自らの誇りと欲望を乗せ、乾坤一擲の直リグは無残にも打ち砕かれた。
疾り抜ける戦慄と恐怖。
ノーフィッシュの悪夢が脳裏を過る時、ビジ夫が祈るは神か、悪魔か。
―次回、「新川・脱出」
ということで前回の続きです。
風と謎の濁りに翻弄された二人はほうぼうの体で、やってきたのは花見川の最下流です。
「下流にしましょうか」
とは、かいてんさんの提案ですが、僕もそれには大賛成。
理由は二つ、一つはこの新川や支流の異様な茶濁り。
もしも、この濁りが今日の「おかしいぞ」という原因になっているとしたら、
花見川も同じ状況になっている可能性があります。
そうだとしたならば、経験上、こういった突然の変化に真っ先に影響を受けてしまうのが上流です。
そして下流に下っていくに従って、ゆるやかに影響が緩和されていくのがいつものパターン。
ということは、最下流からスタートして上流に遡っていくのが一番効率が良いように考えられる。
もう一つの理由は、単純に選択肢が一番多いエリアだということ。
ポイントが多く、バラエティに富んでいて、やれる範囲が広い。
腰を据えてじっくり一本を狙うには、ここが一番良いでしょう。
―エリアを切り替えるこのタイミングで、考え方自体もガラリと変えないといけない。
先入観は捨てましょう。
このエリアで、去年の同じ時期はこうやったら、釣れた、なんて
―やめましょう、これは。
今日はきっと、ちょっとだけ、何かが「ズレ」ている気がする。
下流に降り立って気温を確認します。
―蒸し暑い。
風が強いぶん、実際の気温ほど体感温度は高くないのでしょうが、
それでも、25度を超えているのは間違いないでしょう。
さて、花見川の下流ですが、ここの護岸は整備されているわけではありませんが、
葦が生え放題となっている新川と違って、入ろうと思えばそれなりにどこでも入ることが可能です。
選択肢が広がるだけ、逆にこれまでよりも考えることが必要になってきます。

相変わらず雰囲気のあるエリアです。
―さて、ひとまず今までのことは全部リセット。
最初はどうしてくれようか。
か「そこシャローあるんですよ。やってみますか」
シャローですね。新川のシャローには全く魚ッ気が無かったですけど、
まずはリセットですもんね。
ガサガサと草をかきわけて岸に降り立ちます。
水を覗くと、新川よりもだいぶ透き通っている。
今日まわった中では一番の水質です。
―水、綺麗ですね。なんででしょう。
か「新川は田んぼと直結ですけど、ここらは生活排水ですからね」
―なるほどねぇ。
うなずきながらシャローを見渡します。
…が、やはり、目に見える場所に魚はいません。
か「ブレイクなんかを巻いて、ガツンときたら最高ですよね」
かいてんさんの言っている意図がわかります。
今日、本当ならシャローに上がりたいバスが、
何かの理由で、上がりきれてないのではないか?
そうしたバスは、ひょっとしたらシャローにつながるブレイク周りをサスペンドしているのではないか?
スピナーベイトを手に取ります。
ブレイクがあるであろう方角にキャスト。
コツコツと底を感じながら、ベタ底を引いてきます。
…少し抵抗が強くなりました。
―そろそろブレイクかな?
思った瞬間、
ガガッ!!!
!!!
沈みモノ…、
じゃ、ない、魚だ!!
まさかの一投目。
ブレイク際で、魚とラインが底の岩場をスレている感触が伝わってきます。
…ヤバい、早く浮かせないと。
ロッドを立ててゴリ巻きます。
か「…あれ?ビジ夫さん、何か引っ掛けたんですか?」
かいてんさんが何か言ってますがそれどころではありません。
ロッドに伝わる、生き物の感触と、正反対の固形物にぶつかる感触。
―まずいか?何かに潜られてるか?
信じて巻き続けます。
やがて感触がフッと軽くなると、
バシャア!!!
水面を踊る魚。
よかった、シャローまで巻いてこれた!
か「ええ!!?魚!?まじっすか!!!!!」
―マジですよ!マジマジ!!!
か「かかったんなら何か言ってくださいよ!何も言わないから根がかりか何かだと思いましたよ!」
―必死だったんですよ!今もですけど!
言い合いをしているうちに岸際に寄せてきます。
…う、スピナベが真っ直ぐになっちゃってる。
抜けるか?大丈夫かこれ?
か「抜いちゃえ!!」
―抜いちゃうか!
いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!

いよっっしゃああああああああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!
初バスゲット!!!
35cmくらいか。いやー、よく喰った。よく喰ったよ。
か「言ったとおりじゃないですか!狙い通りですよ!ブレイク巻いたんでしょう!?」
かいてんさんも嬉しそう。
確かに、こうやって思い通りに釣れると「釣った!」という達成感がハンパじゃありません。
なるほどね、やっぱりそういうことなんでしょうね。
いつもならシャローに居るべき食い気のある魚は、シャローに上がりきれずに少し沖目の近辺をフラフラしてるんでしょう。
そんな魚を拾うためには、撃ちじゃ効率が悪すぎる。
巻物で、線の攻めで行くべきだったんでしょう。
なるほど、なるほど。
時間を見ると、1時過ぎ。
半日を要して、ようやく手がかりを得ることができました。
しばらく同じパターンで攻め続けるも反応が無く、このポイントを見切って移動します。
―ただ、
残念ですが活性が低いのは間違いないのでしょう。
いつもなら餌を取りにシャローに上がりたいところを、
何かが上がらせない、その理由はなんなのでしょうか。
うーむ、と考えながら、やがて次のポイントに到着しました。
次のポイントは橋脚とシャローが絡んだ見るからに好ポイント。
普段なら絶対にフィーディングの魚が入ってくると思わしきポイントです。
さっきと同じパターンなら、シャローのその先のブレイクを流したくなります。
…しかしそこは船橋あたりで天邪鬼ぷりに定評のある僕としては、
ブレイクはいったん保留して、橋脚周りを攻めることにします。
風の強さを計算し、風の裏側に当たる橋脚に、糸フケを出し気味に投げて橋脚を直撃し、ラインフリーで直下に落とします。
ロッドを立てるとラインが表層の風に流されますので、キャストしてすぐにラインは水中に沈めるようにします。
…これは房総ダムの岩盤撃ちで学んだテクニックですが、
おそらく、河川の橋脚を攻める場合も役に立つはずです。
ラインテンションはフリーですので、ロッドでアタリを感じることはできません。
ラインを凝視して、違和感を見逃さないようにその瞬間を待ちます。
…反応なし。
今の、結構いいところに投げられたと思うんだけどな。
これで反応無いなら、多分、縦ストラクチャにも付いてないな。
仕方がない、じゃあ回収して次はさっきのブレイクを…、って、
あれ、かいてんさんがやってる。
か「おし喰った!!!!」
!!!!
僕が暖めてたブレイク!!!!!
僕が暖めてた…、

…ナ、ナイスフィッシュ。
いや、かいてんさん、一本は一本ですから。
それルアー何ですか?
ステルスペッパーの70mm?
同じくらいの大きさ?
…いや、一本は一本ですから。
この状況ですし、ナイスフィッシュですよ、かいてんさん。
若干気まずい空気の中、ポイントを移動します。
―さて、どうしましょうかね、かいてんさん。
時間はいつの間にか3時を回っています。
このまま上流方面へ突き進むか、引き返して最下流を攻め直すか。
気がつけばこの辺りは既に中流と呼ぶべき場所に差し掛かっています。
か「この先のポイントで様子を見て決めますか」
了解ですが、何か、遡るにつれて水が汚くなってる気がするんですよね。
か「ですね、下流のほうが水キレイですね」
下流のほうが可能性が高い気がしますが…。
…まぁでもせっかくですから、中流の様子も見てみますか。
ポイントに入ります。
すると先行者の姿が。
…ありゃ、やってる人いましたね。
ちょっと状況聞いてみますか。
先行者に話しかけます。
―こんにちは、釣れてますか?
「ダメですね。普段ならそこのシャローにバスが上がってるんで」
「気付かれないように投げれば釣れるんですが、今日は上がってないですね」
「今日くらいの状況だったら釣れるんですけどね、理由がわからないですね」
…ああ、新川と一緒のパターンだ。
やっぱり花見川も一緒か。
かいてんさんと視線を交わします。
こりゃ、戻ったほうがよいぞ。
―ありがとうございました、がんばってください。
御礼を言って、下流へ引き返します。
―やっぱり、上流、中流は変な影響を受けてるんでしょうね。
後は下流でやり通して、今日は終わりにしますか。
二人ともボウズではないですしね。
駐車スペース近くに引き返します。
…しかし、今日は結構歩きましたね。
20km近く歩いてるんじゃないですかね。
運動不足の中年サラリーマン、たかが釣りとは言え、
やってる、やってないでそれなりに健康に違いがあるかもしれません。
そんなことを考えつつ、下流の橋近くで最後の勝負です。
かいてんさんはスイムベイトを選択したようです。
僕はスピナーベイトでブレイク近辺を攻め続けます。
―今日は岸際は不正解、沖目のブレイクが正解かと思いきや、
ここまで攻め続けて、結局は最初の一本だけ。
完全な正解じゃなくて、「岸際よりはベター」な60点の答えだったのかもしれない。
難しいな、バス釣りは。
なんてことを考えていると、不意に後ろで
バシャアアアア!!!!!
突然の水音。
振り返ると今まさにロッドを抜きあげたかいてんさんと、宙を舞っているバス。
―え!?
かいてんさん、釣ったの!?
釣ったというか、なんというか、「放り投げた」という表現がぴったりくる。
―どんな状況で釣った!?
か「いよっしゃあああああああああああ!!!嬉しいいいいいいいコレ!!!!!」
―かいてんさん!釣ったんですか!!
か「釣れました!やりました!」
―おめでとうございます!どんな状況で…
と、聞きかけた瞬間。
???「おおー!!!釣りおった釣りおった!!!!」
ん?
???「こないだよぉ、同じとこでよぉ、釣ってたやつは20cmくらいだったのよぉ!!」
…。
誰?
声の方を見ると、興奮状態の、何やらご年配の方が近寄ってきます。
爺「ほらぁ!写真撮んなきゃ!写真撮るんだろう!こういうときはぁ!」
…どうやら、岸辺の畑で野菜を栽培することを趣味としているお爺さんのようです。
か「いよっしゃああぁぁぁ…、きましたよぉ…、ビジ夫さん…。デビルスイマーですよ」
爺「写真もよぉ!何かタバコか何かよぉ!一緒に写さねぇと!!」
か「ちょっと沖目に投げてゆっくり巻いたらチェイスしてきたんですけど…」
爺「でっかくてもよぉ!タバコか何か一緒に入ってねぇとよぉ!大きさがわかんねぇだろう!」
か「途中で見失っちゃったみたいで、見切られたかなと思ったんですが」
爺「タバコが入ってねぇとよぉ!20cmも40cmもわかんねぇから!」
か「そのまま留まってキシミテールになったんですよ、だから直リグをリグろうとして」
爺「信用してくんねぇから!タバコが入ってねぇと!」
か「目を離しているうちにいなくなっちゃったんですよ。だからもう一度デビルスイマーにして」
爺「せっかくでっかいの釣ったんだからよぉ!忘れねぇうちにタバコ入れねぇと!」
か「巻いてきたら岸から飛び出して喰ってきました!!かかりが浅かったんで喰った瞬間ぶち抜きました!!!」
爺「大きさわかんねぇから!写真は!タバコか何か入れねぇと!」
…どっちに乗っかったらいいのかわからない。
かいてんさんには申し訳ないのですが、急激に上がりかけた僕のテンションは急降下。
やっぱり、ここはまず、かいてんさんと喜びを共有してお爺さんを無視すべきか。
それとも、せっかく親切心でアドバイスをくれている地元のお爺さんだ、お爺さんの相手をすべきか。
とまどっているうちに、
か「…あ、メジャーあるんで大丈夫です」
…かいてんさん、ちゃんと聞いてた。
律儀だな。
お爺さんも、お、おう…みたいになっちゃってるし。
自分でも理由がよくわかりませんが、何故かちょっと心が傷んだ僕だったのでした。
早速、メジャーで計測してみます。
…44cm!
45には届きませんでしたが、しかしスポーニングに絡んでいない良い魚です。
タバコ推しのお爺さんも満足気です。
…やるなぁ。
要因はなんでしょうか。
リアクションではなく喰わせのルアーを選択したこと。
ライトリグではなくビッグサイズのルアーで巻くことを選択したこと。
夕マズメに差し掛かっていたこと。
水面に光が落ちて、おそらくバスから逆光になっていたこと。
風が吹いていたこと。
きっと、色んな要素が絡んだ結果でしょう。
そしてきっと、一つ一つの条件に対して満点の回答でなかったとしても、
一つ一つの条件に、例え60点でも正解に近い選択肢を選び続ければ、
それはきっと、こうやって結果になって返ってくるんでしょう。
条件が悪い、と一言で言うのは簡単ですが、
しかしその悪い条件の一つ一つに、丁寧に答えを返し続けること。
当たり前なのですが、大事なことだとあらためて実感した僕だったのでした。

「写真を撮るならタバコと一緒」、
お爺さんも一緒に記念撮影です。
…さて、初バスも釣ったし、僕も早いところ40アップを釣らなければ。
日の傾いた花見川を後にして、そんなことを考えつつ、心地良い疲労の中、帰途につきました。
2014/5/25(日)
曇
強風
気温:25度
水温:22度
アタリ:2
バラシ:0
ゲット:1
…唐突ですが、westさんのブログで今年一回目の大会の告知が出ています。
日程は7月5日。
梅雨まっただ中であることが予想されますが、雨天決行です。
どしどしとご参加のご連絡をお待ちしています。






