9月27日の金曜日、僕はこう繰り返しながらオフィスを後にしました。
時間は20時。
ここ最近の忙しさからすれば、周りからは早退のように目に写ったでしょう。
―ちっと今日はサーセン。ちっと今日はサーセン。
遠くから訝しげに僕を見やる部長の視線を無視して、エレベーターに飛び乗ります。
…まぁ、飲みの約束でもあるのかとでも思っていてくれればしめたものです。
実際、用事があるのは確かです。
しかしそれは当日ではなく…
当然、翌日の大会に向けた準備のための帰宅だったのでした。
僕は、当初この日に有給休暇を申請していました。
第4回を数えることになった印旛水系釣り大会。
仮にも主催者の僕が、何の用意もなく臨むなど他の参加者の皆様に対して不謹慎極まります。
考えられる可能な限りの用意をして臨むことこそが、参加を表明していただいた皆様に対しての報いとなるでしょう。
誰がビッグフィッシュだろうが、どのチームが優勝しようが、お手手を繋いで皆で一等賞、
なんてことを言うつもりはありません。
僕自身がそんなスタンスでは、仮に一人でも、真剣に臨もうとしてくれている人がいるならば、
こんな失礼なことはありません。
だから、今日この日は有給をとって、前日プラを…、なんてことを考えていたのですが、
世間というものは当然ながら僕の都合をお構いなしに回っているものです。
帰り際、チラリと見たメールでは、どこそこのプロジェクトでトラブル発生との文言が見えたような気がしました。
何やら顔を真赤にした営業が、22時から緊急会議を行うというようなことを叫んでいるのが聞こえたような気がしました。
しかし、そんなことよりも今僕が優先すべきは、早く帰って「寝る」ことです。
1時間でも2時間でも寝ることができれば、翌日の大会により万全の状態で臨むことができるでしょう。
…だから、僕が今帰宅することは正義なのです。
そういうことにしてしまうのです。
自分自身にそう言い訳しつつ、後陣に後を託して振り返らずに帰宅します。
…皆、骨は拾ってやるからな。
電車に乗った頃には、既に鉄火場となった職場のことは忘れ去り、
先週のプラの状況と、明日のプランのことで頭がいっぱいになっていました。
先週。
3連休の日曜日と月曜日を使って、僕は新川と花見川の様子を見に行ってきたのでした。
日曜日の新川では1フィッシュ1バラシ。
月曜日の花見川では、アタリもないノーフィッシュでした。
…相変わらずの印旛水系です。
相変わらずではあるのですが、共通して言えることは「カバーに魚が付いていなかった」こと。
真夏なら何かしら反応があるだろうと思えるカバーを撃って周っても何も反応がない。
新川では流れ込みが絡んだ沖に向かって投げたスピナベで1フィッシュ。
コンクリ護岸のテキサス撃ちで1バラシ。
花見川ではカバーを重視しましたがアタリすらなし。
…こりゃ、秋だ。
まだまだ残暑が厳しい日もある今日この頃、
水の中なんてまだ夏だろうなんて悠長なことを考えていましたが、
そんな僕の体内時計をあざ笑うように、季節はいつの間にか予想を超える速度で進んでいたのでした。
そうとくれば、僕は僕のプランを見直ししなければなりません。
僕が新川、花見川で得意としているポイント、自信のあるポイントという場所は、
ことごとくカバーが絡んでいます。
つまり、「夏」のポイントです。
気温が下がり、シェードのような水温を低下させる場所の恩恵が少なくなったこの季節、
カバーを出たバスが、いったいどのような動きをとるのか。
―僕はその経験が圧倒的に足りません。
なんとなくアテもなくウロウロ探しまわって、巻物でたまたまマッチした魚を拾っていく。
…そんな釣りでビッグフィッシュ、総合優勝などとは片腹痛い。
どうしたもんか。
カバーを絡めずに釣るということなら、どちらかと言うと新川のほうが心当たりがある。
…けど、先週から今日までの間に一発台風が来てるしなぁ。
それでパターンがリセットされてしまっていたら、今僕が考えていることなんて何の意味もないかもしれない。
―答えも出ず、やがて自宅に着きました。
簡単に食事と、シャワーを浴びて就寝。
そして1時に起床します。
―さぁ、きました。
大会当日です。
就寝からたったの2時間でも、一度睡眠を挟むことで、きちんと気持ちが切り替わるものです。
不思議と眠気が少ないのは興奮のせいなのか。
…よし、やったるか。
考えも纏まってないけど、なんつってもペア戦だ。
相方の人と相談して、纏まってないことは纏めればいいんだ。
―これを世間一般では丸投げと呼びます。
その意識も無く、準備万端整えて、さっそうと玄関を出た僕だったのでした。
が。
…さむっ!!!
思わず身震いします。
さむっ!
―え、今、気温何度だ?
車載の気温計を確認すると、11度。
…11度!?
11月並じゃないか!!
…なんで、
なんでいつもいつも、大会は「普通」の日じゃないのか。
クラクラとしつつも、上着を取りに家に戻ります。
温度だけで考えれば、ターンしていてもおかしくない気温です。
―水温は、水温はそう簡単に気温に引きずられるもんじゃない。
大丈夫、一日や二日くらい寒い日があったからって、水中はそうそう…。
自分を奮い立たせ、ようやく出発です。
車の無い参加者さんを道中で拾いつつ、集合場所へ到着です。
…さむっ!!!
やっぱり寒い…。
気温は12度。
1度上がったからといって小躍りして喜ぶわけにもいきません。
おそらく、今日は寒暖の差が激しくなるはずです。
まさか日中まで10度台ということは有り得ません。
ということは、大会開始直後と帰着直前では、バスのパターンはかなり変わってくるのでは…。
そんなことを考えている間に、続々と集う参加者の皆様。
時間を見ると、もう集合時間の5分前です。
慌てて最終点呼を始めます。
…う、奇数だ…。
まぁ、朝の4時集合ですからね。
前日がお仕事の方なんかは、そりゃー当日どうしてもダメだった、なんてこともあるでしょう。
前回の大会は自分のミスで奇数となった結果、僕は運転手として参加したわけなのですが、
その反省を活かして、今回はWESTさんと奇数だった場合のことを考えていたのです。
―えー。皆様。
今回は奇数のために僕はどこかのチームに参加させていただいて、そのチームは3人制となります。
よって、リミットは当初一人2本とお伝えしていましたが、3本と変更させていただき、
3人チームは一人2本、チームとしてはリミット6本で実施させていただきたいと思います。
…まぁ、リミットするチームは出ないと思いますけどね!
―ハッハッハ。
掴みはオッケーです。
じゃあ時間も時間ですし、さっさと始めましょうということでくじ引きでチーム分け。
ハイ、チームが揃ったところから始めていってくださいねー!
…どんどんどうぞー、どんどんどうぞー!
WEST「オカピさん、ニシヒロさんどうぞー、サイトウさん、ミツハシさんどうぞー」
はい、どんどんどうぞー、どんどんどうぞー!
…さぁ、じゃ残ったチームに僕が…。
WEST「…僕、前にビジ夫さんと組みましたよね」
―あれ、なんでWESTさんがここにいるんですか。
WESTさんはイズモトさんと…。
…あ、そうか、二人で仕切ってたら残りはそうなっちゃいますよね…。
WEST「…」
誰かちょっと呼びもど…、
ってもう誰もいない…。
WEST「…」
…。
チームJは、イズモト、WEST、そしてビジ夫です!さぁ行きましょう!
これも次回への反省の糧にすれば良いのです!
…それでいいのか、と言いたげなWESTさんの視線を無視して、早速プランをどうするかの相談です。
―で、先週なんですけどね、僕は新川では釣れたんですけど花見ではダメでした。
ただ、一本だけなんで絶対に新川だと言われると…。
WEST「花見の下流とかどうですか」
…下流ですか、下流ねぇ…。
僕は花見川の下流はほとんど行ったことがありません。
ただ、カバーもあるし流れ込みもあるし、短い距離で変化にも富んでいて、あまりネガティブなイメージはありません。
…僕は…、そうですね、じゃあ、行きましょうか、下流。
自分自身、はっきりと確信があったわけではなかった僕は、ひとまずWESTさんの判断に乗っかります。
イズモト「…僕は全然わからないのでお任せします」
東京からご参加いただいたイズモトさん。
東京からわざわざご参加いただいて、ノーフィッシュでお帰しするわけにはいきませんよね。
じゃあ行きましょう、下流!
ハンドルを下流に向けて、いざ発進です。
…最初、どうしましょうか。
WEST「駐車ポイントから上流方面へ流していきますか」
了解です。
じゃ、最初は流れ込み行きますか。
春夏秋冬、どんな季節でも、どんな状況でも一定の期待値があるのが流れ込み。
最初に入るべきポイントとしては、それほど間違った選択ではないでしょう。
3人でガサガサとポイントに入ります。
下流では一級と呼んで差し支えないポイント。
…流れ込み直下と、近辺の岸際を3人で探りますが、反応なし。
う、ここで出てくれれば先が楽になったんだけども…。
僕のタックルは、巻物用、撃ち物用、遠投用の3本。
撃ち物にはラバージグがセットしてあります。
これで流れ込み直下や、流れ込み近くのカバーを撃ちますが、全く反応がない。
WESTさんはライトリグで流れ込み自体の水路を撃ち出しました。
イズモトさんはやはりスピニングのライトリグで、対岸を探っている様子。
…なら、僕がやるべきは巻物でしょう。
前回からのルールとして、色々なジャンルのルアーを使用して釣果を得たほうが、
一つのジャンルで釣り続けるよりも有利な設定にしてあります。
せっかくのペア戦(このときはトリオですが…)ですから、役割分担を戦略に組み込んでもらいたいというのも意図の一つです。
巻物用タックルにはスピナベがセットしてあります。
標準的な3/8オンスのタンデムウィロー。
流れ込み地点から扇状に探っていきます。
グリグリグリ…
WEST「あ、きた!」
!!
え、WESTさんきた!?
振り返ると、特に釣り上げた様子も無い。
…ん?
WEST「…バレちゃいました。ノンキーでしたけど」
ありゃ、そりゃあ不幸中の幸いというかなんというか…。
でも水路の中に居たってことですね。
WEST「なんか小さい魚を追っかけてるんですよね。でもワームには反応しないんですけど」
見ると、たしかにメダカくらいの小魚がピチャピチャとやっている。
追いかけてるのは…ギル?
バスとしてもそれほど大きな魚とは思えない。
…なんだか、釣れてもサイズが期待できなさそうな…。
WEST「移動しますか」
…うーむ。
良い場所なのは間違いないんですよね。
もうちょっと粘るべきか、早い時間帯で移動すべきか…。
…移動しますか。
一級ポイントで3人ともまともに釣果が出ないということは、
懸念していたように、たぶん、今日はやっぱり渋いんだろう。
いずれにしても、少ない魚を3人で取り合っても仕方がない。
移動しながら、それぞれが自分の魚を探していきますか。
…不吉な香りがします。
過去の大会で幾度と無く嗅いだ、例のデンジャラスなスメル。
しかしまだ始まったばかり。
自分自身のジンクスを打ち破るためにも、ここは移動でしょう!
ポイントを見切ります。
移動しつつ、僕はジグでカバー、浮草を重点的に撃ちぬいていきます。
ジグの重さを変えたり、トレーラーを変えたりと色々と工夫をしますが、しかし全く反応なし。
WESTさんもイズモトさんも、思うように反応が得られず試行錯誤しているようです。
そんな中、ついに、
WEST「きた!」
WESTさんにヒット!!
苦もなく巻き上げていくWESTさん。
…あ、微妙。
キーパーありますか、それ?
ランディングして…、
あ、微妙!それ!
ギリギリ?ギリギリある?
イズモト「ギリギリいってるでしょう!」
ドキドキしながら計測すると…、

…25cm!!
ほんとにギリギリだった!
しかし、初のキーパーです。
ここまで1時間以上は経過していたでしょう。
バスは、いた。
それがわかっただけでも、この一本は大きい!
―リグ、なんでした?
WEST「ネコです」
…ネコかぁ。
根こそぎ釣るからネコリグ、のネコですね。
それでようやくクチを使う状況だとしたら、ジグじゃちょっと強いのかもしれない…。
普段なら、まぁそれはそれで自分にできることをやるだけだと割り切れたかもしれませんが、
何しろ今日は大会です。
自分自身が信じられなくなってきます。
ネコ…、ベイトでもできるかなぁ。
カバンをごそごそ漁ってみます。
…あ、これ使えそう。
取り出したのは、ZBCのマグナムスワンプ。
真夏によく使うストレートワームですが、そのボリュームと針持ちの良さで気に入っているワームです。
これにマス針をセットしてみて…。
さきっちょにシンカーを埋め込むと…。
…お、なんとか投げられる。
投げられるじゃないか!
…早くもブレブレです。
なぜこうも普段ではやらないようなことを大会に限ってやってしまうのでしょう。
大会という特殊な空気がそうさせてしまうのでしょうか。
次に移動したポイントで早速投げてみます。
…投げられる…けど、
飛距離が全然出ない…。
リグ自体も飛距離が出るリグではありませんし、
もともとはスピニングで使うリグですから仕方ありません。
ぐ、もうちょっと、もうちょっとであの縦ストに…。
岸ギリギリから足をもう一歩、踏み出します。
…ぬお、ぬかるみがやばい!
これはいつだったかの二の舞いになってしまう!
左足を安定した足場に起き、右足のみをギリギリまで踏み込んでキャストします。
…なんだか無理な体勢で、踏み出した足が産まれたての子鹿のようにプルプルしていますが、
背に腹は代えられません。
しかし、そうまでした撃った縦ストも全く反応なし。
…ヤバい。
これ、今日本当にヤバい。
いや、でも今までもそう思っていたら釣ってるチームは釣ってたんだ。
それも、えっ?って思うようなルアーで。
どこかしらに打開策はある。きっと。
我に返ります。
ここまでやってきて感じたこと。
やっぱり、先週のプラの時と同じように、カバーにバスは付いてない。
どこにいる?
冬のように、ディープの深いところに潜んでいるのか。
それとも…?
目についたのは浮草。
普通のテキサスやジグで撃ち抜ける厚みではありません。
…そう言えば、大会前の雑談でパンチング用のタックル持ってきてる人がいたな。
もしも浮草の下にいるとすると…。
撃ち物タックルをジグからファットイカに変更します。
これで浮草のキワのギリギリを撃てば、バックスライドで浮草の下に入っていってくれるのでは、
なんて思いつきです。
対岸の浮草の上に乗せるようにキャストし、ズリズリと引っ張ってキワに落とします。
ファットイカが落ちるや、すぐにラインを送って、充分なスライドの余裕をもたせます。
…これで浮草の真下を攻められるのか?
わかりませんが、信じて続けてみます。
…。
……。
不発。
駄目だ。わからん。
今日ホント駄目だ。
帰着時間を考えると、あと1時間できるかどうか。
もう、大きな移動はできません。
花見川でやり切りますか、ということで、そこからはひたすら巻物オンリー。
あわよくば、たまたま回遊しているバスがクチを使ってくれないか、という淡い期待。
しかし、そんな都合の良い話は無いのです。
反応のないままどんどん時間は過ぎていき…、
…ん?WESTさん、なんですかそのワーム。
WEST「これですか?フォールクローってやつです」
―フォールクロー?
え、まんまウルトラバイブスピードクローじゃないですか。
WEST「ウルトラバイブ…?いや、スズキさん(?)というプロがWBC(?)で使った(?)ワームですよ」
…いやパ○リですよそれ。
ウルトラバイブスピードクローのパ○リ。
もう、まんま、丸パ○リですよ。そっくりですもんそれ。
それパ○リっす、完全に。
パ○リ、パ○リと連呼され、ちょっとムッとしたようなWESTさん。
フォールクローでダウンショットをリグって流れ込み付近を攻め始めます。
…いや、たしかにね、ウルトラバイブスピードクローはいいワームですから。
真似したくなる気持ちはわかりますけどねー。
でもそこまであからさまだとちょっと僕も何て言っていいものk
WEST「よしきたーーーーー!!!!」

…参りました。
パ○リだろうが何だろうが、釣れりゃいいのです。
すいませんでした。
しかし残念ながらこの魚はノンキー。
この後も、帰着ギリギリでキッカーが!なんてドラマチックな展開も無く、
むしろ帰着時間に遅刻しかけて滑り込みで戻るハメになり、
相変わらず締まらない主催者の釣行記となってしまいました。
…いや、しかし、先に結果はお知らせしていたとおりなのですが、
今回は今までで最も厳しい大会となってしまいました。
毎度毎度、次こそは釣れるようにと色々考えて日程を決めているつもりなのですが、
どんどんと酷くなり、その焦りがどうも裏目に出ているようです。
これであれば、一年365日、適当にくじ引きででも日程を決めたほうが、
まだ釣れる大会になるかもしれません。
WESTさんが釣ってくれたおかげで、主催枠の面目はなんとか保つことができましたが、
相変わらず相方の足を引っ張るしか能のない僕。
…これは主催としてどうというよりも、
一人のバサーとして、非常にヤバい。
なんとかとにかく、キーパーを一本確実に獲ること。
次回はこれを目標にやっていきたいと思います。
最後に、ご参加いただいた皆様、改めてありがとうございました。
これに懲りずに、次回もまたよろしくお願いします。
僕自身も精進して、次こそはお役に立てるようにがんばります。
それでは、また次回、ごきげんよう!!
…ガックシ
2013/9/28(土)
晴
弱風
気温:12→25度
水温:19度
アタリ:0
バラシ:0
ゲット:0
写真はミツハシさんのビッグフィッシュです。
本湖近くの水路で釣り上げたとのこと。
お見事でした!

