A'sW2-44 新ガタガタ記念後
新潟記念が終了し、紫は珍しく翌日の月曜日に【ANGEL's WINE】第2ピリオド暫定順位と累計ポイントを発表していた。
<第2ピリオド第9戦目終了までの順位/累計ポイント>
第1位 ナナガイキ 210ポイント![]()
第2位 ロイス3 105ポイント![]()
第3位 怪人UMA 95ポイント![]()
第4位 次郎太 40ポイント![]()
![]()
第5位 紫 20ポイント![]()
第6位 ナイスです姉茶 15ポイント![]()
第7位 皇騎 -55ポイント![]()
![]()
第8位 ユーカリ -70ポイント![]()
新潟記念によりポイントがプラスになったのは徹(ナナガイキ)のみであったが、マイナスになったのが4人もいたため、順位は激しく変動した。
順位発表後に、紫が嘆きのコメントを書き込み、怪人UMAは「!」マークで喚き散らした。
ユーカリは「・°・(ノД`)・°・(>_<)。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。(iДi)。(´д`lll) 」と顔文字のみで悲しみを表現した。
さて、徹は「本物の間野ゆかり」こと紫に、そして「偽者の間野ゆかり」ことユーカリに、どのようにメッセージを伝えようか、悩んでいた。
しかし徹の職場は9月に入り、劇的に忙しくなった。決算前の売り出し内容を決める最終段階に入ったため、会議とデスクワーク、そして得意先への出張が間なく続く1週間であった。
徹の頭から「2人のゆかり問題」が離れることはなかったが、悩みを抱えつつ何のアクションも取れないまま、次の週末を迎えることとなった。
A'sW2-43 敵と田無で(4)
「ああーーー、駄目だ。ビービーガルダンの単勝しか当たってねぇや」
「札幌、審議中ですよ」
「どの馬が降着しても駄目。ビービーは大丈夫だよな。単勝だけじゃ、トリガミだ… 次! 小倉はパス! いよいよ対決だな」
ロイス3こと新城は、キーンランドCでは損を被ったようだ。次はいよいよ、実馬券&【ANGEL's WINE】直接対決の新潟記念である。今度は徹が、携帯のワンセグTVを起動し、フジテレビにチャンネルを合わせた。
「時間ないですよ。私はもうPAT投票すませたので、そっち、新潟賭けちゃってくださいよ」
徹が話している途中で、ロイス3はPATを起動しているようだった。操作をしながらロイス3は徹に話しかけてきた。
「実馬券は、何買ったの?」
「マイネレーツェル本命で、馬連5点。あとゲームの本線・エアシェイディから馬連少々」
「ふーん。やっぱりステイの仔から、なんだね。それとも結婚だか婚約だかした、松岡に期待ですか? 新潟で成績残してるから」
「まぁ、両方の期待を込めて、ってことで」
ロイス3が顔を上げた。
「投票完了、っと。俺はダンスアジョイ、ダイシンプラン、アルコセニョーラ、デストラメンテの4頭ボックスで勝負だ。馬連と、3連複ね」
「結構、人気どころ行きますね。ダンスも穴人気してますし」
「札幌ハズシタから、冒険できませーん」
少し時間をおいて、徹のワンセグから新潟の重賞ファンファーレが流れてきた。
そして、新潟記念は発走した。
2分後、ロイス3は頭を抱えた。
「なんだよ、ちっともダメじゃん! ホッコーパドゥシャはまだしも、サンライズベガはノーマークだよ!」
「レーツェル、だいぶ後ろだ…」
「3着はメイショウレガーロ? うわ、眼中になかったわ。。。」
「あれ? エアシェイディ4着? 5着? 写真判定になってる…」
しばらくして、新潟記念の確定情報をフジテレビが放送した。
「シェイディ4着、アルコセニョーラ5着! ゲームの方は50ポイントいただきました!」
「げっ、マジ? 俺はシロッコ流しだからかすりもしないや。また随分ポイント差が開いたなぁ」
「実馬券対決は、引き分けですね。低レベルの……さびしい結果ですけど」
4時を過ぎて、ロイス3が携帯を操作している。馬券購入ではなさそうだ。
「ありゃ、偽者さん、ゲームで1着・2着・3着のボックス投票してる。こりゃ凄いマイナスポイントだ。ある意味、凄いなぁ」
「ユーカリのことですか? てことはワイドで馬券買ってたら大的中なんですよね。面白いことに。あ、本物である紫さんも、マイナスだ。枠連3-3ですからね」
少しして、ロイス3が競馬新聞をかばんにしまった。
「さて、出よっか。もっと競馬談義してもいいけど、もう4時間も一緒にいたから、いいよな」
「今日はもう疲れました…」
「もう1回、エクセルに行ってみたら? 本物の、マノユカリさんが現れるかもしれないよ」
「そうですね。望み薄いけど、様子見てから帰ります」
「じゃ、俺は出るわ。ゲームは100ポイント近く差がついたけど、追いつくから。じゃ、また!」
ロイス3が席を立ち、喫茶店を後にした。
程なくして徹もエクセル田無の入口に行ったが、ついに間野ゆかりの姿を見ることはなく、帰路についた。
A'sW2-42 敵と田無で(3)
「良かった。ココ、TVK見られるや。3時まではTVKで競馬中継見ようっと。3時以降の中継は…クソだけど」
ロイス3は携帯電話で、ワンセグTVを見ていた。TVKとはテレビ神奈川のことで、「中央競馬ワイド中継」を放送しているローカル局である。
「もう、関東でも『DREAM競馬』見られるようになりませんかね。『スーパー競馬』から衣替えして、今は耐えられないですよね」
「俺ん家、グリーンチャンネル入れてるから、家にいたらそっち見てるわ。でもワンセグじゃ見られないわな」
ロイス3は、競馬新聞とワンセグを見つめている。メイン以外のレースも買うのかと徹が思っているとき、ロイス3が話しかけてきた。
「ナナガイキさんって、この前の連絡見たら、本当は瀬田さんって言うんだよね。なんでヘンな名前にしたの?」
「私の名前は瀬田徹なんですけど、それをモジッたんです。説明すると長くなるので、やめておきますけど。馬と関係ないし。そちらの名前も聞いていいですか?」
「ん、俺? 俺は新城」
素っ気ない受け答えにイラっとした徹だったが、怯まず会話を続けた。
「ロイス3って名前、あの『ロイスアンドロイス』から付けた名前ですか?」
「を?! ロイスアンドロイス知ってるの? いっつも2・3着が定位置だった馬。94年のオールカマー、秋天、JC全部3着。当時ワイドなかったから、えらく損したんだ。でも、憎めなくってね。
『ロイスアンドロイスアンドロイス』って名前にしようと思ったけど、長いからロイス3にしちゃった。
でも一番好きなのは、ライスシャワーかな。なんてったって… あ、新潟 発走だ。買ってないけど、見させて」
2分後、ロイス3こと新城は、視線を携帯から徹に戻した。呆れ笑いしている。
「良かった、買わなくて」
「私は、ステイゴールドのファンなんですよ。似たような境遇の馬ですよね」
「確かにね。俺も好きだった。だけどロイスとステイの違いは、やっぱラストランだよね。ステイは香港で勝っちゃうんだもん。しかも産駒からGⅠ馬出ちゃうし。ロイスはもうこの世にいないんだよね。ライスシャワーも…」
「私も一時期『黄金旅程』って名前で登録してたんですけど、同じ名前が多くて、変えたんです」
ロイス3が携帯を操作している。ワンセグTVをやめて、PATにログインしているようだった。携帯を見ながら話しだした。
「そういえばあのゲームの6位に、『ナイスです姉茶』っているよね。アレ、いい名前だよねぇ」
「ブロンズコレクターこと『ナイスネイチャ』に、村西とおるテイストを混ぜてますからね」
「ナナガイキさんって、30歳くらいじゃなかったっけ? 詳しいね。競馬もAVも」
「両方とも、リアルタイムでは見たことないですけどね」
ロイス3は携帯のボタンを押し始めた。PATに入力しているようだった。それでも徹は口を開いた。
「私、キーンランドカップは『見』しようと思うんです。PATの残金の関係もあって。新潟記念1本にさせてください」
「OK。実馬券対決も、新潟記念ってことね」
A'sW2-41 敵と田無で(2)
「おいちょっと、泣かないでくれよ…俺が泣かした見たいじゃないかよ。弱ったなぁ」
「スンマセン、スンマセン。ちょっとトイレに行ってきます…」
5分後、徹はトイレから戻ってきた。涙は止まっていたが、顔は紅潮し、目も充血していた。
「スンマセン。恥ずかしい姿、晒してしまいました」
「ねぇねぇ、これって、うれし泣き?」
「いやいや、嬉しさ半分、悔しさ半分ですよ。ゆかりは近くにいるのに、実物に会えないんですから」
「今日も会えそうにないかな…もう1時になるけど、ここに来る気配すら感じないからね」
ロイス3は2杯目のアイスティーをオーダーしに、カウンターに向かった。徹はロイス3のデジカメを手に取り、ほかの画像もチェックしていた。ロイス3はまもなく席に戻ったが、勝手にデジカメを操作する徹を咎めなかった。
「しかし、なんで今さら写真がみたいなんて言い出したんだい? 『ご褒美』は1ヶ月も前のことだし、紫さんも、自分がマノユカリであるって、とっくの前に白状したんでしょ?」
「実は……あのゲームに新参者いたでしょ。ユーカリって。
先日、彼女が私にメッセージを送ってきたんです。自分が間野ゆかりである、って。それで、気が動転したんです。頭の中がグチャグチャになったとき、ふと貴方の『ご褒美』のことを思い出したんです。もしかしたら写真があるんでは?って。それで、2度目の『一生のお願い』をしたわけです」
「あー、そういうこと。ふーん。
でも、アンタが好きなマノユカリさんって、それなりに競馬の知識あるんでしょ?ユーカリはありえないんでないかい?」
「なんでそう思うんですか?」
「今週の投票内容、見た?
⑤⑥⑦⑧のボックス。先週が①②③④のボックス。これはド素人と考えるのが普通でしょ」
「確かに先週の投票内容は、私も怪しいと思いました。でも、自信がなかったんです。紫だって、1枠と3枠の馬ばかり投票するし…理由は聞きましたけど…」
「ごめん、そろそろ検討始めない? キーンランドカップと、新潟記念…」
ロイス3は徹の話を遮り、かばんの中から競馬新聞をとりだした。
「オタク、今回のゲームはエアシェイディから流したね。俺はトウショウシロッコから流した。勝負だね」
「今日は、実馬券でも勝負でしょ。負けませんからね」
徹はもう少し、ゆかりや紫、ユーカリの話をしたかった。しかし考え直した。この男にこれ以上話しても、まず得はないだろう。この後、この喫茶店に奇跡的にゆかりが現れれば大収穫だが、望みは薄い。あとは対決を楽しむしかないかと思った。
A'sW2-40 敵と田無で(1)
「あんたがナナガイキさんだね? その顔はもう、エクセル田無に行ってきたね」
8月30日午前11時57分、西武新宿線田無駅・改札前。徹に話しかけてきた男がいた。
「ということは貴方がロイス3さんですか… こっちの携帯アドレスは教えたのに、まぁいいか」
「エクセル田無どうだった?」
「とても待ち伏せできるような場所じゃないですね。受付の前に長時間いたら、警備員に注意されそうですよ」
「そりゃそうだ。 ああ、待って、怒らないで。俺の真意は、実はエクセル田無待ち伏せではないんだ。
この前の『ご褒美』のとき、俺と紫さんは、昼食をこのすぐ近くの喫茶店ですませんたんだ。まぁ可能性は低いけど…その喫茶店で、待つことにしない?」
ロイス3のペースでコトが進むことに納得がいかなかったが、徹はロイス3の後を追って歩いた。田無駅の駅舎に付随している喫茶点に入った。ちなみにエクセル田無は、ペデストリアンデッキで2階部分がつながっている、通りを1つまたいだショッピングセンターの6階にある。
「たぶんここで4時間近く過ごすから、それを考えてオーダーしてね」
眼鏡に口ひげを生やした男は言ったが、喫茶店では食べ物のバリエーションが少ない。徹はアイスコーヒーとサンドイッチを注文した。
徹は着席して、間もなく口を開いた。
「写真、見せてくださいよ」
「せっかちだねぇ。その前に、ナナガイキさんと、紫さんの関係教えてよ。あ、マノユカリさんか。それぐらい、聞く権利ない?」
徹は気が進まなかったが、ゆかりとのこれまでの経緯を話した。ロイス3は、ホットドッグを頬張りながら、徹の話を黙って聞いていた。
「んでまぁ、貴方から、紫さんの名前が間野ゆかりであることを確認したわけです」
「なるほどねぇ。紫さん、俺についてなんか言ってた?」
「感想は特に何も語ってなかったですよ」
徹は、嘘をついた。紫はロイス3を嫌悪していたが、それを正直に伝えて、今は何の得もない。
「で、写真見せてくださいよ」
「分かったよ。ちょっと待って、今、その時の映像を表示するから…夏休みの帰省の写真もあって探すの大変なのよ…あ、これでいいかな?」
徹は何も言わずに、ロイス3のデジカメを奪い取った。
憎たらしいことにツーショットであったが、そこには口ひげの男と、そして間野ゆかりがいた。
5か月前のゆかりからは、心なしか痩せていた。なんとなく、頬がこけている感じだった。
だが、間違えない。天使の微笑みがある。ゆかりだ。
そして、間違えない。紫=ゆかりだ。
徹はなぜだか知らないが、涙が出てきた。慌てて目元を手で隠したが、涙は止まらなかった。