祈るまえに、恋をして。 -28ページ目

祈るまえに、恋をして。

ときどきぽつりと更新。

祈るまえに、恋をして。


ホテルの窓から。おはよう。

九頭の龍が住んでいると、
伝えられてきたく九龍サイド。

宿泊したホテルは
この龍が水浴びをするため
ビクトリアハーバーへと
向かうその通り道に位置して。
リキシのようなビジネスマンに
とても『気』の良いホテルだと聞いていた。

今回の香港は
リキシにとっては、ただの出張。
私にとって、彼の故郷を知ることが目的。

この地が彼の記憶の出発点になる。
郷愁の拠り所、
自らを香港っ子というリキシ。

常々彼は、いつかこの場所に
帰りたい、居をかまえておきたいという。
君は海外に住むのは抵抗ない?
そう聞かれることもある。

だからなんとなく。
私にとってこの旅は観光じゃなくて
私がこの地に受け入れてもらえるか
この地に住まう九頭の龍に、
面接を受けるかのような
神妙な気持ちで降り立った。

どこに行きたい?と
聞かれたら、
あなたが住んでいた場所で
あなたが過ごした小学校で
あなたが見た風景を
私も見て見たいと答えた。
それと、彼のオフィス。

あぁ、それだけじゃ嘘だ。
クリスチャン・ルブダンの靴が
たくさん入るよう、
でっかいトランクを
引きずってきたんだった。

この強欲な女の将来を受け止める
印鑑を作る目的もあったはず。
まぁそれはそれ。

その日は平日。

リキシは香港にある
自分の会社に出社する。

お昼には一度戻ってくるから
外出できるよう準備しておいてねと
リキシは部屋を後にして
このスターフェリーに乗って
香港島にわたっていく。

$祈るまえに、恋をして。

リキシの乗った船はいく。
手を振ったのよ、わたし。

祈るまえに、恋をして。

この風景のどこかに
彼のオフィスはある。

「いってらっさい」
とつぶやいて
二度寝を我慢、お化粧を。




昨日11月2日は
娘の16歳の誕生日でした。

香港に旅立つ前に
プレゼントとレストランの予約をして。

珍しく、彼女が
今年は外で食事もいいかなと。

16年前、まだお腹にいる彼女に
私は名前をつけていました。
今の名前ではありません。
まだ姿の見えない我が子に
男の子か、女の子かもわからない我が子に

“きしん”ちゃん

と名付け、話しかけていました。

きしんちゃん、きしんちゃん
無事に生まれてくださいね。
出来れば、この母も助かって
会いたいものですね。

そう話かけていました。

きしんちゃん、無事に生まれ
16歳の少女になりました。

私ときしんちゃんの二人暮らしは
もう14年になります。

逃げるように決めた
日当たりの悪い最初のマンション。
彼女はその環境の変化に
よく夜泣きをしました。

そして2度目の引っ越しは
小さな小さな日当たりのいいマンション。

だけど家具が入らなくて
結婚当時使っていたテーブルなどを処分し
おもちゃ箱をテーブル代わりに
ふたりの食卓はスタートしました。

明日のおかず代がないと
家中ひっくりかえして
小銭をかき集めたり
泣きやまぬ夜泣きに
きしんちゃんを
お腹に乗せたまま
眠ったこともありました。

彼女が風邪をひくと
私にとっては仕事に支障をきたすこと。
私はとっても不機嫌になってしまったり。

彼女が今日あったあれこれを
お話してくれるのに
心ここにあらずといった風に
仕事のことを考えながら
聞いてしまったり

寝際に絵本を読んでとせがまれて
読みながら、眠ってしまったこの母。

よく16年間ついて来てくれましたね
と感謝の言葉をプレゼントにそえました。

この子がいたから、
今の私がいるのだと
やはりそう思います。

お誕生日当日、待ち合わせ場所に
現れた娘は、鞄からあふれ、
ビニール袋からもあふれかえった
プレゼントをかかえてやってきました。
お友達からいただいたのだとか。

この母とちがって
お友達を作るのが上手です。
きしんちゃんの才能です。

この子は父の愛を知りません。
だけど、きっと多くの方から
愛をいただいています。

母が香港に家出した間
今となってはもうひとりの祖父母
彼女のベビーシッターとして出会ったご夫婦が
今回も見守ってくださいました。

そしてこの誕生日に
特別メニューを作ってくれたシェフ
レストランスタッフからの拍手
この場を用意してくれたリキシ
みんなきしんちゃんの16歳を
祝福してくれました。

家に帰ると、
見慣れぬ場所に食器が片づけてあったり
不器用にたたまれた洗濯物が。
きしんちゃんなりに、
母の居ぬ間に、自立した行動を
この母のサポートを
していてくれたらしく。

抱きしめたいわと思ったわたし。
もうそんな風にさせてはくれない、きしんちゃん。
いやはや、私はまたやった。
天真爛漫にも程がある。

7月27日に書いた記事
http://ameblo.jp/vertdeau/entry-10602058805.html

この時と同じ、東京駅でまたも。

こんなことが起こるまで
香港の旅行記をスカシタ言葉で
語っちゃおうかしらなどと
小さな野望を抱いていた。

それなのに、それなのに。

成田に到着した私は
リキシとわかれて、ひとり
成田エクスプレスを待った。
ずーと待った。
人身事故および土砂災害?
前日の台風を受け、東京の
鉄道機能はマヒしていた。

リキシは仕事で来日した
中国人パートナーを
連れバスで一足先に会社に向かっている。
平日だからね、仕事がはじまるよ。

だから一人でぽつり
1時間くらい考え事をしながら
電車を待っていた。

何を考えていたって・・・
香港国際空港と成田国際空港の比較。
市街地からアクセス、
導線設計の無駄のなさ諸々
香港の方が勝っている。
成田ってしょぼいなーとか、
とにかく遠すぎなどと考え、
ひとりこの国の空港戦略を考えていたのだ。

羽田国際空港化を阻むのは
きっときっとこれから乗る、
成田エクスプレスを作った
JR東日本にちがいないわ
などと妄想に興じていた。

だから罰があたったというのか。

ほどなく乗り込んだ成田エクスプレス。
私は浅い眠りに落ちた。
そして、目覚めとともに、自分の体の異変に気付く。

気分が悪い。やばす。

隣にすわるおっさんの、久々に見る
上等な皮のジャケットは
「きっとフェラガモだわ」と思った瞬間、
ここで吐いてはならんと席を立った。

駆け込んだトイレで吐いた。
汚くてごめんね。
席に戻ったものの、落ち着きは戻らない。
品川で降りるつもりが、
ふらふらと席を立ち
どうにかこうにか荷物を引きずりだし
東京駅地下5階のホームに降り立った。

そして、そのまま数歩進んで
ホームの柱の陰で目立たぬように
私はまた吐きもどしてしまった。

遠くに駅員が走ってくる声がする。

思考能力などないくせに、
自分の靴と、服と、バックに
その吐しゃ物がかからないように
完璧な角度で吐いている、わたし。
パァーフェクットォッ。

そんな話はどーでもいい。

倒れかけた私は、そのままホーム中央にある
司令基地に運ばれ、横になった。

歳若い女性の駅員さんに
大丈夫ですか?と言われ、
大丈夫です。という度に
自分の声が涙声になる。

リキシは今頃会議中。

結局1時間ほど
落ち着くまで休ませてもらった。

「大丈夫です、帰ります」
とつぶやく頃
東京の真ん中の真ん中は
帰宅ラッシュを迎え討つ臨戦態勢。
駅務室に緊張感が漂いはじめる時間。

それなのに、タクシーに乗ると言う私を
荷物を持って案内しましょうと
ふたりの駅員が先導し、
地上東京丸の内北口を抜け
遠くタクシー乗り場まで見送ってくれた。

振り返ったら、今来た道に
群青色に染まる空と
東京駅丸の内駅舎が見える。

ごめんなさい。またやっちゃった。
今回も汚物を処理させた。
今回もあなたの懐で横になった。
あなたと私はなにかご縁でもありますか?
成田のあれこれを、あなたのせいに
してごめんんさい。東京駅。

JR東日本の社員さんたちは
本当に優しかった。ありがとう。
おかげでタクシーで
柔らかな眠りについていた。

ただいま、東京。
でもね、やっぱ成田は遠い。
今度は羽田から飛びたいね、リキシ。