ハリエットの心は揺れ動いています。

大好きなエルトン氏は美人でお金持ちのホーキンス嬢と婚約し、

一緒に村に戻ってきました。

プロポーズを断ったロバート・マーティンの

妹エリザベスがやさしい手紙をくれたので、

ハリエットはうれしくてどうやってお返しを

したらいいかずっと考えています。

エマはあくまでもマーティン一家と

ハリエットがつきあうことには反対ですが、

また去って行くエルトン氏のため生じる

ハリエットの悲しみを紛らそうと一計を案じます。

返礼の訪問ができるように、

ハリエットを馬車でマーティン家まで送り、

短時間で迎えに戻る、というものです。

例によってハリエットは訪問の様子をエマに報告します。

英語が面倒くさい人は<訳>へどうぞ。

She had seen only Mrs. Martin and the two girls. 

They had received her doubtingly, if not coolly; 

and nothing beyond the merest common-place 

had been talked almost all the time 

―till just at last, when Mrs. Martin's saying, 

all of a sudden, that she thought Miss Smith was grown, 

had brought on a more interesting subject, 

and a warmer manner. 

 

In that very room she had been measured 

last September, with her two friends. 

 

There were the pencilled marks and memorandums 

on the wainscot by the window. 

 

He had done it.  

 

They all seemed to remember the day, 

the hour, the party, the occasion

―to feel the same consciousness, the same regrets―

to be ready to return to the same good understanding; 

and they were just growing again like themselves, 

(Harriet, as Emma must suspect, as ready as

 the best of them to be cordial and happy,) 

when the carriage reappeared, 

and all was over. 

 

The style of the visit, and the shortness of it, 

were then felt to be decisive. 

 

Fourteen minutes to be given to those 

with whom she had thankfully passed 

six weeks not six months ago! 
(Emma, Oxford, 1971, p.167)

bring on ~:~を引き起こす
wainscot      : 羽目板

<中野康司氏の訳>
家にいたのはマーティン夫人とふたりの娘だけだった。

三人は冷ややかではないが、困ったような様子で

ハリエットを迎え、話題も月並みなものばかりだった。

でも最後に、突然マーティン夫人がハリエットに、

「あなた、背が伸びたわね」と言うと、

急になごやかな雰囲気になった。

ハリエットは去年の九月にその部屋で、

マーティン家の二人の娘といっしょに

身長を測ってもらったのだ。

窓のそばの羽目板に、

鉛筆で書いたしるしとメモが残っていた。

ロバート・マーティンが計って書いてくれたのだ。

四人はその日のことを思い出した。

あの日、あの時間に、みんなでこの部屋に

集まって背比べしたときのことを。

そして、四人それぞれがなつかしい気分にひたり、

いまの状態を残念に思い、

あのときのような心の通い合った仲に戻りたいと願い、

また元どおりのみんなに戻ろうとしていた。

 

誰よりもハリエットがいちばんそれを望んでいたにちがいない。

だが、そのとき迎えの馬車が現れて、

すべては終わった。

訪問の仕方と時間の短さが決定的だった。

半年前に六週間もお世話になった人たちを訪れたのに、

たった十四分でそそくさと失礼するとは!
(「エマ 上」ちくま文庫 pp.289-290)

 

 

 

マーティン家のお母さんの一言で

雰囲気が一変するあたりでぐっときました。

ありふれているようでなかなか上手なエピソードを

突っ込んできたわけですね。
みなしごだったハリエットにとって、

家庭の温かさを感じられるマーティン一家と

のつきあいはとりわけ心和むものだったはずですが、

エマはあくまでも

 

 

 

身分相応の相手と結婚するべきだという考えでした。