前回は建築、ファサード(正面)部分の特徴的な構造について主に説明したが、今回は建物の中へ。
私が観たイスラム美術を中心に御紹介したいと思う。
美術館は上の方の階だったと記憶しているが今回確かめたら7階が入口だとわかった。
ところがいざ直行を試みようとしたものの、エレベータは吹き抜けでガラス張りというとんでもない代物。(高所恐怖症なもので)
初っ端から心が挫けそうになったが仕方がない。
もう忘れたけどたぶん7階へ到着するまで目を瞑っていたのではなかろうか。
ちなみに美術館自体は4階から7階までのスペースを持ち、上の階から徐々に階段を下りて見学するという仕組みになっている。
こちらもエレベーターほどの恐怖感は薄れるにしてもスケルトンである。
7階で私が観た作品であるが、自分の興味の都合上関連あるものしか撮っていないことをお断りしておく。
また床の素材は判明しないがピカピカと艶よく磨き上げられ眩しいくらいに反射し、なんだか滑りそうでスケートリンクの上恐々と歩くような感じだった印象が強く残っている。それとは対照的になぜかフロアー全体の照明は薄暗い気がした。(作品保護のためなのか)
そのせいにするわけでもないが、写真がよく撮れなかった。フラッシュを焚かないと暗いし焚けば部分的にライトが中ってしまうし…。
デジタルカメラじゃやはり無理なのか、こういう場合どうしたらよいのかわかる方いたら教えて頂きたい。
展示作品の前にまずこちらの文献センターの様子をご覧頂きたい。
例のカメラの絞りの構造を取り入れた壁面パネルに再び注目!
これらは前編のほうで御紹介した日差しや砂塵を遮蔽するための
マシュラビーヤと呼ばれる格子窓のデザインをヒントにしたものだが…。
一つ一つのブロックはこんなデザイン。
さてこちらの展示作品のタイル。
4枚で一組の柄になっている幾何学模様のデザインであるが、
なんとな上のく壁面パネルのデザインと似ている気がする。
こちらのタイルも…。
これが先ほど文献センターのところで触れたマシュラビーヤと呼ばれる
格子窓のデザインの一例。
よくみれば上のタイルのデザインと共通する雰囲気があるように
思えるのだが、どうだろうか?
こちらの展示作品もそういえば似ているような…。
こちらは絵皿であるがやはり中心のポイントとなる幾何学模様の八角形の
形は、マシュラビーヤのデザインでもよく出てくるアラブの伝統的モチーフといわれる。
中には幾何学模様ばかりではなくこのように鳥や草花をモチーフとしたものもある。
(確かガラスケースの中に置かれていて、こうして天井からのライトが作品に映りこ
んでしまうのはどうしようもないのだろう)。
そして今度はこちらに注目!!
アラビア語で書かれたこの文字はコーランの一節なのか?
作品ではなく建物の一部に使われているようだが…。
かなり大きな壁面を飾るタイル作品。
こちらも幾何学でなく花や木、葉などの植物の絵が描かれているが、
ポイントは絵の背景の隙間を埋めるように書かれている上に挙げた
アラビア文字。美しくデザイン化され模様として溶けこんでいる。
さて、ここまでの作品を観てきて何か気付いたことはないだろうか。
イスラム美術の代表的なこれらのタイル作品は、ほとんどが建築、モスクなどの建物の外装、内装などの壁に使われているものである。
古代アラブから時代を経て科学的発見や数学的進歩が成されることにより、複雑な幾何学パターンを作成することが可能になったからであり、いわゆるアラベスク模様と現在呼ばれているもので植物や動物の形が基となっている。
しかしなぜ幾何学ばかりなのだろうか。
それはイスラム教では一般的には偶像崇拝が禁止とされているためもあろう。
また幾何学模様のパターンというものはいくらでも無限に続いていくものであり、それはアッラーの世界やイスラムの精神性というものを象徴するものであるからだ。
幾何学模様のタイルが組み合わされた例。スペインのアルハンブラ宮殿などが有名
ところで先ほど出てきたアラビア語で書かれた典型的な書物といえばまずコーランである。
アラブ世界ではイスラム教というものが誕生する以前から、砂漠のベドウィン部族により<詩>というものが口承されてきた。
それらを記した文字は様々な書体で書かれ後にイスラムの影響を受けながらアラビア書道として1000年をかけ進化を遂げた。
現在でも人気のこのアラビア書道は元々コーランをコピーするために開発されたもので、羊皮紙や青や紫の紙に金色にコピーされ視覚芸術としても優れたものとされている。
10世紀のチュニジアのコーランより。書としても秀麗であるといわれるこの博物館の人気作品。
イラク南部の町クーファで開発された最も古いといわれるクーフィー書体。
このようなアラビア文字、アラビア書道のコーランの言葉は、先ほど観たタイル絵や皿などの
陶器、モスクの建物、金属、ガラスなどのデザインの中に見ることができる。
こちらはこの美術館の作品ではないが、ぜひ御紹介したい作品
アラビア書道家、 本田 孝一氏 「青の方舟」
今回この記事を書くにあたり見つけて、改めてアラビア書道というものの美しさに触れた気がした。
興味を持たれた方はぜひチェックしてほしい。
http://www.nippon.com/ja/people/e00028/
こちらは未見だが、6階の宗教展示室のコーナーである。
イスラムだけでなく、ユダヤ教、キリスト教関係の教典や宗教画など
紀元前から13世紀頃の作品を中心に展示されているようだ。
上の彫刻は古代アラブで崇拝されたという女神アル=ラート、
太陽の神といわれている。
(コピーらしいということだが制作時期は紀元1世紀頃)
イスラム教では偶像崇拝禁止と説明したばかりなのに、
古代のイスラム教域(アッラー以前)では、多神教の時代もあったという。
この女神もそのうちの一つ。(5世紀末頃)
この他にも4階ではアラブ諸国の生活文化、ペルシャ絨毯、天文学や科学、
医学などの分野に係わる展示など充実しているようだ。
私も次回はゆっくりと観て回りたいと思う。
御紹介しきれない美術館内部の展示や雰囲気などの様子はぜひコチラで。
ごく一部だが私が提示した作品も紹介されている。
最後に一つ重要なことをお伝えしておきたい。
実は前編で御紹介したアラブ世界研究所ファサードの重要な見所の一つ、光を自動調節する可動式スクリーンだが、現在では動作しないものが多くなっているという。
建てられてから30年が経過しそろそろリノベーションの必要に迫られ現在改修プロジェクトが進行中であるとのこと(2019年迄)。
もしこの記事を読まれてぜひここへ行ってみたいと思われたならば、できれば改修工事が始まらないうちに行かれることをおススメする。
特にこちらの建物の外観は大事な作品の一つといえるので。
お・ま・け
アラブ世界研究所の見所の一つとしてもはや穴場という言葉が相応しいのかは疑問だが、やはり屋上からの眺望を紹介しないわけにはいかないだろう。『パリの穴場 見下ろしスポット 無料でトイレ付き 』で検索すると2番目に挙げられるほどの場所であれば尚更。
ところがこの記事の最初でそれとなく断っておいたように、私自身は高所恐怖症の故、当然それは未体験だ。
それではということなので、研究所のホームページから写真をお届けしようと思う。
※参考資料★芸術新潮/2014年5月号
よろしくお願いします