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VIKI(びき)のブログ

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しずかなパレード/井上荒野


しずかなパレード 井上荒野 画像


 

 

幻冬舎の公式webマガジンがとても充実している

その中のインタビューで井上さんが、

 

「どんな人にも屈託があって闇がある。なにが正しくてどれが間違っているなんて、言い切れない。

小説家としてはそこを書きたい」とおっしゃっていて

 

正に井上ワールド

裁かない、ジャッジしない

かと言って味方になるわけではなく突き放したような

そんな空気が一貫してある世界

その中で、登場人物たちの置かれた立場、状況、思い、セリフが

ところどころ沁みたり刺さったり

小説の中の人は救われずとも、読む人はほんの少し救われる

ちょっとおかしい、ちょっと変、

そんな世界

 

ちょっとおかしいのはある意味全員で

名前からしておかしい「カンフーマン」

カンフーマンって何よ

そんなワードはじめて聞いたわ

 

「ミステリーにしようとは思っていなかった」とのことだけど

物語はミステリー要素の上に進んでいく

 

佐世保は、井上さんのご両親の出身地で

しかも和菓子屋さんは今もいとこが店主の母方の実家、とのことで

九州の言葉も、和菓子屋も自然

井上さん曰く、わりとネイティブ

方言を使うことの効果を感じているとのこと、その通りだなと思う

 

 

 

「しずかなパレード」

結論には実は私は納得していないのだけど

道中は十分楽しんだ

その納得していないところと、井上さんが連載が終わった当初、失敗作だと思った点が同じだと良いな

と勝手に思う1ファン

10年近く経って、おもしろいじゃんと思い直したそうだけど

有耶無耶なままで良かったんじゃないかと私は思う

 

 

 

それぞれの章で

ほんの短時間だけ登場する脇役たちを

とても実のある、リアルな、決して褒められないが責められない、共感さえできる人物として書けるのが

さすがだなと思う

しかも、完全一人称で

 

1人称である人物は、章ごとにどんどん変わっていくのだけど

一人称で語る、第三者の、浮き彫りになる過程はお見事すぎる

 

 

 

例えば9章

結生(ゆき)の章の結生の彼氏の新カノの内藤カンナ

ドラマがある女子同士、仲良くはならずとも同じ男に愛想を尽かす章で

カンナという突然出てきたキャラも

少ない文字数であっという間に人物像を浮き彫りにしていく

 

 

 

◇以下、描写のさすがな箇所

 

 

 

一度ならず私はカンフーマンと目が合った。

私たちがまだいるかどうかではなく、もういないことをたしかめたくて、カンフーマンはこちらを見ているようだった。

 

いないことをたしかめたい

 

 

 

直径四センチほどのクッキーが四枚ある、ということが少なからぬプレッシャーになっている。

四枚分の時間、夫に付き合うつもりらしいということが。

中略

麻理恵は面白そうに言って、クッキーの端を少しだけ齧る。

 

愛人との旅行の言い訳を語る夫の話を言い訳と分かって聞きながら

自分も警察が来たということをいつ切り出そうかと

その時間を楽しんでいる妻の麻理恵の心中を、クッキーで語る

 

 

 

だからあれはやっぱり、行方不明だったのだ、と結生は思う。

気づかれず、叱られなかったせいで、小一時間潜んでいた石積みの陰はどこでもない場所になった気がした。

もう二度と行けない、この世のどこでもない場所に。

 

ああ、身に覚えのある感覚。

この世のどこでもない場所

 

 

 

 

 

〈幻冬舎の内容紹介ページより〉

東京から佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生きる、晶。誕生祝いの夜、夫から贈られたエルメスのバングルを手首に巻きながら、好きな人がいる、その人のところへ行くと告げ、いなくなった。残された夫・信伍の怒りと嘆き、愛人・武藤の不審と自嘲、捨てられたと感じながら成長する娘・結生……。「不在」の12年間を、さまざまな視点から綴る長編小説。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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小説家の一日/井上荒野

 

小説家の一日 井上荒野の表紙

 

 

「書くこと」がテーマの短篇集

2017年から2022年まで、5年の歳月をかけて「オール讀物」に掲載された作品の短編集

 

 

 

井上さんのインタビュー記事より

 

通りすがりの話し声

カーラジオから聞こえるお便り紹介

ふとした言葉が小説の素材になるという

小説の種をメモアプリにストックしているとのこと

 

なるべく少ない言葉

『それしかない』と言える表現で小説を書きたいと

 

 

 

 

このインタビュー記事、なんと音声もついてます

 

 

 

 

『つまらない湖』に出てくる小説家と私を重ねあわせて読む人もいるかもしれません(笑)

と井上さんがおっしゃる通り、

私の脳内キャスティングもまんまと井上さんの風貌

 

例えばこんな描写

〈つまらない湖〉

親子ほど年の離れた若い男性との、なんとも言えない会話

 

前略

呼び鈴が鳴った。

その音に私は必要以上にぎょっとして、目をむいて岩瀬を見てしまった。

岩瀬は慌てたように首を振った。

誰かを呼んだのかと私が怒りに燃えて問うたように思ったのかもしれない。

 

事実かと思うほどにリアルで飾り気がなく、

読みながら易々とシーンが想像できる

ぎょっとして目をむくのは井上さん風の女性で

 

 

 

井上さんのお話はいつも情景が易々と目に浮かぶのよ

登場人物たちが生きてるのよ

読みやすいのよ

そしてなんてことない途中に、はっとさせられたりね

 

 

 

この装画、どこか懐かしいような色使いと、教科書のような図形は

yasuo-range(ヤスオレンジさん)という方の絵

 

2020年よりyasuo-range名義でイラストレーションを制作、とあるので

新しい絵なのだけど古風な印象

黄色味を帯びた色が好きなのかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたにだけわかること/井上荒野

 

あなたにだけわかること 井上荒野 書影


 

 

 

 

 

 

ああ、こわいよね

どこへ行くのだろう

すたすた、てくてく、スイスイ、迷いなく歩いて行けるかな

さいごは

 

読後、ひきずる

良くも悪くも

本の世界の持つ、その空気感から全く抜け出せない

 

やっぱり好きだな、井上荒野さん

この何日かは、未読の作家さんの本を読むのにこだわってみたのだけど、

なかなかしっくりくるのに巡り会えず

井上さんの本に回帰したらそうそうこれだわやっぱり安心するわーという

 

人のどうしようもなさ、どうしようもない人を、リアルに、突き放して書く

どうしようもない人たちは、正論では決して救われない

泥臭くて、説明のつかない感情の中に生きている

 

物悲しい安心感

幸せな「時期」を俯瞰して回想するような

 

2人の主人公の、50年余りを描いている

その時々に思うこと、話すことがリアルで物悲しい

余計な心理描写がないのもいい

 

喜びも、悔しさも、どこか他人事のように流れていくこのかんじ

 

 

 

◇以下、ネタばれします

 

 

 

「花、買ってきたんだろ」

たぶんずっと唇のうちにあった言葉を、たぶんそれ故に、父はぎこちなく発する

 

少しずつ壊れていく駿の母

もともと壊れていたのかもしれない

生まれ持った、性質なのかもしれない

世間一般的には、壊れていない方の医師の父が、母を動かし日常を動かすために意を決して発する

 

 

 

わたしたちは笑う。

どうでもいいことをいくらでも話していられる。

実際には、何も話していないからだ。

 

違いを見つめ合うことに夢中になる、好き合う物同士の、ある限られた時期

 

 

 

わたしはもう水の中にはいない、と考えた。

千秋を知る以前のように、楽に呼吸ができるはずだ、と。

でもまだ苦しかった。

 

好き合う恋人の千秋とまだ続けることもできたのに

自分から幼馴染の駿と寝たと嘘の噂を流し千秋と別れる高校生の夏

4才で母を亡くし、父にも持て余され、父の元恋人の家に居候するも、ここでも持て余されはじめていると感じる夏

 

 

 

「そもそもパパはあの女を愛してたの?」

「親子でする会話じゃないだろ」

父は笑った。

いつも本当の表情を見せないー彼が努力することがあるとすればそのためだけのように思える

 

そんな夏の父の、娘に見破られている努力も、晩年にはなくなる

何も無くなっていく

 

 

 

千秋は新聞を読み、雑誌を読み、爪を切った。

ずっと切れていた廊下のダウンライトの電球を替えてくれもした。ひとつひとつの動作が奇妙にくっきりして見えるのは、どれも彼が本当にしたいことではないせいだろう、と思った。

 

動作がくっきり

なんて的確な表現

 

 

 

ひとはひとを愛するときと同じだけのどうしようもなさで、ひとを捨てるのだということ。

 

16歳の時に自分でもよくわからない感情のまま千秋を捨てた夏

16で出会い、17になる前に捨てて26で再会して27で結婚し、

自分が生きてきたのはこれを手に入れるためだったのだとさえ思えたのに

今千秋に捨てられようとしている夏

 


 

お父さんとの約束があると結局その前後も気持ちが拘束されるのよ

 

夏と千秋の娘、16歳の里香もまた

自分の人生を生きている

 

 

 

「本当にいたかどうか、このひとにはわからなくなってるのよ」

 

死んだ早苗の名を呼ぶ、まだらぼけ(まじぼけ?)の夏の父

元「ガールフレンド」の温子(はるこ)さんの腕をつかんで

夏が居候させてもらっていた温子さん

 

 

 

ありあわせの細い針金一本で、いかにも頼りなく枝にくくりつけてあるのに、風が吹いても大雨が降っても巣箱はなぜか落ちない。

きっと永遠に落ちないのだろうという気さえする。

感情や意思を持たないものとしての特権を振りかざして。

 

千秋がかつて娘の里香にねだられて取り付けた巣箱

千秋はいないのに

 

 

 

すたすた歩いていったのではないか。

 

肺に影が見つかり、自分の死を意識し、母の死を思い出し、

自分が死んだら自分の思いはどうなるのだろうとこわくなるもうすぐ定年の駿。

夏の父親も死んだ、失踪から7年経って法的に死んだと聞いて

目的を持って歩いていったのではと考える駿。

 

 

 

「訪問」を改題したらしい

うーん題って難しいね

 

 

 

井上荒野さんの本はたくさん読んだけど

ブログを書いたのはこれくらいか

 

 

 

 

 

 

AIにも聞いてみた

井上荒野の『あなたにだけわかること』は、大人の恋愛、孤独、家族の複雑な関係を淡々と、かつ深みを持って描いた作品です。

感情の揺れや秘密を抱える日常の瞬間を切り取る、独特の筆致で評価されています。

↑AI による概要

ふうん

これはGoogle

 

別のAIは

この物語って結局、

・誰かを本気で理解するのは怖い

・でも孤独も嫌

っていう、人間の業(さが)の話だと思う。

こうまとめてきた

そして最後は質問で返してくるお決まりのパターン

 

また別のAIは

短編集だと言い切って長々とでたらめを言ってきた

否定してやり取りするも、疲弊する、、

 

AIではないけど

帯もなかなかに最悪

 

万人受けする作家ではないと思うし、万人受けを狙わなくても良いと思うんだけどな

 

 

 

「小説家になりたい人が、小説を選ぶ人に聞いてみた。」

というインタビュー記事の中での井上荒野さんの言葉↓

「やっぱり大江健三郎さん。あとは父(小説家・井上光晴)に勧められたサリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』も私の原点と言える作品です」 

 

 




おお、「ナインストーリーズ」

高校生の頃、お気に入りの1冊だった記憶が

同じくサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」

こちらは当時大流行で誰かにすすめられたのだけどちっとも夢中になれず

ナインストーリーズは自ら進んで買ったような朧げな記憶

でも内容あまり覚えてない

今また俄然読みたくなってきた!のだけど、どの訳者のにしようか

やっぱり王道は野崎孝訳?昔読んだのはこれだよね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にぎやかな落日/朝倉かすみ

 

朝倉かすみ にぎやかな落日 書影朝倉かすみ『にぎやかな落日』装画

 

この装画、全て意味があるのです

読後じっくり見るのも楽しい

 

 

 

光文社の内容紹介

北海道で独り暮らしのおもちさんは八十三歳。東京に住む娘は一日二度、電話をしてくれる。近くに住むお嫁さんのトモちゃんは、車で買い物に連れて行ってくれる。それでも、生活はちょっとずつ不便になっていく。この度おもちさん、持病が悪化し入院する ことになった――。日々の幸せと不安、人生最晩年の生活の、寂しさと諦めが静かに胸に迫る物語。


 

 

「書きながら、母と同じ体験をしたような気持ちになりました」

という朝倉さん

読んで、私も老いを体験したような気持ちに

「悲しい」という言葉がいつまでも胸に残る

老いを実感して、「しんしん悲しむ」

 

悲しいなら、いっそわからなくなってしまえ

と思う

この本の主人公、おもちさんは

少しずつ、なんだかちょっとわからなくなる

たまに正気に?戻って

悲しくなる

 

おもちさんのリアルな日常

おしゃれも好きで、社交的で、家族や友人にも恵まれている

悲しいばかりじゃないけど

読後、じわじわ胸にくる

リアルが刺さる

 

おもちさん、島谷もち子さん

朝倉さんのネーミングセンス

わたしはとてもしっくりくる

カラスのパンやさんを思い出したけど

関係あるのかないのか?

オモチちゃん かわいい

 

 

 

山本周五郎賞受賞作『平場の月』から二年四カ月、

待望の朝倉作品が刊行された。

今作は、80代のひとりの老女の内面に寄り添う、

人生最晩年の物語。

誰もがいつかこんなふうに感じる老境の心情が、

静かに切々と迫ってくる。

 

インタビュー・文 杉江松恋

 

 

 

 

 

 

 

平場の月のブログはこちら

朝倉さんの「ゴムのスカートを履く」が衝撃すぎていまだに忘れられない

 

 

 

 

以下、ネタバレします

 

 

 

どのみち満腹はしあわせだ。

しあわせなことなのだ。

ひもじいよりずっといい。

しかも、このごろでは、なにごとかをやりとげたきもちになれる。

 

昼ごはんをがんばって平らげた83歳のおもちさん

毎度のごはんを残さず食べるようにしているおもちさん

 

 

 

満八十三歳。

お、今日は調子がいいゾ、とかすかにうなずく。

頭の中がいつもよりハキハキとした感じである。

 

自分でもどうも調子が悪い(ボケている)と感じている

うっすら気付きつつも、向き合わない

知らないふりをするおもちさん

 

 

 

ンー、「今」がずうっとつづくなんてこたないよネェ。

けど、「今」を「今」だと思える「今」は、そう思えなくなるときまで、いつまでも、ずうっとつづくのではないか、と、そんな発見がどこからかやって来て、おもちさんの胸にとまった。

「あたし、ひょっとすると、ずうっと生きてるかもしれないネ」

 

 

 

 

「だれかの世話にならないば生きてけないんならサー、

赤の他人のほうが絶対いいヨ。

ビジネスライクが1番サー」

 

身内は遠くにありて思うもの、という入院仲間の野森さん

 

 

 

でももう満八十四歳。

生来の癇症は影をひそめたと自分では思っている。

いつのまにやら温厚なおバアさんになっちゃった。

正直言って、チョッピリつまらない。

 

注意深くバスのステップを降りたのに、泥の水たまりをバチャっと跳ねさせてしまったおもちさん

独りで失敗した時、困った時に衰えを実感するという

ショックを受けたり腹を立てる馬力はなく、

「しんしんと悲しむのみ」なのだという

 

 

 

いつも、ほんのちょっとだけがんばっている感じがする。

ー中略ー

起きること、起き上がること、着替えること、歩くこと、

いちいち全部、ほんのちょっとだけがんばっている感じがする。

美味しいときも、楽しいときも、嬉しいときも、からだのなかのどこかで、なにかを、ほんのちょっとがんばっているのだった。

 

夫の勇さんが特養に入所

長男の嫁のトモちゃんがよく来てくれて

娘は1日2回電話をくれる

そうやって初めての一人暮らしをがんばっている、満82歳のおもちさん

 

 

 

自分なりに楽しんでいるおもちさんが

「今がずっと続けばいいな」と生きていく話なので、終わらないように終わりたかった。

という朝倉さん

このお話は、生きているおもちさんの話でよかった

 

読み終わったら「たんす、おべんと、クリスマス」

このワードで泣ける