起工から73年をかけてようやく就役?した航空母艦「伊吹」 | 艦艇・船舶つれづれ

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「海軍艦艇つれづれ」からタイトルを変更しました。

本日はぼ~っと一日を過ごしてしまい、あまりお題が浮かんでこないながら、丸スペシャルなどをペラペラとしていたら、「未成航空母艦」が目に留まりました。

終戦時に建造中のまま放置されていた航空母艦は、「雲龍型」の「笠置」「生駒」「阿蘇」と一等巡洋艦として建造途中に航空母艦へ変更され建造が続けられていた「伊吹」の4隻があります。

 

航空母艦「笠置」(出典:Wikipedia)

 

航空母艦「生駒」(出典:Wikipedia)

 

航空母艦「阿蘇」(出典:Wikipedia)

 

航空母艦「伊吹」(出典:Wikipedia)

 

これらの写真を見てもらえばわかる通り、「笠置」と「伊吹」は飛行甲板や艦橋まで建造が進んでいますが、「生駒」「阿蘇」は船体が完成した状態で建造が中断していることがわかります。

この中でも、今回は途中で計画変更となった「伊吹」を取り上げてみましょう。

 

「伊吹」は、昭和16年11月の戦時建造計画(マル急計画)で計画された一等巡洋艦2隻のうちの1番艦で、風雲急を告げる対米関係に鑑み、戦時における一等巡洋艦の喪失補填を目的としています。

新たに設計を行う余裕がないため、「鈴谷型」を基本として小改正を加えたものとされました。

【要目(計画)】

 基準排水量:12,220トン、垂線間長187.7m、水線幅:19.21m、吃水:6.04m

 機関:艦本式オール・ギヤード・タービン×4、缶:ロ号艦本式×8、推進軸:4軸

 出力:152,000馬力、速力:35.0ノット

 兵装:20.3cm50口径連装砲×5、12.7cm40口径連装高角砲×4、25mm連装機銃×4、

     61cm3連装魚雷発射管×4、飛行機×3、射出機×1

 ※出典:「福井静夫著作集 日本巡洋艦物語」1992年10月、光人社、P354-355

 

一等巡洋艦「伊吹」艦型図

(出典:「歴史群像」No.133、2015年10月、「帝国海軍軍備計画1941~1945」田村尚也、P37)

 

「鈴谷」と比較すると、2番主砲塔の砲身が1番主砲塔との間に収まり水平にすることができる、後墻の位置を第4主砲塔の直前に移す、魚雷発射管を3連装から4連装に変更する、などが改正点です。基準排水量も主砲を15.5cm3連装を20.3cm連装に換装した際の「鈴谷」(基準排水量12,000トン)とほぼ同じ大きさになっています。

一等巡洋艦「鈴谷」艦型図(出典:Wikipedia)

 

「伊吹」は計画艦名を「300号艦」とされ、昭和17年2月に呉海軍工廠で起工されます。しかし6月に行われたミッドウェー海戦により優先順位が低下し、船台を開けるため「速やかに進水せしめ工事を一時中止」とされます。昭和18年4月に進水後は工事が中止され呉工廠魚雷実験部沖(烏小島沖)に繋留放置されます。

 

建造中止したものの船体は完成していることから、缶室や機械室区画を半分として残部分に補給用重油タンクを増設した艦隊随伴型高速給油艦や、水上機母艦、高速輸送艦等への改造が検討されます。

また、同じ時期に米海軍では「クリーブランド型」軽巡洋艦の船体を使って航空母艦「インディペンデンス型」として量産体制に入っていることを帝国海軍も察知しており、帝国海軍はこれに触発される形で昭和18年8月「伊吹」を航空母艦として完成させることが決定されます。

 

右舷に環境構造物を持ち、船体の前後にはみ出す大きな飛行甲板を設置するなど、水上機母艦から改装された「千歳」「千代田」や潜水母艦から改装された「祥鳳」「瑞鳳」「龍鳳」とは異なる艦姿になる予定でした。また、主機は巡洋艦時から半分としたため、速力は29ノットに低下しています。

【要目(計画)】

 基準排水量:12,5000トン、垂線間長187.80m、最大幅:21.20m、吃水:6.31m

 機関:艦本式オール・ギヤード・タービン×2、缶:4、出力:72,000馬力、速力:29.0ノット

 兵装:10cm65口径連装高角砲×2、25mm3連装機銃×16、12cm30連装対空噴進砲×4、

     爆雷×30、艦上攻撃機兼爆撃機×12、艦上戦闘機×15

 ※出典:「福井静夫著作集 日本空母物語」1996年8月、光人社、P293

 

航空母艦「伊吹」艦型図(出典:Wikipedia)

 

航空母艦としての艤装工事は佐世保海軍工廠で行われることとなったため、潜水母艦「迅鯨」に曳航され佐世保へ運ばれます。昭和20年3月の完成を目指して工事が進められましたが、主砲塔に関する諸設備の撤去などの大規模作業や、二等巡洋艦「矢矧」「酒匂」など他の艦艇の建造工事に忙殺されていたこともあり工事は遅延していました。

昭和20年に入ると大型艦の活躍の場もなくなったことから、3月に工程80パーセントの状態で佐世保港内に放置された状態で終戦を迎えます。

 

終戦後に佐世保港内に係留されている航空母艦「伊吹」

(出典:「丸スペシャル」No.131、1988年1月、潮書房、P71)

 

未成艦のまま終戦を迎えた「伊吹」は、昭和21年11月から解体に着手され、翌22年8月に完了し姿を消します。大きな労力をかけたものの戦力になり得なかった悲運の艦ですが、解体された後の資材は戦後の復興の一助となったことと思います。

 

佐世保船舶(旧佐世保海軍工廠)で解体中の航空母艦「伊吹」(左)と「笠置」(右)

(出典:「丸スペシャル」No.23、1979年1月、潮書房、P56

 

今回は詳細を割愛しますが、「伊吹」は先代として巡洋戦艦が存在します。帝国海軍の主力艦として初めてタービン機関を搭載した艦でした。

 

巡洋戦艦「伊吹」(出典:Wikipedia)

 

戦後は海上自衛隊の掃海艇に「いぶき(MSC-628)」が存在しますが、こちらは香川県観音寺市にある島名のようですね。

海上保安庁の巡視船にも「いぶき」が2代に渡って存在します。初代は130トン型巡視船(PS45)で、昭和43年6月就役・平成8年12月解役。二代目は三菱重工業下関工場で建造された350トン型巡視船(PM94)で、平成10年8月に「くなしり」として就役、「いしかり」を経て平成29年2月に高松海上保安部に転属した際に「いぶき」と改称されます。

 

巡視船「いぶき(PM94)」(出典:第六管区海上保安本部HP)

 

どちらも海上自衛隊の「いぶき」と共に島名の可能性がありますが、これらは「伊吹山」から採られた可能性もあります。

ブログを締めようとして気が付いたのですが、航空母艦「いぶき」が現代になってようやく就役していました。平成26年から連載が開始されたかわぐちかいじ氏の作によるコミック「空母いぶき」に、海上自衛隊の航空機搭載護衛艦「いぶき(DDV-192)」として登場します。

航空母艦「伊吹」が一等巡洋艦として起工されてから73年の時を経て、ようやく航空母艦「いぶき」が就役?しました!コミックは人気が高く映画にもなりましたね。

空母「いぶき」(出典:タミヤ 公式HP)

 

ただ、護衛艦では山名はミサイル護衛艦の艦名とされていることから、今後イージス艦に採用されることもあるかもしれませんね。