アナスタシア | Violet monkey 紫門のブログ

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十字架の国  1998 不思議の国、ZIPANG

「アナスタシアという言葉には、

再生という意味があるんです。

彼女は不死鳥なんです」

 

 

メラニア夫人がアナスタシアの孫だという情報があります

 

アナスタシアが何を経験し、生き延びたか・・・

気の弱い方は知らない方が良いと思います

 

 

 

 

 

ロマノフ王朝最後の皇女、アナスタシアの生存説

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、「私は、実は生き残ったアナスタシアだ」と名乗る、「自称・アナスタシア」が、後年、次々に現れた。

中でも最も有名なのが、アンナ・アンダーソンという人であり、

彼女は、ニコライ2世一家の「処刑」の様子を、事細かに話してみせるなど、かなり「信憑性」が有ると思われたが、

結局、彼女はアナスタシアとは何の関係も無い「偽物」であると、後年、判明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(小説内の)真実は切なくて、救いがなくて辛い。アナスタシアの過去はただでさえ重たい

 

 

書評から・・・

 

 

・・・実在の事件(アナスタシア生存説)と架空の事件(幽霊軍艦騒動)を虚実織り交ぜて展開。
(本人の解説に実在部分とフィクション部分の説明あり)

 

 

ロシア革命下、ニコライ二世ら家族とともに革命軍に処刑されたアナスタシアが実は生き長らえていたのではとされる、歴史ミステリーとしてはある種定番の説のひとつ

 

 

ボルシェヴィキによる虐待やイパチェフ館で行われたとされる虐殺は読んでてほんとにしんどかった。
ロシア革命や、アナスタシア論争のことは全く知らなかったけど、フィクションとしておもしろく読めた。

 

 

2月革命でロマノフ王朝は終わりを迎え、ニコライ2世の末娘アナスタシアは悲惨な運命を辿る。
そんな中出会った日本人と共に、ドイツのドルニエDoxで芦ノ湖に降り立つ。
愛する人とベルリンではぐれ、以降アナアンダーソンとして生き、アナスタシアの真偽裁判が行われ、認められずに生涯を終える。

 

 

第一次対戦下、ロシア革命とロマノフ政権、処刑された皇帝一家の生存者と名乗る女性の真偽。史実に残る不可思議から、戦争と政治に翻弄された女性の壮絶な生涯を描き出した見事な作品。後書きもとても有意義。

 

 

 

 

 

 

「ロシア幽霊軍艦事件」

P 255〜264

このインタビューは事実のようです

それが歴史的に真実かどうかは読み手の判断です

 

その後のアナスタシアとの会見で、今も忘れられないことがひとつある。実際あれは、私のアナスタシア·インタヴューのハイライトともいうベきものであった。

 

マナハン邸に行く途中で私は、ディノ·デ·ラウレンティスの新作「キングコング」が、街のパラックスロード·シアターで封切られていることを聞き知って、邸の居間でマナハン夫妻に告げた。するとジョンが、たまには映画もいいと言い、アナスタシアも同意したので、食事のあと、みなでラックスロード·シアターに行くことになった。

 

その晩のパラックスロード·シアターは、ほとんど客が入ってはいなかった。ジェフ·プリッジスがキングコングを捕獲したとこで、アナスタシアがジョンに何ごとかをささやき、席を立つのが見えた。アナスタシアが通路を後方に去っていくと、ジョンが私の方

に身を寄せてきて、こうささやいた。

 

「アナスタシアはどんな種類のものであれ暴力が嫌いで、特に動物に暴力をふるわれるのが我慢ならないんだ。だから、映画がすむまでロビーで待っているんだとさ」

 

宮廷時代のアナスタシアが、王宮内の動物の世話をよくかって出ていたことを私はすでに知っていたし、異常なまでの動物好きが、ベルリンでの彼女をよく動物園内に導いたことも知っていたので、聞いて納得した。それでしばらくして席を立つと、トイレのあとで、アナスタシアの様子を見ようとした。

 

アナスタシアはロビーのベンチにたった一人ですわって、彫像のように凍りついて虚空を見ていた。近づくと、彼女はまるで私が来るのを待っていたかのように顔をあげ、かたわらにすわるよらにと手で示した。

私たちは並んですわり、しばらく黙りこくったが、

 

「この映画は嫌いですか?」と私は訊いてみた。

 

「嫌いです」

とアナスタシアははっきり言った。

「キングが殺されるのはよくありません。このゴリラのキングも殺されるのでしょう?

「びどいわ」

彼女は言った。

 

「ええ」と私は言った。

 

「ひどいわ」

彼女は言った。

 

「そうですね」と私。

 

「誰もがキングを殺そうとします」

彼女は言う。それで私は、彼女の抱いた問題意識が、動物ヘの虐待だけではなかったことを知った。

 

「でも、あの娘はキングコングを愛しています」

私は言った。

 

「あれは下手な役者です」

彼女は決めつけた。

「最後に、あの娘はキングコングを助けようとするはずです」

『私たちもそうでした」

アナスタシアはいきなり言った。

 

「どういう意味ですか?」

私が訊くと、彼女はまっすぐに前を見すえたまま、語りはじめた。

 

 

「私たちも、皇帝一家の救出作戦が練られているらしいと、赤軍の警護兵たちから聞かされていました。同時に、ドイツとイギリスの救出部隊が、エカテリンブルグの近郊に集結しているという噂も耳にしていました」

 

私はびっくりした。エカテリンブルグでの皇帝一家処刑前夜の話が、いきなり始まった

 

「でも、最後は地獄でした」

アナスタシアの声は震えはじめた。

 

「あの時に死んでいればよかった。そうすれば、後になって思い出すこともなかったのです」

彼女はまたそこで言葉を停め、苦しんでいた。言おうか言うまいかと、激しく悩んでいるふうだったから、見ていられず、私は言った。

「私のために、無理に思い出す必要はありませんよ」

しかし彼女はしばらくの沈黙の後、こう言った。

 

「いいえ、私は語らなくてはなりません。世界中の人たちに知ってもらうために。·······あきらかにしておかなくてはなりません、あの時私たちが何故救出されなかったのか。そして、革命とはどういうものなのか」

 

アナスタシアは、そしてゆっくりと語りはじめた。それは、世界中の誰もまだ聞いたことのない歴史の真実だった。ひっそりとしたロビーには、キングコングの吠え声が、絕えずドアのすきまから洩れてきた。

 

「ボルシェヴィキたちは皇帝一家に、想像しうるあらゆる屈辱を味わわせようとしました。皇帝一家を椅子にすわらせ、皇太子を除く全員を、繰り返し陵辱しました。一人が辱めをうけている間、残りはそれを見るようにと強制されたのです」

アナスタシアがそう始めたので、私は仰天した。

 

「ドアの外では、順番待ちの赤軍兵士が、廊下に行列を作っていました。目を閉じたり、顏をそむけたりしようものなら、兵士たちの手で力ずくで見せられました。兵士たちは、母を辱めながら、ラスプーチンのとどちらが大きいかと尋ねては。嘲笑しました。

兵士たちが、病気のアレクセイにも手を出そうとしたので、皇帝は自らを犠牲にして息子を助けました。皇帝は、一度に二人の男の相手をさせられることもあったのです」

 

私は戦慄し、体が金縛りに遭ったようになった。イバチェフ館の警護兵たちが、皇帝一家に性的な暴行を加えたのではないかという噂は、これまでにも何度かささやかれていた。

しかし正面きってこれをアナスタシアに質した者は一人もいない。私もまた、訊く予定はなかった。

 

「あなたは本を書いてください。すベてを書かなくてはいけません。すべてをです。彼らが私たちにしたことのすべてを。私の見たことのすベてを」

 

私は頷き、言った。

「やってみます」

 

「彼らがどんなふうに私たちを傷つけたかを、あなたは書かなくてはなりません。明るみに出すのです。彼らが······」

アナスタシアは言葉に詰まった。そして、別のことを言いはじめた。

 

「ジョージ五世が私たちを助けてくれたなら、あんなことにはならなかったのです。イギリス人のせいで、ほかならぬイギリス人のせいで、私たち家族は死んだのです。イギリス王室が手をこまねいていたせいで······」

 

「私は······」

言いかけると、アナスタシアがきびしく遮った。

「口をさしはさまないでちょらだい!

ボルシェヴィキは私たちを傷つけ、私たちの女としての名誉を污しました。最初に母を······」

アナスタシアは言葉を停め、その光景を思い出そうとしていた。そして震える手で、胸もとからネックレスを取り出す仕草を何度かした。

 

「兵士が近寄ると、皇后は胸もとに手を入れ、ノアの方舟の遺物から作った十字架を取り出してかざしました。一瞬足を停めた兵士に向かって、私は泣き叫びました。それはノアの方舟の遺物から作られたものなのよって。けれど兵士はせせら笑ったんです。そして平気で皇后の陵辱を始めました。それからオリガ、次が私でした。私は抵抗しましたが、兵士たちに押さえつけられました。何よりる

堪えがたかったのは、苦痛ではなくて、言葉や、父の顔でした。私を助けたくとも、父は何もできなかったのです。彼らは父を押さえつけ、見るように強制しました」

 

「アナスタシア」

堪えられず、私は言った。

「話させてちょうだい!」

アナスタシアは叫んだ。

 

「ボルシェヴィキたちは私に、そして自分たちの皇帝と家族に、そんなことをしたのです。

そして、私たちにしたのと同じことを、国中の人に対してしたのです。別のやり方で」

 

「蹂躪したという意味ですね?」

 

「ロシア全土をすみずみまで、何百万といら数知れぬ人たちに、同じことをしました。彼らはロシアを犯し、奴隷にしたのです」

アナスタシアの比喩は、きわめて直截的だった。

 

「いつの日にか、私が死ぬ頃には、ロシアの人たちはもう我慢がならなくなるはずです。

ロシア人は強い民族です。それに善良です。とても、とても善良なのです。ですが、その前に私が死ななくてはなりません。すべてが起こるのはその後です」

アナスタシアは言った。今思えば、この予言は当たったのであろう。

 

「もうずいぶんと昔、遠い遠い昔のできごとです。でも私は死ぬまで忘れないでしょう。

彼らは私たちをもてあそびました。弟を除く私たちを。何度も、何度も。父は息子を守るために、何度も自分の体を犠牲にしました。そのために父は、しばらくの間、歩くこともできなかったのです。

これが彼らの言う革命です。いったいどこに正義があるのでしょう。私たちは何故こんな目に遭い、その後も生きていなくてはならなかったのでしょう。私が神に見捨てられたと考えるようになったのは、それからです。もし神が本当にいるなら······」

アナスタシアはまた絕句した。

 

「今は何も言わないで。私が死ぬまで待ってちょうだい。私が死んだら、彼らが何をしたかを、全世界に知らせておやりなさい。彼らの革命とやらが、ロシアの民に何をしたか、何をもたらしたかを書くのです。一人の年端もいかぬ女の子が、どんな目に遭ったかを。

そしてすベてのロシア人が、すべての子供たちが、どんな目に遭ったかを。········誰もが奴隸にされたのです」

今や、アナスタシアの全身が震えていた。

 

「私もまた、彼らの行為の奴隷でした。その後私が何をされたか。ある夜のこと、私たち姉妹と皇后は、皇帝と皇太子からひき離され、汽車に乗せられました。その後父と弟には、もう二度と会うことはありませんでした。女たちだけ、列車でペルミまで連行され、そこに少なくとる二ヶ月の間監禁されました。

私たちは最初は一緒でしたが、次第にばらばらにされるようになりました。私は三度脱走し、そのたびに捕まって連れ戻されました。そのたびにさんざん犯されて、その上、銃の台尻で、何度も何度も頭を殴られました。一度などは銃で擊たれもしたのです。誰もが、私が生き延びるとは思わなかったでしょう。若かったから、私は生き延びてしまったのです。兵士たちはみな驚いていました。あの時に死んでおけば、どんなに楽だったことか。

三度目の脱走が失敗した後です。兵士たちに私は、下級貴族らしい女がいる部屋に連れていかれました。そしてこの女は口マノフのアナスタシアかと、見せて尋ねたのです。しかし彼女は私をひと目見て、これは違うと、即座に否定したんです。私の顔は血まみれだったし、容貌もまったく変わっていたんです。それで私はいきなり解放されました。兵士たちは、今まで自分たちがずっと勘違いしていたものと思ったんです。

街をさまよっている時に、アレクサンドル·チャイコフスキーという小作人と知り合って、彼の援助で急いでその街を逃げたんです。列車に乗ると危険なので、ずっと徒歩でした。そして、敗走している白軍に合流できたんです。彼らに食料を分けてもらって逃げて

いるうちに、私は自分が妊娠していることを知って、神を呪いました。神は何故こんなひどいことをなさるのかと。でもクラチュワに出遭い、彼に助けられたのです。

私にはもはや家族はなく、故郷もありません。私自身の記憶の奴隷にすぎないのです。

けれど、私が死ぬ時にすべてが終わります。もうじきロシアは、悪魔どもから解放される

でしょう」

私はクラチュワのことも尋ねた。しかし彼女は、もうこの人物の記憶はおぼろだった。

ただこのように説明した。

 

「クラチュワは立派な人物で、皇帝にも忠実でした。彼と会って以降、私は誰よりも彼を頼りにしました。でも彼は、子供の父親ではありません」

「父は誰ですか?」

「ボルシェヴィキの悪魔です」

 

クラチュワを愛していたのかとも、私は訊いた。しかし現在の夫に気兼ねをしてか、彼女はその問いには応えなかった。

 

その時私は、こんな質問もした。

「あなたは以前影武者の話をした。何故あんな作り話を?」

すると彼女はこう言った。

「あなたがその後イギリスに行って、サマーズとマンゴールド(作家)に会うと言ったからです。彼らも今私の本を書いています。イギリス人には、どのような貢献もしたくなかったのです」

驚いていると、彼女はこのよらに続けた。

 

「イギリス人はみんなろくでなしです。彼らを信じてはなりません。だけど今、あなたは真実を知りました。

 

真実を公表するのはあなたです」