ケン・リュウ「紙の動物園」…痛くて痛くて悲しく美しい物語
心優しく、純粋であったり、物事の本質を理解している豊かな人々。
そのような「美しい魂」をもった人々には、幸せになってほしい。
私はいつもそのように思っています。
命あるものに上下はないけれど、清らかな人間には、安寧が保障されてしかるべきだと考えるからです。
新進気鋭の作家、ケン・リュウの短編集「紙の動物園」の1編1編には、美しい魂の持ち主が登場します。
不思議な力で子どもを力づけ、
複雑な世の中を見通し、
自然の力を謙虚に受け止め、
言葉や文字の深い意味を掴む
こんな人が身近にいたら、大切にしなくてはいけません。
ところが、この短編集の素晴らしい人々は、過酷な運命に翻弄されます。
心を痛めつけられ、裏切られ、命を奪われる。
こう書くと、なんてブラックな小説群だろうとお感じになるでしょう。
ところが、ケン・リュウの筆致はあくまで流麗で、東洋的な静けさを湛えながらも色鮮やかなのです。翻訳ではありますが、翻訳者によって丁寧な言葉選びがなされているので、作者の息遣いがきちんと伝わってきます。
それにしても、登場する「良き人々」の運命は、現実世界の過酷さと同期しています。
実際、市井の良心が、心無い人々や権力によって、蹂躙されているではありませんか。
未開の民族が編み出した言語を西欧の人間が解読し、自分たちの欲望のためにそれを使う「結縄」という作品は、モンサントの所業を想起させます。
全編にわたって、世界の理不尽に対して抱く悲しみ・怒りが伝わってきます。
こういう小説は、心が元気なときでなければ読めません。
落ち込んでいる人にはとてもじゃないけどオススメできない。
でも、生き物や人物、物体、風景の描写は、色鮮やかで優雅。いのちの力強さと儚さの両面を表現しつくして圧巻です。
これ、又吉くんが絶賛していて、今なら書店で平積みになっています。
又吉って、こういう、人の心の深いところを突く小説が好きなんだなあ^^;
大江健三郎の祈り
NHK「100分で名著」。
今回は大江健三郎の「燃え上がる緑の木」を取り上げていました。4回シリーズの3回目を見たところです。
この小説は「宗教」について書かれていますが、さらに言えばその中心は「祈り」のようです。
他者にどう関わるか。
どうすれば他者を救えるのか。
翻って、そこから自分を救うのは何か。
ハッとしたのは、解説者である小野正嗣さんと伊集院光さんのこのやりとりです。
誰かが誰かに目を向け心を向けているとき、見られている人は一個の人間として存在する。見ているということ、見ているよと告げることは「祈り」なのだ、という内容でした。
(だから、私は千葉から目を離さないし、千葉の友人たちに声をかけ続けます。)
そのことを、大江は書いているといいます。
(情けないことに私は未読なので、伝聞調になります^^;)
もう一つのポイント、大江健三郎にとっての祈りは「読書」。
たしかに、心が何らかの欠乏を感じているとき、本を手に取ることがあります。時折、どこかに、自分の求める答えに近いものを発見し、硬直が解けていくような感覚を味わいます。
今、まさに、本で癒されている私。
本との出会いは、直感でもたらされます。書店で、まず気分が乗りそうな分類の書棚の前に立ち、背表紙にワクワクするかどうか、自分に問いかけます。
いくつか選んで、ぱらっとめくって、文字面や言葉の選び具合を確認。
予算とにらめっこして決断します。
無理してまで買いません。
どうしても冊数を稼がねばならないなら、図書館のほうが無難です。
さて、皆さんも是非、書店に足を運んで、本当の出会いを楽しんでください。
よい言葉に出会えますように!
伊坂幸太郎「サブマリン」〜傍若無人な愛の人
かつて、伊坂幸太郎の「チルドレン」で、表題のようなキャラの家裁調査官・陣内に出会いました。
大雑把。
いい加減。
適当。
大風呂敷。
ホラ吹き。
不真面目。
しかし、おそらく、
その本性は、人の心の動きに敏感で、観察眼鋭く、甘さのない愛に溢れている。
先日感想を書いた「死神」シリーズの死神・千葉と同様、仕事に忠実です。
だから犯罪を犯した少年少女に、(そうは見えないけれど)実は本気で向き合っていて、いい加減そうなキャラだから、彼らの心の負担にはならずにいます。そして、忘れがたい人物にもなっています。
お見事な設定です。
たまりません。
完全にタイプです。
続編である「サブマリン」にも、同じく陣内と部下の武藤という凸凹コンビが登場します。
武藤は常識人なので、破天荒な陣内に振り回されっぱなしですが、陣内の本性を無意識に理解しているようです。
陣内・武藤コンビの作品を読んでいると、子どもを思いやるということは、社会を真面目に考えることだとつくづく感じます。
世の中のねじれや歪み、ほころびは、子どもの暮らしや心に最も影響を与えるからです。
人生の中で怒りや悲しみ、絶望など、さまざまなネガティブ要素は避けがたく、疑うことを知らない完全無欠な赤ん坊は、大なり小なり心に傷を受けて大人になっていきます。
傷が大きく、それを癒やすチャンスがなければ、歪んだ大人になっていきます。
傷が大きくても、周囲からのサポートがあれば、傷跡は残ってもそれを力に変えて豊かな人間に育つことができます。
伊坂作品は、完全な絶望で終わることがありません。
たとえそれが死に向かう結末であったとしても、「生」を肯定して終わる。
サブマリンの主要人物は死にませんが、自己肯定感を失っていた人物が光を見出す暗示で終わります。
「チルドレン」「サブマリン」のセット。
痛みを抱えたまま、世の中の底辺に沈んでいる人に、リボンを掛けて贈りたい小説です。
次はこれとこれ
伊坂幸太郎「死神の浮力」
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まずは、お問い合わせいただければ、ご説明します!
ちょっとした文章を書かされたり、
仕事でメールを打ったり、
親しい人に手紙を送ろうとしたり、
お詫びをしなくてはいけない
いろいろな場面で、自分で考えて書かねばならないことがあります。
「てにをは」はもちろん、
恥ずかしくない言葉遣い、
起承転結、
5W1H、
自分での直し方
など、基本をお伝えします。
3カ月隔週でZOOMのやりとり。
毎週のやさしい課題提出。(メールで拝見します)
課題はそれぞれの方に合ったオーダーメイドのテーマです。
講座費用 30,000円
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