もう随分と昔の話になるが、まだパリへはツアーで数回ほどしか訪れたことがなかった時代の話。
当時仕事していたデザイン会社に入ってきたのはうら若き二十歳位の男性。
なんとなくオシャレな雰囲気が漂っていて聞いたところ、パリに半年か1年ぐらい住んでいて日本へ帰ってきたばかりだという。それで「パリでもし自由時間に行くとしたらあなたのいちばんのおススメはどこ?」と聞いてみた。その返ってきた答が「アラブ世界研究所」で、正直、何それ?と思ったがそれが存在を知るきっかけともなった。
アラブ世界研究所の設立は1980年(1980に着工し1987に現在のメインとなる建物が完成)、おそらく当時できて間もない頃だったように思うからそれも仕方のないことのような気がするが、あれから30年経った現在では果たしてと゜のような観光スポットとして捉えられているのだろうか。気になって少し調べてみた。
まず4(フォー)トラベルのパリ観光満足度ランキングでは337件中72位。
トリップアドバイザーだと1228件中141位。うーん、どちらもあまりいいとはいえない感じ。ベスト10、いや20、せめて30位内には入っていてほしい気が…。
また同じパリのブログを書いているMushaさんにもそれとなく質問してみ;れば、パリを一望できるスポットとしてたとえば『パリの穴場 見下ろしスポット 無料でトイレ付き 』で検索する2番目に挙げられ、他にも夜景スポットとしても注目だそうで、御本人もこの様な記事を見なければ行こうとはしなかったかもしれないとも。
つまり『無料で屋上から眺望できる穴場スポットということで有名』だが一般的な認知度としては今一つ…というのが実情かもしれないよう。
そこで今回もっと少しでも本来ここが持つ魅力に迫れればと記事を書くことにした次第。
いつものように前置きが長くなり悪しからず!
パリ五区セーヌ河岸沿いに建つアラブ世界研究所。地上10階地下3階、総ガラス張りの現代建築
美術館、図書館、シネマテーク、ギャラリー、レストランなどが入っている
(人気のある最上階9階の屋上テラスからは無料でパリを一望できる)
★アラブ世界研究所とは一言でいうとどんなとこなのか。
フランス及びアラブ諸国18カ国によりアラブ世界と西欧との文化交流を目的とし、情報を発信しつつその精神世界を研究するための機関である。
(※1984にはリビアも加わる)
まず見るべきは建築。建物の壁面
画像 www.archdaily.com
1枚1枚がこのようなガラスのパネルになっている
これは採光を自動調節するカメラの絞りのような効果を持つ
画像 www.archdaily.com
詳しい原理はこちらの説明をどうぞ
内側から見たところ
画像 www.archdaily.com
大事なポイントとしてこういう造りの建物はヨーロッパでは唯一であるということ。その点からみてもう少しランキング上位に入ってもいいのでは
さてこのガラスのパネルについてもう少し掘り下げてみたい。
何故ならこれはアラブ世界というものを理解する上である意味象徴するもののように思うからである。
パネル構造の原理については先ほどの説明図からお解かり頂けると思うが、 マシュラビーヤと呼ばれるものからヒントを得てつくられている。
マシュラビーヤとは強い日差しや砂塵などを遮閉するために建物の外壁に取り付けられた木彫りの格子窓のこと。(細いロクロでひいた木の棒を縦横斜めに組み合わせて出来た2、3センチの格子)。
室内からは柔らかい光をとりいれるのに最適なちょうど遮光カーテンのような役目をしもちろん外が見えるが、外から中は見えない構造になっている。
出典 4トラベル
マシュラビーヤの例 出典google.es
マシュラビーヤを実際に使用した建物の例をみてみよう
カイロのスハイミ邸①
カイロのスハイミ邸②
カイロのムサフィル・ハーナ邸
マシュラビーヤの扉は街路を覗いたり、物売りから品物を買った
際に代金など受け渡しの籠を吊るしたりする用途として使われた。
上のようなカイロの邸宅によくみかけられるマシュラビーヤ
どんな構造のものかはお解かり頂けたと思うけど
ここでさらにもう少し深く探ってみたい
この本の表紙の女性の服装を見てどういうふうに思われるだろうか?
さらにもう1枚こちらも
画像 d.hatena.ne.jp
これらの写真はアラブ女性の服装の一つだが…
何かに似ている、または何かを思いださないだろうか?!
正式にはアフガニスタンまたはパキスタンで多くみられるイスラム教徒のブルカという女性の服装で、手首足首の他、全身を覆い隠すようになっている。ベールの部分はメッシュになっていてすっぽり覆っていても目はもちろん見える。
何故この地域のイスラム教徒の女性が顔全体を覆い隠すのか、それは女性を他の男性の目から隔離、保護するというイスラムの習慣に由来するものでそれをパルダというのだが、ペルシャ語で幕とかカーテンを意味する。
ここまでくればもう説明不要と思われるが私が言わんとするのはもちろんマシュラビーヤのことである。
いやもう、ガラスのパネルの話からこんな展開になるとは…などとはいわずにもう少しお付き合いを。
これらは先ほども言ったように、アラブ世界というものをある意味象徴し共通するものに思うからである。
つまり、内から見えても外からは見えない―。しかし、それゆえに、
「見えるものの背後にある見えないものを見る必要がある」。
これは設計者ジャン・ヌーベルの言葉だが、見えない光というものの原理を活かし壁面に取り入れたというこの建築こそまさにそれを具現化したものといえるのではないか。なんだか哲学的。
(※彼の他の建築作品は、パリではカルティエ現代美術財団、ケ・ブランリ美術館など)
そしてこれは個人的な感想ではあるが、今の日本がこうしたイスラム圏のアラブ諸国に対して欠けている姿勢のようにも思えてならない。
※参考文献 ★建築巡礼⑭ カイロの邸宅-アラビアンナイトの世界- 木島安史
★イスラーム 社会生活・思想歴史 小杉 泰・江川ひかり編
★砂漠とハイヒール ドクター・カズエが見たアラブ
★地球・街角ガイド タビト2 PARIS<フランス>
★カブールの本屋<アフガニスタンのある家族の物語 >アスネ・セイエルスタッド 江川紹子/訳
今回は外部の建築<ガラスの壁面>を通してアラブ世界研究所というものをみてきたが、次回は内部に入りイスラム美術というものに触れたいと思う。
続 く
よろしくお願いします