女王様を演じきった私が得たもの | 表参道の心療内科カウンセラーのblog

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私がまだ社会人になりたての頃のこと。

 

「知り合いの女王様に会いに行くから、一緒に行かない?」

と女性の先輩に誘われた。

 

「え!女王様!?どこの国の!?」

 

初々しかった世間知らずな自分が懐かしい。遠い目。

今、同じことを言ったら「カマトト!」と、どつかれるだろう。

 

なんのことはない。

SMショークラブで働き始めた職業女王様のショーを観に行くのに誘われたのだ。

 

「TPOに合った服装をしましょう」

よく耳にする言葉だ。

 

社会人なりたての私は、会議には会議にふさわしい服装、作業の日は動きやすい服装を身につける

“Time, Place, Occasion”

という常識を身につけ始めていた。

 

「SMクラブに合ったTPOって何だろう」

 

よく考えた末に、持っている服の中で一番TPOに合うと思われる服を選んだ。

赤い革のミニスカートに、ピタッとしたシャツ。

そして当時流行っていた網タイツにロングブーツ。

普段、コンサバ(お嫁さんにしたい感のモテを狙った保守的な服装)ばかりなので、それが私の精一杯のTPOだった。

 

持っている中で一番長いコートで隠すように身を包んでいった。

 

駅で先輩と待ち合わせていた。

遅れて現れた先輩も、普段のコンサバ服とは違って、すらりとした長身にミニスカートと網タイツでキメていた。

先輩もTPOを考えたのだろう。

 

ショーの開始にちょっと遅れての到着になってしまった。

分前にはついていたい性分の私は気が急く。

 

ショーの見学の際の注意事項など、最初に大事な説明があったら聞き逃してしまうのではないか。

ショーの途中で間違った見学方法をして迷惑をかけたら申し訳ない。

 

常に社会に迷惑をかけないよう気を張っている真面目な新社会人。

 

好奇心とちょっとの不安を胸に、遅れて入って行った初めての世界。

ギラギラした光と怪しげに響くムーディーな音楽。

広々した空間、やや暗めの照明。

客層は、スーツを着たサラリーマンっぽい男性が大半。

会社の同僚とみられるグループに混じる女性客も数名。

部屋の四辺にぐるりと沿って置かれた丸椅子に座っている客、その後ろに沢山の立ち見客がひしめき合って大きな輪ができている。

輪の中心でショーが行われるのだろう。

 

ショーはまだ始まっておらず、私と先輩は、見学場所を確保する為に輪の中に入って行った。

 

「ここどうぞっ!」

叫びながら椅子を立った男性がいた。

 

まさか、私たちに言っていると思わなかったので、その男性は目に入ったものの、又、席探しに意識を戻した。

 

まさかであった。

 

その男性は、

「自分、立っていますので、どうぞお座りください!!!」

今度は、私たちに向かってハッキリとそう言ってきたのである。

 

え。

折角早く着いて見やすさを考えて確保したであろう席を、遅れてきた私たちが座るなんて厚かましいことできない。

ごく常識的な判断だと思う。

 

「え、いいですよ。後ろで立って見ますから」

そう断ると、その男性は、何と、

「いえ!どうぞおかけくださいっ!今、綺麗にしますからっ!」

と、ポケットからハンカチを取り出し、その椅子を拭き始めた。

 

周りに座っていたスーツ男性たちも、それに習い始め、

「こちらにおかけくださいっ。こっちの方が見やすいですから!」

「自分が椅子になりますっ」

と、次々と椅子が空き、四つん這いになって人間椅子を作る男性も現れる始末。

 

「ド……ドМだ。私たち、オフの女王様が他店に遊びにいらしたと思われてる……」

 

世間知らずの私も、さすがに事態を飲み込んだ。

 

長身の女子二人組、網タイツにロングブーツにロングコート。

偉そうに遅れての登場。申し出に対して軽くシカト。

 

女王様と間違われる要素満載だった……

 

Act like a winner/勝者のようにふるまえ

 

という言葉をご存じだろうか。

 

五郎丸選手率いるラグビー日本代表のメンタルトレーニングで有名になった荒木香織氏(スポーツ心理学専門)が、よく使うフレーズだ。

 

荒木氏は

「優勝するチームは、普段から勝者の行動をしている。

ハキハキ挨拶をし、背筋を伸ばしスッと歩き、きびきび行動している。

弱小チームは、背中を丸めダラッと歩き、挨拶の声も小さいことが多い。

勝つか負けるかはコントロールしづらい。

が、コントロールできる普段の行動を変えていくことによって、意識の変化が起こり、自然とチームが良い方向へ変わっていく」

という。

 

社会人1年目の私は、右も左もわからず仕事でヘマが続き、注意を受けてばかりで自信をなくすことが多かった。

もともと自信のない性分の私は、答えられない質問がいつ来るかといつもオドオドしていた。

 

そんな私がである。

突然、女王様として扱われたのである。

疑いもせずにそのものとして扱われると、無意識に期待に応えようとするのは、人の習性だろうか。

 

ドM男性達に恥をかかせないよう気を遣って、女王様らしく振る舞ってしまったのである。

「ありがとう」

と、出せる限り精一杯のクールな声でお礼を言い、すっと足を組んで座る。

ちなみに普段の私はいつでも素早く立てるように背もたれず、浅く腰かける。

 

グラスを置くテーブルなど気の利いたものはない。

普段の私は、グラスをこぼさないよう迷惑かけないように配慮しながら持つ。

が、ニセ女王様の行動は違う。

 

周りのドM達が、

「自分が持ちますっ」

と、グラスが温まらないようにツバが飛んで入らないように、ハンカチ越しにグラスを高く掲げて持つというポーズで、出来得る気の利いた配慮をしながら持ってくれるからだ。

 

「水とってきてー」

「おしぼりっ」

 

「はい!喜んで!!」を全身で醸し出しながら張り付いているドM達に、ちょこちょこ命令を繰り出す気遣いをついしてしまう私。

 

本物の女王様だったら「ドンペリ!」とか言えるのかもしれないが、初対面の男性に金銭負担をかけたら申し訳ないという配慮をついしてしまうにわか女王様。

 

TPOを考えると、受け取りやすい角度でおしぼりを高く掲げて渡してくるドMに

「ありがとう」というべきか

「遅いわよ、この役立たずっ!」というべきか悩ましい。

 

ショーが終わり、本物の女王様が一言、ものすごい女王様らしいセリフを言い放った。

 

「掃除したいやつ、前にでてこいー!」

 

普段の私だったら、率先して前に出ていくタイプだ。

 

だが、この日ばかりは、雑巾とモップの争奪戦に走っていくドM達を横目に、悠然とカクテルを飲み続けた。

 

本物の女王様を前に、お金を払って女王様を演じ続ける客の私。

シュールな構図だ。

 

「何かの役に立たないと存在してはいけない」

という普段のオドオドした意識は全く湧いてこなかった。

 

帰り道、

「私、もっと自分がやりたいこと大切にしよう。何にビクビクしていたんだろう」

という想いと強さのようなものがそこはかともなくこみ上げてきた。

自分の単純さに笑ってしまった。

 

先刻のド迫力女王様も数か月前までは先輩と元同僚OLだったから、本来は違う人なのかも…と考えると、おかしくなってきた。

 

NLPという心理学の中に、“モデリング”という手法がある。

克服したいことや理想を描き、普段の自分と違う思考や行動を五感を使って体験していく。

セラピーの中の体験であるが、思考するのと脳の刺激される場所もかわるので、視点の転換が起き、悩みを克服したり理想に近づいていくという手法だ。

「殻を破れた感じがする手法」と表現する人も多い。

 

私は、たまたま与えられた女王という役割に乗っかり

Act like a Queen を行い、

気づかぬうちにモデリングを行い、結果、殻を破り新境地を拓いていた。

 

皆様には、理想を切り拓いていくことをお勧めしたい。

 

Act like a  ○○!

 

○○をしっかりと描いていくことが、新境地への近道である。

 

≪終わり≫

 

 

モデリングにはコツがあります。

克服したい方、理想に近づきたい方、殻を破りたい方、気軽にカウンセリングにいらしてください。

 

●患者様へ●

月より文章鍛錬スクールに通い始めたので、テーマや文体がかなり変わっています。

今まで、患者様の症例や症状を中心に書いていましたが、暫くは課題に沿ってカウンセラー自身の体験を交えたblogになります。

心理療法のよさをもっとわかりやすく伝えたいという想いから通い始めたスクールですが、まだ試行錯誤中です。

通常のカウンセリング内容に変わりはなく、私のキャラが突然変わったわけでもないので、安心してご来院ください♡