一人暮らしのベランダに潜む男と目が合った時に人はどう反応するか | 表参道の心療内科カウンセラーのblog

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残業続きで終電で帰る日々、一人暮らしのワンルームには帰って寝るだけ。

そんな20代を送っていたある冬の夜。

 

いつも通り、終電で部屋に帰り電気をつける。

普段はニュースを付けるが、この日はテレビのリモコンが見当たらない。

探す気力もない。

珍しく音のない静寂の中、お風呂に入るために着替えを始めた。

 

その時、ベランダでカタッと小さな音がした。

 

「風?」

 

センチほど開いていたカーテンを閉めようと、窓に近づいた。

男がいた。

窓に張りつくようにしてカーテンの隙間からこちらを覗いていた。

至近距離で目が合った。

 

一瞬、状況が飲み込めない。

 

階。

数週間前に引っ越したばかり。

見知らぬ男。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ギャ―――――――――――――――――――――

 

「殺されるかもしれない!」

咄嗟に思った。

 

私は、叫びながら部屋を飛び出した。

8軒しか入っていない小さな独居向けワンルームマンション。

住人の顔は、一人も知らない。

同じ2階フロアにはもう1部屋ある。 

 

引っ越した際に菓子折り持って挨拶に行ったが、何度伺っても留守だったのでついそのままになっていた。

 

それでも挨拶できるまで、足を運ぶべきだった。

後悔を感じつつ、必死にチャイムを押しまくった。

同時に、言葉にならない叫びを発しながらドアを叩きまくった。

 

スコープを外から覗くと、玄関に光が灯ったのがうっすらと見えた。

 

「助かった!」

と思った。

が、なかなか隣人は出てこない。

 

なぜ出てきてくれない!!!

 

深夜1時。

大声で叫びながらピンポン押しまくりドアを叩きまくる見知らぬ女。

スコープには、覗き込む私の目がいっぱいに映っているだろ。

着替え途中に逃げたので、私は、上半身裸で裸足だった。

どこからどう見てもやばい女だ。

 

隣人もドアを開けるのを躊躇うのは普通の反応だろう。

 

「どうしたっ?」

たまたま近くで働いていた工事現場のおじさん達が数人、マンションの下に駆けつけてくれた。

上の階の住人も数人、何事かとパジャマ姿で出てきている。

 

「ベランダに男がいたっ!捕まえて!!」

と叫んだ。

 

駆けつけた上の階の住人も、工事現場のオジサン達も、半裸の私を目の前に固まり気味だ。

 

「姉ちゃん、これ使いな」

工事のオジサンが頭に巻いていたタオルを渡してくれたので、それを体に巻いた。

優しい心遣いに、何故か、寄せてあげる巻き方をした場にそぐわない乙女心を覚えている。

 

「あなた達(住人に向かって)部屋そこだから、入って男、押さえて!オジサン達は(工事現場の方々)下からはさみうちにしてっ!」

 

偉そうっぷりを思い返すと顔から火が出そうだ。

軽くストリーキングもしてたし。

 

結局、潜んでいた男は捕まらなかった。

 

誰かが呼んでくれた警察官が数人、ドラマのように駆けつけてきた。

指紋採取などの現場検証が行われた。

私も事情聴取されたが、至近距離でみた男の特徴を「キモイ」以外何も覚えていなかった。

 

ベランダではタバコの吸殻が数本見つかった。

私は吸わないし、火を擦り消した後もみつかったので、犯人のものと推定された。

警察官は

「銘柄は全て同じハイライト。ただ、吸殻の時間経過が違うから、何日かに渡って覗きに来ていた可能性がある」

と怖いことを言いながら、吸殻を採取していった。

 

警察は、近辺のパトロールを強化し、調査を続けていくと言ってくれたが、結局捕まらないまま現在に至っている。

 

次の日から、私は被害者意識丸出しになっていった。

「なんで私が理不尽な目に合わなきゃいけないの」

というイライラを全身からばら撒いていた。

 

犯人が捕まらなかったことによって、すれ違う男性全員が犯人に見えた。

電車の中では、視界に入ってくる男性全員をにらみ倒し、駅から家の道は催涙スプレー(速攻アキバに買いに行った)をいつでも噴射できる状態にして歩き、煙草を吸っている男性は特に念入りににらみ倒した。

 

そんないきりたった私に運悪く道を聞いてきた男性に、

 

「犯人は…お前かっ?」

 

と怪談話に出てきそうな絡み方をしてしまうようになった。

そうでもしないと、又同じことが起こると思い込んでいた。

 

今思うと、勘違い甚だしく恥ずかしい限りだ。

あの時の人たち、すみません!

 

私の感情のセンサーは超過敏になり、些細な事でイライラしキレたし、不安に押しつぶされそうになったし、いきなり涙がでるようになった。

 

すぐに引っ越したが、不安定な状態は1年以上続き、心療内科に通い抗不安薬でしのいだ。

私の場合は、認知行動療法を行い、友達に話し、ネタと笑いに変えることによって、今はごく安定している。

 

心理学でいう “衝撃”“反応”という概念をご存じだろうか。

 

“衝撃”というと、大きいことのように聞こえるかもしれないが、人によって衝撃と感じることの定義は違うし、自分でも気づかぬ内に衝撃を受けていることもある。

そして、よい変化でも衝撃になることがある。

 

衝撃を受けると、人は必ず反応する

 

これは、物理の法則だが、私たちは反応であるということに気付いていないことが多い。

反応の仕方が人によって違うから気づきにくいのだ。

 

パワハラにあったら、メンタル反応は、不安、イライラ、自己否定、予期不安、フィジカル反応は、お腹を壊しやすくなる、動悸、足がすくむ、身体が重いなどの反応が起こりやすい。

 

理不尽な被害にあったら、イライラ、過敏、警戒心が強くなる、攻撃的になる、人間不信などの反応が起こりやすい。

 

衝撃を受けたのにいつもと変わらずにいる方が不自然だが、実際は多くの人が変わらずにいようと頑張っているし、いつもと同じようにいられない自分を責めたりしている。

 

ツラい反応が起きるのは変えられないことだが、大事なのは、衝撃の反応であると理解することだ。

どんな衝撃を受けたのか、どんなメンタル、フィジカル反応を起こしやすいか、どれくらいの期間反応が続きやすいのかをわかっておくことだ。

 

「あんな衝撃があったから、こんな嫌な気持ちになって当然」

と捉えた上で嫌な気持ちを感じるのと、漠然と嫌な気持ちを反芻し続けるのは似て非なることだ。

 

嫌な気持ちは単なる反応なので、時間の経過と共に落ち着いてくるのが一般的だ。

 

ツラさが長引く人は、嫌な衝撃体験を頭の中で何度も再現する、嫌な思考と気分を反芻する、反応を「自分が弱いからいけない」「イライラしないように頑張ろう」と否定する、反応と捉えずに性格だと思い込む内にツラいパターンを作ってしまうことが多い。

 
ベランダに見知らぬ男がいた事件でいうと、一番安心できる場所を脅かされる衝撃、殺されるかもしれない恐怖の衝撃、他人に色々さらしてしまった衝撃、犯人が捕まらずに不安という衝撃、すぐに引っ越しを余儀なくされる変化の衝撃、警察に通う生活の変化の衝撃など、一つの出来事からも沢山の衝撃を受けている。
当時は、イライラや不安に浸りきっていた。
「これだけ衝撃を受けたのだから、イライラもするし不安で当然」
という衝撃と反応と捉えていたら、気分も安定を取り戻す時間もだいぶ違っただろうと思う。

 

衝撃からの反応と理解せずに被害者意識にどっぷり浸り、長引かせた私の体験から言いたい。

 

嫌な気持ちや症状を抱えているとしたら、いつどこでどんな衝撃を受けたのか逆算して考えてみることをお勧めしたい。

 

●患者様へ●

月より文章鍛錬スクールに通い始めたので、テーマや文体がかなり変わっています。

今まで、患者様の症例や症状を中心に書いていましたが、暫くは課題に沿ってカウンセラー自身の体験を交えたblogになります。

心理療法のよさをもっとわかりやすく伝えたいという想いから通い始めたスクールですが、まだ試行錯誤中です。

通常のカウンセリング内容に変わりはなく、私のキャラが突然変わったわけでもないので、安心してご来院ください♡