極東ソ連海軍の脅威・重航空巡洋艦「ミンスク」の今 | 艦艇・船舶つれづれ

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旧帝国海軍および海上自衛隊の艦艇、海上保安庁の船艇、主に戦前の民間船舶を中心としたブログです。
「海軍艦艇つれづれ」からタイトルを変更しました。

今日は、午前中に第21回四天王寺・春の大古本祭に行ってきました。

 

四天王寺の境内で開催される大古本市

 

昨日とは違って天気が良かったことから、人出も多かったですが、なにせ天気が良すぎて地面から照り返しもあり暑い!

 

昨夜あまりよく寝ることができなかったこともあり、少々脱水気味になりました。

ざっと見て回った後は早々に退散し、結果戦利品はなく…。

帰宅後は阪神戦を見ながら少々居眠りしてました。

 

話は変わって、今回は海外の艦艇を。

50代以上の方にはニュースでなじみのある艦ではないかと思いますが、ソ連海軍の航空母艦「ミンスク」を取り上げてみます。

 

ソ連海軍は、第二次世界大戦前から航空母艦の建造を計画しますが、いずれも建造には至りませんでした。

その悲願が結実したのが、チェルノモルスク造船所で昭和45年7月に起工され、昭和50年12月に竣工した「キエフ」でした。

なお、ソ連海軍では「キエフ」の艦種を「重航空巡洋艦」と呼称していましたが、これは黒海の入口であるボスポラス海峡を管理するトルコが、航空母艦の海峡通過を認めていないための措置であるとされています。

 

ソ連海軍・重航空巡洋艦「キエフ」(引用:Wikipedia)

(不明 - http://www.defenseimagery.mil; VIRIN: DN-SN-86-00486, パブリック・ドメイン, 

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17123811による)

 

「キエフ」型は当初から2隻建造する計画があり、2番艦はニコライエフ造船所で昭和47年12月に起工され、昭和50年9月に進水、昭和53年9月に竣工し「ミンスク」と命名されました。

【要目】

 基準排水量:30,535トン、満載排水量:41,380トン

 全長273m、水線幅:236m、最大幅:49.2m、飛行甲板幅:50m

 最大吃水:11.04m、機関:蒸気タービン機関×4、主缶:KVN98/4ボイラー×8

 推進軸:4軸、出力:180,000馬力、速力:32.5ノット

 乗員:1,435名、航空要員:430名

 兵装:パザルトSSM連装発射筒×4、シトルムSAM連装発射機×2、

    オサM SSM連装発射機×2、76mm連装機銃×2、

    30mmCIWS×8、ビフリSUM連装発射機×1、53.3cm5連装魚雷発射管×2。

    12連装ジェット爆雷発射装置×2

 搭載機:22機

 ※引用:世界の艦船「ソ連/ロシア空母建造史」増刊第144集、No.864、2017年8月、海人社、P.121

 

ソ連海軍・重航空巡洋艦「ミンスク」(引用:Wikipedia・英語版)

(By SSGT GLENN LINDSEY - http://www.dodmedia.osd.mil/DVIC_View/Still_Details.cfm?

SDAN=DFST8509939&JPGPath=/Assets/1985/Air_Force/DF-ST-85-09939.JPG, Public Domain, 

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4116675)

 

竣工した「ミンスク」は黒海で習熟訓練を行った後、太平洋艦隊の第175ミサイル艦旅団に配属されることとなり、昭和54年7月にウラジオストク近郊のストレロク基地に到着します。

 

太平洋艦隊に加わった「ミンスク」は、搭載機「Yak-38」戦闘機の試験のためベトナム近海で訓練を実施しますが、飛行甲板上の乱気流に発艦する機が巻き込まれると急激に揚力を失い墜落することが判明し、昭和56年から翌57年にかけて整流装置の設置工事が行われます。

 

その後もたびたび日本海から対馬海峡等に姿を現し、その度にニュースになっていたので知っている方も多いかと思います。

また、昭和61年7月には北朝鮮への元山に表敬訪問をしており、この結果北朝鮮はスカッドミサイル等をソ連から購入し、北朝鮮におけるミサイル開発の基になったと言われています。

 

給油艦「ボリス・ブトマ」を従えた「ミンスク」(引用:Wikipedia・ウクライナ語版)

(Автор: Невідомий - http://www.defenseimagery.mil; VIRIN: DN-ST-86-11125, 

Суспільне надбання (Public Domain), https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17027820)

 

「キエフ」型に搭載されたソ連海軍初の艦上戦闘機は、ヤコブレフ「Yak-38」(NATOコードネーム「フォージャー」)戦闘機で、垂直離着陸機(VTOL機)として設計・製造されました。

【要目】

 全長:15.5m、全高:4.4m、翼幅:7.32m(折畳時)4.88m

 翼面積:18.5平方m、最大離陸重量:11,700kg

 動力:(推進用)R27V-300ターボジェットエンジン×1

    (離陸用)RD-36-35FVRターボジェットエンジン×2

 最大速度:1,050km/h、実用上昇限度:12,000m

 航続距離:185km(ペイロード750kg、VTOL時)

      600km(ペイロード1t、STOL時)

 ※引用:Wikipedia

 

ソ連海軍・ヤコブレフ「Yak-38」戦闘機(引用:Wikipedia・英語版)

(By RIA Novosti archive, image #477421 / Vladimir Rodionov / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0, 

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=77457261)

 

「Yak-38」は、推進用の主エンジンとは別にコックピットの後ろに2基の離昇用エンジン(リフトエンジン)を搭載し、主エンジンの回転式排気ノズルを下向きにしたものと合わせて垂直離陸を実現しています。

しかしこの機体には、低緯度地域の高温・高湿度環境において、特に離昇用エンジンの性能低下が顕著である(酷い例だと、1回の垂直離艦で燃料の3割近くを消費してしまい、その後の飛行可能時間は20分に過ぎなかった)ことがネックとなり、当初はVTOL専用機であったものを短距離離陸(STO)ができるよう設計変更した機体も製造されています。

 

それでも、兵装搭載量と航続性能の不足は配備当初から指摘されており、レーダー火器管制システム(FCS)はもちろん測距レーダーも備えていないなど、成功した機体ではありませんした。

 

 

ソ連では昭和60年にゴルバチョフ政権が誕生すると、軍縮政策のために海軍の予算は厳しく制限されたことから、本格的な修理のために「ミンスク」を黒海のニコライエフ造船所へ回航することができず、更には艦内機器の事故や火災が頻発し、作戦行動できないままウラジオストク軍港で留まったままになってしまいます。

 

平成2年・ウラジオストク軍港の「ミンスク」(引用:Wikipedia・中国語版)

(由未知 - http://www.defenseimagery.mil; Still Asset Details for DN-SC-91-05667,公有领域,

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4966317)

 

平成3年になってようやく「ミンスク」を黒海へ回航することとなりますが、主機の半数が動かず回航が遅れている間にソビエト連邦は崩壊してしまいます。

 

「ミンスク」を引き継いだロシア海軍は、現役艦として維持していくだけの予算がないことから平成5年6月には「ミンスク」を退役させ、平成7年に韓国の韓国の大宇グループに鉄スクラップ材料として売却されたますが、平成9年に中国の「深深圳ミンスク航空母艦工業有限公司」に転売されます。

 

「ミンスク」を購入した企業により整備されますが、スクリューは切断されて飛行甲板に置かれ、船の設備は解体または破壊され、主機は爆発して損傷し、機関室の多くの部分はセメントで密閉された状態であったとされ、あまり良い状態ではなかったようです。

 

この会社により平成12年6月に「ミンスク・ワールド」というテーマパークが広東省深圳で開業し、そのメイン施設となります。

 

「ミンスク・ワールド」で活用される「ミンスク」(引用:Wikipedia・中国語版)

(由BrokenSphere - 自己的作品,CC BY-SA 3.0,

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10637259)

 

平成17年2月には運営会社の親会社が倒産した影響で「ミンスク・ワールド」も一時閉鎖されますが、競売に掛けられた後に別の企業に落札され営業を再開します。

 

ところが、平成28年4月に「ミンスク・ワールド」から「ミンスク」が曳航され、舟山造船所に曳航されて整備を受けた後、新たに空母を展示するテーマパークを建設する計画により南通市に回航されます。

 

現在は中国江蘇省南通市の揚子江(蘇通長江公路大橋そばの空母公園予定地)に所在し、平成29年に開園を予定していた新公園の開業は遅延しており、まだ開園していないようです。

 

Google Map上の「ミンスク」・南通市蘇通長江公路大橋の東側に係留されている

 

「キエフ」級重航空巡洋艦は、ソ連海軍の威信をかけて「固定翼機の運用艦」として設計・建造されたものの、搭載機の低性能により予定された機能を果たすまでには至りませんでした。

それでも、昭和50年代から60年代にかけて極東のソ連海軍に君臨し、日本海を舞台にその存在感を誇示することで日本および同盟国に脅威を与えてきた重航空巡洋艦「ミンスク」ですが、竣工から46年を経た今でもその姿を留めています。

 

見に行ってみたいとも思いますが、ビザが必要でスパイ防止法もある中国へ行くことは、二の足を踏みますね。

 

【参考文献】

 Wikipedia(ロシア語版、英語版、ウクライナ語版、中国語版を含む)