羽田から凡そ1時間、

 

                  関東の歴史的古都は

 

    国内外からの観光客で

 

    駅前は相変わらず賑わっていて

 

    自然と心も華やでくる。 

 

    ぎっしりと詰め込んだ年季の入った

 

    二つの色違いのデルセー社のスーツケースを

 

    タクシーの運転手さんと夫が

 

    重さについ顔をしかめ

 

    息を合わせて両手で持ち上げ

 

    トランクに入れた。

 

    人々が行き交う往来を目で追いながら

 

    大通りから5分ほど走ると

 

    閑静な住宅街に入る。

 

    我が家へ続く見慣れた道沿いに

 

    春になると約2キロに渡り

 

    街を彩る桜並木が続く。

 

    軈て我が家の黒い門が視界に入り、

 

    鼓動が踊るように早くなった。

         

    冬に一時帰国依頼、

 

    半年ぶりの我が家に到着した。

 

    門を入ると少しばかり

 

    溽暑に疲れ気味の庭樹たちが

 

    突然の夫婦の帰宅に

 

    凛として出迎えてくれた。

 

 

 

 

    「此処は日本であり、

 

    紛れもなく我が家だわ」

 

              

                全てが私の味方であり、

 

     言葉では言い表せない

 

     心の安らぎに満たされる。

 

     半年間締め切ったままの

 

     雨戸を繰りながら

 

     今度はリビングルームから

 

     ゆっくりと庭を眺めると

 

     ペチュニアの一種である[桃色吐息]のピンク色が

 

     夏空とコラボし、

 

     カーペットのように鮮やかに広がっている。

 

 

     涙を流し続けた駐在地での日々が

 

     まるで幻の如く

 

     ノスタルジックな記憶に感じる。

 

     リビングルームの

 

     C5のグランドピアノが

 

     「お帰りなさい、

 

     背筋を正しなさい」

 

     と、私に語りかけるように

 

     泰然自若と身構えている。

 

 

     数日後には航空便15箱

 

     その1か月後には

 

     大型家具、エラールグランドピアノ、柱時計他

 

     250箱の船便が

 

     長旅を制して

 

     私達と共に

 

     恒久居住となる我が家に着荷する。

 

     夫と共に、

 

     どの家具を何処へ?

 

     何をどのように配置しましょうか?

 

     と、あれやこれやと

 

     試案に暮れた。

 

     此れもまた、

 

     夫と私、夫婦二人の

 

     愁眉を開く幸福の時間であった。

 

     其れとは裏腹に、

 

     無情にもフラッシュバックは

 

     駐在地の43階のレジデンスで

 

     私が唐突に魂が凍り付くほどの衝撃を浴びた

 

     夫の名前を気怠く連呼する

 

     独身女性部下「前田」の声が

 

     耳を聾し続けた。

 

     念願だった日本の我が家にやっと戻り、

 

     守られた難攻不落な『城』に

 

     夫と二人でいるはずなのに、

 

     ぐらっと私の脳裏に蘇り

 

     私の心の平静を擾乱させる。

 

     日中のワインを必死で我慢し、

 

     夫が点ててくれたブラックコーヒーで

 

     泣き出しそうに不安定な心を

 

     平常心に戻す。

 

 

 

     こんな苦しみを何時まで浴び続けるのか、、、

 

 

     #サレ妻の苦しみとは#

 

     ・夫の事実を知ったその日が妻にとって苦しみの始まりである。

 

     ・遡った夫と不倫相手の継続期間の2倍の月日を苦しむ。

 

     ・フラッシュバックの苦しみに耐えられず、

 

      自死することもある。

 

     ・自分自身の存在価値、自己肯定感の低下により

 

      悲しみ、虚無感、孤独感が深まってしまう。

 

     

     踏みにじられた屈辱に対し

 

     人間として『耐える』に値する苦しみだろうか⁈

 

     今迄経験したことが無い

 

     想像を絶する苦しみが襲うたびに

 

     夫には言いたいことが滔々と

 

     留まることなく溢れ出た。

 

     全てを飲み込むことなど

 

     今の私には

     

     到底不可能であった。

 

     其れでも夫は私に寄り添い続けた。

 

     

     夫と二人コーヒーを飲みながら、

 

     駐在支社及び本社人事部等からの

 

     着信メールを確認中、

 

     6月20日に送信してきた

 

     なんと前田からのメールを確認した。

 

    "Dear Hayashi - san,

 

                    Thank you very much for the conversation and your kind advice."

 

                  " Regards Yuriko"

 

                  前田と前田の直属の上司、林さんとのメールを

 

    夫一人へわざわざCC(貼り付け)している。

 

    最早精神構造が常軌を逸する悪質な行為だ。

 

    手中に収めたつもりの上司(夫)が

 

    突然消えて、

 

    錯乱状態になって地団駄を踏んでいるのであろう。

 

    夫に対して

 

    「あんたなどいなくても何もこまってない」

 

   との思惑か、

 

   夫は前田からメールが送信されていたことすら

 

   全く気付いていなかった。

 

   1年4ヵ月前田からの仕事を盾にした

 

   疾風怒涛の攻めに

 

   雁字搦めになり、

 

   勤務時間外でも、夜間であっても

 

   対応し続けて

 

   前田に翻弄されていった夫は

   

   まるで呪いから溶けていくように

 

   闇に覆われて曇った視界が晴れていくように

 

   前田の陰湿な低い人間性を直視できるようになっていった。

 

   駐在支社全既婚者男性のみの飲み会に

 

   前田一人女性で参加し、

 

   ビール瓶片手に

 

   腰を振りながら一人一人に

 

   酌をして回る淫乱女である。

 

   はしたなくてお話にならない。

 

 

   私のLinkedin ページに

 

   前田からの3回に及ぶ接触が続き

 

   何のために妻の私に拘わるのか

 

   強い嫌悪感を抱いている。

 

   私にはいかなる場合も接触することは

 

   断じて許容出来ない。

 

   夫のLinkedinとは前田は接点は無い。

 

   夫は

 

   「前田のLinkedin、プロフィール画像だしていた?」

 

   と、私に聞いた。

 

   「前田のLinkedinページなど

 

   開いていないから知らないわ、

 

   プロフィールの最初に提示されてる

 

   2,3行の紹介だけよ、

 

   そうね、写真はないわ、でも何故?」

 

   すると夫は

 

   「前田は凄く『ブス』なんだ!!」

 

   「、、、、、、、、、⁇」

 

   勤務時間外でも、夜間であっても

 

   妻の私が気付くまで

 

   この堅物の夫が

 

   仕事を盾に巧みに近づき、

 

   家庭の領域に勝者となって入り続けた前田に

 

   1年4ヵ月も対応し続けたのだから、

 

   クレオパトラか楊貴妃か

 

   どんなに美しい麗人かと

 

   頭の中で描くように想像していた。

 

   誠に肩透かしを浴びた思いであった。

 

   それ故に40歳にして

 

   全く理性のないそんな女に

 

   翻弄された夫に

 

   尚更もどかしさで胸が苦しく

 

   やり場のない感情に

 

   心が占領された。

 

   「貴方、そんな女の手中で転がされてきたのね」

 

   「、、、、、、、、、」

   

   「『ブス』ってどんな顔立ちなの?」

 

   夫は

 

   「目が細くて顔が大きくて、太っていて寸胴」

 

   「目が細くて顔が大きくても、可愛らしい人もいるわ」

 

   「いやいや、本当に『ブス』なんだ、

 

   顔出しているわけないよ

 

   凄い劣等感だと思うよ!」

 

   「、、、、、、、、、」

 

   「あれじゃ誰も相手にしないよ!」

 

   思わず

 

   「その容姿の醜い、お見苦しい

 

   誰も相手にしない『醜女』に

 

   貴方だけは勤務時間外の夜間に、夜中に

 

   妻にひた隠しにして

 

   1年4ヵ月もの間、

 

   目を細めて対応し続けてきたのね!」

 

   「、、、、、、、、、」

 

   夫は首を胸に付くほど項垂れて

 

   懺悔した。

 

 

   #ブス#

 

   『ブス』という言葉自体はもともとトリカブトという

 

   植物の猛毒「附子(ぶす)」に由来しており、

 

   この毒に当たると表情が変わらなくなることから、

 

   不愛想な人や不機嫌な人を指すようになり、

 

   のちに容姿の非常に醜い女性を指すようになった。

 

 

   成程「前田」は女の猛毒が結集した

 

   上司の家庭など顧みず

 

   手当たり次第に狙いを定めた

 

   既婚男性ばかりを狙う

 

   行けず後家の「トリカブト」だ!

 

               私は初めて前田の声を聴いたとき、

 

   夫が前田に対し

 

   まるで真綿に包むように優しい眼差しで

 

   対応していたあの時の

 

   夫の 優しい笑顔は、

 

   上司として全ての女性部下に見せる 

 

   仕事上の「顔」なのか、

 

   或いは気持ちが傾いた故の優しさなのか

 

   企業就職の経験がない

 

   音楽の世界しか知らない私には

 

   把握出来なかった。  

 

   この継続して私を襲う

 

   理不尽な苦しみから

 

   解放されるには

 

   自分自身を救うには

 

   どのようにすればよいのか

 

   両親は旅立ち、

 

   兄弟姉妹は無く

 

   こんな恥ずかしいことなど

  

   誰にも相談できない私は

 

   この苦しみから自分自身を解き放つ為に

 

   唯弁護士の方が紹介されている文献を

 

   次から次に拝読させていただいた。

 

 

   # 不貞行為がある不倫でも、

 

    プラトニックな心の不倫でも

 

    不倫と言う裏切り行為は夫婦間の信頼関係を

 

    根本から覆すものであり、

 

    その傷は深く、

 

    心の回復には時間と

 

    夫の真摯な変化が不可欠である #

 

   

    30年の夫婦生活で

 

    何一つ疑念を抱いたことがない、

 

    信じ切っていた夫に

 

    1年4ヵ月、

 

    妻の私が全く知らない時間があり、

 

    初めて知った衝撃に対する

 

    妻の心の痛みを労わるのではなく

 

    仕事と称し、

 

    独身女性部下前田との関係を

 

    正当化した夫。

 

    既婚者であることを承知の上で

 

    勤務時間外、夜間、夜中と

 

    家庭の領域に入り込み続け

 

    睡眠時以外、夫を雁字搦めにした

 

    40歳にもなる成人である

 

    独身部下「前田」の

 

    世間の掟から外れた

 

    非常識な御法度行為に愕然となった。

 

    15,16歳でも善悪の判断は付く。

 

    5歳の幼子であっても

 

    親御さんのご教育により

 

    道徳に背かない。

  

 

    私は何度も何度も

 

    自問自答を繰り返した。

 

    夫を信頼してこれからも生きていけるのか

 

    全て断ち切って離別するのか

 

    「再構築」か「離婚」か

 

    #再構築#

 

    ・夫が不倫相手と一切連絡を取らないことが絶対条件

 

    そのために書面での約束をする

 

    ・夫は自分の否を認め

 

    傷付けたことを深く反省する姿勢を見せる

 

    ・不倫相手への慰謝料請求など

 

     しかるべき対応を一緒に行う

 

    ・不安軽減のために、

 

     お互いの行動を把握できる状態にする

 

    ・夫婦で楽しめる時間を作り、

 

     スキンシップを取り

 

     夫婦としての絆を深める

 

    

     心の回復が伴わない今は

 

     理解できても

 

     針の穴を通すように

 

     至難の業であった。

 

     夜は尚更辛く

 

     フラッシュバックが私を苦しめる。

 

     ワインに走る私を守ろうと

 

     夫は私に寄り添い

 

     頬をすりよせながら

 

     枕を共にした。

 

     ある晩

 

     私に触れながら

 

     夫は突然

 

     体を離した。

 

     「もっと太ったほうがいい、、、」

 

     「、、、、、、、、、」

 

     脳が震えるほど

 

     全身に電流が走った。

 

 

     駐在地の自宅で唐突に知った

 

     独身女性部下の仕事とは思えない

 

     気怠く夫の名前を連呼する声、

 

     既婚上司を承知の上で

 

     夜間の家庭の領域に

 

     抉るように1年4ヵ月もの間、

 

     仕事一筋の夫に対し

 

     恰も仕事を盾に

 

     色仕掛けで入り込み続けた

 

     前田の卑劣で悪辣、鬼畜な行為に

 

     仕事と判断して

 

     境界線を引くことなく

 

     夜間でも夜中でも

 

     対応し続けた夫。

 

     私に浴びせた

 

     辛辣な言葉の数々

 

     全てが

 

     フラッシュバックとなって

 

     容赦なく私に

 

     猛打を浴びせ続ける。

 

     

     1年4ヵ月前から

 

     前田は赴任しており

 

     妻の私だけが

 

     何も知らなかった衝撃、

 

     何も喉に通らなくなり

 

     45キロあった体重は

 

     39キロまで減少していた。

 

 

     「ごめんなさい、骨だらけだものね

 

     もっと太らなくてわね」

 

     夫は

 

     「ハハハッ、太ると感じるんだって!」

 

     「、、、どんな風に感じるの」

 

     「空を泳いでいるように感じるんだって」

 

     「、、、、、、、、、」

 

     私はそのままバスローブを羽織り

 

     ワインボトルを持って

 

     自室へ駆け込みロックした。

 

     夫は何度も、何度もノックしながら

 

     ドアを開けるように繰り返して言った。

 

     

     何が原因で私は食べれなくなっているの、

 

     誰のせいで私はこんなに痩せたの?

 

     誰が、、、空を泳いでいるみたい、と言ったの、、、

 

 

     もう無理だわ

 

     私には耐えられない

 

     ただワインを飲み続け

 

     独り咽び泣いた。

 

     酔い潰れ、

 

     泣き疲れ

 

     東の空が白く

 

     明るくなり始め

 

     東雲と庭から聞こえる

 

     鳥のさえずりに

 

     重い瞼をゆっくり開いた。

 

     ドアを開くと

 

     夫が廊下で私の部屋に向けて

 

     九の字になって寝ていた。

 

     私はそのまま階段を下り

 

     台所へ入った。

 

     物音に気が付いた夫が、

 

     階段を駆け下りて

 

     台所に入ってきた。

 

     「来ないで

 

     私の傍に来ないでね」

 

     近づく夫へ

 

     私はそのまま

 

     ボトルを逆さにして

 

     赤ワインを夫の頭から振りかけた。

 

     夫のシルバーグレーの頭髪が

 

     赤ワインの涙色に染まった。

 

     顔に流れ落ちるワインを

 

     拭おうともせず

 

     震える私を

 

     両手で抱きしめようとする。

 

 

     「もう、、、ダメなの、、、

 

     貴方と私は終わったの、、、

 

     私達は崩壊したの、、、」

 

     「、、、、、、、、、」

 

     夫は横に首を振りながら

 

     「俺たちは30年前と同じだよ

 

     何も変わっていないよ、、、」

 

                      「、、、、、、、、、」

 

     「そうだろう、、、」

 

     「お願い、私をこれ以上苦しめないで

 

     私を自由にしてほしいの

 

     もう不可能だから

 

     離婚してほしいの」

 

     「、、、、、、、、、無理だ

 

     俺にはできない

 

     君を失うなんて、できない!」

 

     「私は自分の健康を守らなければならないの

 

     貴方もわかっているのよね

 

     主治医の先生が

 

     肺のすりガラス結節は既に

 

     2年大きさも色も変化はなく

 

     次回は10か月後にしましょう、と

 

     おっしゃって下さったのよ

 

     なのに

 

     こんな不条理な苦しみが続いては

 

     壮絶なストレスで

 

     頑張って問題ない状況を維持できていたのに

 

     悪性になって進行してしまうわ

 

     私は静かに生活をしたいの

 

     貴方は私を守らなかったわ

 

     夫として常識では考えられない

 

     前田との関係を

 

     正当化してきたじゃない

 

     怒ってないわ

 

     ただ別れてほしいだけ、、、」

 

     「、、、、、、、、、

 

     そんなこと言わないでくれ、、、

 

     前田とはそんなつもりではなかった

 

     確かに入り込ませたのは

 

     間違いだった」

 

 

     『夫の不倫を小火で終わらせるか

 

     大火事になるかは

 

     妻の直感と英知による』

 

 

     そんなこと今の私には

 

     どうでもよいことであった。

 

 

     「何があっても

 

     どんなことがあっても

 

     全力で癒すから

 

     傍にいさせてください、、、」

 

     「前田が自分自身の『保身』にだけ走り

 

     逃げられたから

 

     そう言っているのでしょう、、、」

     

 

     夫も私も

 

     精魂が尽き果てて

 

     身も心も疲弊した。

 

     疲れ果てて

 

     二人とも

 

     赤ワイン色に染まり、

 

     濡れそぼり額と額を合わせた。

 

     30年の幾星霜を重ねた夫婦は

 

     背中合わせに

 

     転んでは手を取り合って

 

     再び這い上がり

 

     糸で絡まった

 

     二人乗りの人生から抜け出せない。

 

     私は流す涙も枯れ果てて

 

     淋しく笑った。

 

     シャワーを浴びて

 

     夫が私の朝の習慣である

 

     スライスレモンとアールグレイティーを

 

     テーブルに用意してくれた。

 

     レモンの酸味とシナモンが

 

     荒れた「胃」の粘膜を保護して

 

     不快感を和らげた。

 

     夫が夏の庭の手入れを始め

 

     私はC5のグランドピアノの蓋を開けた。

 

     ロマン派のポーランドの作曲家

 

     フレデリック・ショパンの

 

     私が最も好きな曲の一つ

 

     バラード4番のボロボロのヘンレ版を開いた。

 

     

     

 

     

     

     1か月ぶりの鍵盤、

 

     人生でこれ程長く

 

     ピアノから遠ざかった経験はない。

 

     Ballade no.4 f-moll Op.52

 

                    始まりの"C-dur"から

 

     途中 "f-moll"に続く変化で

 

     短調の調べに

 

     心が動揺し

 

     指を止めた。

 

     

     こんな精神状態では

 

     ピアノはとても弾けない。

 

 

     「どうしたの、、、」

 

     母が

 

     「女の子はいつも人に優しく

 

     笑顔でいるのよ」

 

     と私の頬を撫でた。

 

     一人娘で

 

     蝶よ花よと

 

     育てられ、

 

     人様に傷付けられることも

 

     人様を傷付けたこともない

 

     今迄の人生だった。

 

 

     苦汁を味わう

 

     悪夢のような体験は

 

     人の心を傷つける

 

     成人として不品行な

 

     堕落行為だ。

 

     前田はそれを承知の上で

 

     繰り返し執拗に

 

     夫へ纏わりついてきたのだ。

 

     『毒血』は夫へは

 

     決して見せずに。

 

 

     私には知る由もない

 

     企業の既婚男性上司と

 

     40歳の独身女性部下、

 

     ノンフィクションの世界で

 

     部下が狙いを定めた上司に対し

 

     尊敬から

 

     プロフェッショナルへの信頼

 

     更にミスをカバーしたり

 

     個人的に相談することで

 

     距離を縮め

 

     憧れから執着、

 

     更には強力な独占欲を伴うようになる

 

     用事がないにも拘らず

 

     個人的に接近し

 

     上司との二人きりの時間を

 

     強引に作ろうとしていく

 

     最早、

 

     上司の家庭も

 

     妻や家族など

 

     眼中になく

 

     家庭を崩壊させてでも

 

     手に入れようとする。

 

     私は

 

     夫の気持ちが

 

     前田へ傾いた故の

 

     1年4ヵ月であるならば

 

     決して夫を引き留めないと

 

     心に誓っていた。

 

     30年前

 

     私を追いかけて、追いかけて

 

     どの様な障害があっても

 

     私を妻にした

 

     あの時の夫は別人なのだ。

 

     人間は感情の生きもの、

 

 

     『諸行無常』

 

 

     あらゆる存在や現象は

 

     常に変化しており

 

     決して永続するものではない

 

 

     人間の感情もまた

 

     絶えず移り変わるものであり

 

     とどまるものではない。

 

 

     既に駐在地で

 

     夫へ告げたように

 

     もし私と共に生きていきたいならば

 

     会社へは戻らないで、

 

     もし会社へ戻るならば

 

     離婚してほしい。

 

     この意志は決して変わらなかった。