祈るまえに、恋をして。 -27ページ目

祈るまえに、恋をして。

ときどきぽつりと更新。

今、目の前にいる
“夫”の、“恋人”の働くオフィスに
行ったことがある女性は
多いんだろうか?

私が会社に在籍していたころ
休日であっても
家族や恋人を同伴して会社に
やってくるひとはいなかった。

社内結婚組がふたりそろって
休日出勤してたりして、
普段垣間見ないふたりの濃密さに
なんだかこちらのほうが
ぞわぞわ居心地の悪さを感じたことは
あったかな。

香港のスターフェリーを降りると
そのウォーターフロントは
土曜日の静まり返ったオフィス街。
船から降りる人もまばらで、
その方向に歩を進めるヒトは少ない。

オフィスにわたる橋の途中に
肢体の不自由なひとが、お金をくれと
空き缶を前に座り込んでいる。

ぎゅっとリキシの手をにぎり
足早に通り過ぎた。

オフィスビルは立派だった。
警備のヒトの目の前を
なんとなくそわそわした気分で
通り過ぎ、エレベーターに乗り込む。

わたしはオフィスビルには慣れている。
でも、男の聖域に入るとでも言うのか?
どうも落ち着かない。
悪いことをしてるわけでもないのに
自分が招かれざる客人になったようで
なぜだろう、ヒールの音を響かせないように
ぬき足、さし足そぉーっと歩くわたし。
あの、カーペット敷きですよ、廊下。

誰もいないよと
オフィスの入り口をあけるリキシ。
小さいけれど、機能的でよく整った
オフィスが現れた。
ここがね、ぼくの部屋、ここが社員スペース
ここが会議室、これが・・・。

ここにいるのねぇと。
月の半分は機上のヒトとなり
どこか遠くにいるリキシ。
俺は地べたを這いずり
血反吐をはいても
成功してやると
言うこのお人の仕事場。

女性社員のふわふわファンシーなデスク周り
無造作におかれた郵便物やファックスの紙
彼らだけの空間。

「いつもリキシがお世話になっています。
わたしはこのヒトに、いつもお世話されてますけど」
と言葉に出さない挨拶をして。

そういえば、
東京にもどってほどなく
彼のオフィスは
休日にふたりで確かめにいった
あのビルに転居する。
由緒正しきその街に。

心が折れそうになるたびに
なんだかんだと
乗り越えてきた
この男が働く場所に
どうかこの人を守ってくださいと
どうぞよろしくと
祈って、あとにする。
「ゴスッゴス、ザリっザリ」
となりのベットでリキシが
全身スクラブを施されている。
香港人女性セラピストに
これを穿けと命じられた
小さな紙のひもパンをはいて。
大丈夫ですか?
こぼれ落ちてますよ・・・あなた。

その日は午前中
銀行などリキシの所要で出かけ
香港草食男子系銀行マンを眺め、
妙な珍種はどこの国でもいるのねと。

かっこいい男は少ないわ
アジアでかっこいい男がいるのは、
もしや韓国だけかぁ?と思いつつ、
なんやら熱心な説明をしてる風の銀行マンを
香港でトップクラスのエリートなんでしょうぉぉぉ?
と食い入るように見つめるわたし。

午前中の街は
どこのショップも開いてない。
だけどメインランドからきた
中国人の観光客がたくさんいる。

不思議なんだけど
その中国人のうら若き女子やマダムたちが
みんなこぞって
ベロア調のトレーニングウェアを上下で着て、
ビトンやサネルのバックを持ち
ブランド系スニーカーを履くという
ファッションだった。

あのぉリキシさん、あれはどういうこと?
そう聞くと、メインランドでは
あれがファッションだと言う。
ほんまかえ?

もちろんアッパークラスは
「全身エルメスです」
というような、
ファッショニスタがいる中国。
バッチリ系おしゃれらしい。

が巷のトレンドはベロア調。
(本当なのかなぁ・・・ホント?)
そういえば銀座でも見るなぁ。

とかとか、
超テキトーぉな悪態をつきながら
ホテルに戻りSPAに出かけた。

そしてくだんのリキシの姿。
横で聞いてて不安になる。
あの~『象』みたいに洗われてますけど
あなたさん、お肌大丈夫?

私は全身スクラブであれほど
力強い音を聞いたことがない。
そしてスクラブ時間がながーい。
さすが香港。手荒いのだ。
ゴスゴス言ってますよ~~~ん。

おかげで、帰室したリキシの肌は
ベイビーちゃんのようにやわ肌に
なっていた。このヒト平気そう。
そして、彼は眠ってしまった。

象のように扱われても
平気だったしリキシ。
そうだ、先ほど朝がゆ屋を探した時も
彼が入ろうとしたのは
超地元密着的な店で、
店先でゴキが死んでいた。
その風情にわたしが
泣きたい気分になり
ちょっぴり小奇麗な店に変えて
もらったくらいだ。
すでにがんばれなかったわたし。

小さな頃は会話していたと言う広東語で
「支払い」という意味の言葉を
キレーな発音で乱暴に言う様を見て
あぁこのヒト、ほんとに
香港育ちなのねと感じ入る。
付き合って4年になるのに
なんだか、はじめましてなリキシと
はじめての香港。
お化粧もして、
髪もくるくる巻いて

汚れるから
くれぐれも今年買った服は
持ってくるなとリキシが言うから
去年のお洋服をコーディネイトして

鎮と座ってまっていた私。

「龍に会いたいな」
などと考えていたら、
来るではないか、二度寝の予感。

着ていた服をまたしまって
ベットにもぐりこみ
寝てしまった。

龍の夢をみた。

二時近く。
ばたんとドアがあいて
リキシが帰ってきた。
それまで、私はベットでぬくぬくと
熟睡をしていた。

うっすら寝汗をかいていたけど。

遅い昼に出かけるとまたリキシは
またオフィスに戻る。

「ねぇ、退屈だろうから
ひとり街を散策してみたら?」
というリキシ。

私は、そんなことしたくない。

ひとり地図を片手に
この街をあてどなく歩くなんて
『努力』をしたくない。

ペニンシュラのアーケードに
連れ出され、ハンコのかわりに
なぜか翡翠のネックレスを
くわえて帰ってきたわたしは
もう満腹、これで満足。

お部屋にいたい。
がんばりたくない。
そう言って、その日は
ホテルの部屋に籠った。

その昔、リキシはあるヒトと
この街に暮らしていた。
聞いている分には、
それはほんの短い期間で
ほどなくふたりは別の生き方を選んだ。

「思いの外、あのヒトはこの地に
なじんでいたから驚いたな」
とリキシがつぶやいた一言が
記憶に残ってざらりとする。

そのヒトは努力したんだろうな。
と顔もみたことのない
そのヒトを想ってみる。
私はね、がんばりたくないの。

そして部屋でひとり
魔除けのネックレスを頭に巻き
本を読んで
プロムナードを歩く人々を眺め
夕日を追った。

祈るまえに、恋をして。

ほらね

祈るまえに、恋をして。

すごく

祈るまえに、恋をして。

ねむい。

三度寝の誘い。

香港の夕日に照らされ、
私はその日よく眠った。