冬に向けての季節は、乾燥により1年で最もドライアイになりやすい。
加えてコンタクトレンズの常用、スマホやパソコンなどのVDT機器を長時間見たり、エアコンの暖房の風がかかるような環境にいたりすると、さらになりやすくなる。
予防法は、VDT作業中に適切に目を休める、目を温める、コンタクトレンズを使っている人は適正な使用を心がける、などのことを前回説明した。
今回はビタミンA含有の点眼薬が目の渇きによってついた傷の修復を促すことについて、順天堂大学医学部附属静岡病院眼科の土至田宏先任准教授に話を聞いた。
ビタミンAといえば、レバーやニンジンなどに多く含まれている必須栄養素だ。かつては栄養不足時に、ビタミンA不足による夜盲症(暗いところや夜に見えにくくなる)や角膜障害が多くいたという。
最近では、「ビタミンA誘導体」「レチノール」が配合されている化粧品が人気だ。ビタミンAの一種、レチノールは、2017年、シワ改善有効成分として厚生労働省に認可されている。
肌のうるおいを保ったり、肌の細胞のターンオーバー(一定の周期で生まれ変わる)を促す作用があるためだが、この作用が現在販売されているビタミンA(レチノール)配合の市販の点眼薬をさすことで、角膜でも起こるそうだ。
「皮膚の表面の細胞が垢となって日々脱落しているのと同様に、角膜の表面の細胞もはがれて、入れ替わっています。皮膚も角膜も、ターンオーバーの機序にビタミンAが重要な働きをしています。
ビタミンA欠乏症ではいずれも角化(表面の層が異常に厚く堅くなること)が生じ、乾燥肌になったり、眼球乾燥症(ドライアイ)になったりします」
土至田先任准教授は、目の渇きやすい人や目を酷使する人などは、こうした点眼薬を使用することでドライアイ予防をすることも有効だと話す。
それなら、ビタミンAの多く含まれる食品を摂るのもいいのでは、と思うかもしれないが、その必要はないそうだ。
「今の日本では、食事から摂る量で不足になることはほぼありません。偏食の人での症例報告を時々見かけるくらいで、たとえばカップ麺ばかり食べている、緑黄色野菜を一切食べない、などの場合です。
ビタミンAはレチノールの形で肝臓に貯蔵されるのですが、過剰症については、例えばレバーを毎日食べるくらいでないとなりにくい。しかし、サプリメントを継続摂取した場合は過剰による影響があり得ます」
短期間に過剰摂取すると、腹痛や吐き気、嘔吐、皮膚の表面が剥がれ落ちる、などの症状が現れることがある。長期間の過剰摂取では、脳脊髄液圧の上昇、皮膚の乾燥、脱毛、筋肉痛、肝脾腫などの症状が現れるという。
脂溶性ビタミンであるため、過剰分をすぐに体外に排出できないからだ。しかし化粧品や点眼薬のように、適量のビタミンAを局所的に使う分には問題ないそうだ。
土至田先任准教授は、将来ビタミンAによる医療用点眼薬が開発されることを願っている。「日本では考えられませんが、世界の失明原因の第10位はビタミンA欠乏症です。
アフリカなどの発展途上国では相当数の方がこの原因で失明しています。医療用点眼薬があれば、その人たちの失明を防ぐことができるのです」(医療ジャーナリスト 石井悦子)