ケン・リュウ「紙の動物園」…痛くて痛くて悲しく美しい物語
心優しく、純粋であったり、物事の本質を理解している豊かな人々。
そのような「美しい魂」をもった人々には、幸せになってほしい。
私はいつもそのように思っています。
命あるものに上下はないけれど、清らかな人間には、安寧が保障されてしかるべきだと考えるからです。
新進気鋭の作家、ケン・リュウの短編集「紙の動物園」の1編1編には、美しい魂の持ち主が登場します。
不思議な力で子どもを力づけ、
複雑な世の中を見通し、
自然の力を謙虚に受け止め、
言葉や文字の深い意味を掴む
こんな人が身近にいたら、大切にしなくてはいけません。
ところが、この短編集の素晴らしい人々は、過酷な運命に翻弄されます。
心を痛めつけられ、裏切られ、命を奪われる。
こう書くと、なんてブラックな小説群だろうとお感じになるでしょう。
ところが、ケン・リュウの筆致はあくまで流麗で、東洋的な静けさを湛えながらも色鮮やかなのです。翻訳ではありますが、翻訳者によって丁寧な言葉選びがなされているので、作者の息遣いがきちんと伝わってきます。
それにしても、登場する「良き人々」の運命は、現実世界の過酷さと同期しています。
実際、市井の良心が、心無い人々や権力によって、蹂躙されているではありませんか。
未開の民族が編み出した言語を西欧の人間が解読し、自分たちの欲望のためにそれを使う「結縄」という作品は、モンサントの所業を想起させます。
全編にわたって、世界の理不尽に対して抱く悲しみ・怒りが伝わってきます。
こういう小説は、心が元気なときでなければ読めません。
落ち込んでいる人にはとてもじゃないけどオススメできない。
でも、生き物や人物、物体、風景の描写は、色鮮やかで優雅。いのちの力強さと儚さの両面を表現しつくして圧巻です。
これ、又吉くんが絶賛していて、今なら書店で平積みになっています。
又吉って、こういう、人の心の深いところを突く小説が好きなんだなあ^^;