今、農業業界にいてよく聞こえてくる話題はもちろんTPPです。大雑把に言って農業業界は反発、それ以外の所は賛成と言うような色分けですが、まあそれはそれとして色々調べてみると、報道や何やらで説明されている要件がやたらに大ざっぱなのではないかと疑問です。
 私は提起された当初は「農業にとって厳しいのは間違いないが、でもまあ仕方ないかな」と考えていました。が、今は「農業がどうとか言うより、そもそも誰が得するの?」と思っています。


 TPP参加については「開国か、鎖国か」と言うような言い回しがよく使われます。仮免総理大臣も「平成の開国」と言っていましたが、こういう言い方で「じゃあ鎖国で」と答える人はそうそういないでしょう。もうこの時点でおかしいのですが、では開国と言っても関税を全世界各国へ完全撤廃するわけではなく、環太平洋諸国の一部です。
 具体的にはシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの各国であり、中国や韓国は入っていません。またシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリと日本はすでに個別にFTAを締結済みであり、オーストラリアとペルーとは交渉中です。


 要するにあらためて「開国」と言えるような国は少なく(TPP参加の諸外国間でも相互FTAは多い)、また国の経済で見ても日本と比べられる国はアメリカしかなく、物品貿易と言うことを考えるとTPPはほとんどアメリカ単独との締結みたいなものです。


 TPPで輸出産業は儲かると言われますが、本当でしょうか。以前、正月の番組で池上彰がTPPを「自動車VS米」と言っていました。彼のニュース解説はわかりやすいのが話題になっていますが、わかりやすさとはデフォルメであり、このTPPに関するデフォルメは少々行き過ぎです。というか本当に自動車VS米なのだとしたらそれこそTPPの意味がわかりません。
 アメリカの自動車輸入関税は2.5%に過ぎず、もちろんゼロではない以上負担なのは間違いありませんが、それにしても大した事ないように思えます。そしてそれ以上に、日本の各大手自動車メーカーはアメリカ向けの自動車はアメリカで現地生産しています。となると関税など関係ありません。


 だいたい輸出産業は日本においてそれほど斜陽なのでしょうか。昔はむしろ儲けすぎとして叩かれていました。実際、先月出たニュースでは、去年の貿易収支は大幅に伸び、黒字は2.5倍となっています。アジア向けの輸出も大いに伸びていて、輸出産業にこれ以上の支援など必要ないように思えます


 つまりもしかしたら、TPPの目的とは「儲ける」ためではなく農業で「損をする」ために行うのでしょうか。だとしたらまだ意味はわかりますが、それならそうといわなければ不誠実です。
 また、TPPの真の狙いは物品貿易ではなく投資や人的交流(安い労働力の輸入)である、と言う論点もあるようですが普通の新聞やテレビでは言っていない、つまり一般国民向けの広報はしていません。これも不誠実だし、そんなあやふやに「賛成」されて潰されるのではやっていられません。


 で「鎖国」の方、つまり日本農業の関税保護についてですが、そもそも食料自給率で言えば6割ほどの食料はすでに輸入しているのに鎖国も何もないように思いますけど、もう少し詳しくは次のエントリにします。

格安米:一部に「くず米」 本来は加工用原料 産地表示、来年7月義務化・・・ 2010年12月15日

http://mainichi.jp/life/food/news/20101215ddm013100160000c.html


◇市民団体が調査


 ディスカウントストアなどで販売されている格安米を市民団体が調べたところ、加工用の原料になることが多いくず米が多く含まれている商品が見つかった。来年7月からは産地表示などの義務付けが始まる見通しで、消費者団体は細かい表示を求めているが、流通業者は「時期尚早」と反発している。背景にある米の表示の問題を探った。【小川節子】


 食の安全を調査している市民団体「家庭栄養研究会」(東京都三鷹市)が今秋、都内で販売されていた格安米10銘柄(5キロ1200~1700円台)を調査機関に依頼し、米の厚みが1・85ミリ以上の「高品質米」、同1・7ミリ未満の「くず米」の比率を調べた。


 一番安い「1290円」の米では、高品質米はわずか18%、くず米は37%含まれていた。高品質米が50%を切ったのは調査した10銘柄中3銘柄で、同じ「1580円」でも高品質米が93%のものと、32%のものがあり、価格と品質が必ずしも連動しているわけではなかった。また、試食したところ、産地直送の「単一原料米」と比べて、明らかに米粒が小さく黄色みを帯び、味も香りも悪い米があったという。


 今回調査した格安米のうち9銘柄は「複数原料米」と表示されており、8銘柄には何年産かの表示もなかった。調査にあたった同会の古山成江さんは「多くの消費者は、安い米にくず米が混ざっているとは考えていない。商品には細かい表示もなく、袋も透明でないため、粒の大きさや欠けた米があるかどうか、判別することは難しい」と指摘する。


 背景には米の表示ルールの問題がある。日本農林規格(JAS)法では、「単一原料米」は産地、品種、産年、「単一原料米」の表示の記載が義務づけられている。一方、「ブレンド米」は、複数の原料を使っていることと、国産か輸入原産国とその割合の表示が義務づけられているだけだ。ブレンドした米の産地別の内訳の表示は任意で、しかも農産物検査を受けていない未検査米は産地、品種、産年の表示をしてはいけないルールだ。古山さんは「米の規格、産地、産年表示はどんな米であっても必要だ」と指摘する。


 農薬やカビで汚染された米が食用に不正転用された問題を受け、取引記録の保存などを義務付ける「米トレーサビリティー法」が今年10月に施行された。来年7月からは、産地表示の義務化なども導入される予定。消費者庁が、パブリックコメントを募集したところ、消費者団体からは「未検査米に対しても産地、産年、品種の表示とその義務化」「くず米使用の場合はその使用率も書いてほしい」などの要望が寄せられた。一方、生産者や、流通関係者からは「義務化は時期尚早」などの声があった。消費者庁の平中隆司・食品表示課課長補佐「未検査米を含むすべての米に都道府県名を表示するようにしていきたい」と話している。



 安いものの中身に疑問を持って調査してみる試みは良いと思います。そもそも私は、激安米にはくず米や外米などが当然のように入っていると思っています。「どうせ消費者にはわからないだろう」と言うような不心得な業者は確かに存在します。
 この調査の出発点はおそらく、「なぜこの米は安く販売できるのだろう?不安だ」と思ったところからなのでしょうけど、今の社会はこの「不安だ」で止まっていることが非常に多く、「不安だからお前ら何とかしろ」ではなく「不安だから調べてみる」という方向へ進んだのは評価できます。


 ところがこの記事の中身には私から見て少し疑問があります。そのあたりをいくつか指摘・解説してみます。初めに言っておきますがこれは批判やイチャモンではなく、どうせやるならこの辺も考慮した方がイイヨというようなことです。


○くず米や高品質米の大きさによる規定は無い


 記事中に「米の厚みが1・85ミリ以上の「高品質米」、同1・7ミリ未満の「くず米」の比率を調べた」という表記があります。確かに1.70mm未満の米はくず米といっていいでしょうし、これは調査機関(この調査機関っていうのは何なのかよくわからないんですが)の独自の基準なのかもしれませんが、農産物検査法の農産物規格規定にはそういう基準はありません。まあ記事にも「基準である」とは書いていないのですが、誤解しそうな文面なので。


 くず米は別名を「ふるい下米」と言いますが、ふつう米の収穫の手順は、稲刈りして乾燥した後に籾摺り(籾殻を外す)した後にふるいにかけて餞別をします。そのふるいの目の大きさは生産者ごと・米の品種ごとに違い(大きい品種もあるので)、良い米を作ろうとする生産者は荒い網を使ったりします。うちのコシヒカリの場合は1.90mmです。
 で、そのふるいからこぼれ出た米のことをくず米と言うので、人によっては1.85mmの米でもくず米になりうるわけです。


 また、話は少し変わりますが米は高品質米とくず米の2種類しかないわけではなく、もう少し細かく言えば等級があります。普通に食べる米には1等から3等までの上位等級米と等級外の4つの格付けがあります。等級は大雑把に言って整粒(大きさ、形、つやなどが整った米粒)が全体に占める割合で決まります。等級外は整粒が45%未満で、はっきり言ってくず米とほとんど変わりませんが、形の上ではくず米ではありません。


○選別は玄米で行う


 実は一番気になったのはこの点なのですが、ふつう店頭で売っている激安米は白米だと思います。が、くず米と普通の米をふるいにかける選別は玄米の状態で行います。白米を調べて「これってくず米じゃん」と言うのはちょっとどうかなあ、と思いました。というのは、大きさも変わりますが、欠けた/割れた米は精米段階で出ることの方が多いからです。
 といっても精米段階で割れる理由は玄米の状態の問題があることが多く、具体的には胴割れ米というヒビが入った米は割れやすいのですが、これは大きさどうこうではなくヒビの有無で決まるので、等級が下がる要因にはなりますがくず米にはなりません(玄米の状態からすでに割れている米はくず米になることもある)。


 というわけで、どうもこの消費者団体では「くず米」というものの定義が普通の米業界でのそれとは少し食い違っているのではないかな、と思いました。
 色が黄色くて味や香りも悪い米があったという話ですが、それはどうもくず米ではなく古米っぽいです。これはこれで調査する術があるはずです(記事には書かれていませんが、したのかもしれませんけど)。また、もっと簡単なスクリーニングになりそうな調査項目は米の水分で、長期間保存された米は水分が飛びますから、例えば水分が13%未満だったりすれば相当あやしいです。水分は簡単に測れます(私でも自宅で出来る)。


○未検査米の産地表示などありえない


 くず米云々のほかに気になったのはここです。この消費者団体は、未検査だろうがくず米だろうが規格、産地、産年表示は必要だという主張のようですが、検査はまさにこれらについて正しいかどうか検査しているわけで、「未検査でも産地表示」はほとんど矛盾みたいなものです。
 産地・産年表示が出来ないのは未検査農産物のリスクです。消費者団体の方々には、「産地・産年の表示が無い米は売るな」と主張するのではなく、「産地・産年表示の無い米は買わないでおこう」と判断していただきたいです
 それにしても消費者団体はまだしも、消費者庁の課長補佐は何言ってんでしょうかねえ。


 トレーサビリティ法においては、産地・産年の情報においてくず米や中米であっても厳しくなったのは確かで、今年は中米であっても産地表示が無いものは扱えない(くず米同様として扱う)と言う業者が多かったです。個人的な考えですが、全てを明らかにせよと言うのもいいですが、先ほども言ったように「不確かなものは避ける」というのも一つの見方として勧めて欲しいです。


 激安には激安なりの理由があり、もちろんその理由として業者は「くず米の使用割合」なんか表示できないわけです。

 11月20~21日、島根県松江へ米・食味分析鑑定コンクールに行ってきました。
 http://mytown.asahi.com/areanews/shimane/OSK201011200116.html


 参加目的はコンクールそのものより、実際にはそこに集まる農家とかバイヤーさんたちと会って話したり情報交換したりする、ほとんど年1回の同窓会みたいなものなんですけどね。
 けど全国から応募は三千近くあり、国内最高峰の米が集まる、米のコンクールとしては最大と言えるイベントで、興味ある人は是非見に行ってみると良いと思います。来年は群馬県の川場村だそうです。正直言って、毎年場所が辺鄙すぎるんだよなぁ。


 さてここに行くと毎年、応募された米全ての分析データがまとまった資料を貰えるのですが、これってけっこうすごいです。先ほども言ったように三千近い米の、生産地・生産者・米の品種・生産法(一部)と、水分、蛋白、アミロース、脂肪酸、食味計で測った食味値がいちいち載っていて、これを貰って眺めるのも毎年の楽しみになっています。



農家こうめのワイン-コンクールデータ

こんな感じ。写真をクリックすると、切れてる右側も少し見えます。


 で、一人で見てるのもなんなので、ふと思い立ってちょっとデータを抽出してみることにしました。これだけのデータが集まってるものはそうそうないですからね。
 テーマは主に農薬の有無によって食味値への影響はどうあるのか、です。


 条件と説明ですが、

・品種はコシヒカリ限定。


・慣行栽培、特栽(減農薬)、エコ認証、JAS(無農薬)栽培、番外として無肥料栽培の生産に分けてそれぞれの米の食味値を抽出しました。


・・JAS栽培は無農薬と判定しました。JAS栽培と言う言葉は本来ありませんが、農家の間では通りが良いJAS有機栽培のことだと判断しました。さらに言えばJAS有機は必ずしも無農薬ではありませんが、無農薬のところもあり、まあ無農薬に分けました。また慣行などほかのカテゴリにあるものでも特記として無農薬と書いてあれば無農薬として扱いました。
・・特栽は減農薬と判定しました。JAS特別栽培は減農薬と言うか、制度上は有機と減農薬両方を含んでいるのですが、有機はJASで項目が立っているのでこちらを減農薬としました。また、この特栽というのがJAS特栽ではなくただ単に生産者自身が「特別」だと勝手に思ってるものかもしれませんが、これら生産法に関しては自己申告で応募するので特定が不可能なので、エイヤッとこうしました。
・・エコ認証はエコファーマー認定のことだと思います。各県で違いそうですし、基準がどうなのかはよくわからないのですが、まあ項目があったので分離してみました。まわりの環境に配慮した際は米作りにどういう影響があるのでしょうか。
・・無肥料栽培は特記事項にわざわざそう書いてあるものを抜き出しました。また、「自然栽培」と書いてあるものもこちらに入れました。
・・慣行栽培は、簡単に言うと上記以外の全てなのですが、この応募の生産法については自己申告なので、慣行と書いておきながら実際にはJAS特栽(減農薬)に値するような米作りをしている人はザラにいます(例えば、うちがそう)。


・これは「コンクール出品の米」なので、それぞれこだわりの生産者がそれなりに自信のある米で応募しています。なので無農薬だろうが慣行だろうが、普通に言って平均よりかなり良質なサンプルが集まっているはずです。


食味値とは、食味計と言う機械で米の美味しさを数値化したものです。玄米の状態で測られます。これで高得点なら必ず美味しいのかと言えば一概にそうとも言えず、低い点数でも美味しい米もあることはありますが、とはいえこれ以外に美味しさの基準を考えてみたとしても完璧なものなどありえないし、少なくとも条件は全てのサンプルに対等に出来ることが利点です。


 ・・・というように、正直相当アバウトなくくりなのですが、まあためしにということで。


 で、結果を書いてしまうと非常にアッサリなんですが、こうなりました。


○慣行 サンプル数 604
 食味値平均 81.60 標準偏差 4.76


○特栽(減農薬) サンプル数 751
 食味値平均 81.91 標準偏差 4.34


○エコ認証 サンプル数 261
 食味値平均 80.79 標準偏差 3.37


○JAS(無農薬) サンプル数 117
 食味値平均 79.68 標準偏差 6.44


○無肥料 サンプル数 15
 食味値平均 79.07 標準偏差 5.79


 どうでしょうか。慣行と特栽はほぼ互角(特栽のほうがわずかに上)、無農薬は落ちる上にばらつきが激しい。無肥料はもっと低いですが、まあサンプルが少なすぎですかね。もっともサンプル数が少ないのは少ないで、これがいかにニッチな農法かはわかりますが。


 実際にデータを入力しててわかったのは、地域差や生産者・生産グループによる差はけっこうはっきりありました。要するにもともとの環境と、技術の差がかなり大きく影響すると言うことです。今回は群馬県の点数が良かったなぁ。
 
 農薬の影響については個人的にはぜんぜん意外な結果ではなかったんですけど、まったかだか無農薬にしたくらいで美味い米ができるんなら苦労しないんですよ

 先日こんなニュースがありました。


「アレルギー対応」名乗る卵に注意を=根拠なし、健康被害の恐れ―消費者庁
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101029-00000044-jij-soci


 「卵アレルギーの人でも大丈夫」などとうたい、インターネットサイトなどで販売されている卵には科学的根拠がなく、アレルギー患者が食べると健康被害が出る恐れがあるとして、消費者庁は29日、注意を呼び掛けるとともに、適切な表示を販売者に指導するよう保健所などに要請した。


 卵アレルギーは食物アレルギーの中で最も患者が多いとされ、アレルギーの人が卵を摂取するとじんましんや呼吸障害などの症状を起こす。卵に含まれる「オボムコイド」などのタンパク質が体の免疫に作用することが原因とみられている。

 消費者庁によると、「アレルギーの原因は臭み。臭みのない当社の卵は大丈夫」「特別に手を掛けて鶏を育てているので心配ない」などと宣伝しているサイトが複数確認された。中には卵1個が100円以上と高価な販売例もあった。


 しかし、同庁が専門家に確認したところ、原因物質の科学的な除去は困難で、反応を抑える仕組みも未解明のため、宣伝を信じて摂取すれば健康被害の恐れがあると指摘されたという。 



 卵アレルギーの原因になる物質は卵の主要成分であって、それは簡単に除去できるものではありません。この事件及びあやしい卵の販売サイトについてはohira_yさんが詳しく取り上げています(有)池田養鶏場の美味もみじ卵 美味さくら卵のサイトがひどい )。


 消費者庁はこれについてはとりあえずは注意を呼びかけるらしいですが、つまりこの手の違反はたいてい、最も目立つところをしょっぴいて「一罰百戒」な運用をされるのが普通です。


 しょっぴく根拠は薬事法景品表示法になるでしょうが、本来はこれらの法律は厳密に解釈すると、現時点でもそうとうの健康食品や健康グッズなどを取り締まることが出来ます
 薬事法の場合は簡単に言うと「医薬品以外のものが人に対して効果・効能を謳うな」という条文があり、そのため健康食品の広告ではたいてい「○○で体がイキイキ!」のようにどうとでも解釈できるような曖昧な文句があるか、あるいは体験談(あくまでこれは個人の体験です)が載っていたり、薬事法避けの対処がされていますが、本当は直接書かずとも誤解を招くような記述もダメで、体験談もダメ(景表法)になっていたはずです。


 本来は厳しく取り締まれるにもかかわらず、かなり直接的な宣伝をしている詐欺的商品であってもなかなか取り締まられないのは保健所や役所の担当者の手が回らないからで、ある意味では業者の飽和攻撃に屈しているような感じです。まあ細かなところまで取り締まりつくすのはそもそも無理でしょうし、そこまでされるのもなんかヤダし、ある程度酷くないのは目こぼしするのも現実的判断として良いでしょう。40キロ制限の道路を43キロで走っててもたいてい大丈夫だし。


 もちろん、けっこう見逃される現実があるとはいえ、守らなくても良いと言っているわけではありません。真面目な大手業者はちゃんと関係法規を遵守し、根拠にも配慮しています。ただこれグチなんですが、ちゃんと守ろうとしたら本当に厳しいです。
 健康食品でいえば特別用途食品とか特定保健用食品と言ったカテゴリがありますが、これの申請は非常に大変です。実はとある米で特別用途食品の申請を検討したことがあるのですが、あきらめました。
 お金はまだしも(20万くらいだっけ)、販売する商品現品の形で申請しなくてはならず、なにより申請してから承認までにかかる時間が半端ないという話で、うちの県ではそもそもこれまでの申請が一件だけ、それが2年ほど前に申請してからまだ承認が下りてこないとか、じゃあ商品を仕立ててもそれを販売まで数年寝かせておかねばならんのかとか、もちろん申請が通るかどうかもわからないし・・・


 では特別用途食品の承認を取らずに販売するかと考えた場合、健康に役立つ商品であるにも関わらずそれに関する事柄を書いて宣伝することはできませんから、営業がものすごく難しい。当たり前ですが、広告も当たり障りなくなってしまい、全然売れませんでした。小規模(大企業から見れば)個人農家にはまず無理なものだと思いました。


 景品表示法や農産物でいえばJAS法も厳しく、米を販売する袋のデザインを検討していた際、例えば「農家直送の美味しいお米」みたいなことを書くのはダメだと指摘されました。「美味しい」は客観的に捉えられる事柄ではないからダメなのだそうです。もっとも今は「美味しい」と表示している食品がたくさんありますが・・・。ちなみに「こだわりの」は良いそうです。こだわるのは生産者の勝手だからです。
 JAS法による農産物の表示はやたらと細かく、裏側の枠の中に表示する事柄は当然、枠そのものの線の種類や太さ、文字の大きさも決まっていて、表示義務違反ってたいていこのような内容とは関係ないものばかりで、しかし違反は違反で困るので表示に関してはお役所で綿密に確認する必要があり、とてもめんどうです。たまに担当者によって言うことが違う場合があり、腹が立ちます。


 さて厳しいっつう話を長々してきましたが、要するにこの厳しさは運用の問題で、法律の体制としては充分整っているわけで、例えば何か悪質な事例が発生したときに「消費者保護!罰則厳しく!」などと声を上げる必要はありません(あげる人がいるかは知らないが)。人手の問題なので、どっちかというともっと保健所に人手と予算を!と言うほうが良いのかも。


 で、これとは違う方向で無理解な人たちもいるわけです。それはホメオパシーの人たちで、今回の騒動で色々なところが声明を出し、色々な場所から厳しい目で見られ、厳しい薬事法の指摘を(今さら)受けたりしていますが、それに関して「厳しすぎる」「(どこやらの)陰謀だ」みたいな話があるわけです。
 確かに厳しいと言えば厳しいんですが、それはちゃんと法規を守っている人の話で、今まで薬事法なんか無視してきた(知らなかったと言っても通らない)分際で何を言うかっつう話です。しかもこれまでは最初の方で書いた甘い運用で助けられてきたわけで、まったく盗人ホメオパしい(まるC ohira_yさん)としか言いようが無い。


 以前、ネット上のニコ生シノドスで阪大の菊池教授が言っていたように、ホメオパシーやアレルギーフリー卵などの詐欺的商材も分を弁えてこっそりやっていればまだ見逃されていたのに、調子に乗ってはいけませんよ。まあホメオパシーは穏健にやっているにはまだしも被害者はあまりでなそうですが、アレルギーフリー卵は直接健康被害に結びつくので悪質です。被害者は確実に出ているはずですが、どうなってるのか、もしかしたら好転反応で片付けられたかなあ。

 若手農業人主体で作られている雑誌「Agrizm」を発行している農業技術通信社というところがあるのですが、そこのウェブページのとあるコラムが先日話題になりました。


植物を治療する方法「ホメオパシー」
http://agri-biz.jp/item/detail/3214


 後藤芳宏という人のコラムで、その1からその8まであるんですが、主に批判の対象になったのはその2でホメオパシーを説明している部分です。


http://agri-biz.jp/item/detail/3215?page=1


主流になりつつある獣医分野


 また、ドイツやフランスでは、ペットと畜産の分野において「ホメオパシー」は中心的な治療法となりつつあります


 その理由には、もともと環境や食品への関心が高い国民ということもありますが、副作用のある一般的な薬物療法よりも、ペットの負担が少ない治療を望む飼い主が増加していること、BSE問題などがあり畜産物の安全性への関心が高くなっていることがあります


 近年では「ホメオパシー」によって飼育した畜産物や農産物に対する消費者の反応はとても高いものがあります。それは、家畜や農産物への副作用の心配がないことと、可食部に薬剤成分が残留しないからです。「ホメオパシー」で利用する薬剤のことを「レメディ」と呼びますが、この「レメディ」に含まれる薬剤物質の成分は、薬効が有効とされる限界値にまで薄められていますその限界値は「アガバドロ数」と呼ばれ、残留値を測定しようとしても、一般的な測定機器では検出されることのない超微量なレベルです。


 日本ではポジティブリストの導入で、輸入食品の規制が厳しくなる状況にありますが、「ホメオパシー」であれば残留物質が検出されることはありませんので、今後ますます注目されてくるでしょう



 ほとんどの部分にツッコミが入れられますが(上記引用のうち赤字で示した部分は間違っている箇所です)、ある意味最も注目を集めたのが「アガバドロ数」という用語で、おそらくは「アボガドロ数」のことなのでしょうが、高校の化学で習う基本的な単語を間違える(しかも解釈も間違っている)点で、批判というよりほとんど嘲笑されています


 私はこれを読んだとき気が遠くなりそうでした。全体的に、典型的なホメオパシー従事者がしばしば発言していることがそのまま書かれていて(例えばその6ではベンベニストやジョセフソンを好意的に紹介しています)、どうもホメオパシー側のみに取材して書かれたのだろうと思われます。科学的素養の無さと同時に、この取材態度にも疑問を感じます。


 そしてもう一つ残念なのが、こんな滅茶苦茶なコラムを載せてしまう編集部です。ネット上の記名投稿文とはいえ、管理者のチェックは無いのでしょうか?あったとしたらその管理者も同じ程度の科学知識しかないのでしょうか?
 このページはこれは「オカルト農法探検隊」という連載の一部であり、「農業の生産現場で起こる不可思議な現象を、「科学的に解明できなくても、農業経営に役立てばいいじゃないか!」と開き直ってレポートするものです。」だそうです。「筆者には科学的な専門知識などがありません。」のはイヤと言うほどわかりますが、明らかに何も起こらないものを(実際、この人が行ったホメオパシー農法の実験は失敗しているらしい。当然だけど)、なんとなく科学っぽい説明をつけて他人に勧めるのはどうなのでしょうか。


 ところでくだんのサイトは個人ブログではなく、農業技術通信社のサイトなので基本的に責任は会社のほうにあると思います。なので私ははてなブックマーク にこのようにコメントをつけてツイッター連動で投稿しました。



農家こうめのワイン-つい

 ちなみに「これこそムカムカする」というのは、その直前にマクロビ系の酷いページをブックマークしている(http://b.hatena.ne.jp/entry/www.npo-comecome.com/check/ )からです。


 で、どうもこの社名で検索してきたらしいアグリズム編集部(http://twitter.com/agrizm_edit/ )が私を批判してきました。もちろん普通の批判ならいくらでもどうぞですが、やりとりしていて私は正直あきれてしまいました。
 そのやりとりに関してはツイートのまとめ(Togetter)がありますので興味を持った方は読んでいただきたいのですが


Togetter -「読み手にリテラシーがあればいいのではないですか。」
http://togetter.com/li/62398


 正直私が書いている内容もかなり感情的で、突っ込まれどころがいくつもあります。そして実際その突っ込まれどころに関しては的確に突っ込まれています。が、それ以外の私からの指摘に対してアグリズム編集部からは一切の返答がありません。なぜでしょうね。


 どうも農業技術通信社の中では、読み手にリテラシーがあれば書き手は何を書いてもいいそうです。情報発信のリテラシーは問題にならんのかと突っ込みたいし、そもそも本当にリテラシーがある読者ならば件の記事などあきれるだけで、これ以外の出版物に対しても「どうせこんなレベルか」と変な印象を持たれてもおかしくありません。
 というか私がムカムカしたのはまさにこの件で、同じ業界の、しかも多少なりとも縁の無いこともない所が自傷行為に走っている(ように見えた)のが恥ずかしく、悲しかったのですが、どうもそんなことを考える必要はなかったようです。


 まあどうでもいいんですけど。