ママにだって | 祈るまえに、恋をして。

祈るまえに、恋をして。

ときどきぽつりと更新。

わたしはひとりで
娘を育てると決めた時
幼子を前に
弱音を捨てた。

何があっても
この子を守らなくては
そう思えばこそ
時に易々と恐怖心を
乗り越える。

時に親ゆえのよかれと思った
強引な手引きに
娘が泣きながら
責めることもあった。

自立を想えばこそ
彼女に課すハードルに
わたしへの劣等感を
あらわにすることもあった。

ママは強くて、優秀で、
なんでもこなす。
知らず知らずの内に
わたしはその実像と
かけ離れた姿で
彼女の前に立ちふさがり
越えられない壁みたいな
存在になっている



そうなんだろうなー
とは、感じていた。


祈るまえに、恋をして。
ホテルの部屋からナポリ

祈るまえに、恋をして。

ナポリの港からカプリ島に
向かうその朝
朝食をテラスで。

「あの、ちょっとお願いが
あるんですけど」と
いじいじ言ったのは
娘とテーブルをはさんで
座るこのわたし。

「ちょっと相談」と言うだけで、
目の前の我が娘は
間接的説教か?という感じで
眉間にしわを寄せ
怪訝な顔をする。

いや、そんな話じゃない。


ママ、青の洞窟・・・無理かも。


へぇ?


わたしは“水”とか“海”とか
実は恐いのだ。

遠くから眺める分には
楽しめる、癒される。
目の前に水が広がると
とたんに息苦しくなり
汗がにじむ。
海ともなれば地に足つかぬ
得体の知れ無さに
手足の力が抜け
すくむのだ。。

夏のプールのカルキの匂いに
青春の思い出がある人は多いだろう。
わたしはいつも絶望的な気分になり
えづくように喉の奥がせりあがり
呼吸が苦しくなっていく。
プールの隅でただただその時間が
終わってくれよと祈り
唇を紫色にして震える
孤独な記憶ばかりなのだ。

青の洞窟は
島に渡ってなお、
小さなボートにのり
あの洞窟には
さらに頼りない小さな
手こぎボートに
乗り換え向かう。

深い深い海の上で
小舟に乗り換えるなんて
そんなことしたらわたし
卒倒するにちがいない。

青の洞窟ひとりで行ける?
それともママと一緒にカプリを散歩する?
そんな相談。
彼女は答えた。

わたし?青の洞窟行くよ!平気!

この母を置いて行くらしい。


祈るまえに、恋をして。

秘かにその海に
荒れ狂ってくれと願っていた。
はじめて訪れたくらいでは
受け入れぬと言われるその洞窟に
わたしなど不適合なのだからと
どうか波立つ朝であってくれと
祈っていた。

だけど凪の海。
これはわたしが携帯で撮った
ぶるぶるブレブレ撮影画像。
神はわたしに行けと言う。


ママ、大丈夫だよーと
言いながらフェリーに乗り
酔い止め薬を渡してくれた。
ママ、大丈夫?と言いながら
島を回るボートを待ち、
こうやって乗るんだよと
教えてくれた。
手に汗握るわたしに
無理についてこなくていいから
わたし、ひとりで大丈夫という娘。
だけどね、ママもったいないから
見に行けば?一回きりでいいじゃん。
そうつぶやくのだ。

あの頼りないボートが転覆したら
どうしたらいいの?
というこの母に
娘は吹き出し
そんなこと起こらないってば
とカプリの風を受け涼しげに言う。

大丈夫、ママが
ボートに乗るまで
見ててあげるから。

わたしにできないことが
彼女にはできる。
いつのまにかそんな風に
育っていた。
ママにも苦手なことがあるんだね
そう言いながら娘は笑っていた。