作家M・デュラスの気配を追って<サン・ジェルマン・デ・プレ界隈①> | PARISから遠く離れていても…/サント・ボームの洞窟より

PARISから遠く離れていても…/サント・ボームの洞窟より

わが心の故郷であるパリを廻って触発される数々の思い。
文学、美術、映画などの芸術、最近は哲学についてのエッセイも。
たまにタイル絵付けの様子についても記していきます。

 もちろんメトロのサンジェルマン・デ・プレで降りて歩いてもいいのだが、それでは何か違うように思えた。

 思いは静かに消えることなく持続していたが、まだ自分にはあと少し準備の時間が必要だった。

 たぶんおこがましいという気分がそのベースにはあったように思う。

 一つ手前のオデオンで降り歩いていくことにした。

 地下鉄の出口は賑やかなサン・ジェルマン大通りに面していてサン・ジェルマン・デ・プレ方面にほんの数分歩くと見覚えのある入口が見えてきた。

 

      cour du commerce saint-andré

 

 一見パサージュのようだがここはコメルス・サンタンドレ小路という屋根なしのアーケード。(一部出入り口に屋根付きの部分が見られるが、定義から言うとそれはパサージュのうちには入らない)

 2009年に一度ここを訪れたことがある。

 とはいえ他の用事があってさっと通り抜けたにすぎず、また尋ねてみたい場所だった。

 

 1776年OPENの長さ120メートル、幅3、5メートルの青空が見えるこのアーケードは凸凹の石畳みが歴史ある往時の風情を伝えている。

 但し観光するにはハイヒールで歩くことだけは絶対に避けたほうが良い場所の筆頭に挙げられるのでは。

 

 

 今回初めて知ったが、この場所はフィリップ・オーギュスト王の時代(12世紀後半)の城壁に沿って造られたといわれる。

 現在は私有地のため外からはその痕跡は殆ど見えないようだが、その城壁の一部は残っているとのこと。

 

 

                  CAFE PROCOPE

 

 ここで見るべきなのはやはりこの場所、カフェ・プロコップ。

1686年創業のパリでいちばん古いカフェレストラン。

 フランス革命期にはダントン、ロベスピエールなどの会合の場所として、またミュッセやジョルジュ・サンドを始めとする多くの芸術家や哲学者などの溜り場としても現在に至るまでその名を轟かせている。

 だがここを訪れる観光客で、この小路が革命後にギロチン装置の改良と実験を(実際に羊を使って)行った場所であると知っている人はどれほどいることだろう。

 そのような諸々の歴史ある場所ゆえに、1987年にここは歴史的記念碑としてリストアップされている。

                                         

                            紅茶 Yellowish Green         

 

 プロコップ入口のランチメニューを見ているうちに空腹感を覚えた。そういえばもう午後の3時を回っているというのに朝食にクロワッサンとカフェ・オレを摂っただけで何も口にしていない。

 しかしさすがにこのプロ・コップは自分には敷居が高すぎる感じがして、結局落ち着いたのはアーケード裏のサンタンドレ・デザール通り近くのピザ店だった。おそらく地元の常連客ばかりと思われる…。

 

 食事休憩を済ませるとサンタンドレ・デザール通りからゆっくりと歩きだす。

 セーヌ河岸脇のフランス学士院へと続くマザりーヌ通りを渡り、通りはビュッシュ通りと名前を変え、さらに進んでセーヌ通りを渡ってまもなく進み右へ折れるとRue de l’Abbaye(ド・ラベイ通り)に入る。この道はサンジェルマン大通りに並行する1本裏道で通りまでわずか100メートル余りしか離れていないのに、喧騒とはまったく無関係の静けさに満ちている。それも納得Rue de l’Abbayeとは修道院街でありこの通りには16世紀末に立てられた大修道院長館がある。

 

 いやそんな地図や資料を眺めながらの記述はもうよそう。意味がないとまでは言わないにしろあの時の気分とは合っていない。

 自分は確かにその道筋を歩いたはずだ。いや歩いたに違いないだろう。おそらく…。

 だが今必要なことは大事なことはそれを検証したりすることではない。

 大切なのはあの時の自分に還ることだ。そして思い出すこと。

 覚えているのはサンジェルマン・デ・プレ教会の尖塔の先を目印にしてゆっくりと歩いていったことと、ああもうすぐだという思いと物見高い自分に少々戸惑いを感じる気持ちの間で揺れ続けていたことぐらいなのかもしれない。

 

 そこを訪れる前にもう一つこの近くで行ってみたい場所があったことを言っておかなくてはならないだろう。

 気が付いたときにはもう吸い寄せられるようにしてその場所に立っていた。

 

          フュールステンベルグ広場

 

 それは広場と呼ぶには可愛らしすぎる小さな空間だった。

 中央の舞台のように一段高くなった場所は、天井や屋根こそないがロトンドと呼ぶに相応しい円形の空間になっていて、夏の光を浴びた緑の木立ちに四方から見守られるようにして1基の古い街灯が佇んでいた。

 おそらくここを訪れた誰もをほっとさせるに充分な都会のオアシスと言うべき場所。

 

 あなたのことを考える。正確にはあなた自身が書いた小説のこととかをとりとめもなく。

 

 だがそれについて自分が言えることなど果たしてあるのだろうか。

 

 ただ今こうしている中で感じているのは、デュラス、あなたもきっとこうしてこの景色を眺めたはずだとー。

 

 

                                   つ づ く

 

 

                                         

よろしくお願いします

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