初心者が行く!印旛新川ベイトでオカッパリ -10ページ目

初心者が行く!印旛新川ベイトでオカッパリ

バス釣りド初心者の中年バサーがベイトオンリーで印旛新川に挑みます。

朝晩は冷え込むことも増えてきて、そろそろ最低気温も一桁が珍しくなくなってくるのでしょう。

全然関係ないですが僕の会社は10月いっぱいまでがクールビズで11月からはウォームビズに入ります。

ビジ夫です。こんばんは。


さて、前回の琵琶湖釣行からの週末は、毎週のように釣りに行っていました。


もっとも、友人と






シーバス




だったり、あるいは家族で堤防に出かけて






イカ



だったりしたのですが、秋という季節は様々な釣り物がピークを迎える、本当に良い季節ですね。







…いやいやいや。

そんなことをやっている場合かと。

気が付けば印旛水系大会ももう目前、練習に行かねばと思いたったのが10月も半ばを過ぎた頃です。


10月18日、久しぶりに気合を入れて早起きした僕は、新川下流域の岸際に立っていました。






…こんな書き方をしている時点で結果はお察しなのですが、

そこには海よりも深い事情があったのだということを僕はここに記しておきたい。



岸際に立ち、さて、では何から始めるかと思案した僕は、

ひとまずスピナーベイトでざっくりと探っていくことに決め、オカッパリカバンを開いたのでした。






…おや。

ルアーケースがない。


それどころかワームの一袋も入っていないではないか。



これはどうしたことだ、まさか置き引きや車上荒らしの類か…?


悪い想像をしかけて、しかしその時には僕は半ば思い出しています。




―そうだった。

琵琶湖釣行の時にフローターバッグに入れたままだった…。





…。




今日持ってきたタックルはMHとXHの2本。

MHにはジャークベイトが、XHにはビッグベイトが、琵琶湖から付けっぱなしになっています。



―しまった、Mにはたしかヘビダンだかヘビキャロだかを付けっぱなしにしていたはず…。


それを持ってきていればまた少し違った展開になったかもしれませんが、

しかし「今日は強めにいってみるか」などと考えてこの2本しか持ってこなかった挙句がこのザマです。




―いったん家に戻って詰め替えてくるか?


…チラリと考えはしたものの、それではせっかくの早起きをフイにしてしまいます。

横着という単語の生きた権化である僕としては、希少な努力をみすみす無駄にしてしまうことは看過しがたい。




…それでもジャークベイトが付いているのが幸いだった。

これでやり通せば、まぁ、一本くらいは何とかなるだろう、きっと。










何とかなるわけがないのです。








そんなわけで書くべき釣行記もなく、それじゃ久しぶりにバス釣りに関係のあるようなないような、

そんな徒然でも綴ってみようかと、むしろちょうどよかったわいなどと、

何がちょうどよいのか自分でもわからないながら、酒を飲みながらこの文章を書いているというわけなのでした。




ということで、唐突に書き始めますが今回言いたいのは「分からない人に分からないことを伝えるのは難しい」ということ。


以前にも書いたことがありますが、僕は酒の席で釣りを全く知らない人間に対してひたすら釣りの話を繰り返し、

そのうんざりとした反応を楽しむという異常な性癖の持ち主なわけでして、

職場でも頻繁に飲みに行く飲み仲間たちの間では既に知れ渡っていることではあるのですが、

先日、ご一緒した「とある先輩」とのやり取りを書いてみたいと思います。



その「とある先輩」は僕と20ほども歳の違う、言わば大先輩と言って差し支えない方なのですが、

非常に高い知識とスキルをもち、エンジニアとして尊敬に値する先輩です。


今まで、その方と仕事で接点を持ったことは何度かあるものの、お酒の席をご一緒するのはその時が初めてで、

僕は例によって調子に乗り、場の空気を無視して一方的に釣り談義を始めたわけなのでした。


ところが、「また始まったよ」というその他大勢の反応に逆らうように、「とある先輩」は意外にも僕の話に興味を持ったように見えました。





…少し話が逸れますが、今までにも酒の席で僕の釣り談義に乗っかってきた人間はいます。

ところがその多くは部長だとか本部長だとか、いわゆる会社のラインに属する人間たちだったわけで、

彼らの反応は、


「で、君はその趣味のどういったところに興味をもったのかね」とか、

「それに対してどのように努力してどういう結果になったのかね」とか、


要するに彼らとしては釣りというものに何かしら興味をもったというわけではなく、

趣味を通した僕の価値観だとか、人間性だとかを判断しようと食いついてきているわけで、

つまり会社の採用面談と一緒です。


20代の若造だった頃とは違い、社会の酸いも甘いも理解しつつある僕ですから、そういった意図にはすぐに気づいてゲンナリとするわけですが、

その「とある先輩」にはそういった意図もなく、単純な好奇心から僕の話に食いついてきているように思えました。

その時の会話を、なるべく正確に覚えている範囲で書いてみたいと思います。


…お酒の席の、しかも回りきった頃の会話ということで、僕の発言も支離滅裂になっていますが、そのあたりは事情を斟酌いただき、ご容赦いただければと思います。








僕:…というわけで、朝の4時から夕方の6時までやってもボウズとかザラなんですよ。


先輩「ボウズ?」


その他「釣れなかったってことでしょう」


先輩「ああ」


先輩「なんでそんなマゾみたいなことするの(笑)」


僕:釣りには当たり前なんですよ。昔から一日一寸と言いましてね。


先輩「はぁ?」


僕:いや一寸て3㎝くらいじゃないですか。30㎝の魚を釣るには10日通わないといけないという。


先輩「いやだからなんでそんな趣味がいいの(笑)」


その他「普通、3日目にはやめちゃいますよね(笑)」


僕:考えるのが楽しいんですよ。釣れるのはただの結果というか。


先輩「釣れない間に色々妄想するってこと?」


僕:どうしたら釣れるのか考えるんですよ。


先輩「そうすると釣れる(笑)」


僕:考えてもだめなときもありますけど。


先輩「だめじゃん(笑)」


その他「(笑)」


僕:いや、そりゃ釣れたほうが嬉しいんですけど、それは結果というか。色々考えるのが楽しいというか。


先輩「わかる?」


その他「わからない(笑)」


先輩「考えても考えなくてもやることは一緒なんでしょ?仕掛けを投げて待つという」


僕:そうですけど、違うんですよ。


先輩「例えば?」


僕:風とか。


先輩「風(笑)」


その他「風を考えると釣れる(笑)」


僕:いや、だめなときもありますけど。


全員「ダメじゃん(笑)」


先輩「整理していい?つまり、釣り人は釣ることが目的じゃないということなんだ」


僕:いや、釣ることが目的ですよ。


全員「(笑)」


先輩「釣ることが目的だけど、釣れなくても楽しいということか」


僕:まぁ、そんな感じです。


先輩「わかる?(笑)」


その他「わからない(笑)」







…今にして思えば、きっと先輩の想像する釣りとは例えば「ヘラブナ釣り」のような釣りをイメージしていて、

それに対して僕がイメージする釣りは30秒間隔で一投するバスフィッシングですから、そういったそもそものギャップがあったのかもしれませんが、

しかし、それにしても知らない人に思いを伝えることは難しい。


次にまたご一緒する機会があれば、その時こそ、釣りの魅力を理解してもらえるように全力を尽くしたいと思う僕だったのでした。




…さて、すでに何回かご案内しているように、11月7日(土)に第八回目の印旛水系釣り大会を実施します。

Westさんのブログにて募集を行っていますので、ぜひたくさんのご参加がいただけますよう、ご検討をお願いいたします。


釣りはするけど常に一人でたまには友人と釣りがしてみたい、とか、最近マンネリで新しい刺激がほしい、とか、

そういった思いをお持ちの方々、この機会にいかがでしょうか。


大会と聞くとなにやら敷居が高そうですが、釣らないことに関しては主催者である僕自身もそれなりの実績を誇っているものでもありますので、

釣果は気にせず、気楽にご参加いただければと思います。


それでは、皆さま11月7日にお会いしましょう。

単に「琵琶湖」と聞いた時、人々が思い浮かべるイメージはなんでしょうか。


滋賀県にあるということでしょうか?

日本一の湖であるということでしょうか?


あるいは、人によっては「鳥人間コンテスト」なんて言葉が出てくるかもしれません。



おそらく、一般の方々が思い浮かべる琵琶湖とは、なんとなく漠然としたイメージをもつものなのではないか、と想像するのですが、

一方で、世の中の「とある人種」に属する人間にとっては、そのイメージは非常に明確なものです。



「とある人種」が思い浮かべる琵琶湖とは、200馬力のボートをかっ飛ばし、手のひらよりも大きなルアーをブン投げ、10kgを超える巨大な魚を釣り上げて、どやー!と写真を撮るという、

それが琵琶湖というものだと、「とある人種」は主張するでしょう。



そして、「そうだ、それが琵琶湖というものだ」と同意した、とある人種こと関東バサーに属する僕は、そのイメージを実現するために釣行の用意を進めていたというわけなのでした。





「関東とはアベレージが全然違うよ、釣れりゃ大体40アップだから」


…琵琶湖を訪れた人は皆そう言います。


が、その人には琵琶湖まで遠征して魚を釣ったという興奮もあるでしょう。

そもそも関東とは釣り方が違うという向きもあるでしょう。


そういった要素を考慮して、多少話を割り引いて考えたとしても、アベレージは10cmほどは違うと考えてもよさそうです。



…25cmが35cmになるということか。あるいは、40アップを釣る感覚で50アップが釣れるということか。




…とんでもない話です。

しかしそういうことならば、それを前提にした釣り方というものを考えていってもよいのではないでしょうか。


ワームならば、4インチ以下は置いていってもいいでしょう。

ハードルアーであれば、3/8オンスに満たないルアーに用はない。

ラインは極力太くしたほうがいいでしょう。

持っていけるロッドが3本なら、持っているロッドの中から強い順に3本持っていって間違いないのではないでしょうか。


…こうしてタックルを整理した僕は、未だかつて無い高い目標を胸に、琵琶湖への釣行に臨んだわけなのでした。







前回の続きです







岸際までフローターを運んだ僕は、一息ついてあらためて湖を見やります。


目の前にあるのは水と空と雲。

上空にはトンビが舞い、水面ではカワウがしきりに水中を気にしています。


琵琶湖は日本でも屈指の生態系を誇る、生命の宝庫であるとも聞きます。

一日水面に浮かべば、きっと多種多様な生物と触れ合う機会もあるでしょう。


オカッパリの邪魔にならないように、距離をとってからエントリーしようと、周囲の様子を探ります。

左手側には一人のオカッパリがいて、その手には2本のバスロッドが…、






…おや?


あれはひょっとして、スピニングタックルではないだろうか。

僕の目の錯覚なら良いのだけれど、あれはもしかしてスピニングタックルと呼ばれているものではないだろうか。


…思わずサングラスを外してオカッパリを凝視しますが、やはりスピニングタックルに間違いありません。

しかも手に持った2本が2本ともスピニングタックルとはどういうことか。

関東のオカッパリだって、2本持っているならば片方はベイトタックルというのが普通ではないか。



…一瞬、来た場所を間違えたかと妙な心配をしましたが、

間違いのはずはないのです。

目の前に広がる広大な湖は琵琶湖でしかあり得ないのです。



―スピニング、で、琵琶湖??


僕の琵琶湖バサーのイメージとして、ことごとく極太のベイトタックルを持参しているに違いないと勝手に思い込んでいたのですが、

これは一体どうしたことでしょう。


…もしや、関東の激渋フィールドをホームとしているフィネスの達人が、

その周辺ではフィネス神として誉れ高い職人芸の持ち主が、

どれ、ひとつ揉んでくれようかと、僕と同じように琵琶湖まで出陣してきたと、そういうことでしょうか。


顔色一つ変えずに次々とバスを仕留めていくその姿から、「房総のアイスマン」とまで呼ばれた伝説のフィネサーが、

2年間の沈黙を破っていよいよその狙いを琵琶湖に定めてやってきたと、そんな尋常ならざる事態だということでしょうか。



…しかし振り返って駐車場を見やると、アイスマンのものと思われる車のナンバーはしっかりと「滋賀」ナンバーです。




軽く混乱する僕。



…何やら不穏な気配が漂ってきましたが、無理矢理それを振り払うと、僕はそれを見なかったことにして、静かにエントリーを開始したのでした。



岸を蹴って、水中へ。


いよいよ、僕にとって記念すべき一日が始まります。



気温は22度。

水温もおそらくその程度でしょう。

西の方に位置しているだけあって、まだこのくらいの時期では夜もそれほど気温は下がっていないのかもしれません。


水質は…、





―案外、汚い。


もちろん、地元の印旛水系と比べれば、比べる事自体が失礼なほどの水質ではありますが、しかし、河口湖や桧原湖を経験している僕にはやや意外なほど水が濁っています。



―とはいえ、逆に透明度が無いほうがいいのかもしれない。

このくらい濁っていたほうが、バスの警戒心も和らいでいるでしょう。




岸から50mほど沖に出ましたが、水深はあまりなさそうです。

おそらく2mちょっとというところでしょうが、ブレイクは果たしてどのあたりにあるのでしょう。


岸際からゆるやかに続いているシャローは底が全体的にウィードに覆われていて、巻物で底付近を泳がせることは難しそうです。



…この時期に2mは浅すぎるか。もう少し沖の水深のあるところをやってみたい。


スイムベイトでざっくりと反応を確認しながら、沖へ漕ぎ続けます。



…10分後。

撃ち物のリグを投げて、また水深を確認してみます。



…あれ。

やっぱり2mちょっとくらいしかない。

さっきから全然水深が変わってないってこと?


…岸を見ると、岸際に立っている人が確認できない程度には沖に出ています。





―これで水深2m?


琵琶湖くらいの規模になると、ブレイクに到達するまでに何百mも沖に出なければならないのか?


…とたんに不安になります。


今日はやや風が強く、水面も波が立っています。

ボートならともかく、フローターでここまで沖に出ること自体が危険な行為ではないでしょうか。



…引き返すか。


我ながらやむを得ない判断だとは思いますが、同時にこの判断は、今日一日を水深2m程度のシャローエリアだけでやり通すということになります。


とはいえ、この周辺が悪いポイントだとは思わない。

時期が時期ならフィーディングの魚が入ってきてもおかしくありませんし、そういった実績があるからこそオカッパリの有名なポイントになっているのでしょう。


しかし、この時期にはどうなのでしょうか。




―このポイントに来るなら、もう少し早い時期のほうがよかったかもしれない。




そんなことを考えながら、やむなく岸側に引き返します。



岸から100mほどまで戻ってきて、さて、では早速本格的に魚をねらっていきましょう。

水深はざっと2m。

底はウィードに覆われていて巻物には辛い。


トップか、水面直下を探るようなルアーか、

あるいはワームでウィードの上をズルズル引っ張ってみてもいいかもしれません。

去年までの僕なら、そのいずれかを選択してやってみたことでしょう。



…ところが、今年の僕には新しい武器があるのです。


そうです、ジャークベイトがあるのです!



あまり潜らない、フローティングタイプのジャークベイトを使って、

この広大すぎるシャローをテンポよく探っていってみましょう。



さっそくMHのタックルにジャークベイトを取り付けると、岸の方向に向けてキャストします。





…ジャッジャッ!




…ジャッジャッ!





いい具合に水面とウィードの間を攻められているような気がします。

この、「気がする」というのが僕にとっては非常に重要で、自信をもって投げることが実際の釣果にも繋がっているように思えます。


ふと空を見上げると天は高く、いつぞやの桧原湖のように天気に苦しめられることはなさそうです。

晴れ空にたなびく風は、上空を舞っているトンビにもさぞ心地がよいものでしょう。


僕は気分よく、ジャークベイトを投げ続けます。





…ジャッジャッ!




…ジャッジャッ!





ふと、前方を見ると先ほどのトンビがぐるぐると周囲を旋回しています。




…あれ、

さっきのトンビ、ずいぶん低く飛んでるな。

獲物を見つけたのか?てことはこのあたりにベイトがいるということか…。



…上空を舞っていたはずのトンビがゆっくりと高度を下げてきます。

やがて狙いを定めたのか、一気に急降下して水中に脚を突っ込みます!







―おお!!

とらえたか!!




遠目でよくわかりませんが、あきらかに脚には何かを掴んでいる。

野生のトンビが獲物をとる瞬間を、こうも近くで見れることになr…?





…ガガガガガガ!!!!




手に持っているタックルに強烈な振動が伝わってきます!


―魚!?

とんでもないアタリ…、




が…、













え?







手に持っているタックルの先、ラインは水中ではなく上空に向かって伸びています。

その先には…、




とっさの事でなかなか状況に頭が追いつきませんが、ここにきてようやく僕は理解しました。


さっきのトンビが持っていったのは僕のジャークベイトで、僕は今まさに凧あげならぬトンビあげをしている状態にあるということを。











…この状況は一体なんでしょう。



広大な湖に小さなボートのような浮き輪のようなものを浮かべている人が、天に向けて釣り竿を振っている。

釣り竿の糸の先には何故かトンビがくくりつけられていて、トンビに浮き輪を引っ張ってもらっているようにも見える…。



一目見て、この状況を正確に理解できる者はいるのでしょうか。



僕がもし傍観者の立場なら、「これは琵琶湖発の、何か新しいスポーツなんだろうか」くらいに勘違いをしたかもしれません。

しかし残念ながら僕は傍観者ではなく当事者で、これがスポーツでもなんでもない、信じられないようなトンビの勘違いによって発生した事故であることを知っています。


その当事者である僕に対して、岸に立っているオカッパラー達から、一体何事が起こっているのかと熱い視線が注がれています。

僕は耳まで真っ赤にしながら、「いや違うんです」と、「とにかく違うんです」と、何がどう違うのかさっぱりわからないながらも、一人一人に説明して回りたい衝動を抑えつつ、急いで思案を巡らせる必要がありました。




―もし、ここでラインを切りでもしたら、コイツはルアーもラインも絡まったまま、いずれは死んでしまうだろう。

かといって、ルアーを外すためにはどこかに着陸させなければならない。



…しかし岸の方を見やると、ここからはあまりにも距離が離れすぎています。

そこまでこのトンビがおとなしく空を飛び続けてくれるとはとても思えません。


―どこか近くに、不時着させられそうな場所は…、



グルリと周囲を見渡すと…、



…あった。

ウィードが重なって浮島のようになっているポイント。


ここしかない。




…ゆっくりと、少しずつ、トンビに無理な負担をかけないように浮島へ移動していきます。

ケェーッ!と、声をあげて空中で抵抗するトンビ。


―分かっているよ、お前も必死だろうが僕も必死だ。

絶対助けてやるから、お願いだからおとなしく従ってくれ!



…祈りながら足を漕いでいくと、ゆっくり、ゆっくり浮島が近づいてきます。

さて、近づいたところで、次はどうすればよいだろうか。


なにしろ水中から地上へ生き物をランディングさせた経験は数あれど、

天空から地上へ生き物をランディングさせるようなことになるとは、つい5分前まで考えてもいなかったことです。



…ゆっくりとラインを巻き取っていくべきか…、

考えているまさにその時、急激にトンビがバランスを崩しました。




―あっ、落ちる!


とっさにラインを手でたぐり、浮島へ落ちるように誘導します!




…バスッ



乾いた音とともに、トンビは無事に浮島へ着地しました。








―オッケェェェェェェェイ!!


思わずガッツポーズをする僕です。


さぁ、しかし、これでようやく第一段階をクリアしたに過ぎません。

次はいよいよ、トンビの足に絡まっているジャークベイトを取り除かなければなりません。


トンビはどこか覚悟をしているのか、僕が手をのばしても特に暴れる様子はありません。



…爪、するどっ!



…思わず口に出してしまいましたが、何しろ生きた野生の猛禽類とここまで間近に触れ合うことなど動物園でも無理な話です。

クチバシもまたエグい曲がり方をしていて、これで魚やらネズミやらをバラバラにするのかと想像すると、ジャークベイトに伸ばす手にも緊張が走ります。



不幸中の幸いというべきか、どうやら足に刺さっているフックは一本だけ。

―よかった、これなら簡単に外せるはず。



グルグルと絡まったラインを慎重にほどき、ジャークベイトを手に取ります。

落ち着いているながらも、視線は僕から外さないトンビ。



―…ちょっとだけ、我慢してくれよ!


…ズボッ!




…取れた!




ラインからもルアーからも無事に解放してやって、いまだ大人しくしているトンビからゆっくりと距離をとります。


10mほど離れたところで、トンビはゆっくりと身を起こし、両の翼を大きく広げました。




…バサッ!!




―飛んだ!






―良かった、どこか骨折でもしているんじゃないかと心配したけれど、どうやら大丈夫らしい。

サングラスを外し、汗を拭ってフローターの背もたれに寄りかかります。



―やれやれ、大変な目にあったけど、しかし、さすがに琵琶湖だ。

釣れる外道のクオリティも、地元とはだいぶ違うわい。



ペットボトルのお茶をぐいっと喉に流し込んで、文字通り一息ついた僕だったのでした。








…さて、釣りを再開しようかと思いますが、しかしジャークベイトはもう怖くて投げられない。

自分でも思いもよらない理由で封印されてしまいましたが、しかしそれならどうすべきか。


当初の考え通り、トップにするか、あるいはワームで…、









浮島




…目の前には、さきほどトンビを不時着させた浮島が広がっています。

浮島はそれなりの広さがあって、ひょっとしたらこの下にバスが潜んでいるかもしれません。



―パンチング?



今までまともにやったことのない釣り方を、ここで初めてやってみる?

幸い、フローターバッグの中には1オンスのバレットシンカーが入っているけれども…。



―まぁ、時間はたっぷりある。

思いついたことはなんでも試してみよう。



XHのタックルからスイムベイトを取り外し、1オンスのバレットシンカーとストレートフックをセットします。

シンカーはペグ止めでビタビタに固定して…、


聞きかじりの知識を思い出しながら、リグを作ってみます。



―これで大丈夫か?



試しに目の前の浮島に向けてリグを放り投げてみますが、

ドスッ!と勢い良く着地したものの、厚みを貫くには至らない模様。


ならば、と、ほぼ真上にキャストして、勢いをつけて着地させてみます。




…ズボッ!!




―貫いた。

なるほど、これは気持ちがいい。



リグを回収して、もっと厚みがありそうな箇所に、さらに勢いをつけて着地させてみます。




…ズボボッ!!!





―いい!!






そこからしばらく、バスを釣るよりも浮島を貫くことに夢中になりながらキャストを続けますが、

キャストごとに「凄い」とか「いい」とか呟いていたもので、

他のバサーから見れば、一投ごとに怪しげな呟きを発する中年男など恐怖以外の何者でもなかったでしょうが、

幸いにもそれに気がつくことのなかった僕は、飽きるまでパンチングをやり通すことができたのでした。





ひとしきり満喫して、どうやらこの下にはいないらしいと気がついた僕は移動を開始します。

進行方向のはるか先を眺めると、ぼんやりと漁港らしきものが目に入ります。


漁港はコンクリートの壁によって囲まれていて、あそこであれば岩盤撃ちに近い攻め方ができるのではないでしょうか。


思いついた僕はオールを手にとり、気長に長距離移動を開始しました。




…移動を続けながら、ふと、沖の方に目を向けると非常にたくさんのボートが浮かんでいます。

本格的なバスボート以外にも、レンタルボートと思われるものが多いということは、きっとこの近くにボート屋さんがあるということなのでしょう。


レンタルボートに乗っているバサーを観察すると、地元千葉の亀山や高滝とはだいぶ客層が違うことにやがて気が付きました。

親子連れやカップルと思われる二人組など、ほぼ全てのレンタルボートは複数人で乗り込んでいます。


さらにその全員がボート屋さんで借り受けたと思われるライフジャケットを装着していて、

タックルも一人一本と、非常にのんびりとした雰囲気を醸し出しています。


山のようにタックルを積み込み、ガッチガチのフル装備で魚探を睨みつけながら釣りをしているバサーがほとんどの地元を思い出すと、そのギャップにいささかの驚きを禁じえません。


これも地域性というのでしょうか。

おそらく、バス釣りというものが千葉よりも一般に身近なんだろうな、と僕は考えました。


釣りを全くやらないか、やるのであればとことん突き抜ける、という二極化の印象の千葉と違って、

琵琶湖という聖地の存在が、千葉には少ない「中間」の人口を押し上げているのかもしれません。



小学校低学年くらいの子供が、スピニングタックルで一生懸命クランクを巻いています。

その横で、お父さんがやっぱりスピニングタックルでクランクを巻いています。


僕が考える以上に、こういった光景は琵琶湖では当たり前なのかもしれません。







…漁港脇に到着しました。

コンクリートの壁に囲まれた湾内ではなく、その外側を岩盤撃ちの要領で攻めてみることにします。


手にとったのは7gのヘビーダウンショット。

僕が岩盤撃ちでもっとも頼りにしているリグです。


ドライブクロウラーの5.5インチをセットし、壁に向けてキャストします。

しばらくはスルスルと沈んでいくラインが不自然に止まったかと思うと、わずかに横に移動したように見えました。





…ゾワッと全身の皮膚が毛羽立ちます。

ここにきて一投目。

手元にアタリらしい感触はないものの、典型的な岩盤撃ちで釣れる時の反応。


―琵琶湖のアベレージは、40cm以上。




…落ち着いてラインスラックを巻き取り、






ガツンとフッキング!







…ガン!







…乗った!!




記念すべき琵琶湖の初バス、絶対に逃すわけにはいかない!

バスに主導権を与えずに、一気に押し切ります!



うおおおおおおおお、ネット、イーーーーーーーーーーン!!























琵琶湖バス



…おや?




…君は、もしかして、あれではないか?

人違いならば申し訳ないのだが、君はひょっとしてノンキー君ではあるまいか?


なぜ君がこんなところにいるのか?ここをどこだと思っているのか?

ここのアベレージが40cmと知ってのことなのか?


5.5インチのワームを飲み込んだ意気込みには敬意を表するが、君は自分で自分を買いかぶりすぎているのではないのか?





一瞬憮然としますが、しかし一本釣れたことには違いない。

考えてみれば、初場所でボウズにならなかったというだけでも幸運なことかもしれない。


少し考えを引き締めることにします。


これだけボートが浮いている中で、非常にわかりやすい、目に見える目標をやってみて、それで釣れたのは運が良かった。



…でも、小バスがたむろする場所にはデカバスは付かない、

そう考えた僕は場所移動を決意します。




―やはり、サイズのあるバスは沖の方にいるんじゃないのか。


でも魚探も何も無い中で、大海原にポツンと乗り込むわけにもいかない。

…どうしたもんかと、しばし波に揺られるまま、考え込みます。





思案しながらふと沖のほうを見ると、バスボートが何もない沖で撃ちモノをやっているようです。


―魚探で何か見つけたのかな。

やっぱり水中に目標を見つけられるのは、こういった大場所では大きいなぁ…。



僕の視線に気づいたわけでもないでしょうが、反応がなかったのか、バスボートはやがて別の場所へ移動していきました。


…と思ったら、入れ替わりのように別のバスボートがやってきて同じ箇所を撃っています。



―何か、あるんだ。




あるいは、ひょっとしたら有名なピンなのかもしれませんが、しかし水面からは他の場所と何が違うのか見分けがつきません。



…今やってるボートがいなくなったら、何があるのか確認しにいってみよう。





ソワソワとそのときを待ちます。



15分ほど待ったでしょうか、バスボートがエレキを引き上げて、エンジンをかけて…、

―今だ!




エッホ、エッホとオールを漕いで、そのポイントに急ぎます。

幸いなことに他のボートが来る気配もなく、さぁ、そして到着してはみたものの、やはり何の変哲もない、ただの沖です。


―水深は?





…うーむ、確かなことはわかりませんが、先程までやっていた場所よりは深そうです。

おそらく4mくらいではないでしょうか。



―ブレイクなんだろうか。




見も知らぬ他人のボートに教えられてようやく見つけた水深の深いところ、

早速、10gシンカーのヘビーキャロライナで周辺を探ってみます。




…しかし、何があるのかよくわからん。

底がウィードに覆われているっぽいのはわかるけれど、それは今までやってきたところも同じこと。


入れ替わりボートが入っていたくらいなんだから、他と違う変化が何かあるんだろうと思ったけれど…。






…あ。




思いついてしまった。

すごくいやらしいことを思いついてしまった。


何をしていいかも、どこへ行けばいいかもわからない大場所の沖。

今と同じように、バスボートがやっている場所に絞ってやっていったらどうだろうか。

そうすれば、あてもなくフラフラとやっていくよりは確率が高い気がする。



…しかしそれは、考えて釣るというバス釣りの楽しみを放棄することにはならないだろうか。

結果をとるか、過程をとるか…。





…というか、何を考えてるんだ僕は。

もともと、初めての琵琶湖に一人フローターで挑戦する時点で身の程知らずもいいところだと自分でも思っていたじゃないか。

釣れなくても上等、誰に恥ずかしいこともないはずだ。



…もし今、自分がいるラインが4mのブレイクラインなら、それに沿って岸と平行にやっていってみよう。


そう考えて、僕は移動することにしました。


実際、もっともらしいことを考えているようなのですが、今にして思えばこの時の僕は、「他人には頼らない」ということを言い訳にして、考えることをむしろ放棄していたようにも思えます。

もともとこの場所に来たのは「他人が何を考えているのか考えよう」という目的だったはずなのですが、当の僕はそのことを忘れ去っています。


いずれにしても、わからないなりに好きにやってみようと、僕は移動のためにオールを手にとったのでした。




…時間は既に昼をまわって、家族と合流するまでの残り時間は3時間を切っています。

好きなようにやると決めたものの、相変わらず何も目に見える目標が無い沖。


たぶん、今自分がいる下にブレイクがあるんだろうと信じて、その上を巻いてみることにします。

水深が4mあれば普通のクランクでも問題なく使えそうですが、ここは満を持してアレを使ってみましょう。



…アレとは、もちろんビッグベイトに決まっているではないですか!



もともとスローシンキングのジョイクロを、今はサスペンドにチューニングしています。

これを再びスローシンキングに戻して、ブレイクの上を巻いてみようではないですか!


…ドリャアアアアアと遠投して、しばし沈めた後、ヌラヌラと巻いてきます。


ビッグベイトが、ただ巻くだけで釣れたのは、もう過去の話だとも聞きます。

時折止めたり、急にトゥイッチを入れたり、自分なりに工夫をしながら巻いてきます。




ヌラヌラ、ヌラヌラ、



…ガツッ!






―え、根掛かり?




掛かったのはウィードのようです。

あっさりと外すことはできましたが、4mの水深で根掛かりするわけがない。


水深を測ると、やはり2m程度。


いつのまにか4mのラインから大きく外れていたようです。




―風に流されたのか。


ビッグベイトを巻くことに集中していましたが、午後から夕方に差し掛かって分厚い雲が上空を覆い、風が出てきていました。



沖に戻るため、オールを手に取ります。









―ゴゥゥゥゥゥ!!!


強風にキャップを取られないように、僕は軽く頭を抑えます。




…強風?




やや風が強い、というレベルから、いつの間にか天気は完全な強風に移ろっています。

1m漕いでも2m戻されるありさまで、全然沖に戻ることができません。



しばらくは風に抵抗するように必死で漕いでいた僕でしたが、やがてある事実に気が付きました。



…これ、風向きが逆になったらどうなるのか。



今、僕がいる場所は岸から50mほどの距離。

風向きが逆になったとして、果たして無事に岸まで戻ることはできるのか。



気がついて戦慄します。




―悔しいけど、もう沖に出るのはやめたほうがいい。



命には代えられない、と僕は岸際に戻る決断をします。

…とはいえ、オールも足漕ぎもすることなく風に身を任せていれば勝手に岸の方角に流されていってくれるでしょう。


ルアーをシャロークランクに変更し、四方八方に投げ続けていると、やがてフローターは足が着く浅場まで到着しました。

そのまま上陸し、あとはオカッパリでがんばることにします。



いったんフローターを駐車場のロープに立てかけておいて、ウェーダー姿のまま先ほど上陸した岸に戻ります。

若干ウェーディング気味にざぶざぶとシャローに入っていって、先ほどの続きとばかりにシャロークランクを投げますが、

完全な逆風に煽られてほとんど飛距離が出ません。


周りを見渡しても、いつの間にかオカッパラーは全員いなくなっています。

おそらく、逆風を嫌って別の場所に移動したのでしょう。


車があれば僕もそうするところですが、しょうがない。

なんだか尻つぼみな感じもしますが、こんなもんでしょう。


タックルを片付けて、フローターの置き場所に戻ると、家族が迎えに来るまでフローターにもたれかかり、一眠りすることにしたのでした。




2015/9/20(日)

強風→爆風
気温:22度→26度
水温:?度
アタリ:1
バラシ:0
ゲット:1






琵琶湖から千葉の自宅に戻り、今こうして思い出の余韻に浸ってみても、

なんというか、せっかくの琵琶湖、気持ちの面でも物質面でも、もう少し準備をしてから臨みたかったなとか、

行ったからにはもう少し大きなバスを釣りたかったなとか、色々と思うところはあるのですが、

とにかく「トンビが釣れた」という衝撃が大きすぎて、しばらくは僕の中では琵琶湖といえばトンビということになりそうです。



それと最後になりますが、琵琶湖といえばどうしても避けては通れないある問題について。


僕は今後もブログの中でその問題について語るつもりはありませんが、

様々な意見に目を通して、自分なりの考えというものは持つようにしています。


そしてバサーを名乗る人間であれば、全員がその問題について考え、意見を持つことが重要だろうとも思います。


ただし、自分なりの意見がどうだろうが、法で定められていることについては従わなければなりません。

これは一人のバサーとしてというより、法治国家に籍をおく一人の国民としての義務ですから、自分の考えがどうだろうが関係はありません。


人ではなく自然を相手に楽しませてもらう趣味だということを肝に銘じて、今後も釣りを楽しんでいきたいと思っています。







嫁「今年のキャンプなんだけどね」





―うん?


嫁「あんたの会社の健保で結構良さそうなところがあってさ」



―そうなんだ、というか、









―ビジ夫家では、毎年シルバーウィークに家族揃ってキャンプをすることになっている、

と以前にも書いた気がします。


日本の有名な湖のほとんどは、湖畔にキャンプ場の設備があることを利用して、

河口湖にも行きましたし、桧原湖にも行きました。


それによって、子供たちは自然の中で遊び、食べ、眠るという、生物が本来持つ健全な欲求を満たすことができましたし、

僕個人も、その副次的な産物として、個人的な釣りへの欲求を満たすことができていました。


そうか、そう言えばそろそろ夏も終わり、キャンプをどうするなんて話も、



…いやいや、というか。

キャンプは去年でオシマイと言ってなかったっけ?長男が中学生に上がるからって…。



嫁「長男が何の部活に入ったか、忘れたの?」






…言われてみればそうだった。



もともと、長男が中学に上がれば、運動系の部活に入るものと思い込んでいた僕と嫁さん、

―個人的には、野球部に入ってくれればいいなと思っていたものですが―、


それが、期待を裏切って美術部に入ると言い出したのが、長男が中学に上がりたての、今年の4月頃の話です。




―考えなおせ、中学の三年間で運動をするかしないかは、その後の成長に大きく関わってくることだぞ。



そう、父親として僕は苦言を呈せざるをえないわけですが、

そんな考えは時代遅れだとか、今の中学の部活は強制じゃないとか、仲の良い友達がどうとか、

怒涛の反論を浴びせられた挙句に、

「そんなことを言うなら、もっと運動神経を良く産んでくれ」とまで言われてしまうと、沈黙せざるをえない僕だったのでした。




僕の持つ生物としての特性のうち、非常に残念な部分―、

…まぁ、指折り数えると両手両足では足りないのですが、

そのうちの一つである、「運動神経」については、綺麗に受け継いでくれた長男でした。


その製造責任を問われてしまうと、ぐぅの音も出ない、という不甲斐ない父親であります。




…ついこの間まで、何をするにも危なっかしいガキンチョだったのに、

いつの間にか、屁理屈だけは一人前になっている。


―誰に似たのやら、

と呟いて美術部に入ることは認めたのですが、それが思わぬ方向に転がることになったわけです。



つまり、運動系の部活であれば休日も練習に行かなければなりませんが、

文化系の部活であれば、それがないらしいということです。




嫁「…ということで、次男が中学に上がるまではキャンプを続けられるっぽいんだよね」


―なるほどね。子供たちも毎年楽しみにしてるし、良かったかもしれんね。



嫁「それで話を戻すと、あんたの会社の健保の施設で、面白そうなところがあってさ」


―うん?


嫁「琵琶湖のほとりのキャンプ場が安くなるみたいよ」


















―琵琶湖!?


ガバッと身を前に乗り出す僕である。



―琵琶湖!?


嫁「琵琶湖」









…はぁー。

琵琶湖ねぇ。





実はこの時の心情を率直に表現すると、

喜びというよりもむしろ戸惑いに近い感情が多くを占めていたというのが正直なところです。


琵琶湖。


バスフィッシングに興味のない人間であっても、日本人であればまず知らないことのない日本を代表する湖です。

近年、世界でも最大級のブラックバスが捕獲されたということもあって、日本ばかりか海外からも注目を浴びることとなりました。


アベレージが40だとか、50は当たり前だとか、

ロクマルの実績も多いとか、ナナマルまでが狙えるとか、

関東でバスフィッシングをやっている人間にとっては、にわかに信じがたいような話も聞きます。



そりゃあ、僕もバサーの端くれではあるわけですから、いずれ一度は行ってみたい、という思いは当然持っていたわけですが、

しかし、それが今か、ということに、僕は非常に違和感を覚えたのでした。


僕にとっての琵琶湖とは、言わばドラゴンクエストにおける竜王の城のようなものなのでして、

スタート地点の周辺でスライムやドラキーを相手にちくちくと経験値を貯めている僕にとって、

琵琶湖は、その場所は分かっていても未だ行くことはかなわない、

なんとなく自分の釣りの集大成のような、最終目標のような位置づけに、無意識のうちに置いていたようなのでした。


「どうのつるぎ」と「かわのたて」を装備した僕が、「にげる」を駆使しながら奇跡的に竜王の城に辿り着いたとして、

果たして、そこに達成感はあるのでしょうか。






…そんな僕の微妙な表情の変化を読み取ったのか、いぶかしげに嫁さんが話しかけてきます。



嫁「なんか不満があるわけ?」



―いや…、



嫁さんからしてみれば、両手を叩いて乗っかってくるはず、との思いがあったのでしょうから、

今の僕の心情を説明したところで、何をわけのわからないことを言っているのか、としか思えないでしょう。





―琵琶湖、結構、難しいらしんだよね。



少し方角を変えて言い訳をしてみますが、しかしこれも正直な感想ではあります。

フィールドの難易度は様々な要素が複雑に絡み合って構成されているものですから、一概には言えませんが、

「小場所より大場所の方が難しい」という評は、一般論として事実ではあると思っています。


その理屈で言うと、日本で最大の湖は日本で一番難しいことになってしまいますが、

その是非はともかくとして、困ってしまうのはやはり広すぎるがゆえに魚の付き場所を絞れない、ということが挙げられるでしょう。



「初めて琵琶湖に行ったところで、ガイドがいないと釣れないよ」




…色々な人から聞いた話です。



全てのエリアで均等に魚がいてくれればいいのですが、

決してそうはならないことは、バスフィッシングをやっている人間であれば誰でも知っていることです。


そうすると、魚を探すために移動する都度、尋常ではない距離を移動することになります。

何しろ、琵琶湖の全周は200km以上あるのです。






嫁「なんなのよ、じゃあ琵琶湖は行きたくないわけ」




…煮え切らない僕に対して、明らかにイライラとした様子を見せる嫁さん。

せっかく僕が喜ぶだろうと提案したにも関わらず、当の本人がこの調子ではそれも当然といえます。




―いや、行きたいよ。行きたいんだよ、もちろん。

ただ、なんというか、いきなりでビックリしたというか…。


嫁「行きたいの、行きたくないの」









―行きたいです…。








…こうして、まったく現実感のない琵琶湖釣行が決定したのでした。


―ちなみに、当日のタイムスケジュールはどうなるの?



家族旅行の、あくまでも「ついでの釣行」ということなのですから、

釣りをできる時間は1時間か、2時間か、それによって当日の釣行スタイルを考えなければなりません。

具体的には、取れる時間の長さによって、短ければオカッパリ、長ければフローター、という選択になるでしょう。


その質問に対して、嫁さんの説明はこうでした。


・9月19日深夜に出発する

・9月20日早朝に琵琶湖に到着する

・僕をおろして、僕は釣りへ、家族は観光へ

・夕方、僕を回収してキャンプ場へ



…なるほど。

ということは、丸一日釣りにあてられるということではないか。


運転係の僕としては、例によって前日からの不眠釣行ということになりそうですが、

別にそんなものは今に始まったことではない。


―じゃあ、フローターで決まりだな。


そうつぶやくと、


嫁「そう言うと思ったよ。フローターを積んだらテントは載らないだろうから、コテージを予約しといた」



…相変わらず、嫁さんの手のひらの上で転がされるままだということを、改めて自覚した僕だったのでした。











さて、琵琶湖へ釣行するにあたって、他にも色々と考えなければならないことがあります。

これが通常のフィールドへの釣行であれば、普段は横着が服を着て歩いているような僕ですから、


「まぁ、行けばなんとかなるんじゃないの」


という程度でろくに下調べすらせずに臨むところですが、

さすがに琵琶湖ともなると、何の前情報もなくなんとかなるものではないだろう、という程度の想像はついたわけです。



なかでも、もっとも悩ましいのがエントリーポイントです。


僕を車から降ろした後は残りの家族で観光、ということは、

いったんエントリーした以上、再上陸して車で場所移動、というわけにはいかないわけです。


フローター釣行において、エントリーポイントから移動可能な距離というものはどの程度でしょうか。

僕の感覚的な話ではありますが、せいぜい周囲1kmが限界でしょう。


広大な琵琶湖、そのエントリーポイントから周囲1km以内にバスが付きそうなポイントが無ければ話になりません。


早速僕は地図とにらめっこを始めるわけですが、

全周200kmの琵琶湖において、1kmの移動範囲とはあまりに狭く、地図上ではほぼ「点」でしかありません。


そして、釣行後は速やかにキャンプ場に入り食事やらお風呂やらということを考えると、

エントリーポイント自体も、キャンプ場から大きく離れるわけにもいきません。



―そんな都合のいいポイントがあるんだろうか…。



不安ながらもまずはGoogle先生に有名な琵琶湖オカッパリポイントについてお伺いをたて、

キャンプ場から近く、かつフローターのエントリーが可能そうな場所を絞り込んでいきます。


足場が高ければ駄目、水深が深ければ駄目、混雑する場所は駄目…、



…お、何やらこの公園は良さそうだ。候補その1、と…。


こうして3つ4つの候補を絞り込んで、後は実際に現地に赴いて確認するしかないでしょう。


最近釣れている釣り方も調べてみようと思いましたが、しかしよく考えてみれば、フローターでは釣り方にあったポイントを選ぶ余地などほとんど無く、

エントリーした場所の状況にあわせて適切なルアーを選択したほうがよいでしょう。


持っていけるタックルは3本。

初場所、しかも日本一の大場所ということで、サーチ用にビッグベイト、スイムベイトはどうしても使いたい。


てことは3本のうち1本はXHのタックルということでまず確定、あとの2本はどうしようか…。


MとMHにするか、MHを2本にするかで最後まで迷いましたが、

結局、汎用性を取るためにMとMHにすることとしました。



他に、琵琶湖は法令上は湖ではなく海扱いになっているとか、遊漁券というものが無いらしいとか、

横着を取り去ったら骨しか残らないと自負する僕としては稀なほど勤勉に情報を集めつつ、気がつけば9月19日。

いよいよ、出発当日です。




深夜23時。

例によって興奮して寝付けなかった子供たちを車に押し込み、自分も乗り込んで、

さっそくカーナビでエントリーポイント候補の一つ目を入力します。


カーナビによって表示された移動距離は約500km、時間にして6時間と、とんでもないことになっていますが、

カーナビは、さも近所のコンビニを目的地にセットしたかのように平然とした口調でそれを伝えてきます。



「マジっすか!500kmっすよ!6時間運転するとかハンパなくないっすか!」くらいを言ってくれとまでは思いませんが、

まぁ、やはり所詮は機械かと、僕はややガッカリしながら、ゆっくりと車を発進させます。




…琵琶湖までの道のり、片道500kmもの距離を一気に走破するなどという経験は、当然ながら今までの僕にはなく、

ここにその詳細を記載しては、それだけで一回分くらいの記事になってしまいそうですので割愛しますが、

とにかく驚いたのは静岡県の広さです。

6時間のうちほとんどを静岡横断に費やしていたような気さえします。


もちろん、実際にはそんなことは無いわけなのですが、どれだけ走っても、まだ静岡か、まだ静岡か、という先の見えないあの感覚。


…車で近畿より西にお出かけの経験がある関東人の方には、同意いただけるものと確信しています。



途中、幾度かの休憩を挟みながら、すったもんだありつつも車はようやく滋賀県に入りました。

もう、夜は既に明けきっています。


高速を降り、カーナビを確認すると目的地まではあと20kmということで、ようやく現実的な距離感が戻ってきたなと安堵します。

疲れから小さくあくびをすると、唐突に、目の前に巨大な湖が姿を現しました。




―これが琵琶湖か。





見渡す限り水平線が広がる湖は、僕が訪れた湖の中でもまさしく最大のものであるということが、瞬時に理解できます。

巨大な橋を渡り水面を見下ろすと、バス釣りと思われるボートだけでなく、ジェットスキーやウェイクボード、観光船と思われる船も見えます。


今日、ここに至るまでまったく現実感の無かった琵琶湖への遠征ですが、ここにきてようやく、僕の中で明確な色を持ち始めました。


―僕は、これから、ここで釣りをするのか。



そう思うと、素直な感動があります。


この広い湖のどこかには必ずロクマルやらナナマルやらがいて、

限りなく低い確率だとしても、自分のタックルにそれが掛かる可能性があるのだという事実が実感として湧いてきます。


―大変だったけど、やっぱり来てよかった。


心からそう思えます。



そして琵琶湖の沿岸をひた走り、車はやがて最初のエントリーポイント候補とした公園に到着します。

ゆるゆると駐車場に入って行くと、既に何人かのオカッパラーがタックルを手にせわしく歩きまわっています。



「フローターがエントリーできそうなオカッパリポイント」という条件で検索をかけたわけですから、オカッパラーがいることは至極当然と言えるわけですが、

問題なのはエントリーできる場所が本当にあるかどうかと、そこが混雑していないかどうかです。


車から降り、あらためて琵琶湖を眺めます。





琵琶湖



「雄大な」という形容はこの湖のためにあるのかもしれません。

長旅の疲れも忘れ、しばしその光景に見入った僕でしたが、やがて我に返って岸際に降り立ちました。


岸から延々と沖に続くシャローエリア。

エントリーにはまったく問題はなさそうです。


岸際であればどこからでもエントリーできそうな地形ですから、人の多さも問題にはならないでしょう。



―ここに決めた!



いくつかのエントリー候補をまわってみたうえで、もっとも良さそうなポイントからエントリーするつもりだったのですが、もはや逸る気持ちを抑えられません。


駆け足で車に戻り、「ここでやる」と手短に嫁さんに伝えると、

早速、車のリアハッチを開放し、せっせとタックルの用意を進めた僕だったのでした。


―まだ見ぬ琵琶湖のデカバスたち。

どうのつるぎと、かわのたてに代えて、バスロッドと、フローターとを装備した僕が、身の程知らずにも竜王に挑戦しようとしています。


しかしもはや、最初のような戸惑いは一片もありません。

思いつく限り、出来る限りのことをやって、それを楽しむことしか頭にはありません。


タックルを脇に抱え、フローターをかつぐと、先ほど降り立った岸際まで、ゆっくりと歩を進めた僕だったのでした。





後編に続く