冬の運動会/向田邦子
向田邦子さんの放送台本を
中野玲子さんが小説化したとのこと
だいぶ前に、生徒さんに何冊か本をいただいた中の一冊
文庫だったので(目の都合で)なかなか手に取れずにいたのだけど
読み始めたらおもしろい
さすが向田邦子さん
文庫本ならではのお楽しみに巻末の「解説」があるのだけど
その解説が藤田弓子さん!
しかも、「あなたを加代ちゃんにと言ったのはわたしなのよ。」
とあるではないか
えええ
加代ちゃん役??
加代ちゃんを囲っているのは
藤田さんといえば、一番記憶に新しいのは
NHKBSのドラマ、内館牧子さん原作の「今度生まれたら」
の主人公、松坂慶子さん演じる佐川夏江の年子の姉、島田信子役!!
つまりはおばあさん
藤田さんにも当然若い頃はあったわけで
でもなかなか想像できない
いただいた本の帯には
28年ぶり、V6岡田&ハセキョーで復活。
とある
この新旧ドラマのキャスティング表を見比べながら読むのもまた楽しかった
新、と言っても2005年
今から17年前
加代ちゃん役は寺島しのぶさん
を囲っているのは植木ひとしさん
旧の方は主人公菊男に根津甚八さん お相手はいしだあゆみさん
これがV6岡田&ハセキョーとなる
◇◇
「調書っての、おっかしいな。へんな文章でさ。『私、北沢菊男は、昭和四十四年五月二十一日、午後四時頃、渋谷駅前の山本書店二階売場におきまして、原色世界の美術全集・金笠書院発行、金、九千八百円相当を万引きした事について申し上げます』」
笑う材料は何でもよかった。自分の手で振ってしまった就職。一番みじめな傷口を見せ合ってしまった二人の、ちょっとした気恥ずかしさ。父の冷たい視線。それらを吹きとばしてくれるものなら、菊男は何でも歓迎だった。
「あんまり罪なことはしない方がいいと思うの」
「あの二人ね…靴屋の…菊男さんの一言一言、胸ドキドキさせて聞いてるのよ。真にうけてるのよ」
「冗談で言ってんじゃないよ」
「冗談だとは言わないけれど…気まぐれよ」
「気まぐれ?」
「菊男さんのうちへ行ってわかったの。あなた、あのうちのこと、好きなのよ。お父さんのことも本当はとても好きなのよ。好きなのに愛してもらえないから…スネてるのよ」
「君にはわかんないんだよ」
「じゃあ捨てられる?あのうちやおじいさんやlお母さんや…本当に捨てられる?あしたから靴屋の息子になりきれる?なれないわよ。あの北沢のうちがあるから、帰るうちがあるから、靴屋の店が楽しいのよ」
だが、菊男にはわかっていた。ここで見せたにこやかな笑顔の分だけ、帰り道の父は不機嫌な顔をしている。物分かりのいい父親の役を演じた分だけ、心を開かない頑なな父親の顔をして家へ帰る…。
ーーじいちゃんが泣いている…。
生き残った人間は、生きなくてはならない。生きるためには、食べなくてはならない。そのことが浅ましく悔しい。だから健吉は泣きながら、のり巻きを呑み下す…。
「めぐり合わせが悪くて、何やってもうまくいかない。家族は足引っぱる、恋人には裏切られるし、もう、生きてるの、いやになって、ボンヤリしてるときに、『よしよし』って背中さすってくれる人がいたら…いろんなこと
忘れて、とにかく今日一日、誰かを信じて安らかに暮らしたい。そう思ったのよ」
「五年先、十年先のことなんかどうでもよかったのよ。年の差とか、結婚とか…将来よりも、今日一日の幸せが欲しかったのよ」
「ニュウって何よ」
「…貫入って言ってね、焼きもののヒビのこと言うのよ。年代が経てば…どうしても欠けたり、ヒビが入ったりしてしまうのね」
「入が入ると、価値が下がるって嫌う人もいるけど、趣があって悪くないって言う人もいるの…心なく扱えば、カシャンと割れてしまうけど、いたわって使えば、まだまだ大丈夫なものなのよ」
家族は「入」の入った茶碗のようなものだ…あや子はふっと思った。
ーーお互いに見せ合った恥のぶんだけ、いたわりと温かみが生まれたんじゃあないか。
舞台版というのもあったらしい
主人公菊男は岡本健一さん
今ならどんなキャスティングになるかな…




