河原「…風のせいかね?」
…?
―あ、ほんとだ、いつの間にか風が出てたんですね。
…そうか、それで活性が上がったってこと?
…だとすると、今のこの好調は時間制限つきの時合いということになる。
なんだ、そういうことならボケっとしてる場合じゃない!
…慌ててあちらこちらにキャストしまくります。
…おお、やっぱり、風のせいか、
今までよりも明らかにチェイスが増えた気がする。
…が、チェイスが増えただけで、喰わない。
必殺の2秒ポーズも簡単に見切られてしまう。
さては、既にこのダムの全てのバスに知れ渡ってしまったのか。
…。
しかし、さっきの勅使河原さんの話からすると、不意にスイッチが入って取り合いになることだってあるだろう。
チェイスの先にはバイトがある、そう信じて、もう少し投げてみることにします。
…お?
小バスが2,3匹チェイスしてきたその後ろから…、
…おお、デカいのがきた!
…え?何やってるんだ?
おお!小バスに体当りして追い払おうとしてる!
…で、追い払った後はおもむろにワンテンに向き直って…!
…プイッ!
喰わないんかーい!
それ喰わないんかーい!
…いや、ただ、今のはちょっとおもしろかった。
なんといっても、このダムの透明度でなければ見られなかった光景だろう。
もう少し濁ったダムだったら、今のキャストは今日の何百回、何千回と繰り返したキャストのうちの、記憶にも残らないようなただの一回でしかなかったはず。
僕としてはただ投げて、ただ引いてきただけの何の変哲もない一回のキャストだったのに、
実は水面下ではこんなおもしろい攻防が起こっていたとは…。
…そこから、さらに岸際に向けて投げ続けます。
もはや、先程までのどうしても釣りたいという欲求は半ば失われています。
着水できちんとサミングした場合と、サミングが甘かった場合のバスの反応の違い。
岸際に対して、垂直にアプローチした場合と斜めにアプローチした場合の違い、
同じコースを2度、3度と通した場合の違い、
岸際ギリギリに落とした場合と、50cmほど手前に落とした場合の違い、
チェイスにしたって、ルアーの真後ろをチェイスしてくるやつと、ルアーの50cm真下くらいに付けてチェイスしてくるやつがいる。
…これら全て、バスの反応の違いが目に見えてわかります。
今までの経験で、たぶん、そうなんだろうなと思っていたことも、そうでないこともある。
…これ、よくよく考えると結構すごい場所じゃない?
すごい勉強になる場所じゃない?ここって。
ぶっちゃけ、僕は今まで釣りづらいからとクリアなポイントは避けてきたようなところがあるけれど、これ、めちゃくちゃ勉強になるし、何より釣れなくてもおもしろいじゃないか。
…ここまで一匹も釣ることが出来ずにやさぐれていた僕のモチベーションが急激に持ち直します。
…そうだ、ここまでに喰わせはやったし、リアクションもやった。
でも、そういえば威嚇系はやってなかった。
せっかくのこの状況、ぜひ威嚇系も使ってバスの反応を見てみたい!
…ということで、カバンをガサゴソすると…。
あ、プロップペッパーもってきてた。
ちょうどいい。自分でも理由もわからず釣れることがあるこのルアー。
ぜひ、この状況で使ってみて、水中では何が起こっているのか確認してみようじゃないか。
さっそく付け替えてキャストしてみます。
…カリカリカリカリ…、ジャボッ!!
!?
いきなり出た!
…乗らなかったけど…。
どういうことだ、ミノーをあれだけ投げてもバイトを得られなかった今の状況、プロップペッパーでいきなり出るなんてことがあるのか…。
もう一度、今度は視認できる距離でプロップペッパーを投げて巻いてみると…、
―あ、
小バスのチェイスが半端ない。
しかも、お互い牽制しあって、さっきまでのやる気のないチェイスと追いかけ方が違う。
…これ、喰うんじゃないか?
バシュッ!!!

…ほんとに出た。
自分でも訳がわからないような状況で釣れたりするプロップペッパー。
僕はざっくりと「威嚇系ルアー」として使っていたけれど、これ、本当は違うのかもしれない。
さっきのバスのチェイスの仕方は、イライラして相手を攻撃するような状態には思えなかった。
これの真価は、復数のバスをチェイスさせたときに、競いあわせて喰わせるような力にあるんじゃないか…?
…あ、また何匹かチェイスしてきてる。たぶんこれも出るんじゃないか。
バシュッ!!!

…これよくアタックしてきたな。
今日一日、もしプロップペッパーだけで通してたら、どんな結果になってたんだろうか。
―…あ、勅使河原さん。
勅使河原「どう?」
―釣れましたよ、2本、プロップペッパーで。小さいですけどね。
これで帰れますわ。すいません、お待たせしました。あがりますか。
勅使河原「そうしよっか。…いや、厳しかったね。他行ったほうがよかったかも」
―や、僕はそれなりに楽しかったですよ。すごい勉強になることもありましたし…、
…ってあれ?
ふとフローターの脇を見ると、一匹のバスがピタリと寄り添っています。
その右目は怪我をしているようで…、
―政宗!?
え、うそ、さっきのところからずっと追いかけてきてたの?
相当移動したよ、僕!
勅使河原「どしたの」
―いや、向こうで勅使河原さんと会話してたあたりの場所あるじゃないですか。あのへんからずっと追いかけてきてるバスがいるんですよ。ちょっと目が怪我してて…、
勅使河原「なんなんだろね?カバーだと思ってんのかな?」
―さぁ…。
結局、今日の釣行の大半は政宗を連れ回していたってことなのか。
何がしたかったんだ、政宗…。
…やっぱり、バスの考えることはよくわからんわい。
こりゃ、釣ろうとしても思い通りに釣れてくれないのは、当たり前なのかもしれない。
そんなことを考えながら、午後1時。
気温30度の中、納竿としたのでした。
2016/6/11(土)
晴
弱風→中風
気温:17度→30度
水温:?度
アタリ:5
バラシ:2
ゲット:2
…結局、岸際近辺にいたある程度やる気のある小バスしか釣れなかったわけですが、
しかし、勉強になった。
今日ここで見たバスの動きは、マッディな水質のフィールドでも同じように行われていることなんじゃないだろうか。
釣れない、釣れないと嘆いているいつかの僕でも、実はその時、水中では同じような熱い攻防が繰り広げられていたんじゃないだろうか。
釣りたい気持ちをグッとこらえて、今回は勉強なんだと割り切りさえすれば、釣果以上に経験を得られることもあるんだということを知った一日でした。
また近いうちに、バスを釣るためじゃなく、バスを知るために、
…あと、あの人懐っこい40アップに再会するために、
ここを訪れてみたいと心から思った僕だったのでした。



